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11 召喚術ヤバい

女神様はフレンドリー。


「まず最初に言っておくけど。リム、貴女はこの国で行われた召喚儀式に巻き込まれたの」

「マジですかぁ」


 思わず呟くと、イリスは頷く。

 召喚儀式とかあるんだ。

 その可能性を全く考えない訳じゃなかったけど。

 でも、巻き込まれかあ…

 テンション下がるわあ。

 いや、別に。選ばれた特別な人が良かった訳ではないわよ。ただちょっと、憧れはするよね。

 私のガラではないのだけど。


「いきなりエルガイアの召喚陣が起動したかと思ったら、とんでもない魔力が動いて、空間に穴を開けたの。そして、三人を召喚した」

「さ、三人?」


 え、何か多くない?


 普通、こういう召喚って一人じゃないの?


「でも、三人とか会った覚えがないんだけど」

「同じ座標軸に召喚陣が開いたのは確かよ」

「座標軸…あ、もしかしてエレベーターに乗ってた? 確か、エレベーターに乗った瞬間落ちたんだよ、私」


 エレベーターのドアが開いた時、誰かが乗っていたか確認はしていない。っていうか、入った瞬間落ちたし。

 あれはびっくりしたなあ。


「多分、そうなんでしょうね。そうしてリムは巻き込まれたのだけど、ほんの少しのズレで召喚陣からはみ出てしまったの。それに気付いて慌てて掻き集めたのよ。大変だったわ」


 え、今凄く怖いこと言ったよ。

 掻き集めたって何を?

 いや、そもそも掻き集めるって、どう言う状態?


「召喚陣から外れると、狭間に引っ張られて、拡散しちゃうの。だから、完全に拡散して消滅しちゃう前に全部集めたのよ。勿論、その時に持っていたものもね」


 だから、拡散ってなに?


 でも、私がスーパーで買ったものその他を持っていたのはイリスのお陰っていうのはわかった。


「ありがとぉぉ。凄く助かったよぉ」


 お礼は言っておく。本当にいろいろ助かったから。

 今なら、頭も下げちゃうぞ。


「うふ。もっと崇めてくれていいのよ」

「空間収納も素晴らしいものでした-。イリスは心遣いも素敵なのね-」

「うふふふ」


 イリスは嬉しそうに笑った。

 割りとちょろい。


「それにしても、召喚なんて、そんなに簡単にできるものなの?」

「簡単と言う訳ではないのだけど、この世界では異世界からの召喚を行えるように、各国に召喚陣が存在するわ」


 各国ですか。

 結構、大盤振る舞いですね。


「気前、良いよね? っていうか良すぎ?」

「私は基本、世界の有り様に干渉しないようにしているから。私の都合で世界を変えたら、本来有ったかも知れない進化の道が閉ざされてしまうでしょ?」


 あ、かなり考えてる。

 確かに神様が介入したら、進化なんか関係ないよね。

 やりたい放題だよね。

 イリスはそうならないように気を使ってる訳だ。

 よい女神様だ。


「だから、召喚陣を作って各国の王族たちに管理させているの。自分たちで対処できない、そんな天災に近い事態が起きた時だけそれを打破できるように。例えば、魔族が溢れ魔王が誕生し、攻めてきた時。魔素が増えて土地や空気が汚染された時。未曾有の飢饉により生命の維持が困難になった時。その際に、魔族を倒す勇者、魔素を浄化する聖女、飢饉に対抗する知恵を持つ賢者。召喚によってそう言った助け手を頼めるように」


 勇者、聖女、賢者。

 これ押さえたら完璧な布陣だよね。

 賢者はきっと魔法なんかもチートなんだろう。

 いいなあ。

 魔法。

 私、魔法とか使ったことないもんなあ。


「あ、でも…そうなると、異世界から結構たくさんの人が召喚されてるってこと?」

「まさか。そんな事態は頻繁に起こるものではないわ。二、三百年に一度くらいね。それに、召喚陣を起動させるのに必要な魔力も莫大なものになるようにもしたの。何かあったら即召喚、としないためにね」


 良かった。召喚被害者は私が思うより少なそうだ。


「一度召喚したら次の召喚に必要な魔力が溜まるのにもやっぱり二、三百年はかかるのよ」


 でも、魔族や魔素が増えたら、召喚せざるを得ない訳だ。


「魔族とか魔素は、増えないようにはできなかったの?」


 増えないようにしたら、勇者とか聖女の召喚率は下がるんじゃないの?

 私の質問にイリスは首を振る。


「簡単に調整できるものではないわ。魔族だって、いなくなれば良いと言うものではないの。魔族は魔素を吸収して生きるものだし…魔素は魔力の元になるのよ。貴女の世界の話を例に出すとしたら。人を襲う狼を絶滅させたら、鹿が増えて森がぼろぼろになった。とかね」

「なるほど」


 ある程度、持ちつ持たれつの関係なのね。

 てことは、魔族も絶対的な悪ではないのか。

 数が増え過ぎたから間引く。そんな感じか。

 飢饉だけかな。このループに入ってないの。魔素絡みならそうでもないか。

 でも、飢饉を放置してたら国が滅ぶのね。

 それを回避するための賢者か。魔法もかなり使える設定なんだろうね。


 召喚によって呼ばれるってことは、余程の緊急事態なんだろう。


 あれ?

 緊急事態?


「魔族とか、飢饉とか…聞いたことないよ。この国そんなにヤバかった?」


 そんなにヤバかったら、ウィリアムたちとの話に出るよね。

 そんな話はかけらもなかったはず。

 町に入った時だってそんな緊迫したものは感じなくて、のんびりしたものだった。


 そう言うと、イリスは苦虫を噛み潰したような顔になった。


「そんなもの起きてないのに召喚したのよ! しかも三人も!」


 三人って、さっきから言ってるよね。

 三人?


 召喚には、かなりの魔力が必要になるんじゃなかったっけ。


「魔力足りなくない?」

「そうよ。数が合わないの。絶対的に足りないはずなのにっ」


 イリスの眦がきりきりとあがる。

 おう、激怒してらっしゃる。


「足りないのに召喚したの? どうやって?」

「そこが一番の問題なのよ。あいつら、よりによって他国の魔力を掠め取ったの!」

「なんて極悪!」


 他所の国の召喚のための魔力を掠め取るなんて、酷いどころの話じゃあない。

 イリスも激怒する訳だ。


「何十年掛けての計画だったみたい。他国に留学した王族たちがこっそり召喚陣に魔力転送装置を仕掛けていたのよ。一国じゃ足りないけど、四国分の魔力だもの、召喚も可能になったのね」


 イリスは悔しそうに呻き、紅茶を飲み干した。


「転送装置なんて起動するまで存在もわからなかった…気付いた時には手遅れよ。他国も私も」

「用意周到と言えば聞こえは良いけど、とてつもなく乱暴な話だよね…」


 何十年も掛けて、隣国を騙して来たのだ。

 外交問題は大丈夫なんだろうか。


「魔力過多に見せてエルガイアの召喚陣は壊したけど、残りの国の召喚陣は魔力が空っぽであることに変わりはないわ…次に魔力が溜まるまで、何が起きても他国は助け手を呼べないのよ…」


 イリスは悲しそうに瞳を伏せた。

 今はまだいい。

 エルガイアに勇者たちがいるから。


 何かあれば、それなりの対価を払えば各国に派遣してもらえるんじゃないだろうか。

 しかし、勇者たちに寿命がきたらどうするのだろう。


「勇者たちは…長生きだったりする?」

「寿命は常人並みよ。人間だから頑張って百年じゃない?」

「で、次に魔力が溜まるのが二、三百年後…勇者たちの寿命を引いても、百から二百年……何か滅びちゃいそうね」


 次の召喚までの時間が長すぎる。

 世界がとは言わなくても、どこかの国は滅びそうだ。

 いや、滅ぶだろう。


「イリスは…手を出さないんだよね?」

「ええ、悲しいけれど滅ぶのだとしたら、それが運命よ」


 エルガイアが暴挙に出たからと言って、イリスが動くわけにはいかないのだ。

 徹底してる。


 その公平さが、女神の特性なのかも知れない。


「辛いね…」

「そうね…」


 先ほどまでの怒りは引っ込んでしまい、イリスはしゅんとする。


 そして、ひとつ深呼吸をして顔を上げた。


「決まってもいない未来の話は止めましょう。リムは現在が大事でしょう?」

「そうだね」


 百年後なんて私だって生きてないもんね。


 今生きてる自分が大事よねー。


「まずは私が巻き込まれた経緯はわかりました。けど、迷いの森で目を覚ましたのはなんで?」

「町でも良かったのだけど、貴女が異界から来たことが城の連中に知られたらどんな目に合うかわからないもの」

「…え?」

「召喚を強行するために他国の魔力を掠め取るような連中なのよ? 四人目がいたら絶対目を付けると思わない?」


 こくこくこく。


 私は赤べこみたいに首を振った。


 絶対、ヤバい。

 ただでは済まない気がする。


 だって、勇者でも聖女でも賢者でもない四人目だよ。

 実験動物コースまっしぐら?


「今のこの国は、人間の方が怖いと思うわ」

「いろいろ気を遣って頂いてアリガトウゴザイマス」

「グンソウが貴女に付いてくれるかどうかは…正直賭けだったわ…ごめんなさいね…こちらの世界に来てしまったら、私は干渉できないから…少しでも下心なく貴女に付いてくれるだろう、力有るものはグンソウしか思い付かなくて…」

「なかなかのインパクトだったけど、なんとかなったよ。今のところは酷い目にも遭っないし。イリスのお陰だね」


 買い物荷物を持ってたのも勝因だと思うわ。

 美味しい食べ物はアシダカ軍曹をも落としたんだから。

 私も元気でいられたし。食は大事よね。


「貴女は良い子ね」

「良い子っていう年じゃないんだけど」

「あらあら、リム。今の貴女、外見年齢は十五歳くらいなのよ」

「はひ?」


 変な声が出た。

 十五歳とは、これ如何に。


 イリスは目の前で、うふふふとか微笑ってる。


「貴女を再形成するときに、少し若くしておいたの」

「え、なぜ?」

「この方が可愛いと思うのー」

「まさかの趣味?」

「うふふふ…」


 特に理由もなく、イリスの好みの話だった。

 ウィリアムたちがやけに人のこと子供扱いすると思ったら、実際に子供だったとは。


 鏡をまともに見てないから、全く気付かなかった。森で一人だと鏡を見る必要がなかったし。


 まあ、ちょっとだけど最近お肌の調子が良いなあ、とは思ったのよ。

 痩せたかなあ、とも。


 十五歳と言えば、食べても食べても太らない時期だったからさあ。痩せたのはそのせいだったねね。


 妙かな、とも考えはしたけど異世界仕様だと思ったし。

 この呑気さも精神耐性のせいに違いない。

 え、違う?

 もういいよ、どっちでも。


「ま、まあ…若いのは、悪くはないよね…」


 ぴっちぴちからやり直すのも悪くない。うん。


「私の管理不行き届きから巻き込んでしまったリムには、幸せになって欲しいの」

「イリス…」


 本当に、優しい女神様だ。

 こんな女神様に目をかけてもらえる私は、実はとても運が良いのではないだろうか。


「あと、隠していた加護を解放するわね」

「加護?」


 まだ何かあるのか。


 ふわりとした風を感じる。

 え、もう終わった?


「これで魔法も使えるわ」

「魔法だって!?」


 やったあ。

 魔法ですよ、魔法。


 私、魔法が使えるんだって!






国際問題には…触れる予定は、多分ない。と思う。

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