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118話

翌朝。

エマに呼ばれた私は、要塞内の会議所に向かった。


既に会議所には数名の隊長が集まっていた。

その中には、見覚えのある顔もあった。


「君たちは」


「久しぶりだな、ゼフィラスさん」


「・・・」


御前試合で見た顔、ドノヴァとジーラスがそこにいた。

相変わらずドノヴァは無口だ。


「集まったわね」


手に書類を抱えたエマが忙しそうに会議所の長机に抱えていた書類を置く。


「敵の斬り込み部隊が動き始めているわ」


一枚一枚、書類を全員に配っていくエマ。

その書類には、敵の大体の位置と、種族名が書かれていた。


「・・・正面にミノタウロス部隊が控えているのか」


「ええ、昨日のうちに仕入れた情報だから、確実よ」


「この前偵察に出た時は確認できませんでした。

 恐らく、昨日か少し前に配備したんでしょうね」


ロッテがそう言う。


「第二部隊は、リザードマン。

 第三部隊は、ハーピー部隊と戦う事になりそうね」


「厄介ですね、空中の敵を相手に戦うのは」


「リザードマンは任せろ・・・」


ドノヴァはやる気満々と言う顔で頷いていた。

敵が強ければ、やる気が上がるタイプなのだろう。


対するジーラスは、書類に書かれた地図を眺めながら何か呟いている。


「ふむ・・・なるほど、地形を利用すれば」


書類にペンで何本か線を書き足すジーラス。


「こちらは任せて下さい。中央は頼みますよエマさん、ゼフィラスさん」


「ああ、任せておけ」


「ゼフィラスがいるから大丈夫よ」


「ふふ、そうですね」


ジーラスは腰を上げると、会議所から出て行った。

そのジーラスを見たドノヴァも続くように後にした。


「ミノタウロスの大軍、そしてグスタフと子飼いの精鋭部隊か」


中央の戦場は、激戦になる。

そう感じるゼフィラスであった。


――――――――――――――――――――


グスタフとその取り巻きは、朝日が上がると同時に進軍を開始。

森を抜け、川のほとりまで軍を進めていた。


軍の先端はグスタフ率いるリザードマン部隊。

その後ろにはミノタウロスの部隊を控え、更に後方にはゴブリンの輸送隊。

士気は高く、渡河の準備を始めていた。


「あれが、ゼロームの要塞線か」


半壊し、壁というにはあまりにお粗末なバリケードが並んでいる。

その上には高台があり、数名の兵士がこちらの様子を見ていた。


「ミノタウロス隊、前に!」


グスタフは剣を引き抜くと、対岸のゼロームへ向けて剣を向けた。

そのグスタフの号令を聞いたミノタウロス達は、

荒い息を吐きながら川へと進入していく。


「リザードマン、ミノタウロスの後ろに隠れて進め!」


ミノタウロスの巨体の後ろに隠れるようにリザードマンが続く。


「ゴブリンはその場で待機、我々が橋頭保を確保次第、川を渡れ!」


そして、グスタフ自身も川を渡り始めた。


――――――――――――――――――――


双眼鏡で状況を確認するエマ。


「来たわね、爆発矢を準備して」


「爆発矢、装填してください」


エマの命令を大声で全員に伝えるロッテ。

高台と、壊れた要塞線の後ろに隠れていた傭兵騎士が一斉に顔を出す。

その手には弓が握られていた。


「一斉掃射!」


采配を振るうエマ。

それと同時に、弓が放たれる音が何重にも聞こえる。


水面に着弾した矢が、爆発し水飛沫を上げる。

しかし、ミノタウロスは意に介さずに前進を続ける。


その様子を見た弓を射かけた騎士達が唖然とする。


「やはり、ミノタウロスには通用しないか。

 エマ、要塞線から騎士を後退させろ。

 白兵戦で戦うしかないだろう」


「各員は要塞線を放棄、第二防衛線まで後退して!」


それを聞いた騎士と兵士たちは要塞線から離れ、

後方に存在する防衛線へと走っていった。


「ゼフィラス、頼むわよ」


「ああ」


作戦第二段階。

渡河を阻止不可と判断した場合の次のプラン。


ゼフィラス率いる前線部隊で渡河を完了した部隊を迎撃。

後方からエマの指揮するロングレンジ部隊でその前線部隊を掩護する。


「・・・この剣は奥の手、まずは」


前から使っていた方の、『聖剣』を引き抜く。

通常種のミノタウロスとリザードマンなら、これで十分だ。


(グスタフ、お前が来るまではこいつで十分だろう)


――――――――――――――――――――


第三騎士団第二部隊は左翼から攻める部隊と交戦していた。

第一波はお互いに川に入りあい、斬り合いで討ち取った。

お陰で川は再び赤く染まりつつある。


「第二波が来ます、隊長!」


リザードマンと少数のゴブリンが入り混じったの混成部隊を打ち破って数分。

相手の領内にある森から、ぞろぞろとリザードマンの大軍が現れた。


ドノヴァはリザードマンの血で濡れた剣を川で洗う。

そして、その剣を相手の領地へと向けた。


「突撃しろ、相手の準備が整う前に食い破る」


「おお!隊長についてくぜ!!」


「俺ら愚連隊の強さ、見せてやろうぜ!!」


ドノヴァを中心とした第二部隊は、腕自慢だが扱いづらい男を中心とした部隊。

戦い好きも多く、また小競り合いとは言え常勝の状態だったので、士気も高い。


ドノヴァ自身は指揮官として恵まれた能力は持っていなかったが。

愚連隊であるこの部隊では強さこそが隊長の証。

そう言う面では、第二部隊の隊長はドノヴァが適任だった。


そして複雑な命令をしないドノヴァは、部隊員にとっては適任。

突撃か後退しかないシンプルな作戦には全員是非も言わず付き従っていた。


うおおぉぉぉ、と雄たけびに近い怒号を上げながら第二部隊が渡河を完了する。

迎え撃とうと武器を構えるリザードマン達に突撃を開始した。


リザードマンはヘルザード帝国でも中位に位置する精鋭兵。

ゴブリンやオーガとは比にならない強さを持つ。

聖堂騎士との一騎打ちは分が悪いが、兵士は圧倒する。

傭兵騎士とは、個体によっては・・・と言うところの強さだ。


「お先に行くぜ!!」


大柄で、ハルバードを持った傭兵騎士がドノヴァに先んじてリザードマン部隊に斬りかかる。

迎え撃つリザードマンの剣が、男の肩口に刺さるが。


「ぐぉ・・・この、蛇野郎が!!」


振りかぶったハルバードの一撃は、易々とリザードマンの首を刎ね飛ばした。

その男の行動に続くように後ろから走ってくる傭兵騎士達が、

続々とリザードマンに斬りかかっていく。


やがて、乱戦になり。

傭兵騎士とリザードマン、一部ゴブリンによる白兵戦へと移行した。


戦いは数十分に及び。

終わる頃には、傭兵騎士が勝鬨を上げていた。


地面に転がる無数のリザードマンの死体とゴブリンの死体。

傭兵騎士側にも被害が出ていたが、ヘルザード側に比べれば微々たるものだ。


「被害は・・・?」


ドノヴァが近くの傭兵騎士に尋ねる。


「大丈夫です、連戦できる位の戦力は残ってますぜ」


そう言うと、男は森を指差した。

その先には、新たな部隊が展開していた。


部隊の先頭に立っていたのは。

派手な兜を被り、他のリザードマンよりも重武装、重装甲。

赤い皮膚で覆われたリザードマンだった。


「へへ、ハイリザードマンとはやりがいがあるぜ、な、隊長」


「ああ」


剣を握るドノヴァの手に力が籠る。

ハイリザードマン、リザードマンの上位種。

個体にもよるが、有名な冒険者をも屠る様な実力を持つ種族だ。


ドノヴァ自身も戦った事はあるが。

その強さと、実力は身をもって知っていた。


「ヘルザードも本気で攻め落とすつもり、そう言う事か」


ドノヴァはそう呟くと、周りを見渡した。


「お前達、ハイリザードマンは俺がやる。

 取り巻きの相手は頼むぞ」


「へへ、了解だぜ隊長さんよ!」


「面白れぇ!やってやろうぜ!」


部隊の士気は未だに高い。

その様子を見て、ドノヴァはふっと笑うのだった。


読んで下さり、ありがとうございました。

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