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129話

アーセ村の外れに転移したトーマ達の拠点。

元々白塗りのカテドラルの外壁、拠点の外壁の色もそうだったのだが。

ゴーレム化により、白の中にうっすらと茶色が混じったような色になっていた。


その外壁の周りを触りながら神威は難しい顔をする。


「強制転移で破損が酷い・・・直すにも材料が必要」


見た目自体は大したダメージには見えない状態だが。

至る所に発生したひびが許容を超えるくらいに深い。

・・・これを直さない限り動かすのは不可能だ。


もし、強引に拠点を移動させようものなら、真っ二つに裂ける可能性もある。


「材料、ですか」


神威の後ろから響く声。

その声に、神威が振り向く。


「オリビア?」


「ただいま戻りました・・・というより、ここで合流できるとは思いませんでしたが」


茸の塩漬けを取りに行ったオリビアがそこに立っていた。

なんでも拠点に帰る途中のアーセ村で、騒ぎを聞いて見に来てみたら。

それが、自分のマスターのいる拠点が転移してきたという騒ぎだったらしい。


「何があったのですか・・・?」


「襲われて、非常手段を使った」


そう言われ、拠点を見やるオリビア。

そのボロボロの外見を見て、悲しそうに眉を下げるオリビア。


「この子も、私達の妹・・・ですね」


「ん」


頷く神威。

神威に生み出された拠点を丸々改造した巨大なゴーレム。

オリビアにとっては、一番下の妹と言える。


「自立稼働まで、時間が掛かりそう」


「どのくらいでしょうか?」


「材料不足で目途が立ってない」


そう言って首を横に振る神威。

その顔は残念そうだ。


「マスター、襲われたと仰られましたが誰なんですか?

 拠点、いえカテドラルを襲ったという襲撃者は」


「バルクの人だよ、オリビア」


声のした方向に顔を向けると、そこには八霧が立っていた。


「バルク国の?」


「うん、遂に牙を剥いた・・・って所かな。

 リルフェアさんは無事だし、被害は被ったけど致命傷じゃない」


「今は、立て直しを図ってるの・・・情報も不足してるし」


「一部の貴族はリルフェアさんとラティリーズさんを裏切って、

 バルクやヘルザードに付くんじゃないかって噂も立っているからね」


その話を聞き、オリビアは怪訝そうな顔をした。


「仮にも神様と呼ばれる存在に、牙を剥くと?」


オリビアの言葉も分かる。

昨日まで神と崇めて奉っていたような人を裏切るようなものだ。


「人間は一筋縄じゃないって事だよオリビア。

 皆が皆、命を掛けて国家に尽くすような人じゃないだろうし」


ため息交じりにそう言う八霧の顔には呆れも混じっていた。


「こんな時こそ、本来の人間性が見えてくるものだからね」


「?」


「そのうち分かるよ、人間は汚い部分が多いって」


――――――――――――――――――――


その頃、王都。

王女リーゼニアの父であり、ゼローム皇国の国王『アルフォン・ドラクネン』。

穏健派で知られ、ラティリーズへの信奉も篤い人物。

だが、先日のカテドラル襲撃を聞き混乱に陥っていた。


「おお、ラティリーズ様はご無事なのか!?」


「落ち着いてください、父上」


玉座から立ったり座ったりを繰り返すアルフォン。

その様子を見かねて、隣に座るリーゼニアが行動を諫める。


「落ち着け?ラティリーズ様が襲われたのだぞ!?

 ああ・・・ゼローム皇国はどうなってしまうのだ・・・」


今度は、頭を抱えてその場にしゃがみ込んでしまった。

いつもは威厳のある顔も、不安や焦燥感で歪んでいた。


「現在情報を集めている途中です。

 父上がそのようだと、かえって国民も不安になるというもの。

 こういう時こそ、毅然とした態度で」


「う、うむ・・・そうであるな」


立ち上がると、玉座に座り直すアルフォン。

顔は未だに不安げだが。


「アゼル、斥候の情報は?」


リーゼニアの真横に、護衛として立っていたアゼル。

両腕を腰に回していた体勢のまま、顔だけをリーゼニアに向けて話す。


「今の所・・・有力なものは。

 しかし、気になる話も耳に入って来てます」


「?」


「カテドラルの一角が、丸々無くなったそうです」


「無くなったって・・・魔法か何かで消滅したの?」


「いえ・・・攻撃魔法の跡ではないと、斥候は申しておりましたが」


確かに、それは気になる話だ。


「調査は継続して、いい?」


「は」


――――――――――――――――――――


それから数日。

カテドラル襲撃の話は全国に上ることになり。

元々ラティリーズやリルフェアにあまりいい思いをしていなかった、

貴族や地主達が、何やら動き出し始めていた。


「どう思いますかな、ケレル卿」


「うむ・・・」


ゼローム皇国、とある大都市の屋敷。

壮年の男性が数人、会議室で何かを算段していた。


一人はノーラン・ケレル。

ゼローム西方部、ヘルザード帝国と隣する国境沿いに領地を持つ男。

ゼローム皇国内で2番目に広い領地を持つ大貴族である。


公爵位の一人であり、今回の会議の発起人。

ドラクネン家に娘を側室として送るなど、王族とも関わりが深い。


一人はデプローグ・ダムス。

ケレル卿の治める領地の北側を代理で収める文官。

政治的手腕を認められ、爵位は持たないが貴族同様の扱いを受ける人物。


もう一人は、カルヴァ・アントル。

ケレル領の南方に領地を持つ、貴族。

貴族の一人として数えられるが、実際はケレル家の配下のような存在であり、

世間的にもそう認められている。


「とりあえず、静観しようではないか。

 ラティリーズ様が死んだという報告も聞かない以上、

 下手に動けば首どころか一族郎党皆殺しもあり得るぞ」


「その話ですがね、ノーラン様」


窓から外を見ていたカルヴァが顔をノーランに向ける。


「実は、死亡したという情報が入って来ておりまして」


「それは本当か?」


「私の知人にはバルク出身者もおりますので。

 それによれば、襲った特殊部隊はラティリーズ様を討ち取ったと」


「・・・」


その話を聞き、ノーランは手を組んで背もたれに背中を預けた。

目を瞑り、何かを思案する様子で。


「カルヴァ、誤報や偽りでは無いな?」


「誤報も何も、そう言う噂が流れているだけという事ですよ」


「・・・カルヴァ殿、そう言う噂で首が飛ぶ者もいるのです。

 軽々しく情報として流すのはいかがなものかと」


「情報を何も出さない貴君よりはましだと私は思うがね」


「何?」


デプローグとカルヴァが睨みあう。


「よさないか、仲間内で争うのは」


いつの間にか目を開けていたノーランが言葉を放つ。


「とにかく、ラティリーズ様の御身の無事が分からない以上。

 我々貴族がゼローム皇国を支えねばならない。

 明日、ドラクネン家と会談を行うつもりだ、貴君らも参列してくれ」


「は」


「了解です」


「最悪、ゼロームは崩壊するかも知れん。

 ・・・その場合の身の安全は確保しておかねばな」


身の安全、と聞き二人の顔に緊張が出る。


「我々貴族が守るのは血筋と誇り、それは分かっているな?」


ノーランのその言葉に、二人は深く頷いた。


読んで下さり、ありがとうございました。

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