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12話

「聖堂騎士様!」


その声を上げたのは、俺達が助けた兵士だった。

聖堂騎士の一人が、彼の方を向く。


「なんだ?」


兵士が近づいていく。

俺をちらりと見ると、彼に何かを話し始めた。


「・・・なに?」


「この目で見ました・・・確かに彼は・・・」


「・・・本当だろうな?」


頷く兵士。

俺を見た聖堂騎士の一人が、こちらに近づいてきた。


「貴様、ミノタウロスを一撃で葬ったというのは本当か?」


威圧するような声で、そう問いかける聖堂騎士。


「ああ・・・事実だが?」


それを聞いた聖堂騎士は、何やら考えている。

しばらく熟考していると口を開いた。


「ラティリーズ様をお守りするため、我々は強い者を探している。

 ヘルザード帝国に決戦で負けた以上、それは急務だ」


ああ、それは知っている。

決戦で負けたことも、それによって逃げている最中だという事。

リーゼニア達からそれを聞いていたのだが。


「・・・貴様を雇いたい」


「雇うって・・・俺を?」


「正確には、貴様達か」


聖堂騎士が周りを見る。

俺の隣には、八霧(やぎり)神威(かむい)が立っていた。


――――――――――――――――――――


聖堂騎士はあることを話し始める。

・・・それは、この国の周りの状況だった。


まず・・・このゼローム皇国は、ラティリーズの一族を神と崇める国。

ただし、政治や統治に関しては全て、ドラクネン家・・・

リーゼニアの一族が仕切っている。


彼の話によれば、ラティリーズは神であり、俗世とはかけ離れた存在。

ゆえに、世事は全てドラクネン家に一任している・・・とのこと。

これは、ゼローム皇国というものが出来てから、ずっととの事。


しかし、300年近く前のラティリーズの祖母の時代にあることが起きた。


ラティリーズの母「リルフェア」は双子の姉として生まれた。

彼女はゼローム皇国の正当後継者として、育てられたが・・・。

双子の妹として生まれた「リルフィーナ」は力を奪われ、「竜の塔」に幽閉されていた。


ある日、ドラクネン家に反発する一部の貴族たちが南部で離反。

「竜の塔」に幽閉されていた「リルフィーナ」こそ、本物の神と祭り上げ、

南部での軍事的行動を開始し、「竜の塔」を襲撃。

「リルフィーナ」を奪い、南部で国家を建国した。

バルク家が主権を握る、『聖バルク王国』の誕生である。


そして、ゼローム皇国と決戦を行った帝国。

「ヘルザード帝国」は、ゼローム皇国と同時期に建国された魔物の国。

建国以来、ゼロームとは戦争を続けており、長い戦乱と休戦期を挟みつつ、

今では第14次戦争に突入してるとの事。


三国共に対立し、お互いを牽制しあっていたらしいが。

数年前にヘルザード帝国との休戦が破綻、しばらくは小競り合いが続いていた。

そして、ゼロームの将軍の独断により決戦が強硬されたのが数日前。

結果は・・・知っての通り敗北、しかも惨敗に近い。


今や決戦に勝ち、侵攻の気配を見せるヘルザード。

決戦に敗北した今を好機と、南部より上がってくる気配のバルク。

両方を相手にしなければならない状況になっているとのこと。


「つまり、主力が壊滅した今・・・ゼローム皇国には守る余裕がない。

 だから、戦力として俺達を雇いたい、と?」


「ああ、有能な者を集めているのは何処の国も同じだ。

 お前たちが、帝国につく可能性もあるだろう?

 だったら、先に唾を付けておいた方がいい」


なるほど。

・・・俺の活躍を買って、そう言ってくれるのはうれしいが。

正直、うまくいっただけで本当に役に立つのかどうかは、疑問だ。


それに、八霧と神威のこともある。

彼らは戦闘職とは言い難いし・・・危険な目に合わせるわけには。


「・・・ねえ、トーマさん」


二人を見ていたら。

そのうちの一人、八霧から声を掛けられた。


「僕たちが戦力として、心配なんだよね?」


「・・・戦闘職は俺だけだ。こんな未知の世界で、

 お前たちを危険な目に合わせるわけには・・・」


そう言った俺を、ため息交じりで見る八霧。

その顔は呆れ混じりだった。


「僕たちだって、この世界の一員になってるんだよ?

 いつまでも・・・トーマさんに守られてるわけにはいかないよ」


「八霧・・・?」


「それに、僕たちだってトーマさんの役に立ちたいんだよ。

 ・・・今までは、世話になりっぱなしだったけど、今度は僕らが助けるよ」


八霧は真剣な目で俺を覗いている。

後ろの神威も俺の目を見ながら、頷いている。

お前ら・・・。


「・・・それに僕たち、お金を稼がないと・・・食事も出来ないよ?」


食事と聞いて、腹が減ったことを感じた。

そういえば、八霧も腹が減ったって言ってたな・・・。

神威も、腹が減ったようで、ちょっと元気がなさそうに見える。


「・・・」


かく言う俺も腹が減ってきた。

現実面、金銭面でも・・・雇われるのは良い話か。


それに・・・行方不明の仲間の情報も、手に入るかもしれない。

彼らの一員になれば、情報は集まりやすくなるだろうし・・・

なにより、彼らの力を借りれるだろう。


俺は提案してきた聖堂騎士に顔を向ける。


「分かった、その話・・・お受けする」


「おお、そうか」


兜で表情は見えないが、嬉しそうだ。

しかし、隣にいた聖堂騎士が彼を制止する。


「待て、彼らの身元が分からんのだぞ?帝国のスパイの可能性も」


「・・・だが、現に彼らはリーゼニア様をここまで連れてきた」


「それも作戦かもしれんだろ?」


言い合いが始まったが・・・。


「身元なら、私が保証します」


――――――――――――――――――――


そう声を上げたのは、リーゼニアだった。

その顔は凛とした目つきで、いかにも王族といった雰囲気を醸し出していた。


「リーゼニア様?」


「私が責任を持ちます・・・それでは駄目でしょうか?」


聖堂騎士は顔を見合わせる。


「彼らには助けられました、その恩返しは・・・王族としての務め。

 彼らの身元は・・・ドラクネン家が保証します」


「し、しかし・・・」


反論しようとする男を、手で制止する聖堂騎士。


「分かりました・・・リーゼニア様がそこまで仰られるのなら」


リーゼニアに対して一礼すると。

俺の方を向き、威圧するような声で話し始めた。


「・・・下手な真似はするなよ?リーゼニア様が責任を取ることになる」


「あ、ああ・・・」


「絶対だぞ・・・!」


念押しされた。

いや・・・雇われるからには裏切るつもりはないが。

仲間を裏切るのは、最低な行為だ。

たとえそれが、一時の契約の間だとしてもだ。


――――――――――――――――――――


「それで、雇われるのはいいが・・・俺たちは何をすれば?」


「首都近郊の、ラティリーズ様の住まわれる大聖堂(カテドラル)。その周辺警護だ」


「え?首都付近の周辺警護なの?トーマさんの力を考えると・・・過剰じゃない?」


八霧は聖堂騎士にそう反発する。

確かに・・・ミノタウロスを屠る奴を、内地に置くのは過剰だ。


むしろ、前線に立たせた方がいい・・・俺もそうなると思って、

八霧と神威の身を案じたのだが。


「まあ、聞いてくれ。ラティリーズ様を狙う輩は非常に多い。

 攫おうと画策する者、暗殺を狙う者・・・数えればきりがない」


「元はといえば、帝国が戦争を仕掛ける理由も、ラティリーズ様の奪取が目的だ」


隣にいた聖堂騎士がそう声を上げる。


「奪取?・・・殺害するのが目的じゃないのか?」


ラティリーズが死ねば・・・この国へ与える影響は果てしないだろう。

暗殺に成功する=戦争に勝つ、位の事にはなりそうだが・・・。


「ああ・・・ラティリーズ様は若年とはいえ、途轍もない力を持つお方。

 魔王は・・・その、ラティリーズ様と婚姻を結びたいと始めは言っていた」


「・・・そうなの?」


八霧がそう聞く。

聖堂騎士は頷くと。


「しかし、送られた書状を見たラティリーズ様は、それを断った。

 その結果が、今期の戦争だ」


・・・振られたから強引に奪いに来た、って聞こえるんだが。

或いは、プライドを傷つけられたからとも取れる。


一体、ヘルザード帝国の魔王とはどういう人物なんだ・・・?


読んで下さり、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ラティリーズって建国当初から神として崇め建てられてるんですよね? 途中からラティリーズとリーゼニアが混ざってたりしますか?(300年前のラティリーズの祖母の時代とか、ラティリーズ様は若…
[一言] 力を貸してもらいたい側が威張ってるっておかしいよな(笑)
2019/11/30 20:48 退会済み
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