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119話

制空権を敵に取られるのは、圧倒的に不利。

これはこの時代、この世界でも同じ認識だった。


特に魔族、魔物には空を飛べる種族も複数存在し、

その集団と戦うには前持った準備が必要である。


ハーピーの集団が森の中から現れる。

数は少ないが、恐らく偵察部隊だろう。


その様子を、双眼鏡で見るジーラス。


「矢の数は?」


「足りませんね、ほぼ全て中央部隊に渡しているんで」


ジーラスの傍に立っていた騎士が首を振りながらそう言った。


「では、頭を使って戦いましょう。

 物資が足りない分は、頭で補います」


そう言うと、ジーラスはあるものを手に取った。


「これを、指定の場所に置いてきてください。

 後、策を説明するので各部隊長をここに」


「は」


騎士が、天幕から外に出ていく。


「さて、どう転びますか」


――――――――――――――――――――


ハーピーという生き物は人間の腕が羽のようになった種族。

脚は鉤爪状に変化しており、それを使った急降下から来る一撃は、

簡単に鉄製の鎧を切り裂く。


かといって、近接攻撃だけの存在かというとそうでもない。

魔法を使える個体も多く、魔法による遠距離で攻撃し、

弱った相手に対して鉤爪で止めを刺す、というのがセオリーだ。


ジーラスに命令された騎士は、森の中の木にあるものを取り付けていく。


「こんなの、役に立つのか?」


木に登り、仕掛けを施していく。

それが終わると、木と木の間に光る線のようなものが見えた。


「糸なんて張ってどうするってんだ」


そうは思うが、これも命令。

騎士は文句を言いつつも着々と準備を進めて行った。


その頃ジーラス。

第三部隊の小隊長が集まっていた。


「いいですか、相手は空飛ぶ魔物です。

 普通に戦っても勝てはしないでしょう」


「ジーラス隊長、相手が近接を仕掛けてきたら反撃すりゃいいんじゃ?」


「あなたは、それまで魔法に耐えれますか?

 上空から無数に降り注ぐ魔法を、完全に回避できますか?」


「む・・・」


少し考え、黙る騎士。


「それに、回避されれば魔法で追撃を掛けるでしょう。

 だからこそ・・・やられた振りをするんですよ」


「振り?」


「ええ、説明します」


――――――――――――――――――――


一方、ドノヴァの部隊。

ハイリザードマンの部下を傭兵騎士達が封殺し、

そのハイリザードマンとは、ドノヴァが一騎打ちの状態に持ち込んでいた。


「人間、降伏しろ。我々の後ろにはまだまだ兵が控えている。

 勝ち目は無いぞ」


その言葉を聞いたドノヴァは首を鳴らした。


「俺には関係ない話だ・・・お前を殺す、それが俺の仕事だ」


剣をハイリザードマンに向けるドノヴァ。


「なるほど、指揮官と思ったがそうではないか。

 貴様はただの戦士・・・それだけの存在か」


「御託はいいからかかってこい、語るなら武器で語れ」


「っふ」


ハイリザードマンが腰に下げた二本の剣を引き抜く。


「二刀流・・・」


「ゆくぞ、人間の戦士!」


両手に構えた一対の剣でドノヴァに斬りかかる。

それをロングソードで弾くドノヴァ。


「まだまだ、まだまだだ!!」


二刀流のメリットはそのラッシュの速さ。

その手数の多さで、ドノヴァへと何度も斬りかかっていく。


「っ!」


ロングソードで防御し、向かって来る剣戟をすべて弾くドノヴァ。


「隊長!今行くぜ!!」


「よせ・・・!こいつは俺の・・・獲物だ!!」


ロングソードで受け止めた剣を大きく弾くドノヴァ。

その勢いで弾かれた剣はハイリザードマンの手を放れて空中に舞った。


「今度はこちらからだ・・・!」


剣を弾かれ、残った剣を両手で持ったハイリザードマンに斬りかかる。


「ぐぅ・・・!?」


ドノヴァの力に押され、身体が仰け反り始める。

不利と悟ったのか、ハイリザードマンは別の攻撃を仕掛けてきた。


「!?」


竜の頭が伸びたかと思うと。

ドノヴァの首筋に噛みついてきた。


「ぐぅ!?こいつ・・・!」


首筋を噛まれたドノヴァは、痛みを堪えながら更に剣を押す。

力を籠めたせいで、首筋から垂れ始めていた血が噴き出し始める。


「な、貴様死ぬ気―――」


ドノヴァのその行動に驚いたハイリザードマンの顔と頭は。

その驚いた表情のままで、地面に落ちていた。


「死ぬ気で勝つ、だから俺は今ここに立っている」


首を切断されたハイリザードマンの身体が仰向けに倒れた。

断面からは大量の赤い血が、地面を濡らし始める。


隊長格のハイリザードマンが倒され、部隊は総崩れになり始めていた。


「ひゃっはあ!追撃だ!!」


一部の傭兵騎士が追撃を仕掛けようとするが。

それを、ドノヴァが制止した。


「な!?隊長!」


何故止めるんだ、と言いたげにドノヴァを見るが。

首筋から出る血を手で押さえる隊長の姿を見て、男は振りかぶっていた剣を下ろした。


「戻るぞ・・・突出は駄目だ。

 中央部隊の援護に回る・・・ん、だ」


その場に片膝をつくドノヴァ。


「お、おい!隊長!」


「っち、予想以上に・・・牙が鋭かったな」


ドノヴァはその場に倒れてしまった。


「衛生兵を呼ぶんだ!早く!!」


――――――――――――――――――――


第二部隊が敵の前線部隊と戦っていると同じ頃。

ジーラス率いる第三部隊はハーピー部隊の追撃を受けていた。


「うぉぉぉ!?」


軽装の兵士達が上空のハーピーの魔法に身を晒しながら、木と木の間を走り抜ける。


「もう少しだ!頑張れ!」


男達の傍に、ファイアーボールが直撃する。

その爆風で一瞬よろけるが、隣の男が腕を引っ張って木の影へと隠れる。


「よし、ラインは越えた・・・!」


上空には無数のハーピーが、こちらを探してうろうろしている。

恐ろしい魔物だ、その美貌とは正反対の凶暴さを持っている。


だが、上空の支配者を気取れるのはここまでだ。


「網を放ってくれ!」


そう叫び、上空にあるものを投げる。

それは風切り音を立てる、特殊な笛。


ヒュルルルと音を立てながら、上空を舞っていった。


その音はジーラスの布陣する陣にまで響いた。


「来たか・・・魔法部隊」


「は」


ジーラスが片手を上げると、陣の中に待機していた魔法使い達が立ち上がる。

魔法使いと言っても傭兵騎士の中で魔法が使える奴ら、という意味だが。


「試作魔法魔法鎖(マジックチェイン)、理論が正しければ。

 ハーピーは地面を這いずる・・・!」


魔法使い達の詠唱が始まる。


前もって木と木の間に張っていた細いワイヤーのようなものが振動する。

そして淡く光りだすと、光の線のようなものがワイヤーに無数に生え始める。


その光の線は生きているかのようにハーピーたちを狙い、伸びて行く。

そして、彼女達の身体を縛りあげた。


上空にいれば、引っかかることの無かったはずの計略だが。

獲物を狙って、低空飛行していた事が仇となった。


「え!?」


巻きつかれ、羽ばたくことを阻害されたハーピー達が地面に落ちる。


「よし!策は成ったぞ!!」


先ほど逃げていた騎士が指笛を鳴らす。

すると、森に隠れていた騎士が一斉に姿を現した。


「攻撃開始だ!!」


おお!と傭兵騎士と兵士の声がこだまする。


ジーラスはその声を陣で聞いていた。


「とりあえず、緒戦は貰いましたが・・・」


敵はハーピー部隊だけではないはずだ。


・・・何があるか分からないのが戦場だ、必ず保険を備えているはず。

戦いはこれから始まる、そう肌で感じるジーラスだった。



読んで下さり、ありがとうございました。

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