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第72話 キリエ


 俺の求めるカレー屋さんは迷宮都市にある。という事で進路変更をして迷宮都市に向かう。俺がそう言うと、オットーが焦り気味で俺の肩を掴んできた。

 なんだよ。


「いや、え? 魔王領に向かうんじゃないのか? 俺のこの知らん人達が湧いてくる呪いはどうする!?」


 まぁ待て。自分から強引に魔王領へ連れて行こうとしていたんだぞ、俺が。その俺がだぞ? 突然気まぐれにカレー食いたいと、何か考えもなく言うと思っているのか?


「つ、つまり、何か理由があるんだな……?」


 無論。


「信じていいのか?」


 何度も言わせるなよ。おら、行くぞ。

 踵を返す俺に渋々ついてくるオットー。その様子をグリーンパスタだけが可哀想な奴を見るよう瞳で見つめていた……。



 *



 だが当然のようにカレーを食べたい気持ちに、それ以上の理由など無かった。そんな当たり前の事をわざわざ説明してやらなければいけないのか。


 言い訳を考えながら迷宮都市にやってきて、行きつけのカレー屋に入って俺は考える。

 そもそも何をしに魔王領に行くんだっけ……。あ。ああ、k子のアホを捕まえるんだ。いや何故だ? 魔王様がそれを求めている……だからなんでだっけ。


「ここ、お気に入りの店なの?」


 テーブル席に座り、レッドとオットーがメニューを開いて何カレーを頼むか悩んでいる。それはさておきグリーンパスタが聞いてきた。

 まぁな、プレイヤーが関わっているのか、大分日本のカレーに近い味なんだ。故郷の味ってやつだ、お前も絶対気にいるぜ。


 迷宮ではあらゆる物が入手出来る。迷宮都市でしか手に入らない物は多いが、逆に迷宮都市で手に入らない物は無い。

 と、言われるほどだ。


「へぇ〜」


 だが迷宮とは変化し続ける、形のあやふやなものだ。なので安定供給は難しいという。例えば黄金キノコとか言う激レアキノコなんかは滅多に手に入らない。


「あ、そうそう。ヒズミさんの森あるでしょ? 僕的な考察では、あれは擬似的に迷宮を作っているんじゃないかと思うんだよね」


 ……な、何のために?


「彼女って色んなアイテムを作るから、その素材集めにじゃない?」


 それで人が入って荒らされない様に、中は魔力が乱れる不思議空間になっているのか。


「そうじゃないかな。この街の迷宮にだって様々な悪環境の、バッドステータスを常時押し付けてくるような迷宮もあると言うし。あ、僕このチキンカレーで」


 注文をしながら雑談をする俺達の会話が一旦途切れると、オットーが困惑気味に俺に言う。


「おい、本当にこの街に来る意味はあるんだろうな? なんか出てくる変なの増えてるんだけど」


 先程からオットーの横でプレイヤーが復活しては首を傾げながら外に出て行っている。リセマラが流行りだしたのは実は迷宮都市在住のプレイヤーからなので、この街が一番リセマラ廃人が多い。

 てかこいつら死ぬの癖になってんじゃね? 命はもっと大事にしろよな。


 俺はプレイヤーの命がさらに軽くなった事実に儚さを感じた。線香花火よりも儚いかもしれない。そして線香花火ほど美しくもないときた。


 カレーを食べながら俺は思う。

 もう、良いんじゃないかなぁ。別にk子達が何かしていようがしまいが関係ないし。ぽてぽちが攫われたって言ってもプレイヤーがやれる事なんて知れている。

 それにぽてぽちは、あれでも攻略組と呼ばれる変態集団の一人だ。βテスターの中でも一際イカれた才能を持ち、意味の分からない理屈で意味の分からない能力を発揮してくるのが攻略組だ。

 例えば筋肉大好き男なんて、実は身体を見ているだけで相手の動きを未来予測出来るような奴なのだ。もちろん現地人の動きもだが、身体性能的にその能力が活かされる事はほとんどない。


 だから助けるも何も、攫っていった連中をむしろ心配すべきではないか。もっしゃもっしゃとカレーを食いながら俺はそう主張してみた。


「いや、だけどぺぺは魔王に頼まれ事してるでしょ?」


 でも正直自分で捕まえたらよくね? ぴゃーっと飛んでってボコれば一瞬じゃね? 魔王様も復活してから何がしたいのかよくわかんないよね。


「俺達に対して宣戦布告をしてきている奴らがいる。戦う理由なんてそんなものだ」


 レッドが久しぶりに口を開いた。

 お前なんか理由つけて戦いたいだけでしょ? 他のプレイヤーって今はどんくらい強いのかなーみたいなノリでしょ?


「……プレイヤーは皆が独特の進化をしつつある。俺は、あらゆる可能性を見たい」


「いや、てかちょっと待て。俺を巻き込んでおいて、まさか放り出すつもりか?」


 ガタッと椅子を鳴らして立ち上がるオットーに俺はうふふと笑う。まぁ、お前が燻ってる間に熱意が冷めてきたっていうかー。確かにk子とかその周り? にいるらしい連中になめられてるのは良い気がしないけどぉ。

 そう考え始めたら少し苛立ちはじめてきた。なにかとチョロチョロしてくるk子に嫌気が差す。別に積年の仇敵とかそんな大したものでもない、ただ仲が悪い同族プレイヤーってだけのあいつに何故俺が振り回されねばならん。

 あっ、そうだ!


「な、なんだ」


 オットーがうんざりとした顔で俺を見る。

 ぐるりとグリーンパスタを見て俺はニコニコと言った。あいつ、無限アンリミテッドインフィニティを連れて行こう。喜んで来るって! あいつもレッドと一緒で自分の力をあわよくば見せたいタイプだし。


「相変わらず気まぐれだね……」

「お、おいどうにかしてくれ。もしくは呪いを解いてくれよ。コイツ言ってることが二転三転してついていけない」

「諦めた方がいいよ」


 呆れ顔のグリーンパスタに泣きつくオットー。まぁまぁ……。俺に振り回されて嫌気がさしてそうなオットーの肩をグワシと掴み、笑顔を浮かべて俺は言う。

 俺達から簡単に逃げられると思うなよ? 俺様を止めたければ身動きと思考全てを封印でも何でもするんだなっ! ふははははっ!


「今日テンション高いなぁ」


 カレーの日ってテンションが上がるものだ。皆そう。少し落ち着いた俺はちゃんと座ってまたカレーを食べ始める。牛すじカレーだ。口の中でとろとろに解ける肉が……。

 俺が脳内で食レポをしようとしたところで、食い終わったレッドが立ち上がった。


「俺は一足先にアンリミテッドインフィニティの元へ向かっている」


 アイツの名前長いよなぁ……。

 プレイヤーの中にたまにいるのだ、何をトチ狂ったのか意味わからん名前にする奴が。無限はその筆頭とも言える。

 俺達プレイヤー名前ネームはこの世界にぶち込まれた際に自分達で決めるが、その時点ではまさかそこで決めたものがもう変えることが出来ないだなんて思わない。


「僕は教会に戻ろうかなぁ。てかあの騒ぎからずっと姿消してたらもう、絶対死亡扱いされてるよ。僕のことプレイヤーだって知ってる人少ないんだからね」


 グリーンパスタが愚痴めいたことを俺に言ってくるが、そんなことを言われてもな。そもそもの発端はテメーだ。そして暴れまわったヒズミさんとデカい男に関しては最早俺に全く関係がない。


「俺こんなとこで何しているんだろう。何故こんなめんどくさい奴らに……?」


 落ち込んでいるオットーをちらりと見て、俺はグリーンパスタに語気強めに言う。

 あのな、お前がいなくなったら誰がレッドと無限の世話をすんだよ? 今筋肉野郎はいないんだぞ。まず俺の手には負えない、たまには俺の役に立て。


「僕からすれば君の相手もしなくちゃいけないわけだけど」


 光栄だろ?

 そんなやり取りをしている俺達を見て、オットーがグリーンパスタに憐憫の眼差しを向けている。だがお前な……自分の身体を『セーブポイント』に変えたのはコイツだからな? 分かってんの?

 グリーンパスタというやつは何となく人畜無害な空気を出す能力がすごい。接していると、本当に無害な奴なんだろうなと無意識下に刻まれていくらしい。そうして人の懐に潜り込んでいく。


 しかし、プレイヤーの中で『三狂』と呼ばれているのは伊達じゃない。レッドが『最狂』だとすれば、コイツは『最悪』だ。


 俺はその旨をオットーくんに説明してあげた。プレイヤーのセーブポイントを縛り付け、『死の一週間』を成立させたグリーンパスタというプレイヤーがマトモなわけがないのだ。

 オットーくんの目は冷たかった。


「ちなみにその『三狂』の最後は誰なんだ?」


 ん? ああ、レッドとグリーンパスタともう一人って意味か? 俺だよ?


「……グリッパくん、コイツはなんて呼ばれてるんだ?」

「『最害』、『破滅の魔女』、『堕天』。まぁ一番多いよね」


 うんうん。レッテル貼りって奴だな。被害者だよね、俺は。


「おい、あんた。まだ付き合いが浅いなら今のうちだぜ……」


 近くを通りかかった探索者が聞き耳を立てていたのか近くを通る際に呟いていく。そいつの連れらしき奴なんて同情するよと言いたげにオットーの肩を叩いていった。


「もう手遅れだけどね」


 ははっ、とグリーンパスタが笑顔を浮かべた。それを見たオットーが少し浮かない顔をしていたので、俺は「なっ? そいつはヤバイ奴なんだよ」とニコニコする。



「よりによってあの三人に絡まれるなんて、可哀想に……」


 俺達より先に店内にいたプレイヤーらしき奴の、本気で哀れむ声がオットーの耳にはやけに響いたそうだ……。



 *



「さっさと逃げておけば良かったな」


 最早開き直ったのか晴れ晴れとした顔でオットーはそう言った。


 カレーを食い終わった俺達はいい加減やる事やろうかと『無限』の元へ行く。奴は色んな現地人に弟子入りしており、探したければ師匠達を片っ端から当たっていけば大体見つかる。


 レッドによる情報から、俺達は寂れた道場の様な建物に来た。今はこの道場に滞在しているとのことだが……やけに中が騒がしかった。

 なんだ? と、俺達が顔を見合わせていると、突然何かが扉を突き破って転がってきた。

 そのズダボロの雑巾の様な物体は、なんとレッドだった。片腕を失い、腹や口から血を垂れ流しながらなんとか立ち上がろうとしているが、膝が地面から離れない。


「ど、どうした!? レッド!」


 最早日常の景色となんら変わらないので冷静な顔をした俺とグリーンパスタだが、オットーは真っ当に心配して駆け寄っていく。


「はっ。来たか、ペペロンチーノ、グリーンパスタぁ!」


 レッドと共に吹っ飛んだ扉の向こうから、誰かが叫んでいる。こちらに向かってくるそいつは、なんとプレイヤーだった。

 短髪に目つきの悪い女……どこかで見たことのあるプレイヤーだ。どこだったか、脳裏にマルクスと呼ばれる現地人の顔が浮かんで……思い出す。

 こいつは、キリエという名のプレイヤーだ。


 双剣のうち片方を肩に、もう片方をだらりと下に向けて、キリエはこちらに歩いてくる。

 彼女が発する殺意に、俺は眉をひそめた。


「『無限』の奴を狩りに来たのにお前らと会えるとはなぁ……ラッキーだぜ」


 謎の存在にオットーが身構える、それをチラリと見たキリエはニヤリと口角を上げた。


「ペペロンチーノ、お前はどうせコッチの人間を連れていると思ってたぜ。だから、ウチらもこうする事にしたんだ」


 瞬間、皮膚を痺れさせるほどの『闘気』……とでも言うべき気配が俺達をその場に縫い付けた。

 道場の屋根に人が立っている。みすぼらしい衣装……着物に似た服をだらしなく着込み、頭の上で雑に結われた髪が風になびいていた。

 口に咥えたタバコを宙に捨てて、火のついた箇所だけを一瞬で斬り落とす……いつ、その腰に提げていた剣を抜いたのかすら見えなかった。


「俺は、あの男を相手すればいいんだな」


 ゆらりと、重心を悟らせない体捌きでその男は屋根から弾丸の様に飛び出した。地面を一度蹴り、加速した勢いのままオットーに斬りかかる! 杖でその剣をなんとか防いだオットーだが、勢いに押されて後ろに飛ばされていく。

 オットーを弾き飛ばし、しかし下向きに構えた剣に油断は見えない。俺のすぐ側に立った男が、なんとも言えない顔で俺を見下ろす。


「チノ、久しぶりだな。積もる話はあるが……俺は俺の仕事をさせてもらう」


 師匠……。俺は唇を噛んだ。その人はかつて、俺がちょっとだけ恨みを買っちゃったかな? って人だった。レイトという名の現地人のお師匠さんだ。また絶妙な人選をしやがる。

 キリエが凶悪な笑みを浮かべて双剣を構えた。


「その生意気なツラを、いい加減めちゃくちゃにしてやんよ」


 チラリと見えたキリエの右手の甲には一本線の『聖痕』が光り、彼女から感じる界力ファルナは俺達とは比べ物にならない。それを見て驚くグリーンパスタを置いて、俺は歩き出す。


 そうかい。俺も……ずっと仕留め損ねたトンビを探してたんだ。不敵な笑みを浮かべながら俺は親指を立てて首を切る仕草をし、一際強く睨みつけて宣言した。


「泣かせてやるよ」





登場人物紹介


・キリエ

なんか50話とか一章エピローグくらいに出てきたプレイヤー


・師匠

なんか21話くらいに出た人

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― 新着の感想 ―
[一言] 作者がストーリーとペペロンチーノを振り回しているのではなく、ペペロンチーノが作者とストーリーを振り回して二転三転していると確信した。 チーズカレー食べたい。
[一言] プレイヤーってリスボーンした後って持ち物ないんだっけ 金ないのにカレー屋直行って微妙に嫌がらせだよね
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