131話
力こそが全て、勝利こそが全てと考えるヘルザードにとって、
敗北という言葉は屈辱でしかない。
ゆえに、2度目の敗北は問答無用で処刑される。
生き恥を晒す者はヘルザードには要らぬ、という事を表した言葉である。
元々、強者によって作られたヘルザード帝国からすれば当たり前の考え。
しかし歴史が、社会が進むにつれてそれにも変化が起きた。
今では政治的に戦争継続派と和平派に分かれる始末であり、
グスタフが語った通り一枚岩ではなくなっていた。
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目標を見失ったルダはイラついたのか、
目線に入った傭兵騎士とリザードマンを襲い始めた。
リザードマンと、傭兵騎士の一部がその棍棒に叩き潰された。
「ちょこまかと・・・さかしい。
どこに行ったぁ!!グスタフ!!」
キョロキョロと、グスタフを探すルダ。
ゼフィラス達は、近くの木の下に隠れていた。
ルダからすれば、ほぼ足元近くだ。
「二度目の敗北は死を意味する。
そうか、俺の戦いを見てそう判断したか」
肩口の傷は今は塞がりつつあるが。
あの状態で最後に斬り込んでいれば、負けたのは俺だったろう。
「グスタフ様、どうなさるのですか?」
「・・・国は、元から俺を切る気だったんだろう。
ルダが自分自身の意志でここに来たとは思えん」
2度目の敗北は無い、だからお目付け役としてルダを寄こしたとも見えるが。
実際は、隙あらば俺を殺そうとしていたのだろう。
ルダはそのための実行部隊だ。
「グスタフ様は和平派と見られてますからね。
政治的にも邪魔だと思う輩も多いかと」
ライラールのいう事ももっともだ。
ゼロームとの戦争を嫌う、所謂和平派も最近になってかなり増えてきている。
かく言う俺も、和平派と言えばそうだ。
俺も、この長い戦争が何かのタイミングで完全に終わることを望んでいる。
戦争を継続しても、その先にあるのは不毛な何かだろう。
今回だって俺が汚名返上出来れば、政治に干渉出来るようになると思った節もある。
まあ、その考えは戦争派に筒抜けだったみたいだが。
ここにルダがいる事実が、筒抜けだったと痛感させられたが。
だが同時に、それだけ俺を脅威だとも思っているのだろう。
自負するわけでは無いが、国民からの人気は高い方だからな。
「・・・とにかく、今はルダを何とかしなければな」
とはいうが、ルダは巨人族の中でもひときわ大きい変異種。
たった一人で軍隊を壊滅させる実力を持ち、その体躯から来るしぶとさも厄介。
ゆえに、バルクとの国境沿いで防衛を一人でしていたのだが。
俺一人を殺すために、随分な奴を送ってくれたものだ。
「グスタフ様、提案があります」
「なんだ?」
「生き残るため、ゼフィラス達・・・つまり、ゼローム皇国と協力しては?」
ライラールのその言葉が周りに響く。
「・・・」
「相手もルダに対して脅威と思っているはず。
協力を申し込んでも、断られないかと」
その言葉を聞き、グスタフは目を瞑った。
「・・・そうだな、ならば」
グスタフの目線がゼフィラスに向く。
「ゼフィラス!」
「?」
「俺はどうやら、軍から見限られたようだ」
「ああ、そう見える」
ルダから隠れるように木に隠れながら二人は近づく。
ルダの暴れる音が辺りに響き、傭兵、聖堂騎士、リザードマンやゴブリン。
多種多様な悲鳴と叫びが聞こえてくる。
「ならば、俺はヘルザード帝国を見限る」
「それは・・・」
意外そうな顔をしながら、ゼフィラスはそう返した。
「理不尽に死ぬのは御免だ。
死ぬ場所、死ぬタイミングは自分で決める。
それに・・・まだこんなところで死ねないのだ」
そう語るグスタフの目は真剣そのものだった。
その真剣な目に見つめられたゼフィラスは、ふっと笑った。
「そうか、わかった」
「こちらの軍門に下るって事でいいの?」
エマがそう聞いてくる。
「ああ、そう取って貰って構わない」
「そう・・・なら、あの巨人の弱点は知ってる?
あいつ倒さないと、何も解決しないわよ?」
こちらを探し、苛立ち気に足を踏み鳴らすルダを見る。
「あいつは単体で軍団クラスの実力を持っているが。
考えは単調で、いわゆる馬鹿だ。
だから、防衛任務位でしか使われん」
「・・・それ、本当に将軍っていう位にいるの?」
あきれ顔でエマがそう聞く。
「実力主義のヘルザードらしいだろ?」
にやりと笑うグスタフ。
それに対して、エマは確かにと呟いた。
「つまり馬鹿なことが弱点だ。考えがある」
グスタフの周りに集まる一同。
既に魔物も聖堂騎士も戦意を削がたのか。
隣同士に立って、現状を見守っていた。
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作戦が纏まり、早速部隊ごとで行動を開始する一同。
敵の本隊側面に斬り込んでいたドノヴァの部隊もその一同に含まれていた。
「まさか、仲間同士になるとはな」
「コレモ、メイレイ・・・シタガウマデ」
片言のハイリザードマンとドノヴァが隣り合って歩く。
先ほどまで死闘を繰り広げていたが、巨人の襲来と。
その後に来た停戦の話、共闘の話で部隊は混同部隊と化していた。
「ワレワレハ、キョジンノアシヲネラウ」
「注意を削ぐ、そう言う事だな」
返り血と自分の血で真っ赤になっているドノヴァは、
その血を拭いながら巨人を見上げた。
「山のような高さだな・・・楽しみだ」
「タノシミ?」
「無謀こそが戦士の有り様。
これほどの戦いに恵まれた事は、戦士として誇らしい」
「・・・オマエ、マゾクヨリマゾク。
マルデ、バーサーカー」
ドノヴァの血が付いた斧を拭うハイリザードマン。
「ふふふ、お前も楽しみだろう?
戦士の生きる場所は戦場だ、それ以外には存在などしない」
「オワッタラ、シュクエンデモヒラクカ?」
「ああ・・・勝利の美酒にしないとな?」
持っていた剣と、斧を打ち合わせるドノヴァとハイリザードマン。
二人の顔は、笑っていた。
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「えー!この人と一緒に戦うのぉ!?」
ハーピー部隊の長は、うら若い少女だった。
どうやらクイーンハーピーの後継者らしく、箔を付けるために前線に出たとか。
その少女を見ながら、ジーラスは作戦内容を反芻していた。
ルダから少し離れた場所、打ち捨てられた陣幕内で。
「なるほど、なるほど・・・ふむ」
「ねぇねぇ!聞いてるの!?」
羽ばたきながら、ジーラスを背中から抱きしめる少女。
「ああ、聞いていますよ。
作戦通り行けば、うまく行くでしょうね」
「むー」
「何か、不満でも?」
「ハーピー部隊で上空から空襲するのはいいけど。
本当に安全なんでしょうね!?」
「ええ、ドノヴァが引きつけてくれますからね」
確実にヘイトを集めてくれるだろう。
その間に私達は、ハーピーに掴まって上空から奇襲する。
そう言う手はずだ。
「どちらにせよ、決死隊なのは変わりませんけどね」
作戦に完璧なんてものはない。
だからこそ、仲間を信頼して自分の与えられた作戦を遂行するだけ。
そういう意味で言えば、目の前のハーピーも仲間だ。
さっきまで戦っていたとはいえ、今は仲間、そう言う事だ。
「頼りにしてますよ、ハーピーの王女『シル』」
「名前で呼ばないでよ!異性で呼んでいいのは夫だけなんだから!」
「へ?ああ、それは・・・すみません」
知らなかったとはいえ、失礼なことをした。
一度頭を下げて謝罪した。
「でも、あーあ・・・これでハーピー族の未来も無くなったわね。
ヘルザード帝国に反旗を翻すなんて」
「身を守るための当然の行為だと思いますけどね。
それとも、抵抗もせずにやられるのが忠義だと?」
仕掛けてきたのは帝国だ。
グスタフ一人を潰すために、彼の配下まで殺そうとしている。
・・・自分の配下を潰して何の得になるのだろうか。
「そもそも、何故軍まで潰そうとするんでしょうか?」
「当然でしょ、見せしめのためよ」
「見せしめ?」
「ヘルザード帝国に弱者は要らない、そう言う事なの。
だから、配下もその考えに則って、粛清されるの。
・・・たとえ、私達みたいに臨時で配備された部隊でもね」
その言葉に、ジーラスの眉が上がる。
「極端な実力主義ですね・・・」
「それが、ヘルザード帝国の強さ。
だけど敗者には何も残らないからね。
私の、部族も終わりかな」
しゅんと、頭を下げるシル。
ジーラスはその頭を撫でた。
「生きている限り、終わりなんてものはありませんよ。
この戦いに生き残って、血を残せば再起も出来るでしょう?」
「ジーラス・・・」
「ですから、お互いに頑張りましょう。
私も、こんな所で死ぬ気は毛頭ありませんからね」
地面が揺れる。
どうやら、巨人が動き出したらしい。
つまり、ドノヴァが動き出したという事だ。
こちらも作戦を実行しよう。
「戦いましょう、生き残るために」
「うん!」
陣幕を出る二人。
その外では、完全武装したハーピー族と傭兵騎士が立っていた。
「さあ、やりますよ」
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