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第8話 そろそろ飛竜を出したくて

 

 カランカランと小気味の良い音が店内に響く。辺りはもう真っ暗で、良い子は寝る時間帯だ。見た目的には子供だが、俺ことペペロンチーノは良い子ではないのでこんな時間になっても起きていた。

 店内に入ってきたのは30半ばの金髪を後ろに撫で付けた男だ。ラングレイ、久しぶりだな。


「あ、ああ久しぶり。昼に来た時に張り紙してあったから夜に来たけど……どうなってんの?」


  戸惑いながらラングレイは店内をキョロキョロとしている。確かに、昼間に来る時とは違い照明もどこか薄暗く淫靡な雰囲気である。しかし、一番の違いは……。


「あら、どうもラングレイさん。何か飲まれますか?」


 胸元の大きく開いた蛍光ピンクのドレスを身に纏ったロリ巨乳マスターがやたら色っぽい仕草でニコリと微笑む。ぅえっ、とよく分からない声を出すラングレイの方を思わず見ると、目をこすりながら信じられないといった顔をしている。


「一体何が……?」


 色々あってな……。俺が意味深に呟くと、空気の読める男はまぁいっかとカウンター席に座った。ふん、これだから男ってやつは。ラングレイの視線は胸にいっている。

 深入りして地雷を踏んでもアレだし、目の保養になるからそのままでも良いかという考えが透けて見えるぞ。そんなんだからモモカさんに相手されないんだ。

 またサーベルを置き引きしてやりたいところだが、随分前からこの店まで持ってこない様になったので他に何か迷惑をかけられるものがないか探す。

 今日は私服か、なんか無いかな。俺がジロジロと全身を見ている事に気付いたラングレイは持って来ていた紙袋から何かを取り出した。お菓子だ。


「東通りの店で新しく販売してたんだよ」


 わぁマカロンだぁ!俺は喜んでそれをむしり取った。ふむふむ、綺麗な色をしていますね。様々な色のマカロンが詰め合わせており、袋の中はまるで虹のようだ。


「あ、そうだ。魔女、お前確か竜商人に知り合い居たよな?」


 俺がマカロンに夢中になっている間に酒を注文してちびちび飲んでいたラングレイが突然そんなことを言ってきた。まぁ、確かにいるけど……なんで?


「俺の騎竜にも番を持たせてやろうかと思ってるんだけど、中々相性が良い子が決まらなくてな」


 ほう、それはまた面白そうな話だな?




『えっ、なんかキモいのいる』


 開口一番そう言ったのは、俺の目の前にいる空飛ぶトカゲさんだ。見上げる程の背丈に大きな翼、茶色っぽい鱗をしたドラゴンさんは俺の手から伸びるリードの先のオリーブを見て先程の発言である。

 なんだとこいつ、俺の可愛いオリーブになんて言い草だ。チラリとオリーブを見る。鱗は更に毒々しさを増した紫、瞳はより深い沼……身体も大型犬からライオン並になって来た。

 キモい……かな?ちょっと自信がなくなってきた。


『あれ、あんたアタシの言葉分かるの?』


 茶色ドラゴンは目をパチクリさせて俺を見てくる。プレイヤーには話す言葉と聞く言葉に自動翻訳機能が付いている。これがまた高性能ながら雑な仕様で、どんな言語だろうとプレイヤーが耳に馴染んだ……例えば俺なら日本語に翻訳されるので、聞いている言葉が実際にこの世界における何語なのかまで判断できない。話す言葉も同様である。

 おそらく俺達が魔法を上手く使えない事情に関わっているが、まぁ今はそれは置いておこう。


『じゃあうちのマスターに伝えてよー、いい加減モモカに入れ込むのはやめろって。マスターには無理だよ』


 多分こいつは今、竜同士にだけ伝わる竜語を話しているのだろう。知能が高くなった竜は人語も話す事が出来るようになるが、その前段階で自然と使う様になるのがこの言語だ。

 よって、多分普通の人からはキーキーだかキューキューくらいにしか聞こえてないのだろう。今も横でラングレイが不思議そうにこちらを見ているしな。


「俺もそうやって伝えているんだけどな、身の程知らずにも程があるぜ」


 とりあえず無視するのも可哀想なので竜と話すとしよう。当然俺の言葉はラングレイに伝わるので、俺と竜が何を話しているのか推測しようと聞き耳を立ててくる。そんな時だ。奴が現れた。


「さすがペペロンチーノ。俺には聞き取れない竜の言葉を聞くか……翻訳機能を強化するスキルか?」


 ニヤリと口角を上げながら近付いてくる、赤い髪の男が感心した様に言ってきた。その後ろにはトカゲ顔の竜商人もいる。こいつまだそこで働いているのか……。


「これはどうも竜騎士ラングレイ殿、いやぁ少し調べさせてもらいましたが中々の経歴をお持ちで」


 トカゲ顔の竜商人が俺達に向ける顔とはかけ離れた笑顔でラングレイにおべっかを使っている。全然対応が違う。

 それもしょうがないことだろう、この国で騎竜を持つことを許された存在……つまり竜騎士はかなり位が高い。エリート兵士なのだから。

 まぁ俺にとっては関係ないことだがな。俺はラングレイの背中をよじ登る。振り払われた。地面に転がった俺に何かの袋を投げつけてくる。何だこれ、芋けんぴ?硬いが、美味いな。


「どうも、軍経由で紹介される竜とは相性合わないみたいで、自分で探し始めた所なんですよ」


 俺が芋けんぴに似た食べ物をガリガリと夢中で食べている間にラングレイは話を進めていた。餌付けされる俺をレッドがジロリと見つめてくる、何だよ気持ち悪いな。


「そういえばだが、魔法の使い方がわかったと言っている奴がいる。掲示板情報だからどこまで信用できるかは知らんがな」


 なに!?それは聞き捨てならない。俺も魔法が使える様になりたい。


「やはり、この世界の人間とプレイヤーではプロセスが変わってくるらしい。アルカディアで学園に潜り込んでいる奴からの情報だ」


 プロセスだと?俺達の言語は自動翻訳されるが、それが関係しているのか?俺が知っていることと言えば、この世界の人間は古代語や精霊語と呼ばれる言語を用いて魔法を使っているということくらいだ。


「そこも大きな要因だが。何より俺達プレイヤーはこの世界で受けるシステムの恩恵が少ないという事だろう。三角関数を関数電卓無しで手計算する様な物らしい」


 実際にはもっとややこしいのだろうとレッドが続けるので、俺は魔法についてはまた今度頑張ろうと意気込む。

 システムというよりは法則というべきか。レベルによるステータスの補正値と同じなのだろう。俺達はこの世界においてプレイヤーという枠組みで人間とは別に分けられた生き物なのだ。人間と同じ法則が当てはまるわけではないということか。


 ハッ!いかんいかん、レッドに会うとほのぼの日常系から急に闇に突っ込んでいってしまう。ええい!やめろやめろぉ!そういう世界の謎とかプレイヤーの謎とかはどうでも良いんだよ!


「おいレッド!何してる!さっさと行くぞ!」


 おや、俺達が喋っている間に話が進んでいた様だ。とりあえずラングレイの騎竜……チャーミーを連れて竜商人のセッティングしたお見合い会場へ向かう様だ。


『アタシの心をグッと掴むオスはいるかしらねー』


 どこかウキウキ気分のチャーミーを先頭に皆は歩いて行く。とりあえず俺もオリーブの背に乗ってついて行くことにした。

 何故か案内される側のチャーミーが先頭を歩くし歩幅はデカイしで大変そうだが、竜商人の案内で一行が到着したのは、かなり天井の高い部屋だった。

 かなりデカイ扉が奥の方にあり、その手前には人間用のテーブルが置いてあった。俺とラングレイはそのテーブルの前に座り、チャーミーはその横にお行儀良く座る。


「ウチで紹介できるのは、実は二頭しかいませんで、しかし二頭ともに優秀ですよ」


 竜商人がそう言って、大きな扉がゆっくりと開いていった。そこからレッドの後をついて来る竜が一匹。白と黒のパンダみたいな鱗をしている。パンダ竜と呼ぼう。

 俺はチラリとチャーミーの顔を見上げた。むむ、微妙そう……か?


『顔がいまいちね……』


 顔と言われても俺には区別付かんがな。おい、オリーブお前はどうなんだ?問い掛けるが俺の愛竜は無視を決め込んできた。腹が立ったので頭を引っ叩くがオリーブがちょいと首を振り俺を吹き飛ばす、俺は地面をゴロゴロと転がった。

 前から思っていたがこいつ生意気だな。誰が主人か教えてやらねばならんらしい。俺は立ち上がって拳をポキポキと鳴らす。

 しかしラングレイに首根っこを掴まれて戻された。


「チャーミーはなんて言ってるんだ?」


「顔が微妙だって」

 

 パンダ竜は割とチャーミーの事を気に入ったのか好意的な視線を送っているが全く相手にされていない。 おいチャーミー、あんまり選り好みしていると行き遅れるぞ。誰の事とは言わないが、親切心からそう伝えた。


『アタシぶち模様のオスは好きじゃないのよね』


 ダメだな。一度無いと思った相手とはどうしようもない、人もトカゲも同じだな。よし、次のやつ連れてこい。しかしこいつわがままな奴だな。

 俺の言葉に頷いたレッドはぶち模様トカゲを連れて扉の奥へ消えていった。しばらくして別の竜を連れて戻ってくる。


 次のお相手は光沢のある黒色の鱗を持つ竜だ。中々シャープな顔つきだ。ふむ、これは?俺がチャーミーの顔を見上げると、なんとなくモジモジしているような仕草をしている。


『やだ、イケメン……。めっちゃタイプだわ』


 決定!!こいつに決定だ!はい終わり!俺は手をパンパン叩きながら叫んだ。ラングレイに頭を引っ叩かれる。


「待て待て、何だよお前、飽きてきたんだろ。顔合わせの次はトークタイムに決まってるだろう」


 というわけで、二匹の竜は向かい合って自己紹介し合う事となった。


『あの〜アタシ、チャーミーです。お名前聞いてもよろしいですか?』


 でかいトカゲが身体をモジモジさせながら頰辺りに手を添えている。それを微笑ましげに見守る俺達。


『……ガオロンマオ。ガロでいい』


 なんかスカした奴だな。俺が相手の竜に抱いた印象はまずそれだった。トカゲのくせに腕組みなんかしてやがる。


『ふん、俺にはまだ番いなど要らぬのだがな』


 鼻を鳴らし素っ気なく、そう続けるガロにチャーミーは少し驚いた様子だ。


『と、とりあえずお話だけでも、ダメですか?』


 しかしチャーミーはすぐに持ち直して笑顔?を浮かべる。中々健気だな、そんなに外見がタイプなのか?いや違うな、外見のハードルは越えたから次は中身を探ってやがる。強かなメスだぜ。


『……好きにしろ』


 こいつ照れてるのか?俺はガロに訝しげな視線を送りながらその挙動を観察する。むむ?尻尾が小刻みに揺れているな、ソワソワしているのか?俺は興味が湧いてきた。

 良いだろう、このお見合い。俺がキューピッドになってやる。ニヤリと口角を上げ、俺はレッドの方を見た。




『良い天気ですね……』


『……ああ。……青い空は好きだ』


 二匹の竜が重そうな足音を響かせて草原を歩いている。それを俺たちは離れた位置から観察していた。二匹ともソワソワしているが雰囲気は悪くなさそうだ。


「おお、いい感じだぞ。あんなチャーミーは見たことがない。どうやら気に入ってるみたいだな」


 俺の横には双眼鏡を覗くラングレイがいる。どうやら今まででは一番の好感触の様だな。どうやら外見は相当好みらしい。ならば後は、中身が合うのかどうかだ。

 むむ?ゴブリンが数匹歩いているな。竜に気付いてかなり驚いている様だ。嬌声を上げて逃げ出した、ところで突然巨大な影に踏み潰される。そ、そんな、こんなところに竜だと……?


『チャァ〜ミイィ、貴様は俺をコケにしタァ〜』


 どうやらチャーミーの知り合いの様だ、肩を揺らしながら二匹の元へ近付いていく。黒と白が混ざるぶち模様の竜だ。しかし様子がおかしい。目がイッている。


『おい……、これ以上近付くな』

 

 すかさずガロがチャーミーの前に立ちはだかった。チャーミーの目がうっとりとしたものに変わるのを見て、パンダ竜はより一層怒りを強めた様だ。


『舐めやがって……!こんな貧弱そうなスカシ野郎、俺がボコボコにしてやらぁ!』


『……!チャーミー!にげろぉ!』


 大地を揺らしながら二匹の竜が組んず解れつ暴れ回る、チャーミーはオロオロとしながら必死に声を掛けて止めているが、一匹のメスを巡る戦いは激化していくばかりだ。


「あ、あいつが何故ここに……!それにあの様子、まさか!」


 その様子をハラハラしながら見ていた竜商人が突然声を上げた。一体どうした?


「あの竜がうちの竜で何故こんなところにいるのかも疑問だが、何よりあの様子……あれは狂化キノコだ。嫉妬の魔女の森という危険地帯でのみ採取できる毒キノコなんだが、あれを服用すると理性を少し飛ばす代わりに身体能力が向上するという、あと腹をすごく壊す」


 な、なんだと……!はっ、確かにガロがパンダ竜に押されている。狂化キノコ、なんて安易なパワーアップアイテムなんだ。しかし、あのパンダ竜は何故勝手に外に出ているんだ?俺には分からない。

 ラングレイは俺を訝しげに見ている。まさかとは思うが、俺を疑っているな?


「いやさ、ちょうどあの森から取れる素材で金稼いでいる奴を知ってるもんだから」


 そうか、だがあえて言っておく。恋には障害がないといけない。つまりこれはそういう演出だと。


『グオアアア』


 そうこう言っているうちにガロの奴はその辺に吹っ飛ばされていた。すかさずチャーミーが側に駆け寄るが、ガロは息荒くとても辛そうだ。

 くくく、ここでパンダが負けたらどうしようかと思っていたが……計画通りだ。俺は含み笑いをしながら三匹の竜の元へ歩いていく。


『パンダ竜よ、後はチャーミーを攫って森に行くのだ』


 パンダ竜がこうべを垂れてくるので俺は頭の上に立ち腕組みなどをした。そのままパンダ竜が立ち上がると、おおすごい。人がゴミの様だ。俺は離れた所から冷めた目で見てくるラングレイと竜商人を見下ろしながらほくそ笑んだ。ちなみにレッドは無感情に傍観している。


 嫉妬の魔女の森という長いネーミングの陰気臭い森の中は魔力を上手く扱えなくなるという、しかし狂化キノコには元々そういう作用があるので今更だし、俺はどのみち魔力なんて上手く扱えないので問題ない。

 あとはチャーミーをそこに連れて行って、囚われている所をガロに助けさせる。完璧な筋書きだ、興味本位で狂化キノコ食わせたら思った以上に凶暴になったので最初に考えていたより過激な結果になってしまったが……うん、しょうがない。チャーミーの貞操が危ないかもしれないが俺にはもう止められない。


『くくく、あんたは悪だぜ』


 いやお前には負けるよ、女にフラれて逆恨みってダサすぎるが。パンダ竜が肩を揺らしながら歩いていく、ガッとチャーミーの肩を掴んだ。


『おい、ついて来い。お前にはメスの喜びって奴を教えてやるよ』


 パンダみたいな可愛い柄してるのに清々しい程のクズじゃないか……。俺は頭の上で偉そうに突っ立っているが内心引いていた。どうしようか、俺はドキドキする様な展開を作りたかっただけなんだが。


「あいつ引っ込みつかなくなってない?」


「絶対なってる、そういうとこあるよね」


 なんだかラングレイ達が俺をバカにしているのが聞こえてくる。おい、お前の竜だろ。助けてやらんか。


 グイッとパンダ竜がチャーミーの肩を引き寄せた。寄ってこなかった、ビクともしない。え?パンダ竜がオロオロしているのが伝わってくる。おや、これはまさか……。


『どいつもこいつもなんて情けないの……』


 心底ガッカリしたような顔だ、多分。爬虫類の顔色を読むのには慣れていないので。チャーミーはなんかこう、冷や水をかけられたとでも言いたげな顔で立ち上がる。

 すごい圧だ……!俺を頭に乗せたままパンダ野郎が尻餅をついた。俺は衝撃でその辺にゴロゴロ転がる。


『ひ、ひぃっ……』


 パンダ竜はチャーミーから発せられる殺気によって完全にその牙をもがれていた。俺はその余りにも酷すぎる雑魚っぷりに感心すら覚えて笑っていると、チャーミーさんはとんでもない発言をする。


『あんた達、せっかくのいい気分を台無しにしてくれたんだから、わかっているわよね?』


 ……達?ちょっと待ってよ!俺は大声で異を唱える。

 俺はお前の事を思ってこいつに加担したんだ!いやむしろこいつに脅されたと言ってもいい!本意じゃなかった!俺は偽りのない真実を伝えようとするが、対抗馬であるパンダクズが口を挟んでくる。


『いやいや、オレは傷心したものの、ここまでの事をする気なんてなかった。だがこのガキが薬を使ってオレを洗脳したんだ、痛い目に合わせたくないか?って、いやほんとなんでこんなことしたんだろうね?洗脳ってこわい』


 な、何を言いやがる!ノリノリだったじゃねぇか!むしろ提案した俺が引くくらいのテンションになってきてただろうが!舌舐めずりしながらニヤついていたこいつの顔を俺はしっかり覚えている。

 ズン……。地響きと共にチャーミーが近づいてくる。俺とクソパンダのピーチクパーチクはどうでも良いらしい。


 いや待て待て、レッド!あいつも共犯だ!あいつの手引きがあったからこんな事になったんだ!おいレッドお前も来い!

 痛い目に合わされる結果は変わらなさそうなので道連れを増やす事にした。レッドはというと、少し面倒くさそうな顔をしてこちらに歩いてくる。あ、来るんだ。


「やれやれ、まだレベルは上げたりないんだが」


 そんな事を言いながら剣を抜くレッド。え?戦うんですか?俺達の前に立ち剣を構えるレッドにどこか既視感を覚えたが……しょうがないとばかりに俺とパンダ竜はレッドを激励する。やっちまえー!

 レッドが駆けた、速くなっている……!踏み込みの違いだ。以前とは体捌きが違う、レベルの違いは分からんが間違いなく動きに無駄が無くなっている……!戦えば戦うほど強くなる、こいつはそれを体現している。チャーミーが尻尾を振って弾き飛ばした。


 どこか遠くの方へ飛んでいくレッドを目で追いかける、見えなくなったところで俺とパンダ竜は目を合わせた。ふふっと笑い合うと、俺は石を拾って猛然と駆け出す。死ねいチャーミー……!横には同じく動き出したパンダ竜がいる、今俺達は強大な敵に立ち向かう同志となっている。


『チャーミーパーンチ!』


 そして俺達は仲良くぶん殴られて空に放物線を描いて吹っ飛んだ。ふふ、何とかオチがついたか……俺は地面が近付いているのを見ながら意識を失った。

 




「結局あの竜もダメだったんだよ」


 多分自分より弱いオスは嫌だってタイプなんだろうな。俺は夜のモモカさんの店でラングレイにそう答えた。あそこまで実力差があるとは想定外だった。チャーミーが強い部類なのかも知れないが。


「ええー、それだったら俺の上司の騎竜とかじゃないと条件満たさないじゃん」


 ちょっとそれはなぁ……。とラングレイがうなだれていると、一人の客が入ってきた。そいつは迷う事なく俺達の方へ歩いてくると、無断で俺の隣に座った。


「あれ?レッドだっけ」


 どうもとラングレイに答えるのはレッドだ。おい何しにきたんだ。俺は自分の聖域がこの廃人に侵された事に腹立てて、お冷に指を突っ込んでレッドに水をかける。

 しかしこの男はそれを無視して酒を注文している。おい無視すんな!


「竜商人のところはクビになった」


 そりゃ自分とこの商品を好き勝手にしてたらそうなるわな。だいたい俺のせいだが、基本的に俺は罪を認めないので知らん顔をしている。そんな俺を見てラングレイは信じられないと言いたげだが、当のレッドが特に気にしていなさそうなので何も言ってこなかった。


「そういうわけで、俺は暇になったしアルカディアに行こうかと思う」


 あ、こいつ。俺はすぐに察した、自分より先に魔法を扱うプレイヤーの噂を聞いて居てもたっても居られなくなったのだろう。

 それをわざわざここに来て話しているということは……。


「どうだペペロンチーノ、一緒に行かないか?」


 やはり、そういう誘いか。俺は即答で断った。こいつと二人で行動なんて出来るか、絶対に揉め事に巻き込まれる。いやどちらかと言うとお前が巻き込む方じゃない?と横の中年が口を挟んでくるが無視を決め込んだ。


「攻略組の一人が学園に居る、学園に入れるかも知れないぞ」


 成る程。学園……ね。つまり、制服を着ている若者がいっぱいいるわけか……。俺は少し考えた。制服姿ってやつは要は期間限定だからな。俺は期間限定とかそういうのに弱い。


「今は夏だからプールの授業もあるかも知れないな」


 よし、行くか。俺は即答した。




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