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122話

時系列はトーマがカテドラルへの帰路に着く直前の話です。


ヘルザード帝国、謁見の間。


その部屋は調度品や献上品で飾られ、金色に輝いている。

その中で、ヘルザード帝国の皇帝は頭を抱えていた。


彼の傍には帝国の腹心も数人寄り添っている。


「くそ・・・どうなっている?

 バルクの話では既にカテドラルを襲撃しているはずだぞ」


「そうですな、遅すぎるかと」


バルクのティアマからの要請で国境沿いの戦力を強引に増強した。

徴兵した各部族の長からはそれなりの謝礼を要求されたが、まあそれはいい。

問題は戦闘が予想以上に継続している事だ。


本来ならゼフィラスを国境沿いに誘い出した瞬間に始まるとされた、

カテドラルへの奇襲。


既にゼフィラスが出立したという情報が流れて一週間以上経つ。

しかし未だに、その奇襲は行われていない。


「カテドラル襲撃、その報を聞いた前線部隊の士気は低下し撤退。

 容易く国境を踏み越えるはずでしたが・・・」


「既に、約束の期日は過ぎておりますな」


「くそ!」


ティアマに騙された、そう感じ激昂する皇帝。

グスタフまでも呼び戻し、最前線の指揮官として復帰させたが。


その戦闘活動は、予想以上に伸びていた。

損害も無視できない程のものになり始めている。


「あの無能が・・・ヘルザードに二度目の失敗は無いぞ」


「・・・皇帝閣下、魔法伝令が届きました」


「読め」


苛立たし気に玉座に座り直すヘルザード帝国皇帝『シャルード』。

耳を貸す気はあるようで、伝令に対して耳は向けていた。


魔法伝令とは、話す言葉を遠くへ飛ばす魔法の一つ。

暗号化することも出来るため、軍でもよく使用されている伝達用魔法である。


「は・・・亡国の準備は完了。数日後決行する、との事です」


「遅い、余との約束の時期はとうに過ぎている!」


「落ち着いて下され、シャルード陛下。

 戦争というものは時間が掛かるもの、あちらにも準備というものが」


イライラしながら、コツコツと指で玉座の肘掛けを叩くシャルード。

そして、苛立ち気に自分を諫めたセオーグを見た。


「分かっている・・・それで、ラティリーズを連れてくる準備は?」


「は、そちらも完了しております。

 部隊の編成は滞りなく」


「そうか、ならば迎えに行かなければな・・・我が花嫁を」


「・・・」


セオーグはシャルードの花嫁という言葉に顔をしかめたが。

直ぐにその顔を直すと、いつものような仏頂面で兵士を見た。


「陛下の御言葉だ、部隊に伝令を」


「は」


近くで片膝を床に付けていた騎士が膝を上げ、部屋を出て行く。


「・・・」


そして、もう一度シャルードの顔を見るセオーグの顔は。

再び、しかめた顔をしていた。


――――――――――――――――――――


ヘルザード帝国、大聖堂。

災竜の一頭を神と奉るこの大聖堂は、ヘルザード内で最も布教されている宗教、

『ギル教』の総本山である。


その下には災竜が封じられているとされる大空洞が存在し、

それを守るように大聖堂が建てられている。


その大聖堂に入っていくローブ姿の一団。

一団は、大聖堂のある一室へと足を踏み入れた。


「来ましたか」


その部屋には既に一人の男が立っていた。

白髪を生やした初老の老人、身なりは立派で神官の服を着ている。


「アルバ大神官殿、久しいな」


「して、この大聖堂に御用とは何用かな・・・皇帝殿?」


ローブのフードを下ろす男。

その顔は、シャルード当人だった。


「災竜様の神託を受けにきた」


「なるほど、大作戦を前に景気づけ、と言ったところですかな?」


「・・・そんなところだ」


一言そう返したシャルードはアルバの対面の椅子に座った。

その様子を見たアルバも、椅子に座る。


アルバは、机の上に置いてあった水晶玉を近くに手繰り寄せる。

それに手をかざし、水晶玉とシャルードを交互に見た。


「・・・陛下、此度の作戦は成功します。

 陛下の思うままに、事が進むでしょう」


「本当か?」


「災竜様の御言葉を疑いで?」


「いや・・・」


首を振るシャルード。


「余もまた、災竜様を信奉する者・・・そのお告げを疑うはずが無い」


立ち上がると大神官を見るシャルード。

そして、ふっと笑った。


「作戦は成功する、か・・・ふふ、いい言葉だ。

 ありがとう、大神官殿」


「いえ、私は神託を告げたまで」


そうか、と一言残すと。

シャルードは部屋を後にした。


シャルードを見送ったローブ姿の男。


「セオーグ殿」


「馬鹿はこれだから扱いやすい。

 アルバ殿も、大神官が嘘をついていいというのか」


「方便、という言葉もありますゆえ。

 それに嘘をついてくれと頼んだのはセオーグ殿・・・あなたでは?」


「ふふ、そうだな」


部屋に飾られる、災竜を模したとされる絵を見るセオーグ。

その絵に少し触れる。


「災竜様の復活には、リウ・ジィの血が必要・・・それも、正統な」


「表向きはシャルードのガキのためにラティリーズを攫い。

 そして、本当の目的である封印を解く・・・と」


「災竜様の復活は、我らの悲願。

 このヘルザード帝国を大陸一・・・いや世界を超え全てを統一する大国家になる、

 そのお力を我々に与えてくれましょうぞ」


セオーグのその言葉を聞いたアルバの顔が笑う。


「その通りかと、セオーグ殿」


「災竜様も、喜んでおられるのか?」


「力は取り戻しつつあるが、未だにお言葉は・・・。

 やはり、封印を解かない限りは」


そう言って、アルバは数度靴を踏み鳴らす。

その地下、奥深くには災竜が眠っていると言いたげに。


「・・・ふ、そうか。悲願は間近だ」


――――――――――――――――――――


その頃、バルク国のティアマの私室。


「う・・・はぁ・・・く!」


ベッドの上で呻くティアマ。

シーツをがっちりと掴み、苦しそうに頭を振る。


「わ、私の中で・・・何かが、暴れ・・・!」


淡く光りだすティアマの身体。

その身体から何かが抜けだす。


淡い光がティアマから離れていくと、小さな光の塊が空中に浮いていた。


「・・・魔力の、塊・・・!?」


丸い形は次第に人の形を作り始め。

そして、その人の形はティアマと同じような体型に変化した。


気づけば、自分の前にもう一人の自分が立っていた。


「あなたは、だれ・・・?」


「私は、私よぉ?ティアマ・・・災竜の加護を受けたティアマ」


「災・・・竜?」


「竜騎士に接触するなんて、厄介なことをしてくれたわねぇ・・・。

 お陰で、あなたを操ってリウ・ジィの正統な血を手に入れる作戦がパァ、よ」


「操る・・・うっ」


頭が痛い。

嫌な記憶が、頭の中に流れだす。


ああ、あれは。

竜の塔に幽閉された・・・数日後の事。


「!」


分かった、私が狂った理由。

いや狂わされた、その事柄。


「お前のせい・・・!災竜!」


「ええ、そうよ、愚かな人形さん」


「私は人形じゃない・・・!ティアマ!リウ・ジィの名を継ぐティアマ!」


「あらあら、正統継承者から外されて名を継ぐって。

 お門違いも甚だしいわ」


こいつだ、目の前のこいつのせいで。

私は、本当に狂ったと認められてしまった。


大好きなお姉ちゃんと引き裂かれ。

大切な家族を壊し。

なにより、復讐という気持ちを植え付けた張本人!


「災竜『ギルファード』!!」


「名前を覚えてくれて、光栄だわぁ・・・じゃあね、本体さん」


私が、私に向けて指を向ける。

あれは、破壊魔法・・・!


こちらも同じ魔法で対抗しようとするが。

身体に力が入らず、魔法詠唱と同時に思考がぐにゃぐにゃになる。


「あ・・・!」


「馬鹿ね、力もないのに魔法なんて使おうとするからよ?

 奪われたことにも気づかなかったの?」


「な・・・に?」


「利用させてもらったせめてもの情け、一撃で殺してあげる」


指先が光る。

駄目だ、今の私じゃ・・・防げない。


(助けて、お姉ちゃん・・・!)


ぐっと、目を瞑る。


恐怖と悔しさが入り混じった感覚。

そして、死の瞬間を待つもどかしさが感情を支配していた。


読んで下さり、ありがとうございました。

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