8 ヤバい薬草持ってます
ひぃちゃんから指輪を外し、自分の指にはめる。
小指、ぴったり。薬指、ぴったり。中指、ぴったり。人差し指、ぴったり。親指、ぴったり?
ええ、どゆこと?
人差し指、中指、薬指はまあ、ぴったりっていうかはまってもいいけど、小指と親指はおかしいでしょ!
それとも、何か? 私の指は、全部同じ太さとでも言いたいのかね!
んな訳、あるかー!
なんで、フルサイズ対応になってんよ…普通の指輪だったのに…
「ま、いいや」
考えたって解らないことは、考えない!
私はひぃちゃんの足にさくっと指輪をはめた。
次にふぅちゃん。ふぅちゃんはひぃちゃんが羨ましかったのか、食い気味に出てきた。
ふぅちゃんも左前足の二本目を挙げた。この足にも指輪をはめる。そして喜びの踊りを踊った後、肩掛け鞄に戻った。
「従魔の印はこれでよし、っと…どうしたの?」
ひぃちゃんから視線をウィリアムたちに戻すと四人は遠くを見つめていた。
「そんな高そうな指輪を従魔の印にするなんて…」
「しかも魔法アイテム…」
高そう?
実はそんなにしないよ。ネットで買ったんだ。だから、石が本当に宝石なのかも定かじゃない。
魔法アイテムっていうのは否定できない。全サイズ対応の時点で魔法だよね。効力は判らないんだけども。
ただ、セブンストーンのカラーバランスがいいからかなり気に入っている。
そう言うと、ウィリアムが力なく首を振った。
「七つ色を揃えるのも難しいだろう?」
「そうかな?」
「七色って何か意味があるの?」
首を傾げる私にジュエルが聞いてくる。
「意味って…虹の色だからじゃない?」
「虹って四色だろ」
「えっ、四色?」
コークスが何を言ってるんだって顔をした。
隣でフィッツも頷いた。
「赤黄緑青の四色」
「へえ」
そう言えば、国によって虹の色の数が違うって聞いたことあるなあ。
「リムの所は七色って言うが、どういう色なんだ?」
「えっとね。赤橙黄緑青藍紫、だよ」
「せ、せきとー?」
「せきとうおうりょくせいらんし。覚え方だよ。色で言うと、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫」
「すげー細かいのな」
「そうかな。子供頃からそう覚えてきたから、普通としか言えないよ」
「虹って、そんなに細かい色があるのね。今度見てみよう」
「…ところで、冒険者の資格に期限があるって?」
話に区切りが付いたので話題を変えてみる。これは気になったことでもある。
「あるよ。駆け出しは一ヶ月依頼をクリアして更新しなかったら、登録消される」
「ランクが上がると更新期間も伸びるわよ」
「Aランクとかだと、一年だよな」
「Cから一年だ」
「一年? なんで?」
一ヶ月と一年じゃ随分違うよね。
「遠方への討伐依頼をこなすと、移動やら何やらで一年くらいは見てもらるんだよ」
なるほど。
大物討伐なら、準備だけで時間かかかるしね。怪我でもしたら余計に。
「私は月一回の更新かあ。面倒くさいなあ。でも討伐とかはできないしねえ」
「軍曹がいるだろ?」
「軍曹にそんなこと何度も頼みたくないよ」
アシダカ軍曹は好意もしくは気紛れで私を助けてくれているだけ。いくら私だって、それくらいは解る。アシダカ軍曹の好意を履き違えたくない。
大体、アシダカ軍曹も三等兵たちも従魔じゃないんだから。
危ないことは頼みたくない。
まあ、大抵の場合、アシダカ軍曹が勝つとは思うんだけどねー。
「討伐外すと、採取メインか…薬草採取は手間の割りに儲けもポイントも少ないんだよなー」
コークスがぼやく。
「そうだな…一般的な傷薬や毒消し用の薬草は、安いからな」
ウィリアムも呟く。
うーん。
手間の割りに実入りが少ないのかあ。
薬草はそんなに大変なのか。
「あ、そう言えば」
薬草で思い出したよ。
なんかよく解らない草、私持ってる。
森を歩いてると、アシダカ軍曹がしきりと採るように勧めてきたんだよね。
だから、採ったんだけど。
「なんか、薬草みたいの持ってるけど」
薬草の束を取り出す。表は黄緑色だけど裏は真紫なエグいやつ。スーパーに売ってるほうれん草の束みたいにまとめたんだ。
まとめるのには、アシダカ軍曹の糸を使った。
空間収納は時間停止だから、今でも瑞々しい…真紫…。
「ミズル草…」
「常識って一体…」
「俺はもう突っ込まない!」
「そうか、ミズル草か…」
テーブルの上に一束置いたら、コークスとジュエルは頭を抱え、フィッツとウィリアムは遠い目をした。
「え、もしかしたら珍しい?」
「珍しいなんてもんじゃないよ。こんな束になったの初めて見た」
「リム、ギルドに納めるのはミズル草で充分だが、半分に減らしておこう」
「…うん、わかった」
ウィリアムに言われるままに、束を二つに分け、糸でくくる。
「これ…迷いの森にあったのよね?」
「うん、軍曹が採れってアピール凄かったから、採っておいた。あと、五束あるよ」
「今、出すなよ。絶対に出すなよ」
凄い形相で、フィッツが念押ししてきた。
私は素直に頷くしかない。
まとめて出したら、相当ヤバいものらしい。
「ミズル草は上級ポーションの材料だからな」
「ほぉー」
上級ポーションってなに?
「あと、もっと変な草あるよ」
一旦、ミズル草の束を仕舞い、今度は枯れてないのに葉っぱが灰色の草の束を出す。
「ガラテア草…」
「もうやだ…」
四人は揃って両手で顔を覆った。見たくない、と言う意思表示のような気がして、私はガラテア草を慌てて仕舞う。
「リム…それはもう、出しちゃダメ」
「う、うん…で、これどういう草?」
一応、どんな草かは知っておかないとね。
「ガラテア草は、状態異常、特に石化を解くんだ。調合が大変らしいが、調合以前にガラテア草がなかなか入手できない。と言われている」
「へぇ…」
「それも、迷いの森に?」
「うん、軍曹が…」
採れっていうから、採っておいた。
「迷いの森…ハンパないな…」
コークスが深々とため息をついた。
「生きて出られれば、大儲け、かあ」
「歩の悪い賭けだな。ダンジョンどころじゃない」
コークスが見かけた夢を、ウィリアムが冷静に叩き潰した。
まあ、確かにね。
アシダカ軍曹が主っていうだけで、ヤバいよね。
デカイ猪や狼なんか、さくっと瞬殺だもん。
そんなデカイ猪や狼が突然襲ってくるし。
「薬草は新鮮さも問われるしね。私たちじゃ無理よ」
「わかってるって」
迷い込んで、一週間もさ迷うようでは、薬草を新鮮なまま保つのも難しいようだ。
迷いの森は、いろいろ危ない場所らしい。
私はそんなところで暮らしてたんだけどね。
改めて、迷いの森のヤバさを確かめたところで、お開きになった。
私とジュエルは部屋に戻る。
ベッドに腰掛け、肩掛け鞄を置くと、ひぃちゃんとふぅちゃんが這い出してきた。
「ひぃちゃん、ふぅちゃんクッキー食べる?」
ひぃちゃんたちはご飯食べてないしね。
例によってセカンドバッグに入れっ放しだったおからクッキーのチーズケーキ味を取り出す。
小腹が空いた時用に入れておいたんだよね。
それを一つずつひぃちゃんたちにあげた。
ひぃちゃんとふぅちゃんは、大喜びのダンスを踊りながらクッキー食べた。アシダカ軍曹もだけど、甘いもの好きだよね。
「それ、焼き菓子?」
「クッキーだよ、食べる?」
ジュエルが覗き込んできたから、おからクッキーをひとつあげた。
ジュエルは迷うことなく、クッキーを口に放り込む。そして、目を丸くした。
「美味しい! 不思議な味と香りがするけど、すごく美味しい」
「でしょー」
このおからクッキーシリーズ、割りと好きなんだ。しっとりタイプでさ。
他にメイプル味チョコチップとか熟成バター何かも美味しいんだよね。しかも、結構お腹に溜まる。空腹を凌ぐには丁度良い。
「リムはこんなに美味しいもの持ってるなんて不思議ね」
「でも、日常生活に必要なものはいろいろ足りないんだけど」
着替えとかさ、鍋とかさ、包丁とかさ。
さすがに、持ち歩かないもんね。
「ん、ひぃちゃんどこか行くの?」
ひぃちゃんは前足を上げると窓から外に出て行った。
残ったふぅちゃんは壁を上り天井の隅に移動した。
「ふぅちゃん、そこでいいの?」
ふぅちゃんも前足を上げる。
今夜はあそこで眠るのかな。
ふぅちゃんがいいなら、私がなにかを言うことじゃないけど。
「ひぃちゃんは、町を見に行ったのかもね」
「なるほど、森とは違うもんね。いろいろ確認しておきたいよね」
縄張り把握か。
さすがだ、アシダカ三等兵。
「とりあえず、明日はお店巡りをよろしくね」
「うん、任せて」
ジュエルが強く頷く。その様子を頼もしく思いながら、その日は寝た
久しぶりのベッドは、横になった瞬間爆睡するほどだった。
ベッド、買いたいなあ。なんてことを寝ながらぼんやり考えてた。
朝になると、ひぃちゃんとふぅちゃんはいつの間に交替していた。
「ひぃちゃん、おはよう。ふぅちゃんは町を見に行ったの?」
声をかけると、ひぃちゃんは天井から降りてきた。
まあ、ふぅちゃんだって縄張りの把握はしたいよね。
「危ないことはしたらダメだよー」
一応念のために言うと、ひぃちゃんはわかってるーと前足を揚げた。
回復薬とポーションの違いは、痛み止めとロキ○ニンの違いくらいのイメージです。