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14 買い物に行こう

大人買いに憧れる。


 迷いの森を突っ切ると言う選択肢は始めからなかった。

 当然だよね。


 私だってアシダカ軍曹がいるから生活できるんだし。


 ここはおとなしく馬車で運ばれて行くよ。


 ウィリアムが依頼を受領したら、受付のお姉さんが私をガン見してくる。


「え、なに?」

「薬草の件、承ってます」

「あー、はいはい」


 ミズル草か。

 ついでにサブマスが話したのかな。

 でもって、とっとと納品しろってことね。


 私はカウンターにミズル草半束を置いた。


「はい、受領しました」


 受付嬢はじっくり確認もしないで、ミズル草を仕舞った。サブマスがOK出したから、もういいの?

 凄いね。全部話が通ってるんだ。

 まあ、私は手間が省けて良いんだけど。


「代金はこちらになります」


 差し出されたのは金貨だった。


「さっすが、迷いの森産。倍以上の値になるねー」


 後ろでコークスがため息を付いた。

 え、そうなんだ。

 後で、アシダカ軍曹にお礼言わないと。


 それはさておき。  


「これで一ヶ月は大丈夫…なんだよね?」

「はい」


 低ランクは一ヶ月に最低一回の依頼を完了すること。なんだけど


「何か?」


 ふと考え込む私に、お姉さんが首を僅かに傾げた。


「いや、もしミーアさんちに住むことになったら、月いちの納品ってかなり大変だなあ、って」


 馬車で三日の距離だよ。歩いたら何日かかるの? 普通に面倒くさくない?


 いや、次からは森をショートカットしたらいいのか?


 …いいのかな?


「それは…」


 受付嬢が黙る。

 ミーアの家がどこにあるのか知っているみたいだ。

 そして、私が大変だと言った意味も。


 大体、三日後に行こうっていうのに護衛が着くんだよ。

 これから先、どうするの?


 薬草の納品の度に護衛? 赤字じゃない?

 ミズル草の代金はそこそこするけど、毎月はね。


 まあ、護衛はね、最悪いなくてもなんとかなると思うんだけどね。


「そちらについては、サブマスターと相談させてください」

「じゃあ、お願いします」


 納品については、丸投げすることにした。

 私だけではどうにもならないし。


「出発日までには、決めておいてくれ」


 ウィリアムが念を押したところで、私たちはギルドを出た。


 さあ、お待ちかねの買い物だ!


 まず、金物屋さんに向かう。


 そこで買ったのは、鍋とフライパン。包丁とぺティナイフ。小刀。フォーク、ナイフ、スプーンはセットで。

 次に雑貨屋。ここでは皿、深皿、大皿、コップ。これは陶器と木製を。大皿はアシダカ軍曹用ね。小皿はひぃちゃんたちの分も。

 あと、小さな甕みたいなの。食卓で梅干しとからっきょうとか入ってそうなのを。

 これは素焼き、模様付き併せて。シャンプーとかコンディショナーとか小分けに入れておきたいんだよね。

 他にもソースを溜めておきたいし。


 小瓶は化粧水用。

 甕より小瓶の方が倍近く高かった。一応ガラスだからかな?

 全く透明じゃないんだけどね。


 次に言ったのはハーブ屋さん。

 ハーブ各種と油もあったからそれも。胡椒もあったし塩もあったよ。

 当然、両方買ったよ。 砂糖は高級品。仕方ないからちょっとだけにした。これじゃあ使い道ないなあ。

 塩が手に入っただけでも良しとするか。

 これで、清め塩で料理しなくても良くなるよ。

 美味しくないんだもん、清め塩。


 さて、順調に買い物をしていたんだけど、やはりと言うか風呂桶がなかった。


 道具屋さんから、木工職人さんを紹介してもらったけど、風呂桶なんて扱ってなかった。


「風呂桶? なんか作ったことねぇよ」


 おじさんは呆れたように言った。


「作るにしても、宿屋の風呂だろ? あれだって木で作らねえよ」


 こちらのお風呂は岩風呂の用に石を加工するんだそうだ。大理石風呂ってやつ?

 そりゃ水漏れを考えたら、そっちの方が確実?


 風呂桶一杯と言っても、相当な水圧がかかるらしいしね。


「どれくらいの大きさがいるんだ?」

「人ひとり入れるくらい?」

「立ってか?」

「座って…こーしゃがむだけで十分だけど…」

「うーん…」


 膝を抱えてしゃがむ私を見て、おじさんが腕を組んで考え込む。


「最悪、それだけ水が溜められればいいんじゃねぇの?」

「ま、そうだよね」

「だったら、いらねぇ酒樽もらって来たらどうだ?」

「酒樽?」

「大きい奴は、嬢ちゃんくらい余裕だろ?」


 そうか、酒樽!


 分かる、分かる。

 ドラム缶風呂のノリだね。

 お酒を入れていたんだから、水漏れの心配もないよね。


「酒樽、いいね。そうしよう!」

「なら、俺が調達してきてやるよ。その方が話が早い。で、補強しておけばいいんだろ?」

「えっ本当に? でも、私三日後の朝に町を出るんだけど」

「一から作るならまだしも、補強だろ? 明日一日でやってやるよ」

「完璧! おじさん、是非それでよろしく!」


 私は金貨をおじさんに渡した。

 おじさんが顔を引きつらせる。


「たけぇよ。何、買うんだよ」

「出来るだけ良い酒樽を手に入れて。でもって、がっちり補強しといて」

「お、おお、わかった」


 酒樽をおじさんに託して、私は工房を出た。


「本当に風呂桶買った…」

「どんだけ、風呂好きなんだよ」

「お風呂、大好きだよ」

「しかし、湯を溜めるのは大変だぞ」


 呆れるコークスとフィッツとは逆に、ウィリアムは心配そうだ。


「うん、練習するよ」

「練習? なんの?」

「私さ。女神様に加護もらって、生活魔法使えるようになったの。だから、練習する」


 魔法とか使ったことないけど、お風呂に入るためなら絶対に習得するよ。

 水を出して、お湯にするような、そんな魔法を。


 煮炊き出来るように火の魔法も使えるようにならないとだし。

 他にもいろいろ。

 うん、快適ライフを手入れるために頑張るよ。


 やる気出て来たー!


「さあ、次のお店に行こう!」

「まだ買うのかよ…」

「次は…野菜?」


 フィッツが買い物リストを覗く。


「うん。野菜とか果物とか?」

「市場か…」

「その前に昼飯にしないか?」

「そうだね。何か食べよう」


 フィッツに言われて昼だと気がついた。

 テンション上がってて、お腹空いてる感じなかったよ。


「じゃあ、市場で食えばいいよ。屋台もあるしさ」

「いいねー」


 異世界の屋台、なにが売ってるんだろ。


「ご飯、食べるー!」


 そうして、やって来た市場。

 んーと、田舎の朝市みたいな感じ?

 道の脇にゴザを引いてたり、リヤカーみたいなのに乗せていたり。

 そんな小さなお店が並んでいる。


 その合間、合間に屋台。


 最初の屋台は、串焼き肉。何の肉なんだろう? 豚?


「フィッツ、何かてきとーに買って」


 私はフィッツに銀貨を渡した。


「みんなの分も買ってね」

「いいのか?」

「買い物に付き合ってくれてるお礼」

「大したことしてないわよ」

「お店に連れて行ってくれるだけでもありがたいよ」


 ウィリアムたちのオススメだもん。

 品揃えも応対も問題ない。それどころか、ウィリアムたちのお友達価格なものもあった。

 私ひとりじゃこうは行かない。ぼったくられてたかも知れないよね。


 それもこれも、みんなウィリアムたちのお陰なんだから、お昼くらいご馳走するよ。

 なんなら、夕御飯もご馳走するよ。


 そう言ったら、夕御飯はやんわり断られた。


「こっちが着いて回ってるだけだよ」


 ウィリアムが苦笑混じりにそう言った。

 本当、いい人だね。


 コークスはナンみたいなので肉と野菜を挟んだものを買ってきた。ピタパンみたいなやつ。


 ウィリアムとジュエルは何かのジュース。


 それを持って、市場の中の噴水まで移動する。噴水の縁に座って、お昼を食べる。

 串焼きもピタパンも美味しいんだけど、味付けが塩だった。

 ハーブソルトではあるんだけど、物足りない。

 ので、ソースをかけた。とりあえず、お好み焼きソースにする。

 焼き物にはソースだよね。


 ちょっとつけただけでも、味が変わって十分美味しい。


「え、それなに?」


 フィッツが目敏く、ソースに気付く。

 弓を使うから目がいいの? それだけじゃないような?


「ソースだよ。付けてみる?」

「付ける!」

「ちょっとでいいからね。辛くなるから」


 串に残った肉にちょっとだけソースを付ける。

 流れで、興味津々のコークスたちの串焼きにもソースを付ける。


「これ、美味い!」

「なんのソース?」

「いろんな味がするのね」

「美味い…」


 好評のようで良かった。


 お昼も食べたところで、買い物を再開する。


 市場と言う名の露天街に戻り、野菜も果物も買ったよ。あと、卵があったから卵も買った。

 野菜はジャガイモ、玉ねぎ、ニンジン、キャベツ。まずその辺りを一ヶ月分。たくさん買ったのでおまけして貰えた。

 毎週、露天に売りにくるおじさんには感謝された。全部売れることは、あまりないらしい。

 ジャガイモとか玉ねぎは、どの露天でも売ってるしね。

 単純に、おじさんの運が良かったんだよ。


 果物は、リンゴとオレンジ。これは、ザル一杯ずつ。果物は当たり外れが大きいよね。だから、ザル一杯にしておく。


 これで欲しいものは買えたかな?


「全部、買えたかなあ?」

「明日もあるから、ゆっくり考えて足りないものは明日にしよう?」

「そうだね」


 無理に今日買うこともないしね。


 一旦落ち着いたので、宿に戻ることにした。


 夕御飯を食べて、部屋に戻ると今日買ったものをチェックする。


「あ。まな板ない。チーズも欲しかったんだ」

「牛乳なんかは、最後に買った方が良いんじゃない?」


 少しでも新鮮なものを、って言っても空間収納に入れてしまえばいつも新鮮なんだけどね。


 明日も買い物しないと。


「あ、それもだけど…」


 大事なことがあった。


「ひぃちゃん、これ軍曹に持って行ってくれる? で、ミーアさんちに住むかもって伝えて。軍曹はミーアさんち知ってるかな」


 スナックパックのハムカツを一枚とチョコレートを包んで渡すと、ひぃちゃんは器用に糸で背中にくくりつけた。


「とりあえず、お願いできる?」


 ひぃちゃんは任せろ、でも言いたげに前足を上げ、窓から出て行った。


「これで、大丈夫かな?」

「まさかと思うけど、グンソウが町に来たりはしないわよね?」


 恐る恐るジュエルが聞くのに、私は首を傾げた。


「多分ね。そうならないように、ひぃちゃんに伝言頼んだ訳だし」


 何も言わないで、ミーアさんちに向かったら、きっと心配して迎えに来ちゃうと思うんだよね。


「軍曹がいきなり来たらヤバいってことくらい、私にも解るよ」


 ひぃちゃんたちでさえ、みんな引き気味なんだもん。

 アシダカ軍曹なんて、パニック起きるよ。


 問題は、アシダカ軍曹がひぃちゃんに頼んだ伝言を納得してくれるかってことなんだよね。

 ひぃちゃんに手土産持たせたのは、ちょっとでも納得してくれるようにって、下心も含んでマス。


 でも、アシダカ軍曹、心配性だからなあ。


 ひぃちゃんには豆に状況報告行ってもらうかあ。


 それが一番、安全への近道だよね、きっと。




何をどれだけ買えばいいのか…

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