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15 森で暮らすのに必要なもの

買い物の続き


 朝には、ひぃちゃんが帰ってきていた。ふぅちゃんと並んで天井の隅にいる。

 アシダカ軍曹が突撃して来なかったことからして、一応現状を納得してくれたんだろう。

 ひぃちゃんも別に普通な感じだし。何か揉めてたら、教えてくれると思うんだ。私が理解できるかは、まあ別として。


 朝ご飯を食べてから向かったのは、雑貨屋だ。


 まな板を買わないと。


 で、雑貨屋に行ったら、ここでも塩を売っていた。

 昨日買った塩は、ハーブソルト。料理の味付け用なら、これは下処理用。

 そーだった。下処理の塩はいるわ。きゅうりとかキャベツとか、塩降って水分抜くよね。ハーブソルトじゃ、勿体ない。

 他に小麦粉もあった。小麦粉、綺麗さっぱり忘れてた。パンは作れないけど、パンケーキは多分作れるんじゃない?

 料理ならフライや天ぷらに必要だし。

 あと、木製の食器があった。ボウルとかね。お盆みたいな皿はアシダカ軍曹用にしよう。

 割れにくい食器も必要だよね。


 小麦粉で思い出したけど、パンも買っておいた方がいいよね。私、パンの作り方知らないもん。 例えかっちかちに固いパンであっても。


 あと、着替えも他に買っておいた方がいいか。主に夏服。あるかなあ。なかったら在庫を見てもらって。

 布も買っておく?

 服とか、作れないっていうか、裁縫は簡単な繕いとボタン付け、雑巾縫いくらいしかやったことないけど。

 ミシンでなら、スカートだって縫ったことはあるのよ。

 だけど手縫いは、ねえ。


 はあ、他に編み物とかやっておいたら良かった。

 私って、女子力低いっ。知ってた。うん、今、思い知った。


 昼になり、木工職人のおじさんの所に向かう。


「おじさん、どんな感じ?」

「おう、今片付いた」


 おじさんは腰の高さの酒樽を叩いて見せる。


「これ? 思ってたより綺麗!」


 酒樽は見た限り、劣化した感じはない。

 樽に巻かれた輪っかは古いのと新しいので二重になっている。口のところは、カンナでもかけてくれたのか、引っ掛かりもない。


「ここから、湯も抜けるぞ」


 本来の注ぎ口が排水口になっている。そこまで考えてくれたんだ。


「底板も厚くしておいた。ちょっとやそっとじゃ抜けんだろう」

「ありがとー! 完璧!」


 私は大喜びで酒樽を受けとった。


 これでお風呂の心配はなくたった。


 あと、欲しいのは寝具なんだけど。


「おじさん、ベッドとか作ってない? 頑丈なやつ」

「注文があれば作るぞ。なんだベッドもいるのか? えらい引っ越しだな」

「念のためって言うか…ベッドってどれくらいで出来るの?」

「半月は欲しいな。頑丈にするんだろ? とりあえず、家具屋のトマスんとこにこの間卸したやつがあるけどな」

「それ、予約品?」

「いや。えらい固い木が手に入ったから作ってはみたが、割りに合わねぇよ。固過ぎて細工もできなかった。ベッドにしたのはパーツが少なかったからだな。机でも良かったんだけどな」

「それが飾ってあるって。見る見る見てみる!」

「じゃあこれ持ってきな。少しは安くなるだろ」

「おじさん、ありがとー!」


 なんか紹介札みたいなのをくれた。


 それを持って家具屋に向かう。

 家具屋って言っても、私が知ってるようなショールームではない。


 小さな倉庫みたいなところに、いかにも頑丈そうなベッドがあった。奥には箪笥もある。

 箪笥は扉に装飾が施されていた。あれは予約品だよね。


「ベッドってこれかね?」

「それなの? とにかく頑丈って聞いたけど」


 うん、箱のようなベッド。味気ない。


「これねぇ。確かに頑丈だよ。これだけ組むのにマイクでさえ、一ヶ月かかったんだよ。で、この素っ気なさ。これで値段が普通のものの三倍だよ。買う人なんかいないよね」


 家具屋のトマスおじさんはため息混じりに言った。

 木工職人のおじさんはマイクっていうんだ。

 初めて知った。


 しかし、三倍か。

 このシンプルさで三倍。そりゃ、みんな躊躇うわ。


 普通の三つ買えるんだもん。


 しかし、今の私ならば買える。

 買ってしまえ。睡眠は大切だ。ぬくぬくふかふかでぐっすり寝たい。


「トマスおじさん、これ買うから、まけて」

「ええっ?」


 トマスは目を白黒させた。

 そのトマスの手に、さっきもらった紹介札を押し付ける。


「マイクのところから来たんだね。仕方ない。半額は無理だけどね」

「よろしく」


 結局、三割引きまで頑張ってくれた。

 まけてくれた三割で、マットや布団、毛布を買うと、枕はおまけしてくれた。


 よし。


 これで、万が一森で暮らすことになっても安眠できる。

 これだけ頑丈なら、あの洞窟に持ち込んでも大丈夫でしょ。一応、地面はアシダカ軍曹に均してもらおう。

 で、毛皮敷いた上に置いたらいいんじゃない?


「ベッドまでいるのか?」

「ミーアさんちに、ベッドくらいあるんじゃないの?」


 ご協力な私を見て、コークスとフィッツが首を傾げる。


「あるかも知れないけど、三年放置されたベッドだよ。ちょっと寝たくないなあ」

「三年経って、原型を留めているかと言う問題もあるな」

「マットとかどうなっちゃうのかしら」


 ウィリアムの後に、ジュエルがしみじみ呟いた。


「考えたくないっ!」


 三年放置されたベッドにマットに布団。

 想像するだけで、なんか痒くなるー。

 見たことない虫とか湧いてたら、気絶するかも…いや、精神耐性あるから悲鳴あげるだけ?

 どちらにしても、嫌だよ。


「大体、ミーアさんちに入れなかったら、森で暮らすんだから。ベッド、いるでしょ。洞穴に毛皮を敷いて寝起きするのも、あれなのよ」

「洞窟にベッド置くの?」


 コークスが目を丸くする。


「そうよぉ。洞窟で暮らすなら、置くでしょ。そのためのベッドでしょ!」


 わざわざ頑丈なの買ったのは洞窟暮らしを想定してるのよ。


「…やっぱり、森で暮らすのか?」

「ミーアさんちが駄目だったらそうなるよね。きっと、軍曹が大喜びで迎えに来るんじゃないかな」

「そーだねー」


 その時のことを想像したのか、皆宙を仰ぐ。


「その為にも、いろいろ揃えておかないとね」


 四人は微妙な顔で黙った。

 私の事情は単純なようで、複雑なようでいろいろと微妙なのだ。



 欲しいものをあらかた買ったところで、今度はウィリアム主導で旅に必要なものの調達に付いていく。


 携帯食とか、魔石の補充とか。魔石は結界や明かりなんかに使うらしく、用途によって種類があるんだって。

 魔道具とか、全く眼中になかった。っていうか、存在を初めて知ったよ。

 ランタンとか買った方がいいのかな。

 いや、しかし、そろそろ予算が厳しくなってきた。


 ランタンなくても生きていける! 今まで生きてきた。

 だから、次回に見送ろう。


 こちらの買い出しは手慣れたもので、あっという間に終わった。


「これだけ?」

「今回は、多分ギルドから馬車が出ると思うからな」

「ギルド側もある程度、準備するんじゃないかな?」


 なるほど。


 だから、必要最低限にしておく、と。


 持って行くものを厳選する、大事なことよね。


 私、何でもかんでも買ってる場合じゃなかった。


 でも、どれもいると思うんだよねー。


「あとは、回復薬」

「薬屋さん?」

「いや、通常の回復薬はギルドで調達するんだ」

「ギルドで?」

「ギルドの扱う薬は、そこそこの効果でそこそこの値段。変動もほとんどないから」

「薬屋さんだと?」

「良いものがそれなりのお値段。上位ランクは大体行き付けの薬屋で買うわね」

「へえ…」


 そう言えば、薬もピンキリだよね。

 漢方薬とかさ、専門店だと高いもんね。ドラッグストアとは同じ品名でも全然違った。

 一度、専門店行ってびっくりした覚えがあるわ。


 ギルドは大衆向けってことね。


「だから俺たちはギルドで買うんだ」

「ふうん。私も買った方がいい?」

「予算があるなら、回復薬と解毒薬は買った方がいいよ」

「わかったぁ」


 ギルドに着くと、回復薬を買う間もなく、応接室に通された。


「?」

「薬草の納品と依頼についてじゃないか?」


 首を傾げる私に、ウィリアムが耳打ちする。


 ああ、そっか。

 一ヶ月に一回の依頼を受けても、ミーアさんちからじゃ納品が大変って話だった。


「何かいい方法があると、助かるよね」


 なんてことを話してたら、サブマスがやって来た。


「納品についてなのだが」


 前置きなく、サブマスは話し始める。


「昨日のミズル草の倍の量を納められるならば、二ヶ月に一度、引き取りに誰かを向かわせよう」

「その場合、更新一ヶ月は多目に見てもらえるの?」

「ああ、倍の量を納めると言うことで、二ヶ月まとめて更新と言う扱いになる」

「だったら、大丈夫かな」

「二ヶ月に一度、引き取りに行くのは、依頼を出すのか?」

「その予定だが」

「ならば、俺たちが専任になることはできるか?」

「ふむ…ウィリアムたちならば、リムも安心だな」

「私は凄く、助かるよ」


 ウィリアムたちなら、いちいち説明しなくて良いもんね。


 特に、アシダカ軍曹のことなんだけど。


 逆にアシダカ軍曹も、警戒しなくて済むし。

 アシダカ軍曹のことが知れ渡るのも困るし。


 その点、ウィリアムたちなら問題ない。


「ならば、ウィリアムたちの都合が付く場合は、ウィリアムたちに任せよう」

「やったあ」


 私は手放しで喜ぶ。


 何しろ、私はウィリアムたちを全面的に信頼している。

 そんなウィリアムたちが、薬草の引き取りに来てくれるなら、何の文句もない。


「だって…」

「リムに何かあったら…」

「町が滅ぶわ…」


 はしゃいでいる私は、話をサブマスと詰めているウィリアムの影でこそこそ話す三人の声は聞こえなかった。


 アシダカ軍曹の脅威について、誰よりも把握しているのは、他ならぬウィリアムたちだった。


 能天気な私は、全くノーマーク、ノーガードなのよね。


 言っておくけど、私が能天気なのは、絶対に精神耐性のせいなんだからね!





それでも、なんかいろいろ忘れる。買い物あるある?

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