表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/55

10 女神様に会いました

町を歩く。



 まとまったお金も手に入ったことだし、買い物に行こうか!


「何買おうかなー。鍋とか包丁とか台所グッズに、調味料とか…ヤバい。欲しいものだらけだよ」


 今の私なら、きっとなんでも買える。

 包丁はちゃんと良いものにしよう。

 調味料も良いものを選ばないと。

 油、油もいるよね。

 どんな油があるなかな。オリーブオイル? グレープシード? 胡麻油は? 菜種油かな。

 もっと別の、未知の油かなあ。

 油があると揚げ物ができる。


 豚カツ食べたい。じゅるり。チーズも欲しい。チーズカツ美味しいよね。


「リム、落ち着け」

「そうよ。まず、欲しいものリスト作ろう?」

「そうだよ。勢いだけで買い物したら駄目だよ」

「そうそう」


 夢を膨らませて買う気満々の私を、ウィリアムたちは一斉に宥めにかかる。


「う? うん…そうだね、リストを作ろう」


 そうだ。お金は無限じゃない。

 余計なものは買わないように、リストを作るの良い考えだ。

 買い物は冷静に。

 お腹空いてる時に、食べ物買いに行くなってことだよね。


 了解、了解。


 小さく深呼吸して、気持ちを落ち着かせる。

 と、通りの向こうから、しゃかしゃかとふぅちゃんがやって来た。

 蜘蛛って移動速度早いのね。なんて言うか、滑るように来たよ。


「おー、ふぅちゃんお帰り」


 このまま肩掛け鞄に入るかと思ったら、頭の上のひぃちゃんも地面に降りて合流する。

 そして、二匹揃って私に向かって前足二本を挙げた。


「え、なに?」


 蜘蛛のゼスチャーとか解らないんですけど。難解過ぎるよ。

 首を傾げていると、二匹は数メートル進み、立ち止まると私を振り返り再び前足を挙げた。


「…もしかして、着いて来いって言ってるんじゃないのか?」


 みんなで首を傾げている中、ウィリアムが恐る恐る言う。


 と、二匹は挙げた手をチャカチャカ動かした。


「どうやら、そうみたい」

「どこに着いて来いって?」


 行き先は解らないけど、私たちは二匹の後を追っかけた。


 大きな道を進み、幾つか角を曲がると突き当たりに建物がある。

 明らかに、普通の民家とは違う形だ。


「教会だ」

「教会?」


 私の知っている教会と、似てるけどちょっと違う。

 十字架とかない。入り口の大きな扉の脇に石像みたいなのがある。

 寺院なら仁王像みたいな? でも、設置されているのは一体で女性だった。


「女神…様?」

「そうだよ。イリスファルン様」

「イリスファルン様が、世界を作ったんだ」


 ほお。

 世界を作った女神様。

 唯一神か。


 こちらにも宗教はあるのね。ウィリアムたちの様子から、女神様は結構慕われてる?

 っていうか、気安い感じ。


「あ、あれ? ひぃちゃんもふぅちゃんも教会の中に入って行くわ…」

「なんかまずいの?」

「一般的に魔物は、教会の中には入れないんだ。聖なる力に反発するからな」

「でも、全然余裕で入って行ったよ?」

「従魔だからか?」

「いや、コークス。従魔って言っても形だけの筈だろ?」

「そうだった」


 ウィリアムたちは首を傾げている。かなりイレギュラーな事態らしい。

 確かにひぃちゃんたちは魔物のはずだ。

 従魔っぽく見せているだけで、私たちに主従関係はない。


 そうなると、教会には入れない訳で…

 なんで入れるの?


「とりあえず、中に入ろう。まさか、ひぃちゃんたちが迷惑をかけてはいないと思うけど…」


 入れない筈の魔物が入っていたら、教会の人はパニックになるんじゃないだろうか。


「それもそうだ!」


 私たちは慌てて教会に駆け込んだ。


 扉の向こうは広い空間だ。

 礼拝堂らしい。

 ベンチらしき質素な椅子がいくつも並んでいる。


 礼拝堂の突き当たりには、再び女神様の象があった。


 こちらは小さい。その代わり、すごく繊細な彫刻が成されている。

 ご本尊ってやつかな?


「こんにちは」


 礼拝堂にいた女性が私たちに挨拶をする。

 シックな黒のワンピースを着ている。幅十五センチくらいの濃紺の肩掛けみたいのなんだろう。

 初めて見た。


「こんにちは、シスター」


 ジュエルが女性をシスターと呼んだ。

 立場的にはシスターなんだろう。

 私が知ってるシスターとは服装は違っても雰囲気は同じだから、なるほどと思う。

 あれ?

 もしかしたら、シスターって自動翻訳か何かかかってる?

 本当はもっと別の呼び方なのかも知れない。

 けど、対応はシスターでいいかな。


 まあ、私、シスターとか神父さんとか牧師さんとかと、まともに話したことないんだけどね。


 日本人なんて、そんなものよね。神主さんやお坊さんとだって、話をしたことないよね。


「えっと、折角だから女神様にお祈りした方がいい?」


 ジュエルにそっと聞くと、頷かれた。


「そうね。あ、お布施はあの像の足元にある銀の皿に置いてね」

「はあい」


 ひぃちゃんたちは見つからないが、まずは女神像にお賽銭をば。

 相場が解らないので、銅貨を一枚。


 一歩下がって、膝を付いて胸元で両手を合わせて目を瞑った。一般的なお祈りスタイルだ。

 これなら作法としては間違ってないでしょ。


 その瞬間。


「やっと来たわねー」


 えらい能天気な声が響き渡った。


「はいぃ?」


 思わず目を開けると、そこは礼拝堂の中じゃない。

 何もない白い空間に、女の子がひとり。高校生くらいかな。

 ベビーピンクの髪がふんわり輝いている。スタイルは、安定のボンキュボン。う、羨ましくなんかないんだからね。


 女の子の顔は、何か見たことあるような…あれ? 女神像に似ている?


「女神…様?」

「そうよぉ。私がイリスファルンよ。特別にイリスって呼んでも良いのよ?」


 イリスは私にドヤ顔を決める。

 おおう、やっぱり女神なのか。


「えっと…じゃあ、イリス……?」

「もっと驚いても良いのよ? って言っても精神耐性MAXにしたから、多少のことでは動じないわよね」


 仕様がないわね、とイリスはため息をついた。


 ん? 精神耐性?


「精神耐性ってなに?」

「ちょっとやそっとのことでは動じないってこと」

「え、なんで?」

「そうしないと、迷いの森でパニック起こしちゃうでしょ? あそこでパニック起こしてたら、命が幾つあっても足りないわ」


 えーと、えーと。

 何か、今いろんなこと言ったよ、この女神。


「貴女が言うところのグンソウは、人間に対して特に敵対はしないんだけど、いきなり攻撃されたらやり返すし、思いっきり怯えられたり、嫌悪された相手の世話してやろうなんて思わないでしょ?」


 えーと、それはつまり…アシダカ軍曹を前にパニックにならず普通に接することが出来たのが良かったと?


 そうかあ。

 でかい蜘蛛を目の当たりにして、割りと冷静な自分のことは流石におかしいとは思ってたんだ。

 壊れたとか頭おかしくなったのかとも思ったけど、そうじゃなかったのね。

 ちょっと安心した。


 ん? もしかして、呑気度に拍車がかかってるのも精神耐性のせい?


 何て言うか。何があっても、まあなんとかなるよねー、的な。


「軍曹に助けてもらったのは、ホント助かったよ-」

「でしょう?」


 イリスはばいんな胸を張った。

 く、くうぅ、羨ましくなんか…


「グンソウを味方に出来るかどうかで、生存率は格段に変わるから」


 迷いの森の主の力は伊達じゃない。


 その威力は目の前で堪能させて頂きましたとも。


「いや、でも…何で私、迷いの森なんかに?」


 いたんだろ?

 気がついたら森の中だった。


 その直前にいたのはスーパーだったのに。


 私の問いにイリスは苦々しい顔で息をつく。


「私が、貴女を迷いの森に送ったの」

「ぇ、なんで? 危ない場所なんでしょ?」

「確かに危ないけれど、別の意味で貴女にとって一番安全な場所なのよ」

「迷いの森が?」

「迷いの森が」


 意味が解らない。

 けど、イリスが悪ふざけとかで私を迷いの森に送った訳ではないと言うのは雰囲気でわかる。


 何て言うか、苦肉の策って感じ。


「一体、何がどうしてこうなったの?」


 聞かずにはいられない。だって私は当事者だからね。


 イリスがいろいろ配慮してくれたらしいけど、今の状況ではさっぱりだよ。


「長い話になるから、座りましょう」

「座る?」


 この何もない場所のどこに?

 と思ったのは一瞬だった。

 瞬きするほどの間に、ソファーセットが出現していた。


 白い革貼りのソファーだ。

 ローテーブルには紅茶セットとクッキーらしきお菓子のお皿が乗っている。


「座って」

「…うん」


 促されてソファーに座る。

 わわわっ、すんごい座り心地が良い。

 紅茶とクッキーは、美味しい気がする?


「美味しい…?」

「かも知れないわね。ここは精神世界だから、本当は味はしないわ。リムは自分が知っている味を思いだしているのよ」

「なるほど」


 道理で食べたことがあるような気がした訳だ。

 精神世界なら紅茶セットはいらないんじゃないかと思ったけど、間を持たせるには丁度良いアイテムだ。

 多分、そんな理由であるんだろう。


 イリスも紅茶を一口飲む。


「あら、美味しい」


 もしかして、イリスも私と同じ紅茶を飲んでいるのだろうか。


 だとしたら精神世界、便利ね。


 ただ、相席した人の味覚が壊れていたら地獄を味わうことになるかも知れない。

 メシマズ、相席不可でお願いします。


「さて、話を続けましょうか」

「あ、でも。あんまり長くなると…」


 ウィリアムたちが心配しちゃうんじゃないだろうか。

 いきなり、目の前から消えた形になってるのかな?


 精神世界なら、精神だけ来てるのかな?


 だとしたら、目の前でいきなり気を失ってたり?


 不安になっていると、イリスが微笑んで首を横に振った。


「大丈夫よ。こちらでどれだけ時間が経っても向こうでは、一瞬よ」

「精神世界、すごい」

「そうよぉ」


 誉められて嬉しいのか、イリスが再びばいんな胸を張った。


 だから、羨ましくなんか…


「だから、心配はいらないわ」


 そうして、イリスは話を始めた。






ここは女神様の世界です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ