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134話

ルダは地面に伏し、その大きな双眸を固く閉じていた。

数名の聖堂騎士が近づき、その様子を調べる。

どうやら、完全に気絶したらしい。


「・・・あなたは、一体」


エマが男に近づきながらそう呟く。

男はゆっくりとエマに振り向くと口を開いた。


「私はテネスと申します、騎士様」


そう言って、丁寧に一礼した。


「あ・・・私は聖堂騎士のエマ、助けてくれて感謝するわ」


「いえいえ、困っている人を助けるのは人として当然かと」


ニコニコとした顔でそう答えるテネス。

嫌味も何も含まない優しい声色でそう言う姿は、いい人にしか見えない。


「そうだ・・・!ゼフィラスは!?」


投げ出されたゼフィラスを思い出す。

強く握られたこともあって、重傷のはずだ。


「ああ、プリラが助けに行ったので大丈夫ですよ」


「プリラ?」


「私が知る中では、トップクラスの回復魔法使いですよ」


――――――――――――――――――――


テネスという人物の言う通り。

ゼフィラスは全快の状態で戻ってきた。

傍らに、聖職者らしき人物を連れて。


「プリラ、ご苦労様ですね」


「苦労?簡単な治療位だったけど」


「はは・・・言葉の綾というものですよ」


「知ってるわ」


参ったな、とテネスは頭を掻いた。


「二人は、ここで何を?」


エマがそう尋ねる。


「・・・実は、数日前にこちらに転移してきまして。

 えっと、転移というのは」


説明しようとテネスが言葉を続けようとするが。

その前に、ゼフィラスが口を開いた。


「まさか、トーマ殿のお知り合いか?」


「トーマさんを知っているんですか?」


ああ、やっぱりと言う顔をするゼフィラス。

まさかこんな所で、探している仲間という人と出会う事になるとは。


「トーマさん、元気?」


プリラという女性がそう聞いてくる。


「ああ、その筈だ」


カテドラルが襲われたとは聞いたが。

トーマは仲間を探して外に出ていたので、無事なはずだ。


「そう、それならよかったわ。

 エリサも八霧君も、神威も無事かしら・・・」


「・・・」


カテドラルに残ったままのはずだ。

無事だろうか。


「お互いに、情報共有をした方が良さそうですね」


テネスがそう言いだした。

情報共有、か。

そうだな。


――――――――――――――――――――


テネスとプリラは、隣り合ってゼフィラスの話を聞いていた。

カテドラル襲撃の事、彼らの拠点がそこにある事。

そして現在、国の神が行方不明な事も。


「・・・なるほど、カテドラルに拠点、ですか」


「エリサが心配ね」


「まあ、大丈夫でしょう。八霧君もいますし」


二人はあまり心配そうな顔をしていない。

八霧君を余程信頼しているという事だろう。


「それで、あなた方はどうするのです?」


「一度、首都に戻る。

 リルフェア様とラティリーズ様の無事を確かめねば」


そう言って、ゼフィラスは踵を返すが。

その腕を取り、止める人物がいた。


「エマ?」


「待ちなさい、ゼフィラス」


「何故止める?急ぎ戻らなければ」


「いいから、聞きなさい!

 陛下、いえ・・・リーゼニア様から言伝もあずかっているの」


「何?」


ゼフィラスの歩みが完全に止まる。

そして、睨む様にエマの顔を見た。


「『反乱分子が動き出した、今戻ればヘルザードと貴族の挟撃を受ける』」


「何だって・・・!?貴族が?」


元から、西側の貴族は反抗することが多かったが。

今まで表立って動いたことは殆どない。

だが。


「・・・そうか、リルフェア様、ラティリーズ様の安否が分からない以上。

 ゼロームの敗北を察してヘルザード側に傾いたか・・・!」


「厄介よね・・・こんな時に反乱するなんて」


「国内で誰かが裏切って、あなた達を襲うという事ですか?」


話を聞いていたテネスがゼフィラスに歩み寄る。

その後ろから、プリラも続いてきた。


「あ、ああ」


「ゼフィラス、彼らは関係ない人よ?

 話してもいいのかしら?」


「・・・トーマのお仲間というのなら大丈夫だろう。

 それに、助けてもらって部外者扱いも酷いだろう?」


「あ・・・そうね。それに、ルダを倒したのは彼だし」


「最早部外者ではない、そう言う事だ」


ゼフィラスはそう話を区切ると、テネスと向かい合った。


「現在、神が行方不明だとは話したな?」


「ええ」


「その影響で、元から国をよく思っていない貴族たちが反乱を起こし始めている。

 要するに、我々が後退しようとすると、目の前のヘルザードと、

 後方の貴族の私兵に取り囲まれることになる」


「・・・なるほど、なるほど」


うんうん、と何度か頷くテネス。

プリラはニコニコ顔で、その話を聞いている。


「つまり、一歩も退けないって事ね。

 四面楚歌、って所かしら」


「そうですね」


うーん、と唸るテネス。


「ゼフィラスさん、攻撃は最大の防御、この言葉をご存知ですか?」


「え、ああ・・・もちろんだ。

 間隙なく攻撃を仕掛ける事は、相手の攻撃を封じる。

 そう言う事だろう?」


「まあ、合ってはいますね。

 要するに、このままヘルザードに攻めてみてはいかがですか?」


ヘルザードに攻める。

そう聞いて、ゼフィラスの顔が驚きに変わる。


「いや、しかし!」


「少なくとも、このまま退いて術中に嵌まるくらいならば攻めましょう?

 活路は、自ら切り開くものですからね」


そう聞いて、腕の治療をしていたジーラスが立ち上がる。


「面白そうな話ですね、ドノヴァ、貴方もそう思いますよね?」


「無論だ、一世一代の闘争になりそうだな」


何処かしら、わくわくしたような様子でそう喋るドノヴァ。

兜で顔は見えないが、笑っているように見える。


「む、無謀よ。いくら何でも、1000人にも及ばない数で攻め入るなんて」


「数的不利を何とかするのが参謀、軍師というものですよ」


「だからこそ言うのよ、現状の戦力じゃ全滅するだけよ」


エマが首を横に振る。

今置かれている状況は、圧倒的な数の軍勢に囲まれた小勢だ。

貴族の私兵も恐らく我々よりも多く、物資も豊富。

攻め切れなければ、後ろから挟撃されて全滅する。


「そうですね、現状の戦力では・・・ですが」


「それに、その戦力の中にはグスタフさんの部隊も入っているでしょうね?」


プリラがそう言うと、グスタフを見た。


「だろうな・・・我々も狙われているだろうさ」


ふむ、とグスタフの顔を見て思案するテネス。

何か悪だくみをしているようにも見える。


「エマ、私はテネスさんの意見に賛成だ。

 どうせ挟撃されて死ぬのなら・・・撤退ではなく前進で死にたい」


「ゼフィラス・・・?」


「それに、少しでも多くの痛手をヘルザードに与えれば。

 貴族連中に泡を吹かせることだってできるだろうさ」


ゼフィラスがそう言うと、周りの傷ついた聖堂騎士達が立ち上がった。


「どこまでもお供します、聖騎士様」


「痛手を負わせて、一泡吹かせてやりましょう」


その言葉に賛同するかのように、傭兵騎士や勇士が立ち上がる。


「俺等も行くぜ、戦場が俺等のいる場所だからな」


「ああ、やってやろうぜ?」


「やっちまおう!」


皆の士気が高まる。

・・・ああ、これならいけそうな気もする。


「皆、命を私に預けてくれ。目指すは・・・ヘルザードの首都だ!」


おお!と息巻く男達。


「ふむ・・・いい空気ですね。後は、勝利を飾らせるのが軍師というもの」


テネスはそう呟くと、エマを見た。


「な、何?」


「私も、ギルドでは代理の軍師をした事があります。

 少し、お話でもしませんか?」


「え、ええと・・・分かったわ、はぁ」


最後の溜息は、この暑い空気を見て諦めたように見える。

エマも、戦場で散る覚悟をしたようにも感じた。


「大丈夫ですよ、勝つべくして勝つ、それが戦いですから」


「・・・呑気ね」


「楽観的に最悪に備えるものですよ、絶望は何も生みませんから」


そう言って、テネスはニコニコと微笑んでいた。




読んで下さり、ありがとうございました。

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