113話
転移魔法への細工。
ティアマの話では一度でもその場所に転移したという事実があれば、
その場所へ強引に転移することが出来るらしい。
要するに・・・ゴルムが転移を使った場所に移動できるのだ。
カテドラル内に無条件で転移が出来る。
「なるほど・・・カテドラルは丸裸って事か」
「ええ、準備も済んでるし私の号令一つでいつでも始められる」
ティアマが一言放つだけで、カテドラルは火の海。
・・・そう言う事か。
頭が痛くなる。
「そこまでリルフェアを恨んでいるのか?
実の姉を殺したいってそう言うのか?」
俺がそう聞くと。
先ほどまで余裕の表情で、俺を手玉に取ったかのようなティアマの顔は。
一瞬で、どす黒い感情を含んだ歪んだ顔に変わった。
ダン!と机を叩くティアマ。
その衝撃で、机にひびが入る。
「お姉ちゃんはねえ!私からすべてを奪ったの!
居場所も、立場も、親も!」
「・・・」
「私の方が力があるのに、私の方が能力もあるのに」
奪った、か。
リルフェア自身、妹が幽閉された理由は知らないと言っていた。
それに、込み入ったものもある、当人から聞かない方がいいと判断した。
そして、知っている人物を探し当てた。
俺はそいつから話を聞いていた。
その人物、スケルトンの病み術士『ブロギン』。
旅をしている間にそう言う話は知識として集まってくるらしい。
ブロギンから、その妹・・・要するに目の前のティアマの話を詳しく聞いていた。
元々、破壊の力を持って生まれたティアマは子供の頃から狂っていた。
近くにいる従者や適当な人間を攫っては人体実験という遊びをし。
人をおもちゃのように使っていたという。
それにとどまらず、破壊の力を自由に行使するティアマを見て。
両親は、後継者をリルフェアに決めた。
そして、選ばれなかったティアマを竜の塔へと封印したと。
話だけでは、人物も見えてこなかったし。
まあ狂った人物なんだろうという印象しか受けなかったが。
実際会話して見ると確かに狂気は感じるが。
それには、少し違和感を覚えた。
何だろうか?
勘、という奴か。
ティアマが竜であるためか、俺の竜騎士としての勘では。
彼女は、本質が狂っているようには見えなかった。
むしろ、純粋な人物だと俺の勘は告げている。
だが、見ようは狂っている・・・なんだ、俺の勘がおかしいのか?
「それで、復讐しようと考えてるのか」
「ええ、だから・・・」
ティアマがこちらにゆっくりと歩み寄る。
その手は光っていた。
魔法か、何かか。
恐らく俺を操ろうと精神操作系の魔法を使おうとしているのだろうが。
瞬時に動き、その手を掴んだ。
その瞬間、バチっと頭に何かが弾けるような感覚に襲われた。
「!?」
「!」
ラティと初めて会った時のあの感覚。
リウ・ジィの血はティアマにも確かに流れている
だから、これは・・・!
ラティの時と同様に、ティアマの意識が、記憶が俺に流れてくる。
――――――――――――――――――――
あの時とは違う。
俺の周りは一瞬で暗闇になったかと思うと、次の瞬間にはどこかの庭園に立っていた。
そこには、小さな噴水があり、近くでは二人の女の子が遊んでいる。
「・・・」
あの二人がリルフェアとティアマなのだろう。
仲睦まじく遊んでいるようにも見えるが、これはティアマの記憶の中か。
場面が一瞬で切り替わる。
それはどこかの廊下だった。
部屋の一室を覗くティアマと、その部屋から漏れる光が見える。
「・・・から、駄目よ」
「破壊の力がそんなに心配なのか?
ティアマなら、操れるさ。
賢く、優しい子だ」
男の声が響く。
恐らく、リルフェアとティアマの父親か。
じゃあ話し相手は母親か。
「いえ、駄目。リウ・ジィ様の名誉のためにも。
・・・処すべきよ、破壊の力を持つ子は」
「おいおい!実の子を殺すというのか・・・!!」
「貴方には分からないでしょうね、神になるというのは生半可なことじゃない!
親が子を殺すことだって・・・過去には存在しているのよ!」
「だからって、ティアマを・・・!」
バン、と音が聞こえる。
話を聞いたティアマが扉に触れて閉めてしまったのだ。
「!?」
両親が、扉を見る。
「・・・とにかく、僕は反対だ。
ティアマは―――」
空間がブレる。
どうやら、ティアマの記憶が―――。
次に現れたのは、どこかの塔の中。
ああ、幽閉されたという竜の塔か。
竜の塔は、灯台のように細長い形で。
一番上にティアマを幽閉する部屋があるだけの構造になっている。
下は常に警備の兵が居り、ティアマの能力を封じるための魔法陣が、
随所に置かれていた。
「・・・私、私が何したっていうのよ」
体育座りで部屋の端にうずくまる少女。
ティアマはここで数百年を過ごした・・・んだよな。
「ふふ、ふへへ・・・ははは!あは、あっはっは!」
狂ったように笑いだすティアマ。
・・・なるほど、これであの、狂ったような性格は分かった。
だが、おかしくないか?
ここに来る前からティアマは・・・いや。
生まれた時から狂ってたと、俺は聞いたぞ?
矛盾するじゃないか。
空間がまたブレる。
俺は、ティアマの頭の中を覗いている。
だったら、意識を向ければ・・・好きな記憶を見る事も可能じゃないのか?
そう思い、意識を集中させる。
過去に、何かあったはずなんだ。
だが、その意識は何かに引っ張られるように。
現実の空間へと押し出されてしまった。
――――――――――――――――――――
「!!!」
ドン、と俺の身体を押すティアマ。
「私の、私の中に来るなぁ!!」
「ティアマ、お前」
「安心させるな!ほっとさせるな!お前は・・・危ない男だ!」
頭を抱え、部屋を飛び出すティアマ。
俺はその様子を、身体を押された体制のままで見送っていた。
「あいつ・・・」
苦しんでいるように見えた。
――――――――――――――――――――
最悪だ・・・!
手が触れ合った瞬間、相手の感情と記憶が流れ込んできた。
そして、私の記憶が見られたという感覚も残っている。
そして、あの男。
あの男の周りには、笑顔があふれている。
駄目だ、私とは真反対の男。
あんな、あんな柔らかい光なんて!
「・・・!」
あの塔で、私は復讐すると誓った。
だから、ここまで生きてきた。
そして・・・その復讐のタイミングは既に来ているのだ。
そう、たった一言『やれ』と言うだけだ。
「・・・ぐぎぎぎ」
自分でも間抜けな呻き声を出した。
あの男に触れるまで、この復讐心から来る愉悦と満足感で満たされていた心は。
流れてきたあの男の光で、何処か疑いが現れ始めていた。
本当に、復讐するのが正しいの?
そう、語り掛けてくるように。
「どうされたのですか!?ティアマ様!」
セイラだ、廊下に立ち尽くす私を心配したのだろう。
「何でもないわ」
「あの男に何かされたのでは・・・!?くそ、あの男!」
剣の柄に手を掛けて部屋に入ろうとするセイラ。
「止めなさい!少し疲れが出ただけよ」
「は、はあ」
剣から手を離すセイラ。
・・・復讐、か。
何故、私は復讐を―――。
そして気づき始めた。
自身の心に巣食う何かの存在を。
読んで下さり、ありがとうございました。