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132話

巨人種と呼ばれる魔族。

体躯は5~10m程の者が多く、その多くが戦士として恵まれた身体を持つ。

ルダはその中でも、30mをゆうに超える小高い山ほどの巨躯を持つ。

故に力も強靭さも高く、たった一人で軍団と渡り合うほどの力も持っている。


しかし、性格は単純で自尊心が高い。

特に自分の力には絶対の自信を持っており、それをけなされると。

例え直属の上官や軍師であっても殺すという行為を繰り返してきた。


その行為が許されてきたのも、力が全てのヘルザード帝国ゆえである。


そして当のルダは、姿を見せなくなった騎士とリザードマンを探している。

キョロキョロと目線を動かしては、苛立ち気に棍棒を振り回していた。


「しかし、デカいな」


「カラダノオオキサガ、ヤツノブキダ」


「・・・ああ、そうだろうな」


ドノヴァはルダの足元まで接近していた。

傭兵騎士達とリザードマンの混成部隊は遠巻きで弓を構えている。


「俺達の目的は、あくまで相手の目をこちらに向けさせることだ。

 気を取られている隙に、ジーラスの部隊がルダを攻撃。

 ・・・それも、陽動だがな」


「セイコウスルノカ?」


「うまく行けば、な」


剣を引き抜き、遠巻きに見ている男達に合図するドノヴァ。

その瞬間、無数の矢がルダの足に向かって放たれ始めた。


「むぅ?」


何本かの矢がルダの足に突き刺さるが。

意にも解さないように、それを振り払うルダ。

やはり、この程度の攻撃では怪我もさせられないか。


だがそれでいい。

こっちに気づけば俺達の目的は達成だ。


ルダの目線が、こちらを捕らえた。


「ぬ!?こんな所に!!」


棍棒を振り上げるルダ。

・・・掛かったな。


「各員散れ!」


棍棒の着弾点から離れる男達。

同時に、走りながら矢をルダに向けて射かけ始める。


「猪口才な!!」


顔に数本刺さった矢を振り払い、ルダは逃げる男達を攻撃し始めた。


「こちらも仕掛けるぞ」


「オウ!」


ドノヴァ達も、直接ルダの足に斬りかかる。

しかし、渾身の力を籠めて斬ったつもりだったが薄皮一枚剥がれる程度だった。


「貴様等ぁ!そこにもいたかぁ!!」


―――――――――――――――――――――


「始まりましたね」


「お、おー・・・」


ジーラスはハーピーの鉤爪で両肩を持たれて空中を飛んでいた。

他の傭兵騎士も同様にハーピーに掴まれて宙を浮いている。


様子のおかしいシルの顔を見上げるジーラス。


「どうしました?」


「怖くないの?こんな所見られたら一方的に叩かれて落ちるよ?」


「・・・ドノヴァを信頼してますから」


目の前の巨人、ルダは真下に気を取られている。

棍棒を何度も降り下ろし、その度に重い音が響く。

まるで、害虫を叩くように忌々し気に。


「で、どうするのさ。

 上半身を攻撃したって、あんまり意味は―――」


「ありますよ、いくら頑丈でも波状攻撃には耐えられない。

 塵も積もれば山となるといいますし、なにより」


「?」


「我々も、あいつに対しての目くらましなんですから」


本命は我々じゃない。

我々の目的はあくまでルダを疲れさせること。

奴を倒す役目を持つのは、ゼフィラスとグスタフだ。


――――――――――――――――――――


ハーピーによって傭兵騎士の一団はルダの真上まで迫っていた。

ルダはそれに気づかず、足元にいるドノヴァ達へと攻撃を仕掛けていた。


「行きますよ!」


ジーラスのその声と同時に、ハーピーの鉤爪が離される。

重力に従って、自由落下を始める傭兵騎士達。


ルダが男達に気づいた時には、剣や槍が肩や首筋に突き刺さった瞬間だった。


「ぐぉぉ!?」


不意打ちを食らい、身体が揺れるルダ。

だが、その巨体に違わない強靭さ。

その奇襲でも大したダメージには見えない。


「ふざけるなぁ!!虫けら共があ!!」


身体をブンブンと振るルダ。

その勢いで、取りついた傭兵騎士達が一斉に振り落とされた。


「っ」


振り落とされた傭兵騎士達を上空で拾うハーピー。


「上出来ですね」


ジーラスも、シルの片足を掴んで浮いていた。


「上出来なの、あれ?」


顔を真っ赤にし、上と下を交互に見ているルダ。

怒髪天に達したのだろう、こちらを睨みつける目には殺意が宿っている。


「ええ、怒りは急激に体力を奪う行為です。

 スタミナも、一気に尽きるでしょうね」


「でも・・・って、危な!」


紙一重で、棍棒を薙ぎ払いをかわす。


「怒って攻撃も単調です、よく見れば回避は簡単でしょう?」


「勝手言っちゃってさ!回避するのは私なんだよ!?」


そう言いながらも、見事な軌道で回避し続ける。

さすがはクイーンハーピーの後継者だ。


「うわぁったぁ!?」


ルダの棍棒が目の前を通り過ぎていく。


「いいですよ、そのまま暴れて下さい」


こちらに集中するあまり、今度は足元がお留守になる。

ドノヴァの部隊が再び足元へと攻撃を始めた。


「ぬぅぅ!!こいつらぁ!!」


ドノヴァ達に目線を向けた瞬間、ハーピーから飛び降りた傭兵騎士が肩に斬りかかる。


「があああ!!」


ダメージはそこまで負っていないが、ルダの怒りは頂点に達しているようだ。


「羽虫どもがああ!!」


――――――――――――――――――――


「作戦は成功、か」


ゼフィラスとグスタフは少数の部隊と共に草陰に伏せていた。

この少数も、部隊の中から抽出した精鋭だ。


「疲れさせ弱った所を少数精鋭で一気に襲う。

 なるほど、これも策略か」


「冷静な戦力分析の結果とも言えますね、ゼフィラス様」


ロッテがそう言う。


「ああ・・・そのままの状態だったら我々は勝てない相手だ。

 だが、疲れ果て弱った相手ならばなんとかなる。

 その疲れも、我々の部隊が動き、稼いだ結果だ」


目の前で棍棒を振るうルダの動きが緩慢になってくる。

いくら馬鹿みたいな体力があっても、無限ではない。

羽虫に取りつかれ、それを振り払おうと何度も動いた結果が見えてきた。


「今こそ、好機だ!」


ゼフィラスとグスタフはルダの前へと躍り出た。

それに続くように、共に伏せていた部下も飛び出した。


「はぁー・・・はぁー・・・むう?」


目線がこちらに向く。

疲れ果てた様子の目に、一瞬だけ力が籠る。


「グスタフ!そこにいたか!!」


疲れの見えていた身体、緩慢になった動きにキレが戻る。

棍棒を振り上げるとグスタフに向かって振り下ろした。


「ふ・・・!軽いな!」


サイドステップで、簡単に棍棒をかわすグスタフ。

いくらキレが戻ったとはいえ、疲れ果てている身体。

全力を出すことは不可能、当たるはずの攻撃も当たらない。


「行くぞ、ルダ!!」


振り落とされた棍棒の上に乗り、ルダへと走りだすグスタフ。

それに続くように後を追うゼフィラス。


「貴様・・・この!」


棍棒を振り上げようとするが。


「今よ!」


エマの号令と共に、傭兵騎士も聖堂騎士も魔物も。

一斉に鎖をルダに向けて投げた。

ルダの身体に鎖が絡みつくと、一斉に引っ張り出す。


「ぐぉぉ!この、羽虫の雑魚共!!この俺と力比べしようってか!!」


棍棒にも絡みついている鎖。

それを巻き込みながら棍棒を振り上げようとするが。


「ち、力が入らん・・・!」


「当たり前よ、散々体力を使わせたんだから」


「ぐ・・・ぬぐぉぉぉぉ!!」


だが、それでも巨人。

鎖を引っ張る騎士や魔物を引きずり、振り回しながら棍棒を振り上げたが。

既にゼフィラスとグスタフは、ルダの顔の前にまで迫っていた。


「なぁ!?」


振り上げた体勢のまま固まるルダ。

ルダの首筋にはゼフィラスとグスタフの大剣が、深々と突き刺さった。


「ぬ・・・ぉ・・・・お・・・」


振り上げた棍棒が手からするりと抜けると。

土煙を上げて地面へと落ちた。

同時に、ルダの身体も仰向けに地面へと倒れた。


「やったか?」


「ああ、致命傷のはずだ」


地面を揺らし、倒れるルダ。

その土煙は、森を覆うほどに大きく広がった。


「・・・勝った、のね」


エマがその場に崩れそうになる。


「エマ様!?」


「大丈夫、緊張が抜けただけだから。

 まさか、勝てるなんてね」


勝てるか分からない相手を下したという安心感。

それは、部隊全員に広がった。


しかし・・・。


読んで下さり、ありがとうございました。

次回、古参勢が登場します。

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