2-11 猫? 遭遇
ロシアのピューマは可愛い。
何かあったらよろしくねー。
の言葉を後に、私は精神世界から戻ってきた。
「お待たせ」
とは言ったものの、数秒しか経っていないんだけどね。
「じゃあ、買い物に行こうか」
「うん」
機嫌もよろしくみんなと教会を出ると、クレアがこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
「あれ、クレアさん?」
「ああ、良かった。行き違いにらならなくて」
「どうかしたんですか?」
行き違いのところで私を見たので、私に用があるのはわかる。
「何かあったっけ?」
特に用事はなかったはずだけど。
「新しい従魔の登録をして頂かなくてはいけません。それと、サブマスが話をしたいそうです」
サブマス、あの神経質そうな人か。
私的には、用はないけどアル絡みなのかな。
「やっぱり、更新しないとまずいんだ」
「森の家から出なけりゃそれで済んだんだろうな」
「町に入っちゃうと、そういう訳にもいかないのね」
「そっかあ」
森と町じゃあ、違うのは仕方ないよね。何しろ、シルヴェリアウルフだもんね。
「今から、登録に行けばいいの?」
「お願いします」
「はーい。買い物は、ちょっと延期ね」
「わかった」
「仕方ないよな」
ギルドの用事はさっさと片付けるに限る。後回しにしたって良いことはないだろうし。
そうしてギルドに着けば、ウィリアムがいた。
「リーダー、どうかしたのか?」
「ああ、ちょっとな」
ちょっとな、のところでウィリアムは私を見た。
登録と言うより、サブマスとの話で呼び出されたのかな?
うーん。
面倒な話にならないといいんだけど。
ウィリアムと立ち話をしてると、ギルドないがざわめいた。
他の冒険者たちの視線はアルに注がれている。
「あれ…狼じゃねぇな?」
「シルヴェリアウルフだろ…」
「なんであんなのが…」
「従魔なのか…?」
「あの嬢ちゃん、何者だ?」
胡乱そうな気配が伝わってくる。
確かに戸惑うよね。
私みたいな小娘が、シルヴェリアウルフなんて連れていたらさ。
別に私の実力ではないのだけど、いちいち説明する必要はない。
私はカウンターに向かって、さくっとアルの登録を終わらせた。
「その…ちょっといいかな?」
登録が終わるのを待っていたらしい、躊躇いがちに声をかけられた。
「ん、なに?」
振り返ると、ひょろんとしたお兄さんがいた。
足元に、豹くらいの大きさの茶とらがいる。
これは…猫?
でかい猫で合ってる?
じっと見ていると、この猫はウォーキャットだとわかった。
ウォーキャットはお兄さんの足元にお座りしているが、アルをじっと見つめている。
尻尾がびたんびたんしてる。アルに興味があるらしい。
アルは知らん顔をしている。っていうか視線を合わせない。
「突然、ごめん。その従魔は、シルヴェリアウルフ?」
「うん、そうだよ」
答えると、お兄さんは破顔した。
「やっぱり? 初めて見るからに自信なかったけど、ただの狼じゃないことだけはわかったんだよ」
嬉しそうに捲し立てる様をきょとんと見上げる。
と我に返ったお兄さんは、頭を掻いた。
「ごめん、興奮しちゃって。僕はルイス。この子はルリ」
ルイスは名乗り、傍らのウォーキャットを示す。
「私はリム。この子はアルだよ。まだ子供なんだ」
名前を呼ばれたアルは嬉しそうに尻尾を振った。
ルリがびたんびたんなら、アルはふっさふっさだ。
尻尾の形状もあるけど、えらい違いだ。
「とてもよく懐いているね。触ってもいい?」
「私もルリを触っていい?」
「いいよ」
かくして私たちは互いの従魔をもふもふした。
ルリは気性も猫のようで、大人しく撫でさせてはくれない。
ちょっと額の辺りを撫でただけで、がぶっとくる。
それを躱しながら、あちこちをもふる。
いたた、爪を立てるのはやめたまえ。あぐあぐも加減してくれないかなあ。
ルイスもアルをもふっている。満面の笑顔だ。
犬科は猫科とは違うもふもふを堪能できるもんね。
そうして、もふっていると。
「リム、そろそろいいか?」
ウィリアムが声をかけた。
あ、そうだった。
「他にも用事があったんだ!」
「あ、そうなんだ。ごめんね」
ルイスはあっさりと手を引いた。
「ありがとう」
「こっちもありがとー」
ルイスとルリが歩き去るのを見ながら、私はウィリアムに近付く。
「ごめん、ごめん」
「まあ、従魔使い同士、友好を深めるのは良いんだけどな」
従魔使いは数が多くないらしいからね。
このギルド内も、ルイスと私しかいなかったよ。
他にもいたのかな。気付かなかったけど。前に来た時も、ほとんどいなかったよね。
「それでは、参りましょう」
「お前たちは待機していてくれ」
「わかった」
「てきとーに暇を潰してる」
「いってらっしゃい」
「じゃーねー」
フィッツたちは来ないらしい。
私とウィリアムはクレアの後に続いて階段を上る。
なんとなく記憶にある部屋へ向かう。まあ、応接室なんて幾つもあるものじゃないよね。
応接室に入るとサブマスのロイドがいた。
相変わらず、神経質そうな胃が痛そうな顔色だ。
大丈夫か、この人。胃に穴が開いたりしないんだろうか。
常備薬に胃薬もあるけど、あげたくなる。異世界製だから効くような気がする。
他にも頭痛薬とこ葛根湯とかQQゴールドとか酔い止めとか持ってる。薬は念のためにっていうか、持ってないと不安なんだよね。
異世界製の薬は、こちらではどれだけの効力があるんだろう。
一度、調べてみた方がいいかもね。
「わざわざ済まない」
薬のことをつらつら考えていると、ロイドが口火を切った。
「別にいいけど…」
手で勧められるままに、ソファーに腰を下ろす。アルは私の傍らに伏せた。
「本物のシルヴェリアウルフか…」
ロイドは感慨深げに呟いた。
「アルが見たかった、って訳じゃないよね?」
幾ら珍しいからって、サブマスだもん。暇じゃないんだし。
「ガンダルにレッドリザードの素材を卸したと聞いたのだが」
「うん、引き取ってもらったよ」
「ギルドに卸すつもりはないのかね?」
「ギルドだと、討伐系の評価が上がっちゃうからね」
「評価が上がるとまずいのかね?」
「採取系ならいいけど、討伐系はね。基本、運が良かっただけだし」
アシダカ軍曹が捕ってくれたものばかりだもん。
自分の手柄にはできないよね。
「ふむ…ガーディアン種が絡むから、かね」
「…………」
ロイドがアシダカ軍曹のことを言っているのは間違いない。
クレアとウィリアムを見ると、済まなさそうな顔をされた。
話しちゃったかあ。
「二人には確認を取っただけだ。レッドリザードの素材は破損もほとんどないものだとか…今の君の従魔では少々無理がある。同居の亜人でも捌けるものではないのだよ」
なるほど。
レッドリザードから足がついたか。
確かに、あのトカゲを綺麗に捌くのは私には無理だ。
ひぃちゃんとふぅちゃんは倒すことはできても捌けない、アルは当然無理。
ラルガたちも捌くことはできるだろうけど、品質的に無理と推測してからの、アシダカ軍曹かあ。
さすがサブマス。
「報告以上の何かがあるならば、把握しておかなくてはならないからね」
「済まない、リム」
「申し訳ありません。サブマスに嘘をつく訳にはいかなくて」
報告を上げないのと嘘をつくのは別の話だもんね。
「仕方ないよ。今まで伏せてくれただけでもありがたいし」
「では、フォレストブラックスパイダーのガーディアン種と言うのは、間違いないのだね」
「うん、間違いないよ。ちなみに軍曹は従魔じゃないから。だから、討伐系の評価が上がるのは困るわけ。今はそこそこのものが手に入るけど、全部軍曹の好意だから」
だから、アシダカ軍曹が討伐とかやりたくなくなっったら、私は無理を言えない。
そんな権利はない。
「なるほど…それで、その軍曹と言うのはどれ程のものかね?」
「まあ、この部屋には入らないだろうな」
応接室を軽く見回して、ウィリアムが言った。
うん入らないね。天井もそんなに高くないし。ギチギチどころじゃないな。
「そうか…」
「グンソウがヤバいのは大きさだけじゃないぞ」
ウィリアムは何故か不穏な話を続ける。
「ほお?」
「ガーディアン種と言うのも確かにヤバいが、森の主だ。かなりの眷属を集められると思う」
「うぇ?」
なんか、全く予想してない方向の話になった。
思わず変な声を出す私をスルーして、ウィリアムは話を続ける。
「ひぃちゃんとふぅちゃんを呼び寄せるのも、あっと言う間だった。ひぃちゃんたちは幼体だ、他にもいるだろうし、当然成体もいるだろう」
あー、そうか。うん、そうね。
全然、全く、考えもしなかったけど、蜘蛛って言うか昆虫って生まれる数が半端ないよね。自然淘汰されていくにしても、それなりの数は残るよね。
そっか、森の中には私の知らないアシダカファミリーがいるかも、なのね。
「…ひぃちゃん…ウィリアムの話は本当?」
肩掛け鞄に向かって聞くと、這い出してきたひぃちゃんはテーブルの上で、えへんと胸を張るようにそっくり返った。
「いる、みたいよ」
「そ、そうか…」
「いるのか」
「いるんですか…」
ひぃちゃんのリアクションに、ロイドの顔色は一層悪くなり、言い出しっぺのウィリアムとクレアは顔を強張らせた。
「…どれだけいるかは…とりあえず、知らなくてもいいから」
ひぃちゃんき念のために言っておく。
召集、かけなくてもいいからね。
「…万が一の場合、防衛できると思うかね?」
「総攻撃されたら、無理だろうな」
「だろうね」
「軍曹はそんなこと、しないよ」
そんな面倒くさいこと、わざわざしないよ。
「そう願いたいものだね」
ロイドは小さく息をついた。
「さて、重要なことは確認できた。話は以上だ。ああ、素材はいつでもギルドに卸してくれて構わないから」
「覚えとく」
一度くらいは、卸してもいいかもね。
いつになるかは解らないけど。
そうして、私とウィリアムは応接室を後にした。
もしかして、結構いるんじゃね?
と、最近気づいたvvv




