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12 加護をもらったようです

多分、いろいろできる、らしい。


 なんと、私も魔法デビューですよ!


「魔法って、どうやって使うのー?」

「呪文を唱えるのが一般的だけど…」

「呪文? ファイアー! とか?」


 冗談で、右手を振ったら、掌から火炎放射器並みの火が出た。


「ひぇぇぇっ!」


 慌てて手を振ると火が消える。


「び、びっくりした…」


 いきなり人間火炎放射器とかないわあ。

 まだ人間止めてないし。


「あらあら、イメージが強すぎたのね。その辺りは練習が必要よ」

「そうみたい」


 はあ、と大きなため息をつく。

 今のでどっと疲れたよ。あ、でも。


「練習…もしかしたら火以外も使える?」

「全属性だから、大丈夫じゃない?」


 おお、全属性頂きました!

 素晴らしい!

 何ができる? きっとなんでもできる。

 取り急ぎ、煮炊きをできるようにならないと。

 水、お湯、氷。弱火、中火、強火ができれば大抵のものが作れる!


「なんでもできるかも知れないけど、悪用しないでくれると嬉しいわ」

「しないよ!」


 私は即答した。私にその度胸はない。


「ふふ…信じてるわ」


 イリスは微笑んだ。が、直ぐに真顔になる。


「それでね、リム。貴女は出来るだけ早くこの国から出た方が良いと思うわ」

「あー」


 そーですねー。


 今までのイリスの話からすると、下手したら上の方に目を付けらるかも知れないもんね。

 そうでなくても、召喚絡みでやらかしてしまったエルガイアの王族その他はヤバい気がする。

 他国が魔力を盗まれたことに気付いたら、もっとヤバいことになるだろう。

 私のことはバレないとしても、国として危なくなりそうだ。


「でも…迷いの森に帰るって軍曹と約束してるし…」


 この国を出るということは、迷いの森を出るということ。アシダカ軍曹は許してくれるんだろうか?


 揉めそうな気がする。いや、揉めると言うよりごねるか。


「グンソウが待ってるのね…だったら、ミーアの所に行ったら良いわ」

「ミーア?」

「森の魔女と呼ばれているはずよ。確か、迷いの森の近くに住んでいたわ」

「本当っ?」


 迷いの森の近くに住んでいる人がいる。

 そこなら、私も人間らしい生活ができるかも知れない。

 きっと、アシダカ軍曹も許してくれるだろう。


「どこなの、そこ!」

「細かい地名は解らないの。人の付ける地名ってすぐに変わるじゃない?」


 神様は些事に疎いらしい。

 そうだよね。

 私だって、隣の町のなんとか池って言っても住所なんて解らないもん。


 神様ならなおさらかあ。


「確か、ミーアは有名なはずだから誰かに聞けば解ると思うわ」

「魔女っていうくらいだから、魔法使い関係に聞いたら良いかなあ?」

「多分ー」


 イリスは曖昧に微笑んだ。

 今のは、投げたね。

 いいや。

 とりあえずジュエルに聞いてみよう。


「あと、もう一つだけ聞きたいだけど…」


 どうしても聞いておかないといけない事がある。


「なあに?」

「元の世界に戻れないの?」


 これだけははっきりさせないと。

 曖昧にしていたら、きっと落ち着かないままふらふらしちゃう。物理じゃなくて気持ちがね。


 イリスは微笑を悲しげに曇らせて、首を横に振った。


「戻ることはできないわ。貴女は私が構成し直してしまったから」

「そうなんだ…」


 そんな気はしていた。

 かなり婉曲な表現をされていたけど、私は召喚陣からずれて狭間に落ちかけた時に死んでると思うんだよね。


 身体が拡散したとか、それ絶対死亡事案でしょ。バラバラになったってことだよね、多分、粉々レベルで。

 そんなんで、生きていられる筈がないもん。

 だから今生きてるのは、イリスの善意と好意に他ならない。

 大丈夫、ちゃんとわかってる。


「戻れないんだね」

「ええ…」

「解ったよ。ありがとう。これだけははっきりさせておきたかったんだ」


 これで、覚悟ができた。私はこの世界で生きていく。


 アシダカ軍曹とひぃちゃんとふぅちゃん。

 ウィリアムたちも力になってくれるだろうか。


「リム。これだけは覚えておいて。私は貴女の幸せを願っているわ」


 イリスの笑みは慈愛に満ちていた。


「外に出たら干渉はできないけど、教会に来てくれれば、きっと力になるから」

「うん」


 どこまでもイリスは優しい。

 こんな優しい女神に会えて、加護を得られた私は本当に幸運だ。


「ありがとう、イリス。イリスファルン様。これからよろしくお願いします」


 深く頭を下げたところで、現実に帰ってきた。


「リム、大丈夫?」


 目を開けるとジュエルが心配そうに私の顔を覗き込んでいる。


「…うん、大丈夫」

「本当に? 全然動かなくなったから、心配したのよ」

「そんなに?」


 心配されるくらい、動かなかったんだ。


「五分くらい? そんなに祈ることあったか?」


 コークスの声は呆れている。


「調子でも悪かったか?」


 コークス、心配してくれるウィリアムを見習え。

 しかし五分かあ。結構長いこと話してた気がするけど、五分しか経っていないんだ。でも、五分も身動きしなくなったら心配するよね。



「なんて言うか…」


 どこまで話したら良いだろう。

 イリスとの会話、全部はさすがにヤバイよね。

 召喚巻き込まれについては、愚痴の一つも言いたいけど、やめておこう。

 そうなると、話せることは…


「なんかね。女神様に、会ったっぽい?」

「え、マジ!」

「本当ですか?」


 フィッツよりもシスターの食い付きがすごい。


 楚々としていたシスターが、フィッツを押し退けガンガン迫ってくる。

 お、落ち着け…?


 顔を引きつらせる私などなんのその。


「イリスファルン様はなんて?」

「あ、えーと…どこか住めるとこないですかって聞いたら、ミーアの所に行ったら良いって」

「え、お住まいの話?」


 話の内容に、シスターは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。


「うん、住む所の話」


 私は頷いて見せる。

 嘘じゃないもーん。

 他にもいろんな話をしたけど、住む所の話もしたもん。


「ミーア? 何か聞いたことないか?」

「ある…気がする…」


 コークスとフィッツが揃って首を傾げている。


「ミーアって、どこの誰だ?」

「んとね、森の魔女だって」

「東の森のミーアさんっ!」


 ウィリアムの問いに答えると予想通りジュエルが声をあげた。


 やっぱり、ジュエルは知ってたね。


「東の…森?」

「あ、ギルドに薬を卸してた? 最近見ないな?」

「あの回復薬、凄い効くから良かったのに」


 ウィリアムたちも知っているらしい。

 東の森の魔女は、イリスが言うように有名人だった。


「女神様が、そこがいいって?」

「うん、なんかね」

「そうか…」


 ウィリアムが考え込む。

 ん、なんかまずいの?


「それだと、ギルドに話を通して紹介状を書いてもらった方がいいな」

「あ、そうなの?」


 そう言えば、ギルドに薬を卸してたって言ってたね。

 そういう付き合いがあるのなら、ギルドから紹介状書いてもらえたら安心だよね。


 いきなり下宿させてください。なんて行ったら、怪しまれるに決まってるもん。


「じゃあ、今からギルド?」

「その方が話は早いな」


 ウィリアムが頷くので、行き先は決定。


「ギルドに行こう!」


 意気揚々と教会から出ると、どこからともなくひぃちゃんとふぅちゃんがやって来て、肩掛け鞄に潜り込んだ。


「ああ、ひぃちゃん、ふぅちゃんありがとう。女神様とちゃんと話ができたよ」


 お礼を言うと、二匹は鞄の中でわちゃわちゃと前足を動かした。





でも、煮炊きくらいにしか、使わない模様。

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