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133話

倒した、と思ってそうでも無いことは良くあることだろう。

だからこそ徹底的に息の根を止める人物もいるくらいだ。

特に、頑丈な相手に対しては止めを刺したかは重要だ。

そう、念入りに調べても損はない位に。


「!」


ゼフィラスの身体が宙に浮く。

いや、ルダに掴まれて上空に浮いたのだ。


「貴様等ぁ!」


「ゼフィラス!」


「何という頑丈さだ、手ごたえはあったはず」


「巨人族が他の雑魚に負けるか!!

 舐めてくれた貴様は、この俺が握りつぶしてやる」


「ぐ・・・あ!」


物凄い力で、ゼフィラスの体中を押しつぶそうと握りだすルダ。

骨のきしむ音は、他人に聞こえるほどのものだった。


「ゼフィラス!!」


エマの悲痛な叫びが響く。


「ち・・・!待っていろゼフィラス!!」


グスタフが走りだすが。


「邪魔だ、雑魚が!!」


ゼフィラスを握っていない方の手で、グスタフに殴りかかる。


「っ!」


紙一重でかわすが、その拳の風圧でグスタフは後ろに吹き飛ばされた。


「あれだけ疲れておきながら、何という馬鹿力だ。

 ・・・それに、倒れるほどの怪我を負ったはず」


「完全にキレて、スタミナも感じなくなってるんでしょう。

 まさに、バーサーカーですね・・・」


ロッテがそう解釈する。


「もう許さんぞ、貴様等・・・こいつを殺したら次は貴様らの番だ!」


そう言うと、ルダは両手でゼフィラスを握り込んだ。


「ぐぁ・・・!く、この!!」


ルダの指を掴み、黒い小手の力で押し戻そうとするが。

多少押し戻したくらいで、小手から煙が上がり始めた。


「オーバーヒートという奴か!?」


試作品だとも言っていた。

ルダの力は、この小手すらも上回るほどの力を持っているのだろう。


「ふはは!余計な抵抗だなぁ!」


「ぐ・・・くそ!」


抵抗が出来なくなる前に、何とかこの拘束を解かなければ。


懐から取り出した短剣で、何度もルダの指を突き刺す。

しかし、大した傷も出来ないまま短剣が折れてしまった。


「無駄無駄、俺の身体は鋼鉄に近い。

 そんな武器で怪我などするものか!!」


握る力が更に強くなる。

同時に、ルダの首筋から流れている血が噴き出し始めた。


「いけない・・・!本気で潰す気よ!」


「ゼフィラス!」


もう一度、グスタフは近づこうと走り始めた。


「無駄だといったろうが!!」


ルダの足がグスタフを蹴ろうと構えた。

それをかわそうとグスタフが構えた瞬間。


ルダの体幹が大きく揺らいだ。


「ぬ、ぬう、ぬぉぉぉ!?」


情けない声を上げながら、ルダは片足を浮かしてその場に倒れた。

握ったゼフィラスを放り投げて。


「な、何が起こった・・・?」


唖然とするグスタフ。

相手も強者、片足を浮かせた状態くらいで倒れる様な奴じゃない。

怪我をしていたとしても、だ。

なのに、目の前のルダは大きく身体が揺らぎ、倒れた。


「巨人ですか、やっぱり・・・こっちの世界は異世界なんですね」


「!?」


グスタフと周りにいた者が一斉に振り向く。

その目線の先にいたのは。

見慣れぬ服を着た、長身の優男だった。


――――――――――――――――――――


「っ!」


放り出され、空中を浮いていたゼフィラスは受け身の体勢を取った。

その姿勢のまま、地面へと衝突した。


「ぐ・・・ぅ」


全身に衝撃が走り、後を追うように痛みが広がっていく。

不味いな、片腕が折れた感覚がある。

肋骨も折れたようだ、肺のあたりが痛い。


「・・・」


助かったともいえるが、戦える状態ではない。

あのルダを倒すまでは・・・倒れられないというのに。


「あらあら、大変ね」


「・・・誰だ・・・そこにいるのは?」


立てない身体のまま、辺りを見渡す。

すると、見慣れない服を着た女性が立っていた。


かなりの美人、成熟された女性だ。

服装は・・・聖職者だろうか。

杖も持っている。


「ああ、ごめんなさいね。

 治療するから待って」


「無理だ・・・回復魔法でも折れた骨を完全に治せる訳が―――」


「試しても無いのに、否定するのは駄目。

 試してから諦めなさいよ」


「む・・・」


確かにそうだ。

そう思い、女性に任せることにした。


力を抜いたことを確認したのか、女性はこちらの身体をあちこちを触り始めた。


「なるほど、結構な重傷ね。でも、このくらいならすぐに治せるわ」


冷静にそう言うと、女性の両手が光り始める。


「『上級治癒(ハイヒーリング)』」


優しい風と、熱に包まれる身体。

同時に痛みや身体の違和感が吹き飛んでいく。


「これは・・・凄いな」


折れた腕が動く。

肺の痛みもない。

完全だ、完全に治療が完了している。


「ね、言ったでしょ?試しても無いのに諦めるなって」


「ああ、済まなかった・・・しかし、凄いな貴方は」


「こう見えて、回復役としては長いからね」


「そう、か」


ズゥンという音が響く。

どうやら、倒れたルダが起き上がったらしい。


「奴を倒さねば・・・!」


「大丈夫よ、既にテネスが相手してるから」


「テネス?・・・まて、どこかで聞いたぞ、その名前」


――――――――――――――――――――


「おやおや」


突然現れた優男は、次々と繰り出されるルダの猛攻を難なくかわしていた。

そして、隙あらば地面を触る。

その度に、ルダの足元が歪み、よろけてこけそうになっていた。


「あの男は何者だ・・・?」


「彼が地面を触る度、地形が変化してるみたいですね」


「はぁ?そんな魔法があるのか?」


「魔法にも色々な可能性があります、彼も・・・可能性の一部だと思います」


こけそうになる度、ルダは激昂し、更に攻撃が激しくなる。


「馬鹿にするなぁ!!」


「してませんよ、別に」


大きくテイクバックすると、ルダは渾身の力で右腕を振り下ろした。


「待ってただけです、その攻撃を」


再び地面を触る男。

すると、何もない地面から塔のような建造物が地面を割って生え始めた。

その塔の先端とルダの拳が真っ向からぶつかる。


「ぬ!?ぐわぁ!?」


拳の加速力と、塔の加速力。

そして、塔の頑丈さはルダの拳以上のものだった。


衝突の全衝撃が全てルダの拳に向かう。

鋼と称していたその身体、それが軋む音が響き。

塔に押し負けるように、ルダの拳は文字通り砕かれた。


「ごぁぁ!?お、俺の手がアァァ!!」


見るも無残に、ルダの拳はひしゃげていた。

その衝撃が大きすぎたせいか、右腕の骨が折れたようだ。

だらり、と右腕が力無く垂れた。


「だから言ったでしょう?待ってたと」


男が手を地面から離すと、塔も地面へと戻っていった。


「これが建築家の戦いですよ?」


「貴様ぁ!!舐めるなよ!!」


左手の拳を握り、男に振り下ろすルダ。

その様子を見て、男はため息を一つついた。


「冷静なら分かると思いますがっ」


回避しながら、言葉を続ける。


「利き腕を破壊された貴方に勝ち目はありませんよ」


「ざけるな!俺は、俺は強い!」


何度も左手で攻撃を仕掛けるが。

利き腕を潰され、潰される前から一度も当たらなかった攻撃が、

当たるはずもなく。


「ふぅ、そうですか」


呆れたようにため息をつくと。

男はルダの目の前へと軽く飛び上がった。


「何!?」


「寝てて下さいね」


くるり、と体を回転させると。

回し蹴りが、ルダの頬を打ち抜いていた。


「ぐぉ・・・馬鹿な・・・!」


再び、仰向けで倒れるルダ。

今度こそ、ピクリとも動かなくなった。


「全く・・・戦意を削いで降伏させるつもりが。

 結局、こうなるんですね」


自分の服の汚れを払いつつ、男はそう呟いた。


読んで下さり、ありがとうございました。

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