2-12 ルール違反
話が終わったので、兼ねてよりの買い物に行くことにする。
「行くならまず、家具屋じゃない?」
「家具屋?」
「ベッドとか、注文するなら早い方がいーんじゃないかなあ」
「数もあるしね」
「なるほど」
そうだね、予約注文しないと。今日行ってすぐ買えるなんて、そうそう何回もあることじゃないし。
「マイクおじさんのとこに行こう。で、家具屋さんに注文したらよいならそうする」
「それでいいんじゃないか」
ウィリアムが頷いた。どうやらウィリアムも付いてくるらしい。
相変わらず、フルメンバーでの移動なのね。いいけど。
「おじさん、久しぶりー」
「おう、嬢ちゃん、久しぶりだな。元気だったか」
木工職人のマイクがからから笑う。
「元気、元気ー。おじさんも元気そうだね」
「おう、職人は体が基本だからな。で、今日は何の用だ? 風呂桶か? ベッドか?」
買ったのはこの二つだからか、ピンポイントで出てくる。
「うん、ベッド。同居人が増えてさ。四つくらい欲しいんだよね」
「四台? すぐにはできないぞ」
「うん、それはわかってる。予約したいんだけど、家具屋さんに行った方がいい?」
「まあ、うちでもいいけどな」
「じゃあ、よろしく。それとは別に簀みたいなのある?」
「簀?」
「んとね、こう板をこう留めたようなやつ」
ざら板と、小学校では言ったような。
「こんなの何すんだ?」
「足を別に作って、上手いこと乗せたら、簡易ベッドにならないかな?」
「え、どういうこった?」
やっぱり、説明だけじゃわからないよね。
その辺りに転がってる木切れを広い、簡単に組み立てて見せる。
「だからね。足がこんな感じで四つ…八つあるとして、この上に板を乗せたらそこそこの台になるでしょ?」
一番、イメージしやすいのはキャンプ用の簡易テーブル。設置した足の上に天板を置く。
それを簀にしたら風通しもよいだろうい。足のを八つにすれば、あまりガタつかないだろう。
「ほお、相変わらず変なこと考えるな」
「そう? でもベッドよりは簡単でしょ。足はこんなふうにクロスできると良いかな」
「ふーん。この足をベッドの高さにすればいいか。まあ、できなくもないな。これなら若いもんにやらせればいいしな」
「設置して、寝転がっても大丈夫な感じに丈夫ならいいよ」
多分、そんなに難しくはないと思うんだよね。
「これも四台分か?」
「うん」
「どうだろうな、あいつらにやらせて板はあの辺の使えば、二日ってところだな」
「わかった、よろしく。これ前金ね。ベッドも含めて足りない分はまた請求して」
「おう。お前ら、仕事だぞ」
「へぇい」
風呂桶の信用があるので、全部任せてしまう。
若手を使うとしても、きっと良いものを作ってくれるはず。
「じゃあ、次は着替えかな」
「そうね」
「ラトリたちは、すぐに成長するだろうから、その辺りを見越しておかないとな」
「ラルガくらいにはなるかな?」
「セトは、もうちょい小さいんじゃね?」
「フォリも、ラルガほどではないけど、成長するはずだから」
ジュエルに連れてきてもらった古着屋で、私たちはあーでもないこーでもないと、古着を物色している。
ラルガも含めて、メンズはウィリアムたちに丸投げる。
私とジュエルはフォリと、私の追加分を選ぶ。
靴も手に入れれば、ひと安心だ。
「ありがとー。助かったよ。男の子の服なんてわかんないし」
まあ、こちらの世界の服は女の子のだってよくわかんないけど。
「じゃあ次は市場か」
「そうだね、野菜をまとめて買って残りは明日にしよう」
「いつも買ってるところでいいわよね?」
「うん、問題ないよ」
ウィリアムたちがいつも運んで来てくれる野菜は、同じ農家から買っているらしい。
「あ、でも、今日買う予定の日じゃないから、数があるかな?」
「なかったら、他からも買えばいいよ。別の農家だと、野菜の味も違うかな?」
「違うかもなー」
「この辺りは大体、同じだと思うけど」
「かもねー」
土地や水が同じなら、あまり味に違いはないかもしれない。
試しに食べ比べてみるのはいいよね。
昼を過ぎた市場は、賑やかだけど、朝よりは人が少ない。
午前中に売り切ろうとするところもあるらしいし。
午後は、お値打ち品は少ないんだろうなあ。
夕方間近になると、逆に見切り品が出てくるだろうけど、質と数が揃わないだろうしね。
今だと、在庫もまだまだあるようで、ウィリアムたち行き付けのところはやっぱり、数を揃えられなかったけど、他で充分補えた。
前に来た時とは違う品揃えに、ワクワクキョロキョロしながら市場を進む。季節が変われば、品物も変わって当然だよね。
日本のスーパーは、季節関係なく並んでるけど。
「あ、さくらんぼ?」
一つの露天に篭盛りされた赤い実に駆け寄る。さくらんぼみたいだけど、まん丸じゃなくて楕円。
ああ、ぐみだこれ。へえ、ぐみってこんな形なんだ。
味見させてもらったら、甘酸っぱくて美味しかったので、一篭買うことにした。
野菜だけじゃなく、果物もいろいろ見たいね。
なんて感じでふらふらしていたものだから、私はウィリアムたちとはぐれてしまった。
好奇心で爆走したら駄目よねー。子供かっ。っていうか、迷子ってこうやって出来るのね。身を以て理解したわ。
「ウィリアムたち、どこかなあ?」
アルの鼻で探してもらおうかと、視線を向けると鼻に皺が寄っている。
なんとなく感じる気配は、ヤな感じ。
ただ見られているというだけでなく、値踏みされているような。
「私たちを見てるのかな?」
少し歩いてみる。気配は消えない。
ちょっと早足で市場を抜ける。まだ付いてくる。
やっぱり、気のせいじゃなかったんだ。
人混みの中だと、思い過ごしかもしれないけど、これだけ人が少なくなったら気のせいではなさそうだ。
それより。
人がいない場所に、自分から行ったらダメじゃん! 危ないじゃん!
自分で自分を叱ってみても遅い。
とりあえず、さっさと人が多いところに移動しよう。
私をつけて来ている誰かが、何を狙ってるのかは不明だけど、そんなものもう確かめる必要はない。
半駆け足くらいで路地を抜けようとして、失敗した。
行き止まりだった。
あーー、もーー。
土地勘ない人間が走り回っちゃ駄目だあ。
私はこの短時間に一体幾つの教訓を思い知ったのか。
どこから失敗した?
迷子? やっぱり、迷子からか?
ため息をついていると、アルが唸り声をあげた。
路地の入り口に三人の男が立っている。
なんて言うか、見るからにガラが悪い。
「嬢ちゃん、ちょーっと話があるんだよ」
先頭に立つ剣士の男が、気持ち悪い猫なで声を出した。鳥肌が立つっての。
「私に何の用?」
「嬢ちゃんの従魔、俺に譲ってくれねぇ?」
そう言ったのは、一番奥の男。従魔使いらしい。首からぶら下げているのは、蛇だ。スネークショーとかで見る錦蛇くらいの太さ。錦蛇のような模様はない。路地裏で薄暗いけれど、緑色らしいのはわかった。何だか、元気がない。
「譲ったって、私の従魔なんだから、どうにもできないでしょうが」
ペットと違い、従魔は簡単にあげたりなんかできない。何しろ、従魔の契約があるんだから。
と蛇使いがヘラヘラ笑った。
「それが大丈夫なんだなあ。譲渡が成立すればなあ」
「譲渡?」
「主が契約切って、譲渡を認めたらいいのさ」
契約切るって、それこそないでしょ。
そりゃ、主側にも理由があるから、絶対にないとは言えないけどさ。
「それで、その蛇も譲渡されたってわけ?」
「そうだぜ。ちょっと撫でてやったら、簡単に譲渡してくれたんだよ」
嫌な言い方。
言葉通り『撫で』たはずがない。絶対に脅したんだ。多分、いや間違いなく暴力で脅して、従魔を奪った。
最低のクズ。
「嬢ちゃんみてぇな駆け出しに、シルヴェリアウルフは勿体ねぇよ。俺が有効に使ってやっからよ」
有効とか、どの口が言うのやら。
蛇はよく見たら傷だらけじゃない。
どれだけ酷使してるのよ。
従魔はモノじゃないんだよ。
そういう考えの人を否定するつもりはないけど、それをやりたいなら人の従魔を掠め取るようなセコいことしないで、自分で捕まえて来いっての。
「絶ぇ対っ、ヤダ!」
誰が渡すか!
アルは私の一歩前に出て、身を低くして唸っている。
臨戦態勢だ。
「アル、待機」
私は小声でアルを制する。
飛び掛かりたいのは解るけど、今は我慢だよ。
アルは私の言い付けを守り、臨戦態勢を維持している。
「自分が置かれてる状況を理解した方がいいぜ」
言うこときかない私を、剣士が睨む。
「そのシルヴェリアウルフはまだ子供だろう? 俺ら三人に敵うと思ってんのか?」
もう一人は、棍っていうの? 身長くらいの棒を構える。棍は木製ではなさそうだ。
「だとしても、イヤなものはイヤなの!」
「このガキっ!」
三人が気色ばむ。
短気過ぎるんじゃないの。ちょっと、自分たちの言うこときかないからってさ。
大体、私が時間稼ぎしてるだけって、何で気がつかないかな。
それだけ、舐められてるんだろうね。
だから、この路地裏に時折チカチカするものに気がつかない。
「やれるものならやってみろ!」
最後の挑発に俺たちの顔が醜く歪んだ。
「ただで済むと思うなよっ!」
こちらに向かって駆け出す俺たちの足元で、キラッと一筋光るものがあった。




