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第91話 自分探しの旅

 

 信仰は力だ。


 と、いう感じで漫画とかではよくそれでパワーアップするキャラがいる。まぁ、そんな感じを目指してヒズミさんを名乗って愚民を煽ってみたが……。

 効果はあるのだろうか?


「おらぁ! 何見てんだゴラァ!」


 ヒズミさん人形を乗せた神輿を担ぐヒズミ教の団体が、新たに侵略しに来た街を練り歩く。

 突然現れたよそ者かつ異様な雰囲気を醸し出し、怪しげな日本人形の様なヒズミさん人形を崇めるカルト集団に絡もうという稀有な人間は当然の如く居ない。遠巻きにヒソヒソと見守るだけだった。


 そして何が気に入らないのか集団の先頭に立つ少女が、チラチラ見てくる奴に噛みつかん勢いでヤンキーみたいに吠えている。

 その少女は、綺麗な緑髪がふわふわしていて、パッと見は森で小動物とキャッキャうふふしていそうな美少女だが、今は端正で可愛らしい顔を悪鬼に取り憑かれたかと思わせる程に歪めている。まぁ俺のことなんだけど、不機嫌を隠さず集団を先導している。


「テメェら……どこのシマのモンだよ?」


 おっと、どうやらこの街のヤクザもんが出張ってきたらしい。顔に傷を作った強面を先頭に肩を揺らしながら謎の強面集団がヒズミ教の前に立ち塞がった。

 だが、即座に飛び出したヒズミ教のイカれた信者が強面男に殴りかかった。その様な凶行に及んだ彼はどう見ても堅気の人間で、平時ならあんなコンクリ詰めが得意そうな強面に喧嘩を売ることなどないであろう奴だ。


 しかし、集団心理というか、群れた動物は恐ろしい。それを皮切りにヒズミ教とヤクザもんとの抗争が始まってしまった。


 結果として、街から街を渡り歩き勢力を伸ばしていたヒズミ教の数の暴力による勝利だった。

 どうやら喧嘩を売ってきたヤクザもんは外から悪い奴らが入ってこないよう自警団的役割を持つ『良いヤクザ』だったらしく、どちらかと言うと悪党の部類に入るヒズミ教が街の人間を人質に取った時点でこちらの勝利は揺るがなくなった。


 俺は何もしていないが、ヒズミ教は掲げる神様が悪いのかとても民度が低く、今もヤクザもんを足蹴にしながら街の若い女性を羽交締めにしている。

 なんて奴らだ……いつの間にか、ヒズミさん人形とかいう謎の日本人形を崇め始めて俺を蹴落とした連中はやはり頭がヤバいらしい。

 いや、その人形を作ったのは俺なのだが、そういえばヒズミさんの毛髪が練り込まれている。それが良くなかったのだろうか……。


 ボトッと俺の目の前にヒズミさん人形が落ちてきた。えっ? やだ、握り潰されたみたいになって首が取れそう……。俺力作のヒズミさん人形が破壊されている。

 一体誰が!? 勢い良く神輿の上を見ると、そこには予想外の人間の姿があった。


「なんだこの騒ぎは……」


 ハッ! ヒズミさん!?

 額を抑えて心底から呆れているヒズミさんだった。何故こんなところに? そう問いかける前にヒズミさんは指を一振りした。


 すると、今までの騒ぎが嘘のように静まりかえり、皆が正気を戻した様にキョトンとした顔をする。


「おい、解散だ解散。くそっ、予定外の悪目立ちだこっちは。おらっ! さっさと自分の家に帰れ!」


 描写するのが面倒いがとりあえず方々に散っていったヒズミ教の信者達。残されたヤクザもん達へ雑に回復魔法を掛けたヒズミさんがツカツカと勢い良く俺の胸ぐらを掴み、その場から飛び立つ。

 よぉ、ヒズミさん。助かったよ。まさかこんな事になるとは……。


「いや、ノリノリで煽ってたろ。だが、プレイヤーを介す事でまさか信仰を得るとは思っていなかった。それはともかくお前ふざけんなよ」


 バッサバッサと外套をはためかせながらヒズミさんは俺を掴んで空を飛ぶ。だが突如、下から魔法が飛んできて、それを防御せざるを得ないヒズミさんは俺を落としてしまった。

 服が破れたのだ。

 べちゃっと地面に落ちて死んだ……と言いたいところだが、俺を抱えてくれた奴がいた。破れた胸元を手で隠しながら見上げると、知らないおっさんだった。


「大丈夫か、嬢ちゃん」

「降りてこい! 魔王の手先!」


 横で杖を持つおっさん2が上空のヒズミさんに向かって吠えた。俺を抱えたおっさんと、おっさん2よりも後ろに控えたおっさん3が右手の『三本線』の『聖痕』を輝かせ、おっさんとおっさん2に何かしらの支援魔法をかけた。


「アイツはやばい……! 直感で分かる……!」


 めんどくさそうに下りてくるヒズミさんを見て、驚愕に顔を青ざめさせたおっさん3が後退りながら言った。

『一本線』のおっさんと、『二本線』のおっさん2がゴクリと唾を飲み込み武器を構えた。おっさんの武器は無骨な大剣だ。

 下ろされた俺はちょこちょこと脇に避けて、とりあえず思ったことがある。


 暑苦しいなぁ……このパーティー。女っ気がない。何故、俺が見かけるのはこんな色物ばかりなのだろうか。普通、支援職は女性とかにしとかない? それかもう一人女を入れるとかさぁ……。

 俺がそんな事を考えていると、やはり描写するのが面倒い程ささっと、おっさんズを一蹴したヒズミさんが俺の所へ歩いてきた。


「ちっ。足止めだ。こんなので止められると思われているのがシャクだが……目的は達成された。お前が鈍臭すぎてな」


 間髪入れず、遠方から飛来した白い炎が俺達の周りを焼く。ヒズミさんを中心に展開された防護魔法が無ければ俺は塵一つ残らないだろう。


「『初代賢者』ヒズミ。貴様が、よもやこの期に及んで神を名乗るとはな……」


 そういえばここは、広々とした草原である。悠々と歩いてきたのは、見たことのある異端審問官……確か、ロードギルと言ったか。


「ふん、どうやら《アイツ》が尻尾を見せたらしいな」


 その返しだけで、どうやら二人の間には通じ合うものがあった様だ。それ以上に言葉を交わす事はなく、互いの間にある空間が歪んでいると錯覚する程強く睨み合う。


 ヒズミさん。

 俺が話しかけると、睨むのをやめずに返事だけが返ってくる。


「なんだ、くだらん話なら聞かんぞ」


 いや、どういう状況?


「……誰かさんが私を名乗って、神気取りで信仰を集めたから、怒ってる。アイツらの上が」


 ああ……そうですか……。

 露骨に興味がなさそうな俺にヒズミさんはキレた。


「あのなぁ! お前がいらん事をしたせいで変に目をつけられたんだろうが! 異端審問の《極光》は私らには厄介なんだよ……! ハイリスもやられてたろ!」

『オーダーセイヴァー!』


 ヒズミさんが俺に向かって怒鳴り始めた瞬間、距離を詰めたロードギルの白く燃える剣が俺を貫いた。

 何故ならば、咄嗟にヒズミさんが俺を盾にしたからだ。


 ぐああああぁ!

 胸を焼く痛みに俺は悲鳴を上げる。え? 痛い? やだ、いたいぢゃん!


「「あ」」


 間抜けな二人の声を聞いて、俺は死んだ。




 少し離れた所で復活した俺は脱兎の如く走り出す。マズい、死んだ位置から距離はそう離れていない……二人ともが何を考えているか分からんが、とりあえず困るのが異端審問官は《スキル》を越えて痛みを与えてくる……? いや、あの『オーダーなんちゃら』って技が特別か?

 何はともあれ、痛いのは嫌だ。

 この場から逃げよう……しかし、どうやって?


 キョロキョロとしながら、先程ヒズミ教が暴れていた街に入り込む。さて、どうしたものか……俺は誰かにぶつかった。


「あら、ごめんなさ」


 ぶつかったのは女性だったが、異端審問官の服を着込んでおり、俺を見て目を丸くした。若く綺麗な女性だ。しかし、何処かで見た事が……。


「チ、ノ」


 少し、眉を歪めて寂しげに呟くその女性に誰かが重なった。血礼のシャイナと呼ばれた人だ。しかし、彼女はもっと歳を重ねていたはずだった。


「やはり、ここで神を名乗っていたのは、貴方ね?」


 もはや確信ともいうべき語気で女性は俺を強く見る。その視線は、どこか優しさを含んでいて……まさか、先生か? 俺の口から思わず漏れた。



 地響きがあった。

 そう遠く離れていない所で何かしらが衝突したらしい。恐らくはヒズミさんとロードギルだろう。それに一瞬、彼女が気を取られた隙に俺は走り出す。


「チノ!」


 ええい! どんな状況なんだこれは! なんか俺狙われてない!?

 後ろを確認して、伸ばされた手が俺を掴もうとした瞬間、別の所から伸びた手が俺に触れる。


 直後、視界が切り替わる。

 場所が変わっていた。いや、どんどん変わっていく。これは、何度も死んでセーブポイント間を移動している?


 テレビのチャンネルを変える様に景色が変わっていき、やがてそれが落ち着くと俺の目の前にはグリーンパスタの姿があった。

 横には、無限とぽてぽち、そして怪力ハングライダーの姿もある。久々に見たな、腕を組み石の上に座る半裸男が俺をチラリと見てニコリと笑った。


「なんか、お前追われてるな?」


 そうなんだよ。俺はため息を吐いて座った。肉体的には新品だが、なんだか心が疲れた。


「……ヒズミさんは、ペペロンチーノを使って『僕達プレイヤー』の、深奥に眠る『者』に干渉しているんだ。まぁ、ぺぺはただの中継機みたいなもんだから、珍しくとばっちりとも言える」


 解説をしてくれるグリーンパスタだが、少し間違えている。俺がとばっちりを受けるのは日常茶飯事の事だ。まぁ、そんな事だろうとは思ったが、シレッとまたややこしい事をコイツは口にした気がする。

 いや気にしない様にしよう。


 まぁ、礼は言っておく。しかしなんだ、俺達プレイヤーはどうしたらいいんだろうな?


「そこだよぉ。掲示板によると、プレイヤーが聖公国に集められてるらしいけど……なんだか、酷い実験みたいなのされてるんだって」

「ハッ、そりゃあ……《痛覚制御》も《不死生観》も解放していない奴ならキツイな」


 無限が他人事の様に鼻で笑う。


 そういや、俺が連れ去られた後、魔王様達はどうなった?


「あの後、ポラリス達帰還組とは別れたんだ。魔王ハイリスを訪ねてきた男がいてね……ドイルっていう、話に出てきてた人。まぁ、別れたというか、追い出されたというか」


 苦笑するグリーンパスタに腕を組んでいた半裸男が肩に手を置いた。


「まぁ、そんでコイツらは俺と合流したわけだ。そしたら、なんか変な宗教団体を作ってる奴がいるって噂が流れて……」

「そこに向かってたんだけど、どうやら異端審問官達も嗅ぎつけたみたいで、まぁ十中八九ペペロンチーノのせいだろうって向こうも考えたんでしょ? それより先にヒズミさんが着いたみたいだけど」


 やれやれと肩をすくめるグリーンパスタ。俺はそっぽを向いて、助けてなんて頼んでないんだからね! と叫ぶ。


「あー出た出た。すっかりぶりっ子だよ」


 ああ〜? 無限、テメーこそ、何石に座っといて内股に足プラプラしてんだよ、股の間に置いた手とかよ、なんか仕草がすっかりメスじゃねーかこのメス堕ち野郎が。


「だからそれをお前が言うの?」


 パン! と、グリーンパスタが両手を合わせた。


「で、どうする? 僕達は。ポラリス達は、魔王ハイリスの側で経験値を溜めて、現実世界への帰還が……『可能』なのかを探っていくらしいよ」


 あぁ、アイツら、帰還組って名乗ってるし、やっぱそれが目的なのか。だからそれがなんで魔王側に付く事になるのか分からんが。


「彼らが、実は魔王……魔王祭の発端なんだ。きっかけは、この世界とは『別の世界』から来た……つまり『異邦者』にしか読めない書物があって、そこに『世界間の移動』をする為の装置があると記載されていたらしいんだ」


 その装置がある場所に行ったら、『魔王祭』が始まったと?


「そう。僕の読みでは、恐らくその書物とやらは魔王の封印を解かせる為の餌だ。異邦者が魔王の封印を解く……それが、この世界本来の流れだろうね」


 本来の……ねぇ。


「僕達はイレギュラーだ。その為に呼ばれた『異邦者』ではないどころか、魔王復活の際に多くの《ファルナ》を吸収した。その結果、魔王ハイリスは弱体化して……奇しくも、そのおかげで《神》の支配からも少し逃れる事が出来たんじゃないかな」


 まぁ、俺らが異物だってのは薄々思ってたんだけど、どうしろって言うんだろうね。俺は空を見上げた。

 プレイヤーは皆が、何かしらのこの事態の当事者だ。でも、どこか疎外感があった。


 いい加減、俺達の出生の秘密とやらを探りにいくか。

 俺がポツリと言うと、どこか期待した様な瞳でグリーンパスタが俺を見る。


「その先に、『僕達の死』があるかもよ」


 どこか確信めいた言葉に、しかしその場にいる誰も驚かなかった。

 回りくどいぞ。お前が一番知りたい筈だ。プレイヤーのルーツってやつを。


「まぁ、呆れるほど死んだし。もうこの先に『本当の死』があったとしても……その時はその時だよね」


 ぽてぽちがどうでも良さそうに言った。


「俺はジムの経営があるから帰るぜ」


 最近龍華でジムの経営に力を入れている怪力ハングライダーは帰った。


「私は死にたかないけど、そんな祭りに参加しないってのはないわな」


 不敵に無限アンリミテッドインフィニティは笑う。




「『叛逆』の塔がある聖公国、恐らくそこで、僕達は自分達の正体を知れる」


 あんだけ逃げといて、自分で向かえってか?


「残念な事に、一番喜びそうなレッドがいない」


 まぁ……アイツなら、絶対どっかで出てくるよ。




 俺達は、この世界の事も、自分達の事ですら何も知らない。

 だから行く事にした。その先に、何が待つかなんて……考えるのは性に合わない。



 どこへともなく歩き出した俺達の前に、一人の人間が立ち塞がった。


「何もかも思い通りにいかない。だが……それが、結局丁度いいのかもな」


 ヒズミさんだった。


「来い。本来ならもう少し《力》を溜めたかったが……何事にも、機会というものがある」


 何仕切ってんだてめぇ!

 だがアイアンクローされてかつ脳を犯された俺は付き従った。


 そういや帰還組は何で魔王様に従ってんだっけ?


「まぁ向こうも向こうでなんか流れがあったらしいよ」



 *



 時を同じくして、聖公国には『聖痕の勇者』が集まり始めていた。

 異端審問官達は各地でプレイヤーを捕らえて地下牢に封じている。


 どちらも、すべての、というわけにはいかない。全ての役者が揃うなんて、都合の良い事は起きないものだ。

 殆どの者が知らぬうちに知らぬ所で色々な事件が起きて、そして終わっている。


 これは、所詮ただその程度の話だ。






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[良い点] プレイヤーにどう対処すればいいのか既にマニュアル化されてるのか。 でもつかまってるやつらも、ある意味祭に参加してるわけだから楽しんでいるのか? リスポンでセーブポイントを渡っていくバグ技…
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