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1 今日は五%オフとポイント二倍デーです。

とりあえず始めてみる。

クモ注意。


先行きは実に不安。


 十日、金曜日は五パーセントオフ、アーンドポイント二倍!

 と、きたら、会社帰りに寄らない選択はない。買い置きを予定していたものも、ガンガン買っちゃうよー。


 シャンプー、コンディショナー、ボディソープ、あと歯みがき粉。洗剤も買っちゃおうかな? 車だしね。屋上の駐車場まではカートで運ぶから、多少重くても大丈夫だし日持ちするから余分にあっても問題ないし。あ、洗剤買ったら柔軟剤もセットだよね。匂いがきつくないのがいいなあ。グリーンフォレストの香り? マイナスイオン的な? じゃあこのセットで。


 あ、野菜ジュースも買わないと。独り暮らしは野菜が不足気味でさ。せめて野菜ジュースでビタミン摂取してるのよね。うん、いろいろ間違えてるのは承知の上だよ。でも採らないよりはマシだよね。

 おお、季節の味は桃だよ。これ美味しーのよねー。あ、しかも選り取り六つでサンキュッパ? 買わねば。えっと桃六つは固定で次の六つは、洋梨ミックス? アップルハニージンジャー? どんな味か気になるからお試しで買ってみよう。定番トマジューで各二つずつ。合計一ダースっと。あと麦芽豆乳の三個パック一つ。麦茶は二Lでしょ、緑茶も二L一本。

 特売コーナーもチェックしないと。いいものが安く出てるんだよね。ん? スティックタイプのコーヒーセットがが値引きついてる! コーヒーはこれで暫く持つね。

 お、チョコレートアソートが半額? しかも別メーカーのもあるとか、買わねば! 隣のチーズスナックも半額だよ。甘いものの後にはしょっぱいもの食べたくなるよねー。ってことで、はい買いましょう。他に値切りでめんつゆは半額。買っておくか。クリームシチューとビーフシチューのルーは三割引きだ。買っておこう。お、黄金のゴマドレ? 半額なら買うし。ゴマドレ、つい買っちゃうんだよねー。確かストックはもう二つくらいあるけど、いいや。ゴマドレ大好きだもん。この間買った、特選ゴマドレとどっちが美味しいかな。楽しみー。


 明日の朝とお昼は、スナックパックでいいか。二個でイチキュッパだって、安い。じゃあ、ハンバーグと照り焼きチキンとティラミス? と小倉マーガリンと。


 とりあえず、こんなところですか。買い忘れはないかな。今日のところはこれでいいかな。

 夕御飯、面倒くさいなあ。惣菜を買ってご飯はレンチンするか…んーお弁当でいいや、三割引だし。白身魚のフライ弁当にしよっと。

 うん、オーケーオーケー。支払いはカード一括で!


 あー重たいものばっかり買っちゃったなあ。お弁当以外は日持ちするものばかりだから、いいんだけどね。

 食品と日用品を別々のエコバッグに入れて、カートに積み直して、さあ帰ろう。


 エレベーターのボタンを押して…あ、メール来てる。誰だ?

 エレベーターも来た。


 スマホ画面見ながら、エレベーターの中にカートを押し込んで…たら、何でか落ちたーーー!


 まさか、エレベーターの床がないなんて思わないでしょ!

 エレベーター事故?

 エレベーターのメーカーどこだった? 前にニュースで名前一杯聞いたとこ?


 確かめ様もないし!


「マージー!?」


 叫んだところでどうすることもできないまま、私は落ちた。ひたすらに落ちた。


 やっぱり、ながらスマホは駄目ねー。


 近藤里美、ニ十八歳。普通の会社員の人生は、かように訳の解らないまま終わった。


 後悔も、反省もする余裕はなかった。

 別に喪女であることに後悔はないわよー!


◇◆◇


 目を覚ましたら、見知らぬ天井…ではなかった。


 何か、空。雲一つない、空。うーん、空が高いなあ…


 って、私エレベーターから落ちたんじゃなかった? しかも、会社帰りだから、夜だよ? 青空なんて見えるはずないでしょ。

 もしかして、一晩中気絶してた? いやいやいや、だからエレベーターに落ちたんだって。

 建物の中に空はないって。


 慌てて起き上がる。


 ん、怪我はない。立ち上がり自分を見る。ダウンのコートは破れてもいないし…地面を見ても、汚れてない。

 高いところから落ちたら、この辺り血の海だよね?

 そんな痕跡はない。


「…どゆこと?」


 大体、ここはどこよ? スーパーはどこなのよ?


 顔を上げれば、目の前に直下たつ、断崖絶壁の崖。


「この崖から落ちた…っていう感じでもなさそう? 落ちた時の浮遊感は覚えてるんだけどなあ?」


 うーん、訳わからん。

 考えていると、がさりと物音がした。

 思わず音のした方を振り返りかっちり固まる。

 私の目の前に姿を現したのは蜘蛛だった。足が長くてでかい蜘蛛。

 ミニバンより大きい?マイクロバスサイズ?

 そんな蜘蛛が私を見下ろしている。余りの衝撃に私の感覚は完全に麻痺した。


 おおースペクタクルー!

 怪獣大戦争だー!


 個人的にはモスラが割りと好きー。


 感想がこれな時点で、確実に私の精神状態はアレである。


「でかいアシダカ軍曹だー。すごーい!」


 唖然とでかいアシダカ軍曹(仮)を見上げつつそう言ったら、アシダカ軍曹は長い足をモゾモゾ動かした。

 なんか戸惑っているように見える。

 あれ? アシダカ軍曹が可愛く見えるよ?


 混乱、際まってる…

 私、ヤバい?


「ガルルル…」


 戸惑うアシダカ軍曹と見つめ合う? 睨み合う? こと暫し、別方向から唸り声がした。

 こっちは非友好的な感じだ。アシダカ軍曹が友好的かどうかは解らないんだけども。


 唸り声と共に姿を現したのは狼だ。子牛くらいの大きさ。

 なんかいろいろサイズ感おかしくない?


 狼は血走った目で私を睨んだ。


 はい、餌認定されましたー!


 さすがにこれはヤバいとは思ったけど動けない。


 前門のアシダカ軍曹、後門の狼。


 どちらも脅威だ。

 万にひとつも私が勝てる見込みはない。


 余程お腹が減っているのか、狼は脇目も振らず私に飛びかかってきた。

 あーーー。

 絶望の声さえ出ない。


 ざくっ。


 しかし狼の爪や牙が私に掛かることはなかった。


 何故なら、アシダカ軍曹が八本ある足の一本を伸ばして狼を串刺しにしたからだ、

 瞬殺だった。


 アシダカ軍曹、戦闘力ハンパないよ。あれ? アシダカ軍曹ってナイフみたいな爪持ってたっけ? 八本の足全部がナイフ装備とか、怖すぎるんですけど。


 呆然と立ち尽くしていると、アシダカ軍曹はひょいと私を跨いで、狼に近付くと、絶命した狼を私の目の前にぐぐいと押し出した。


「は? いやいやいや、軍曹。ありがたいけど私は爪も牙もないから、狼を皮ごともらってもどうすることもできないよ?」


 アシダカ軍曹に向かって爪を見せ口をイーって歯を見せる。先月治療が終わったばかりなので、虫歯はない。歯周病もない。えへん。


 しばらく身動ぎもしなかったアシダカ軍曹は、シャキンと前足を振り上げ、シャキシャキと狼を捌き出し、あっと言う間に狼は皮と肉になった。

 今度は肉の塊が、押し出される。


「あ、えっ? 捌いてくれたの? あ、でも軍曹。本当に申し訳ないんだけど、生肉食べたら私、きっとお腹壊して死ぬと思う」


 無理、生肉とか絶対無理。

 現代日本人の潔癖を舐めるな。私は生は魚介と馬しか食べん。


 っていうか、さっきからアシダカ軍曹、私の言葉に反応してるよね?

 言葉、通じてるってこと?


「アシダカ軍曹…もしかして、私の言うことわかる?」


 聞くとアシダカ軍曹は右前足を挙げた。


「アシダカ軍曹、すごーい!」


 絶賛すると、アシダカ軍曹はモジモジした後、狼の毛皮を私に差し出した。肉はアシダカ軍曹が食べた。


「あ、ども」


 思わず毛皮を浮けとったら、毛皮が消えた。


「あ、あれ?」


 まさかの毛皮消滅?


 毛皮、どこ行った?


 キョロキョロしてたら、再び毛皮が手の上に現れる。


 もしかして、マジックバッグ的な空間収納的な何か? それを私は持っている?


 毛皮をどこかに仕舞う素振りをすると、毛皮が消えた。

 やっぱり、空間収納かあ。


 つまり、ここは異世界的などこかってことだよね。いや、でかいアシダカ軍曹とかでかい狼がいる時点で間違いなく、私の生まれ育った世界とは違うってわかってたけどね。


 でも、空間収納のお陰で、魔法的な何かが存在することもわかったのはラッキーだった。


 とは言え、折角の空間収納なのに入っているのは毛皮だけって、侘しい。

 そういや、スーパーで買った食料はどうなったんだろう。

 ハンバーグサンド食べたい。


「ハンバーグ…」


 呟いたら、手のひら上ににスナックパック、ハンバーグが現れた。


「え、これ、ハンバーグ? なくなったんじゃなかったの?」


 パックを破って、かじりつく。


 うん、安定のハンバーグ。トマトソースが美味しいんだ。デミグラスソースのハンバーグも好きだけどね。


 でも良かった。食料があったよ。生肉に挑戦しなくてもいいよ。


 でも、後々のために節約はしておこう。

 スナックパックは二つあるから、食べるのは一つにしておこう。


 残した一つは空間収納に戻す。

 では、残りを食べよう。


 ……アシダカ軍曹が目の前でモジモジしている。

 視線? が、スナックパックに注がれていると言うか、刺さっている。


「食べる?」


 スナックパックを半分千切って差し出すと、アシダカ軍曹は器用に前足で受け取り食べた。


「!!」


 食べ終わった途端、アシダカ軍曹がゴロゴロとその場合に転がり出した。


 えええー!?


「ちょ、アシダカ軍曹大丈夫?」


 どした? どした?


 起き上がったら今度はびよんびよん跳び跳ねる。


 もしかして、美味しかったのかな?


「…美味しかった? のならいいんだけど」


 アシダカ軍曹は謎のダンスを踊っている。


 私は生暖かい気持ちでそのダンスを眺めていた。





のんびり、発進しまーす。

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