1話
2030年、日本。
ゲーム業界の進化は進み続け、遂に。
ダイブ型VRMMOというゲームジャンルが確立された。
しかし、そこまでの道のりは険しく。
ダイブ型と呼ばれる仮想空間接続への恐怖。
設置するための機材が高価で機材自体が大型と、一般庶民には手が届かない、
一部の富裕層のみの遊びと化していた。
しかし、2042年。
「瀬名テクノロジー株式会社」が開発した、
ヘルメット型のダイブ用VR機材がそれを一変させた。
10万前後という、前までの機材の20分の1以下で済む費用。
そして、設置スペースが必要なく、
ヘルメットさえあればどこでもダイブが出来る。
一般庶民でも十分に買える値段と、
その携帯性の良さがダイブ型VRMMOという一つのジャンルを
組み上げる起爆剤となり、ユーザーと接続人数の爆発的増加につながった。
そして2063年。
ダイブ型VRMMOの市場はゲームジャンル部門では1位となる。
しかし、その裏では様々なサービスが始まり、そして終わっていた。
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ダイブ型VRMMORPG エンドレスオブサーガ〈endless of saga〉。
開始18年経つ、最長寿のVRMMORPGだ。
通称EOS、エンサーとも呼ばれる。
俺、東谷 相馬は40歳になる平社員。
職業は会社員・・・まあ、良くあるサラリーマンだ。
技術職一辺倒でずっと働いている社畜でもある。
22歳から始めたEOSも今日で18年目に突入する。
事前登録の頃から考えると、それ以上関わっていることになるが。
飽きないかと言われれば・・・まあ、飽きも来ている。
ただ、惰性的にいつもやってしまう・・・そんな状況だ。
仕事から帰り、1Kの寮に帰る。
・・・今日もEOSの中へ入ろう。
そう思い、仕事で疲れた体を引きずり、ヘルメットを取り出す。
今は、20時・・・3時間くらいしたら落ちるか。
後は風呂に入って、寝るだけの時間はあるだろう。
ヘルメットを被り、今日もEOSの中へ入る。
仮想空間とはいえ、精神的な疲れは取れない。
・・・今日も仕事でへまをしたこともあり、落ち込み気味でダイブしていた。
「認証コードARS-1889・・・本人と確認します」
ヘルメットから流れる機械音声が耳に響く。
目の前に光が広がり、意識がふわり・・・と一瞬浮く感覚がする。
そして、目を開けられない程の光が眼を直撃する。
・・・眩しさのあまり、目を閉じる。
「ようこそ、エンドレスオブサーガへ」
次に目を開けた時には・・・目の前には草原が広がっていた。
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身体を動かす。
今日も、遜色なく動く。
・・・ネットの回線不具合によっては、違和感もあるのだが。
今日はその様子はなさそうだ。
「えーと・・・昨日はアボ平原で、
蛇の目集めをしてたんだっけな」
・・・周りを見渡すが、ほかのプレイヤーはいなそうだ。
まあ、夜中だし・・・こんな経験値もうまくない辺境には来ないだろう。
コンソールで蛇の目の数を確認する。
「23個?」
意外に集めてたな・・・。
意識が無くなる寸前まで集めていたので量を確認していなかった。
頼まれた分は10個・・・2倍以上の量だ。
まあ、これでギルドメンバーの手伝いは終わりだ。
早速持って帰ろう。
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俺は、ギルド「地獄の炎」の一員だ。
このヘルフレイム自体は、既に設立されて15年経つギルドになる。
創立した時は俺、『トーマ』、初代ギルド長『宵闇markⅡ』、
そして資金面で活躍した、『黄金色のG』の3人だった。
そこから5年でヘルフレイムは200人近い大規模ギルドになる。
だが、そこから更に5年で、ギルド長『宵闇markⅡ』が引退。
更に、資金面とギルドのマナーを守り続けた『黄金色のG』がアカウント停止を食らう。
後にアカウント停止は解除されたが、その時の影響で、彼も引退してしまった。
つまり、初期メンバーは俺だけ。
何度もギルド長に推薦されたが、結成当時の約束を守り、俺は端役を務め続けた。
ギルドでの俺の役割は、タンク。
その中でも限定職である「竜騎士」の職業だ。
この竜騎士、くせ者の役職で・・・
期間限定ミッションをすべてこなした者のみが、この職業に就くことができる。
「戦乙女の悲劇」という10年前の大規模ミッション。
「戦乙女の帰還」という5年前の大規模ミッション。
そして、「竜神への挑戦」をクリアしたもののみに授けられる職業だ。
つまり、新規ユーザーは取れない役職で・・・。
古参ユーザーへの運営側のサービス、という形の強い職業になる。
まあ、本来は用意されていなかった職業らしく、後付け感は満載だったが。
・・・まあ、そんなこともあってか。
この職業の人物は非常に珍しい。
職業ランキングで0.2パーセント以下、なんて言われているくらいだ。
それに、この職業。
苦労の割りに・・・という職業だ。
限定という割には、際立って優れているわけでもない。
純粋タンクなら、「聖騎士」で十分代用できるし、
攻撃型タンクでも「重装甲騎士」で同じようなことができる。
そして、この職業のスキル『竜騎士Lv10』が死にスキルだというのが一番だろう。
騎乗できるドラゴンが未実装、実装予定も不明だからだ。
まあ・・・気長に待つさ、それには慣れてる。
ただし、補足しておくが・・・決して弱い職ではない。
むしろ、総合能力では全職業中トップだし、
最大レベル250ともなると6つあるステータスの内、3つがカンストする。
自分のステータスはこうだ。
Name トーマ
職業 竜騎士
Lv 250
HP 50000
MP 12500
筋力 999
防御 999
魔力 499
魔防 999
技量 760
敏捷 760
スキル、パッシブスキル両方とも、ほぼ全てが攻撃型タンクとしてのもの。
後は・・・まあ、趣味で取ったクラフト系が少し・・・レベルカンストで余った分だ。
早く、竜騎士Lv10が生きる時代が来るといいんだが・・・。
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ギルド、ヘルフレイムの拠点は、中央街リスポーン地点から少し歩いた場所。
帰還の球を使い、一気にギルド拠点の前まで戻った。
そこは路地裏チックな場所で、周りも閑散としている。
夜だし、この付近は元々人が少ない。
ドアを開けると、ギルメンかどうか調べるスキャンが入る。
「ヨウコソ、とーまサン」
出迎えてくれるNPCゴーレムに声を掛けられる。
「ああ・・・」
それを横目で過ぎ去り、メンバーを探す。
最盛期には230人いたヘルフレイムも・・・。
今じゃ、70人足らず。
しかも、ノーマナーな奴らが増えて、
ノーマナーギルドとして運営から目を付けられている。
この状態『宵闇markⅡ』さんに見られたら、嘆かれるだろう。
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俺が取ってきたものが必要な奴がまだ来ない。
ログインはしているようで、フレンドメンバーにはいる場所が記載されている。
「待つか」
椅子に座り、待つことにする。
・・・レベルがカンストしていることもあり、することは殆どない。
今じゃ・・・ノーマナーの奴らを説教するくらいのものだ。
そのたびに「うるせえ、おっさんが」なんてよく言われるが。
・・・それも、彼らとのコミュニケーションの一つだろうと。
年長者として大目に見ていた。
おっさん・・・か。
椅子の近くの鏡を見る。
白銀の重装鎧と黒いマント。
背中には大型の槍を背負っている自分の姿が見える。
兜を外し、アバターを見る。
少しくたびれた様子のおっさん顔がこちらを見ていた。
「老けたな」
仕事疲れも重なって、余計にそう見える。
眠くもなってきた。
・・・少し寝て待つとするか。
まだ、来そうにないしな・・・。
読んで下さり、ありがとうございます。