2-18 フィーフィーと一緒
町から帰って、一ヶ月しか経っていないのに、ウィリアムたちの馬車が来た。
「早くねぇ?」
「だよね。この間一杯買ったから、全然余裕なのにね」
馬車の音を聞き付けたラルガが教えてくれるから、到着する前に来るのは判るんだけど、予定より一ヶ月も早い意味は判らない。
「なんだろうね?」
ラルガの耳に依ると、いつもの馬車に間違いはないので外に出てみる。
しばらくすると、見慣れた馬車が森を抜けて来た。
「やっぱり、ウィリアムたちだわ」
馭者はコークスだ。コークスがいるんだから、ウィリアムたちがいるのは当然。
「コークス、どうしたの?」
「ん、まー。俺らの用事ちょっと違うんだ」
「へえ?」
いつも通り、馬車を庭先に停めるとウィリアムたちが出てきた。
うちの方もみんな揃っている。フィーフィーまで出て来ていた。珍しい。
フィーフィーはなんかそわそわしている。
ウィリアムたちの次にブライスとクレアが降りてくる。
いつもならこれで終わりなんだけど、今日はまだ一人いた。
最後に馬車から降りてきたのは、小柄な男の人。身長は百三十くらい。顔、体つきから子供ではない。
小人まではいかないけど、小柄。
顔見る限り、年齢は二十歳は越えていそうだ。
「え、誰?」
「彼は…」
「フィーフィー!」
馬車から飛び降りるなり、フィーフィーに突進しようとするのを、なんとかブライスが止める。
「ちょ、駄目っすよ、オリオさんっ! フィーフィーは今、リムの従魔っす」
「オリオ?」
オリオと言えば、フィーフィーの前の主だ。
フィーフィーはオリオと私を交互に見る。
オリオの所に行きたいけど、私の手前我慢している感じ。
「で、オリオが何しに来たんだ?」
ラルガが不思議そうにオリオを見ている。
警戒はしていない。殺気とかないからね。
「オレ、金を作って来たんだ!」
「お金?」
えっと、意味がわかんない。
「あいつらにフィーフィーを取られた時、どうしたら返してもらえるか考えて…普通に話しただけじゃ無理だと思ったから、金が有れば返してくれるかも知れないって」
言いながら、オリオはぼろぼろの革の財布を取り出した。
よく見れば、オリオ本人も服もぼろぼろだ。
なんか、すごい無理してお金を稼ぎに行ったみたい。
そっかあ。自暴自棄になるんじゃなくて、取り返すためにお金を稼ぎに行ってたのかあ。
良かった。フィーフィーを見捨てた訳じゃなかったんだね。
「それで、テテルに戻ったら、あいつらは捕まっていて、フィーフィーは保護されたって…オレ、居ても立ってもいられなくて、独りで来ようと思ったんだ」
「さすがに独りでここに行かせる訳にはいかないからな」
「サブマスに話しましたら、特別に馬車を出すことになりまして…あ、これサブマスから預かってます」
クレアから、羊皮紙の束を渡された。
ああ、これ。サブマスに渡した薬のレポートだ。
これを渡すためっていうより、追加を寄越せってことなんじゃないかなあ。
とりあえず、レポートは仕舞って、フィーフィーの話をしよう。
「えーと。今回はフィーフィーを返す。でいいのかな?」
「はい。必要な書類は用意しましたから、譲渡の手続きはこちらどできます」
さすが、用意がいいね。でなければ、クレアたちが着いてくる意味がないよね。
「フィーフィーを返してくれるのか?」
「いいよ。フィーフィーの為に頑張ったんでしょ」
「ありがとうっ!」
オリオから、財布をまるごと渡される。
受け取るのを躊躇っていたら。
「もらっておけばいい。オリオの心意気だ」
「金銭のやり取りは、記録に残しておいた方がいいっすよ」
そういうものなの?
「ここははっきりさせておいた方が良いと思います」
「…わかった。これもらっておく。じゃあ、フィーフィーの手続きしようか」
クレアがいるから手続きは簡単だ。
事前に用意された書類を確認して、にオリオと私がサインをする。
これでおしまい。
特別な書類なので魔法的な何かで、物理的にフィーフィーの譲渡が成立した。
「フィーフィー!」
オリオが感極まって呼ぶと、フィーフィーはオリオの腕に飛び込んだ。
そのまま、巨体を絡ませていく。
なんだろう。
感動的な場面なのに、子供が蛇に絞め殺されているように見えてハラハラする。
「ヨカッタネー」
若干引き気味なのは、私だけではなかった。
「ネフライトスネーク、怖えぇ…」
ラトリが半歩あとじさる間に、セトは五歩くらい後ろにいた。
「ま、フィーフィーが元の主の所に戻れたお祝いをしようか」
「賛成!」
両手を挙げて喜んでいるのは、コークスたちだ。
多分、料理を期待しているんだろうね。
「何を作ろうか」
「唐揚げ! 俺、唐揚げがいい!」
ものすごい勢いでフィッツが手を挙げてリクエストを出した。
食べ物の話になると、フィッツは人が変わるよね。
「わかった、唐揚げにしようか」
全員の分だと、かなりの量になるね。
「フォリ、ジュエル手伝ってくれる?」
「私も手伝いますよ」
「あ、助かるー」
フォリとジュエルの後にクレアがついてきたので、そのまま台所へと進む。
「みんなは適当に待ってて」
「わかった、設営の準備をしておこう」
さすが、ウィリアム。言わなくても動いてくれる。
「よろしくー」
その日、唐揚げは優に二十人前くらい作った。
美味しいかったけど。
なんか、しばらく揚げ物やりたくない。
2章これにて完結。
閑話を一つ入れたら、3章です。




