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11話

7号が無事だったのは何よりだったが。

・・・気になった事はまだ解決していない。


7号が感情を持ったことだ。

EOSでは、思考ルーチンは単純で、会話機能はなかったはず。


ギルド拠点の出迎えゴーレムも、神威(かむい)が作ったのだが、

あれは拠点に入った時がスイッチになって、その言葉を言うだけのものだ。

会話なんてできるものじゃない。


つまり、目の前の彼女は既にドールの枠を超えた存在になる。

自分で考え、自分で行動できる・・・感情を持つ存在に。

神威が目指した、NPCの先に進んだ存在だ。


――――――――――――――――――――


「・・・私、あの時・・・死ぬと思ったんです。

 今までだったら、そんな事・・・何とも思わなかったのに」


「あのときか・・・」


竜の頭の男に襲われた時だろう。

大剣のせいで、大怪我を負っていたな・・・。


「あのまま、壊されるんだろう、位しか思わなかったんです。

 でも、トーマ様に助けられた時に、安心して・・・そしたら、急に怖くなって」


「・・・」


俺が助けたあの瞬間に、彼女は自分の感情に目覚めたという事か?

そして、今目の前にいる彼女は、とても表情豊かに話している。


「分かった・・・これは、神威が大喜びするな」


「マスターが?」


「ああ、神威の夢は、NPCに自分で考え、感じる・・・感情を持たせることだった。

 ・・・今、お前という存在はその『神威の夢』を叶えた存在になる」


あのいつも冷静な神威が喜ぶ姿が目に浮かぶ。

普段は感情の出さない子だが、喜ぶときは喜ぶ。

滅多に見せないがな・・・。


「私が、マスターの夢?」


「そうだ、だから・・・さっさと合流しよう。お前の無事も、神威に伝えないと」


そう言って、頭をポンと叩く。


・・・金色に光る髪にも、青い液体がかかっていた。

それが、固まり始めている。

髪にペンキがかかった状態といえばいいだろうか。


「・・・あ」


それに気づいた7号が、少し落ち込んだように髪を撫でる。

そうか、神威は髪型に並々ならぬこだわりがある。

その神威に、今の髪は見せられない、という感じだ。


「・・・」


切った方がいい、と簡単には言えない雰囲気だ。


それに、髪は女性にとって命ともいわれている。

俺が簡単に口を出していい話ではないだろう。


「トーマ様」


ツインテールだった髪を解き始めた7号。

髪を下ろすと、長い金髪が癖も無く全て下りた。

しかし、固まり始めた液体のせいで、髪の先端同士がくっついていた。


「あの・・・ハサミはありませんか?」


「切るのか?だが・・・」


「切らないと・・・残った髪まで痛みます。ですので」


そう言われたので、ハサミを探す。

確か、髪型変更アイテムは、ハサミの形をしていたはず。

それを探し出し、見つけた。


そのハサミを差し出すと、7号は迷いなく、髪をバッサリ切った。

塊になった部分の髪は地面に落ち、他の髪は風に流されて森の中に消えて行った。


・・・意外にバッサリ切ったので、7号はショートカットの髪型に近くなっていた。

まあ、元の顔が神威だ、ショートにしても十分可愛い。


「ほら、7号」


新品の黒いフード付きマントを渡す。


「・・・これは?」


「格好も汚れてるんだ、隠した方がいい」


7号が服を見ると、自分の着ていたゴスロリ系の服は、

殆どが青く汚れていた。

・・・それに、髪型が変わったんだ、すぐに披露するのも勇気がいるだろう。


「・・・すみません、トーマ様」


「神威に直してもらうまでは、それで辛抱してくれ」


7号が、マントを羽織るのを確認して、移動を開始した。

目指すは、合流だ。


――――――――――――――――――――


彼らの話だと、川を越えた先は自国領だという話だ。

だが・・・追手の事を考えると、国境を越えてでも追撃を仕掛ける可能性はある。

襲われていないといいが・・・。


そう考えながら7号と森を歩く。

森には人が通った跡が残っていた。


八霧(やぎり)達だな・・・真っすぐに歩いていったみたいだな」


足跡からして、急いでいる様子はない。

襲われたという形跡もない。


「7号、神威と会話は出来るか?」


「・・・すみません、こっちに来てから・・・ずっと通信が不調なんです」


そうか・・・。

確かに、森の中を偵察してもらった時も、直接報告に来ていた。

マスターとドール間は無線のように命令を飛ばすことが出来る。

・・・それが今、出来ない状況という事か。


「仕方ない・・・足跡を追う他にはないか」


足跡を追い、自分たちを足跡を消していく。

追手に少しでも感づかれないようにするためだ。



森の切れ目から、建物が見えた。

そこそこ大きそうな建物が、目の前に見えてくる。


「・・・これは」


近寄って確かめてみると、それは教会のようだ。

立派な建物はステンドグラスで飾られ、屋根には十字架。

壁には蔦が大量についており、緑色の壁にも見える。

いかにも、古そうな教会だな・・・。


足跡は、その境界付近に途絶えていた。

・・・この教会に入ったのだろうか?

そう思い、教会の扉の前に立ち、ドアをノックしようとした。


「待て・・・」


後ろから響く低音の声。

振り向くと、そこには重厚な鎧を着た騎士が立っていた。


手には大型のメイスとタワーシールド。

兜は・・・バケツのようなヘルムに十字のスリットが付いた兜だ。

その男が3人、こちらを見ていた。


聖堂騎士(テンプルナイト)か・・・?」


教会の外に飾られた、盾の上に十字架が書かれた紋章。

その紋章は、その騎士たちの鎧に彫られていた。


「我らは『聖ラティリーズ騎士団』。この名、聞き覚えはあるだろう?」


「聞き覚え・・・?いや・・・」


こっちの事には、生憎詳しくない。

だが、その言葉を聞いた男達は武器を構える。


「帝国兵が・・・!我々の事を知らぬとは言わせぬぞ・・・!」


「帝国の兵など、我々の前では雑兵に同じ。・・・舐めるなよ」


メイスを構え、ゆっくりとこちらに歩み寄る。


「待て、俺は帝国兵じゃない」


そう言うが、問答無用とばかりにこちらににじり寄る。

・・・仕方ない、一線交えるか・・・?

そう思い、7号を後ろに下がらせるが。


「やめなさい、その方は私達を救ってくれたお方です」


教会の中から響く声。

それは、リーゼニアの声だった。


聖堂騎士の男達は、その言葉を聞いて頭を下げた。

教会に振り向くと、扉が開く。

その先に、リーゼニアが立っていた。


――――――――――――――――――――


聞くところだと、この場で彼ら、聖堂騎士達と合流したらしい。

今は、迎えの馬車を待っているとのこと。

彼らは警備のために教会の外を見回っていたらしい。


リーゼニアの後ろには、八霧と神威がいるのが見える。

無事なようで、ほっとした。


「こいつらが・・・迎えか?」


「はい、ラティリーズ様が軍を割いてくれたんでしょう」


「ラティリーズ様・・・?さっきも男が言ってたが、一体・・・誰なんだ?」


確か、リーゼニアは国王の娘。

要するに、王族・・・偉い人物だ。

なのに、様付けで呼んでいる。

・・・余程、偉い人なのだろうか?


「ラティリーズ様は神より遣わされた存在。

 ゼローム皇国の唯一無二の現人神(あらひとがみ)で在らせられます。

 ・・・我々王族はラティリーズ様の庇護の元、国を代理で収めているに過ぎません」


代理で収めている?

・・・つまり、ラティリーズという神様がいて。

その神様は、リーゼニア達に国を管理させているということか?


「ラティリーズ・・・か」


そう呟く。

・・・すると、リーゼニアを始め、聖堂騎士の連中もこちらに敵意を見せる。


「呼び捨てなど、恐れ多い・・・!」


「貴様、死にたいのか!」


「・・・」


リーゼニアも無言でこちらを睨んでいる。

な、なんだ?

呼び捨てがそんなに駄目な行為なのか?


「トーマ様、ラティリーズ様はこの国では神に等しい存在。

 そんな方を呼び捨てにされたら・・・」


「それは・・・気が回らなかった。悪い・・・」


謝ると、周りの空気が和らいだ。

聖堂騎士達も、構えを解いていた。


「それで・・・その、ラティリーズ様が聖堂騎士達を送ってきたって事か?」


「ええ、正規軍が大打撃を受けた今、満足に動かせるのは、

 ラティリーズ様の身辺を守る、聖堂騎士団だけですので」


なるほど・・・。

口ぶりから、彼らの方が正規軍よりも強さは上、なのだろう。

 

・・・聖堂騎士か。

この国は、一枚岩ではなさそうだな。



読んで下さり、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 承諾したもしくは神を介さず人間が人間を召喚したんならともかく1ミリでも神が介入したんなら呼び捨てでもいいと思うけどね。承諾無しに拉致したことには変わりないし。
2022/01/13 19:47 退会済み
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