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3-6 おちおち寝てもいられない


 なんだか、林間学校や修学旅行の前日みたいに私たちは浮かれていた。


 皆でお出かけというのは初めてだからね。

 お弁当は朝イチで作ろうと、下ごしらえも済んでいる。


 久しぶりにちょっとわくわくした気持ちで早めに就寝したのだ。


 そんな真夜中。

 私は左手に走る激痛で目が覚めた。


「いたーっ!」


 飛び起きて見れば、何故かふぅちゃんが左手に噛み付いている。とりあえず本気噛みではなさそうだけど、痛いものは痛い。


「え、え? ふぅちゃん…どーしたの?」


 一体、なにごと?

 何で、ふぅちゃんが噛み付いているの?


「リム、どうした?」


 私の悲鳴にラルガが飛び起き、ラトリとフォリも目を擦りながら身を起こす。


「もー、なんだよー」

「なにー?」


 この中でセトはまだ眠っていた。


「いや…ふぅちゃんがね…」


 話し始めた瞬間、ぞぞぞーっと鳥肌が立った。 ちょ、なんなのコレ。


「! 来たかっ!」


 ラルガがベッドから飛び降りる。


「思っていたより早い!」


 これってもしや、敵襲?


 早い、早過ぎるよ。

 でも、これって…


「なんか結界張られた。早く避難しないとっ!」


 このぞわぞわはその違和感だ。

 結界の中に結界を張るなんて、予想以上にあちらの魔力がヤバい。


「行くぞ、ラトリ、フォリ!」

「わかった」

「うん」


 ラルガはまだ寝ているセトを抱え上げ、部屋から飛び出す。ラトリたちが後に続いたのを横目に、私はベッドや戸棚を収納し、代わりに人形を取り出した。


 まさか、これを出す日が来るなんて。


 見た目はずんぐりした人形は、大体四頭身くらいだけど、大きさは人間大だ。一応服も着ている。

 頭と胴体と手と足、造りは単純だけど、本物の肉と骨を使っている。

 勿論、魔物たちのね。


 あくまでもダミーっていうかデコイ?

 森とかに逃げた時に、これを仕掛けて少しでも誤魔化そうと思ったんだよね。

 逃げる時に、これを森に捨てるでしょ。すると魔物だか獣だかが人形を食べるでしょ。

 で、肉の欠片とか骨の欠片とか服の切れ端とかが残れば、それを見た人は『ああ、魔物に殺られたな』って思うじゃない?


 きっと検死も検証も科学捜査もないこの世界では、それ以上調べることはないだろう。魔物に食べられないとしても、穴に半分埋めるとか、崖の下に落としておくとか、誤魔化し方はいろいろあるよね。

 で、私たちは森で死んだんだな、って結論に落ち着くかなって。


 そんなつもりの人形だったんだけどなあ。


「あっつっ!」


 うわ、火の魔法ぶっ込んできた!


 結界で封鎖した空間に、火の魔法。もう、全員焼き払う気満々だね。

 これだと、焼けて消し炭になった人形は良い仕事をしそうだ。


 私も炎に巻かれる前に、なんとか地下のシェルターに飛び込んだ。


「熱っ、熱っ!」

「リム!」


 シェルターに飛び込んだ私に、ようやく目を覚ましたらしいセトが抱き着く。


「痛たたたっ」

「リム、火傷してる」


 火の中を移動したから、さすがに火傷は免れなかった。


 体のあちこちに負った火傷に、フォリが回復薬をかける。残念ながら全快はしなかった。私の作った回復薬じゃあねぇ。

 魔力を悟られないために、回復魔法を使えないのはつらいけど、ここは我慢するしかない。


 ラルガとラトリが警戒する中で、私たちは身を寄せあってひたすら息を潜めていた。


 何時間経っただろう。

 夜は明けたのかな。


 時間経過も解らないまま、まんじりともしないでいると、壁をがりがりて破ってふぅちゃんがシェルターに入ってきた。


「え、ふぅちゃん?」


 今の今まで、ふぅちゃんがシェルターの中にいなかったことに気付かなかったよ。

 ふぅちゃん、外にいたの?

 危ないじゃん!


「どうやら、もう大丈夫のようだな」

「んん?」


 ラルガの言葉に私は首を傾げた。


「誰もいなくなったから、ふぅちゃんは入って来たんだろ」

「あ、そういうこと」


 そうか、ふぅちゃんとひぃちゃんはもしかして周囲を見張っていてくれたのかな。ひぃちゃん、最近夜はうちに居なかったもんね。


 シェルターに避難したら、外の様子は誰かが教えてくれるまで解らないから、ひぃちゃんたちのどちらかが教えてくれるまで身動き取れないもんね。

 そんなことまで詰めてなかったよ。反省。


 ひぃちゃんたちの方がよほどいろいろ考えてる。っていうか、私が考えなさ過ぎ?


「よし、上に行くぞ。俺が先頭、次がセト、フォリ、リム、殿がラトリだ」

「了解」


 私とセトが中間なのは、非戦闘員だからだね。特に、私が。


 シェルターを出て階段を上ればじわじわ熱い。まだ火魔法の熱が残っているんだろう。


「ちょっと待って、靴履くから」


 裸足でシェルターに駆け込んだからね。

 ちなみに、寝間着のままだし。着替えはあと。でも靴はさき。


 全員の靴を収納から取り出して履く。

 地上に出て、靴を履いていて良かったと実感した。


 焼け落ちたあちこちで、日差しを受けて燻った煙が空に上って行くのが見える。とっくに夜は明けていた。

 それにしてもあんな燻っているところ、うっかり裸足で歩いたら大火傷だったよ。

 想像するのも怖いよ。


「俺の足跡に続いて歩くんだぞ。リムは爪先歩きな」

「つまさき」


 いきなり、難しいことを要求された。

 なんで? って思ったけど、歩きだしたラルガを見たら意味はすぐにわかった。


 ラルガは大変器用に足跡の残りにくい場所を選んで歩いていく。

 よく見ても足跡があるのかどうか、私には見分けられないくらいだ。

 フォリは容易くラルガの足跡の上を歩く。

 全員がこれをやったら、この見分けにくい足跡は一つしか残らない。もし誰かが気付いても、生き残りが何人かまでは解らないだろう。


 私だけが爪先歩きなのは、フォリたちほど上手く歩けないから。

 だって、フォリは普通に歩いているのに、ラルガの足跡に影響ないんだよ。

 一体、どーゆー体重移動なの?


 はっ、集中しないと転びそう。爪先歩きは難しい。

 こちらの靴だと、大変難しい。

 ふらふらしそうなのを、フォリとセトにフォローしてもらいながら家だった場所から離れて森に向かう。


 森の入り口にはひぃちゃんとアルが待っていた。

 その奥にいるのはアシダカ軍曹だ。


 お、怒っている…怖い、圧が圧が、重いっていうか痛い。


「軍曹…」


 アシダカ軍曹の圧にラルガたちは動けない。

 このままだと暴走してしまいそうだ。

 私はアシダカ軍曹に駆け寄った。


「軍曹! 堪えてくれてありがとう!」


 前足に抱きついてお礼を言う。

 アシダカ軍曹はまだ怒りが収まらないようだけど続ける。


「あの人たちは放っておけばいいよ。関わり合ったらもっと面倒なことになったもん。本当に我慢してくれてありがとう」


 重ねてお礼を言えば、アシダカ軍曹の怒りが少しずつ収まっていく。

 そのあとしばらく『ありがとう』を言い続け、ようやくいつも状態に戻ったところで、息をつく私の後ろでラルガたちがへたり込んだ。


「こ、怖かったぁ」


 セトは涙目だ。

 ラルガたちの顔色も悪い。

 確かに、静かに激怒するアシダカ軍曹は怖かった。さすがに私も怖かった。


 本気であの二人殺りに行ったら、もう私は止めることが出来ないだろうね。

 落ち着いてくれて、本っ当に良かった。


「とりあえず、隠れ家に移動しようか」


 いつまでもここに座り込んでる訳にもいかないしね。


 皆がのろのろと立ち上がると、アシダカ軍曹がぽいぽいと私とセトを背中に乗せた。

 うん、安定の戦力外通告。


「よし、じゃあ行くか」

「わかった」

「うん」


 ラルガの号令の後に、私たちは隠れ家へと向かった。


 隠れ家に着くと、収納からベッドを取り出して置く。

 パーティション代わりに伸ばした紐に布を垂らせば、洞窟の中でも一気に部屋っぽくなった。

 ベッドは全員分を置くことはできなかった。ちょっと広さが足りなかったね。

 特注したベッド、いつになったら並べられるのかなあ。


「改築の相談、するはずだったのにね」

「今度、ウィリアムたちが来たら話をするんだったか」

「そうそう、皆の部屋を作るつもりだったんだよ」


 賃貸契約は無事に満期を迎えるはずだった。

 だから、次にクレアが来たら改築について相談するはずだった。

 木材は調達できるけど、職人さんは紹介してもらいたいし、必要なのは木材だけじゃないし。


「あれだけ焼けちゃったら、もうどうにもならないよね」

「どっちにしても、戻らないんだろ?」

「戻れないでしょ、ヤバ過ぎて」


 はあ。


 私たちは揃って盛大なため息をついた。


「畑のお芋、もうすぐ収穫できたのに…」


 セトも悲しそうだ。

 畑、大切にしてたもんね。

 いくら大切にしていても、失うのは一瞬なんだ。悲しいね。


「…とりあえず、ウィリアムたちに手紙を書くよ。このまま黙っていなくなったら心配するもんね」


 私たちはこのままどこかに行っても何の問題もない。

 けど、ウィリアムたちはそうも行かないだろう。

 あの焼け落ちた家の残骸を見たら、何者かに襲撃されたことは解るはずだ。

 それだって異常事態だけど、アシダカ軍曹の動向にも気を向けなくちゃいけない。

 主にアシダカ軍曹の報復というか、暴走のあたり?

 考えるだけでも、気が休まる暇がないんじゃないかな。サブマスに至っては胃に穴が空くかもしれない。


 書いた手紙はひぃちゃんたちに頼むとして。


「そうだ。ラルガって彫刻は得意?」

「得意ってもんでもないが、まあそこそこだな」

 曖昧な返事だけど、私よりはマシでしょう。

 私はスマホを取り出して画像を探す。

 確か、キャラメール残してあったはずなんだ。

 あった、これこれ。


「これ彫ってくれない? 大きさはこれくらい」


 手で十センチくらいを示して画像をラルガに見せる。

 ラルガは不思議そうにスマホを覗き込んだ。


「うお、すげぇな。これ絵か? …で、これなんだ? ケットシーか?」

「ケットシー…まあ、そんなようなもの、かな」


 同じようなものかな。これも猫的なものだし、喋るし、何なら服着てるし。

 日本人なら知らない人はいないし。世界的にも有名だし。


「平たくじゃなくて、立体で彫ってね。でもって、中をくり貫いておいて」

「おう、わかった」


 ラルガは彫るための木切れを探しに行った。


「じゃあ、手紙書こうかな」

「リム! その前に火傷の薬!」

「あ、そうだった」


 いろいろあって忘れてたよ。


 うわ、思い出したら痛くなってきた。


「わ、なんか痛くなってきた…痛たたた」

「リム〜」


 セトが慌てて、回復薬を持ってくる。


 私が飲む間に、フォリとセト二人がかりで火傷の手当てをされた。


 火傷って、本当あとから痛いの来るよね。




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