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130話

国境決戦の話に戻ります。

ゼフィラスの引き抜いた背中の大剣。

それは、宵闇がかつて使っていた10本の剣のうちの一つ。

本来ならば、剣を振る度に効果が変わる曰く付きの剣だが。

その効果はゼフィラスが付けている黒い小手によって制御されていた。


「握れた・・・これが、本物の」


感慨深げに剣を見つめるゼフィラス。

引き抜かれた剣は、眩い光を放ち。

その光を見た周りの魔物たちにどよめきが起こった。


「美しい剣だが・・・なんだ、この漠然とした焦燥感は」


あの剣を見ていると、動悸が激しくなる。

いや、本能的に恐れている。

あの剣は、危険な存在だと。


「!」


居ても立っても居られず、グスタフが走りだす。


「ぬぉぉぉ!!」


大剣を横に構え、ゼフィラスの胴を目掛けて横一文字に切り裂く。

しかし、その大剣は光り輝くゼフィラスの大剣によって防がれた。


「むぅん!!」


すかさず、二の手を入れるグスタフ。

ゼフィラスはその剣戟を弾き、大剣でグスタフを切り裂こうとする。


「ぬ・・・!?」


咄嗟に回避するが、剣の先端がグスタフの頬の横を通った。

頬から多少の血が流れる。


(掠った感覚は無かった・・・何という切れ味だ)


一歩離れ、グスタフは頬の血を拭う。

目の前のゼフィラスは振った剣を感覚を確かめるように握り直していた。


「オリジナルが、まさかここまでとは」


「ちぃ!だが、勝つのは俺だ!ゼフィラス!!」


再び間合いを詰め、斬りかかるグスタフ。


その様子を、遠巻きから敵も味方も魅入っていた。

人間も、ゴブリンも、リザードマンも。


「貴様さえ倒せば、後は烏合の衆よ・・・!」


「倒してから言うんだな、グスタフ!」


剣を弾き、ゼフィラスの一閃がグスタフの肩を捕らえた。


「ぬぅ!?」


身体を反らしてかわそうとするが、肩口を斬るように大剣は軌道を描いた。


「ぐぅぅ!」


斬られた肩口から血が噴き出す。

グスタフはその斬り口を手で押さえ、再び一歩引いた。


「やるな・・・ゼフィラス」


「私も負けられない身だ」


「ふ、そうか」


肩口から手を離すグスタフ。

血が滴り、腕や手を血で染めていく。


「ならば・・・次が最後だ」


大剣を構え、グスタフは姿勢を低くした。

力を籠めている為か、肩口から出血する量が増え始めている。


「・・・」


それに答えるように、ゼフィラスも背中の鞘に大剣をしまった。

持ち手は持ったまま、背中からの抜刀の姿勢で。


異様な空気が流れ始めていた。

戦争の最中だというのに戦場は静か。

鳥の声も、水の音すらも遠く聞こえ。

ただ、二人の戦士の決着を兵達が待っている状態だった。


「行くぞ・・・!」


「ああ」


グスタフの構えた大剣が、日光に反射し光る。

それを開始の合図と見たか、二人は同時に走りだした。


「ぬぉぉぉ!!」


「はああ!!」


一閃、その剣戟がお互いに振りかかろうとしたその時。


「グスタフ様!」

「ゼフィラス!!」


女性の声が両陣営から響いた。


「待って!二人共!!」


「む!?」


グスタフに抱きつくように制止するエルフのライラール。

ゼフィラスを指差し、命令とばかりに言葉を放つエマ。


「・・・戦士の一騎打ちだ、邪魔をするなエマ」


殺気に近い気配を出しつつ、ゼフィラスは構えを解かない。

グスタフもそれに答えるように、剣を構えていた。


「それどころじゃないのよ!!いいから聞きなさ―――」


不意に揺れる地面。

ズゥン、ズゥンと重い音が遠くから響いてくる。


「なんだ・・・?」


対岸の川、森の奥から大量の鳥が飛びたつ。

そして、その森には・・・。

見上げるほどの、巨人のような何かが立っていた。


「馬鹿な・・・何故あいつがここに!?」


絶句していたのはグスタフだった。


「バルク国との国境沿いで防衛線を張っていたはず。

 ルダ将軍、何故ここに・・・?」


グスタフがその巨人、ルダに気を取られている隙に、

エマがゼフィラスの隣にまで駆け寄る。


「ゼフィラス」


「なんだ?」


グスタフの気が自分から逸れたためか、ゼフィラスも構えを解いていた。


「・・・カテドラルが襲われたわ」


「!」


「さっき、伝令から情報があった。

 リルフェア様、ラティリーズ様の安否も不明よ」


「・・・戻らなければ!」


踵を返して戻ろうとするゼフィラスの腕を掴むエマ。


「待って、ゼフィラス!」


「何を待てというのだ!?」


「この場を放置して逃げるつもり!?

 国境を・・・いえ、ヘルザードからゼロームを守るのが今の私達の務めよ!」


「しかし、ラティリーズ様とリルフェア様が!」

 

「だから―――」


ズゥンと、一際大きい振動が全員を揺らす。


「何をするルダ!!」


グスタフの怒気をはらんだ声が空間に響く。

ゼフィラスとエマがグスタフの目線の先を見ると。

巨人ルダによって踏み荒らされ、叩き潰されるリザードマンの部隊があった。


どういう事だ?

あの巨人、ルダという奴はグスタフの援護に来たんじゃないのか?


目の前では、ミノタウロスとリザードマンが何が起こったのか分からない、

そんな顔をしながらルダに屠られて行っている。

数名のリザードマンがハッと気づいたかと思うと、部下に伝令し避難を始めさせた。


「どういう事だ、グスタフ。

 お前の味方じゃないのか?」


「ヘルザード帝国も一枚岩ではない。

 あの巨人・・・ルダは、参謀直属の部下だ」


「お前もそうじゃないのか?」


「私は・・・現場専門だからな」


その一言で、ゼフィラスは理解した。


「そうか、苦労するな」


目の前の巨人は、グスタフの部下にはお構いなしという事だろう。

味方として寄こしたはずが、勝手に暴れているという事か。

援軍と言えるのか、あれは。


「味方に潰される、か。

 敵とはいえ・・・この状況には同情する」


「味方・・・ふふ、お前にはそう見えるか?」


「?」


「言っただろう、一枚岩ではないと」


辺りを踏み荒らしていたルダが、その視線をグスタフに向けた。


「グスタフ、この役立たずが!」


森を振動させるほどの声が、場に響いた。

はっきり言って、うるさいほどの声だ。


「何?」


「ヘルザードに2度の敗北は許されん。

 もう一度負ける前にこの俺が貴様を殺してやる・・・せめてもの情けにな!」


そう言うと、ルダは片手に持っていた巨大な棍棒を振り上げた。

その射程は、こちらをゆうに捉えるほどに長い。


「やはり、そういうことか」


「・・・まるで状況が分からないぞ、グスタフ?」


「お前達が善戦するから、俺ごと叩き潰すつもりなのだろうさ」


そう言うと、グスタフはふっと笑った。


「何故だ?お前はヘルザード帝国でも名の知れた男。

 そいつを、殺そうというのか?」


そう語るゼフィラス。

その顔色には困惑が少し見て取れた。


「それがヘルザードという国だ。

 役立たずと認識されれば最後、もう弁明は―――」


天高く振り上げられた棍棒がこちらに照準を合わせた。


「語るのは後だ!今は生き残るぞ、ゼフィラス!」


「・・・それには同感だ!」


振り下ろされた棍棒を左右に避けてかわすゼフィラスとグスタフ。

地面への棍棒の激突と同時に、舞い上がった土煙が辺り一帯を包んだ。


「ちぃ・・・外したか」


手ごたえを感じなかったのか、ルダは辺りをキョロキョロとしだした。


「どこに行ったゼフィラス、グスタフ!同時に殺してやるから出てこい!!」


読んで下さり、ありがとうございました。

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