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第60話 呪いの戦士


 迷宮からは不思議な道具がよく出土する。それこそ迷宮都市の名物のような物であり、存在理由でもあった。


 そんな迷宮都市をウロついていた俺ことペペロンチーノは物売りに捕まった。


「面白いもんを取り扱ってんだ。興味ないかい? ウチは他所とは違うぜ?」


 ほぉ、言うじゃないか。その自信、信じても良いんだな?

 という事で俺はホイホイと案内されるがままについて行く。やがて怪しい露店に着くと、次々と商品を紹介される。


「これは電撃の魔法術式が刻まれた杖だ」


 そう言ってなんの変哲もなさそうな杖を渡される。手元をよく見ると小さな魔法陣が描かれており、そこに触れると杖の先端からバチバチと電気が迸る。


「これを、首元にブスッと当てちまうんだ。すると、良い具合に相手は痺れて動けなくなる」


 なるほどな。ちなみに推奨の使い方としては?


「そりゃあんた、俺の口から言えねぇよ。はしたない」


 いやはしたない使い方なのかよ。俺は顔を赤らめるおっさん店主に少しイラッとした。

 次は? 杖をぽいっと返して次の品を見せろと催促する。


「そうだな。この札なんてどうだ?」


 そう言って店主は二枚の紙切れのような物を渡してくる。なにやら禍々しいミミズみたいな文字が書かれていて、古びた旅館の額縁の裏に貼ってありそうな見た目をしている。

 ……これは?


「この札は二人で使うんだ。こう、身体に貼る」


 店主は自分に札を貼り、次に俺にも札をペタッとくっつけた。


「すると、受けたダメージを半分こずつ出来るんだ」


 ピチッと店主が自分の腕にデコピンをすると、

 微かな痛みが俺の腕にもきた。ダメージという事は、切り傷だとどうなる?


「大きさも深さも半分こずつだ」


 す、すごいじゃないか。

 ちなみに推奨の使い方は?


「そりゃあんた俺の口からは、はしたなくて言えねぇよ」


 いやなんでだよ! はしたない使い方のが思いつかんわ!

 あれだろ、普通。奴隷とかどうでも良い奴に付けてさ、自分へのダメージを肩代わりさせるとかそういう使い方だろ普通!


「えっ、悪魔?」


 しかし半分なんてしけてるぜ。全部肩代わりしろよな。なぁ?

 俺は同意を求めたが店主はドン引きした目で見てくる。ちっ。俺は舌打ちした。こんな怪しい店やっといて何を甘っちょろい。ええい! 次ぃ!


「そうだな、ウチで売れ筋なのはコレだな」


 ずいっと手を差し出されたので、手で受け取る。俺の手の上でコロリと転がるのは、ダンゴムシが丸まった後みたいな謎の球体だ。

 何だよ気持ち悪いな。


「これはね、食べるんだ」


 これを? 俺はもう一度ダンゴムシの丸まった様な物体を見る。ゾッとした。そ、それで? 食べるとどうなる?

 ふっ……と、店主は静かに口角を上げる。


「これは美容蟲だ」


 やっぱ虫じゃねーか! 俺はダンゴムシっぽいのを突き返す。それを店主は愛おしそうに見つめながら続ける。


「やれやれ、これを胃の中に入れるだけでいくら食べても太らなくなる……それどころか、スタイルは良くなって肌は綺麗になるし、髪とかの艶も良くなるんだぜ」


 ふん……。眉唾だな。そんな都合の良いもんがこの世にあるかよ?


「種明かしをすると寄生虫なんだ。寄生虫ってのはな、宿主を生かす為に良い作用をもたらすもんさ。それがこの美容蟲の場合、宿主の体調を整える……いや、美を整えるのさ。この蟲を飼う女性は、それはもう美しくなるらしい。見違えるとさ」


 いや……いや。都合が良すぎる。その虫にとって人間が必要なくなったらどうなる? 繁殖方法は?


「人間が最終宿主さ! 栄養は宿主の食べたものから摂取する。だから太らない! あ、だからといって宿主を衰弱させることもない。宿主が死んだら蟲も死んでしまうからね!」


 いや、だからそいつらはどうやって繁殖……。


「ちなみに成虫になったら口からズロッと出てくる、その時に顎が外れそうになるのが欠点かな」


 帰ります。

 踵を返して去ろうとする俺の腕を掴んで必死に呼び止める店主。


「まぁ待て待て! 最後に! 最後に一つ見ていきなって!」


 あまりにも勢いがすごいので渋々見てやることにした。店主がゴソゴソと品物を取り出すのを黙って待つ。

 やがて、ゴトリと置かれたソレを持ち上げてまじまじと見つめる。これは、靴……か? 何やら不思議な材質で出来たブーツの様な物だった


「なんとこれはな、空飛ぶ靴だ。靴底から、こう……なんか出て空中に浮けるのさ」


 ほぉ……眉唾もんだな。それが本当なら大したもんだが。どれどれ、俺は早速履いてみた。


「魔力を込めてみな」


 いつも懐中時計に注ぐ様に、今回はそのブーツに魔力を注ぐ。すると、コオオォっと空気清浄機が頑張ってる時みたいな音と共に俺の身体が浮き始める……!

 お、おお! バランスを取るのが難しいが、これは中々面白……。ぽとりと俺は落ちた。魔力が尽きたのだ。

 やれやれ、相変わらずプレイヤーってのは貧弱だぜ。さて、脱ぐか……。おや? グイグイとブーツを引っ張るが、まるで俺の皮膚を引っ張っている様な感覚がある。つまり外れない。こ、これはまさか……?


 ちらりと店主の方を見ると、ニカッと笑ってくれた。それを見ておかしくなった俺も、ふふっと軽く笑みをこぼす。





「っていう代物なんだけど、どう?」


 俺はモモカさんの喫茶店の店員である、鳥の頭に人間の身体をくっつけて羽毛を生やした様な男が休憩中に昼寝しているのを見計らってとあるブーツを履かせてから笑顔で聞いてみる。


 鳥男は、暫し沈黙してから胡座をかいて自身の足に嵌ったブーツをグイグイと引っ張る。どうやら脱げない様だ。

 顔を上げて、クリクリとした瞳で見つめてくる。俺はニコッと笑う。鳥男が右手を俺に向けてかざすと、腕に嵌った筒の様な物が大砲を形成し光を蓄えた。


『迷狂惑乱界!』


 バシュゥンッ! っと大砲から発射された光弾が俺の魔法結界によって解け散る。


「おまえっ! また!? なんなのっ、俺をなんだと思ってんだ!」


 まぁまぁそんな怒るなよぉ〜。俺はプンプンしている鳥男の肩を叩き宥める。機嫌が悪いな? そんな時はほら、早速足に魔力を込めてみな?

 コオオオォ。エアコンが頑張ってる時みたいな音と共に鳥男が宙に浮く。鳥男の頭は鳥顔なので、どんな感情を持っているのか俺には判別し難いが、ホバリングするヘリコプターみたいに宙に立つ鳥男はとてもシュールな絵だった。


「いや、これ……何に使うの?」


 ゆっくりと地面に降りて鳥男がそんな事を聞いてくるので、俺は懐からまきびしを取り出して床に投げる。

 ほら、こうやって足元にまきびしを撒かれた時とかあるじゃん? 浮いて躱すのさ。

 俺の言葉を聞いて、無言で浮かび上がった鳥男が器用に膝を曲げると身体が前に進む。そのまままきびしの上を通過してから床に降りる。まるでロックマンXのホバリングの様だ。


 こちらを見ている鳥男がコメント待ちをしている様なので、俺は満面の笑みでサムズアップを献上する。トントンと肩を叩かれたので、振り返ると、モモカさんが立っていた。

 くいっと親指で床に散らばったまきびしを指してニコッと笑うので、俺もニコッと笑った。俺はど突かれた。


 *



 龍華の闘技場では連日の様に賭け事をして盛り上がっている。人対人や人対獣の戦闘、他にも競馬ならぬ競竜など、その競技数は多岐に渡る。

 その競技の一つに、異種・障害物競争というものがある。簡単に言えば、色んな種族の生き物を同じコースで競争させるというものだ。

 参加資格は二体一組である事、そしてどちらか片方に騎乗している事だ。つまり、人が人におんぶした状態でも参加できるのである。

 だが、最も多い参加形態は当然というべきか騎乗しやすい生き物に人が跨る形だ。


 その競技に俺は白い羽毛の人型の鳥人間と参加していた。俺が肩車で乗っかる形で入場して、観客の声援を受けながら手を振った。


「見ねぇ顔だな、お前の騎獣は何て言うんだ?」


 同じレースに参加する奴だろう。何やら顔に大きな傷を作った厳つい男が話し掛けてくる。そいつが乗るのは四本足の脚の長い竜だ。いかにも速そうだぜ。質問に答える。

 私の騎獣は、むーちゃんXと言います。ねっ。

 頭を撫でてやると、むーちゃんXは嫌そうに首を振る。もうっ、照れ屋さんめっ。


「ふん……中々良い名前じゃねえか。まぁ、頑張って二位を目指してくれ」


 二位……? まさか、一位は自分が取るからとか、そんな生意気な事を言うつもりですか? それこそ諦めてください。私とむーちゃんXの絆を前に、二位を競う事になるのは貴方達ですよ。


「言うじゃねぇか。へっ……! 骨のある奴が来たなっ……!」


 ニヒルな笑みを浮かべて去っていく傷の男。くくく、あの自信に相応しい実力を持っているのだろう。面白くなってきたぜ。

 俺がそんなやり取りをしていると、他の参加者の一人がすぐ横に立っていた。うひょっと、ビックリして変な声を出してしまう。

 何故ならば、ゴテゴテしたドレスを着たやけに整った顔立ちの女が半裸の男に猿轡を噛ませて四つん這いにさせて跨っていたからだ。


「……よろしく」


 よ、よろしく……。

 去っていくその二人の背中を見つめながらむーちゃんXがドン引きした雰囲気で俺を見上げてくる。


「あれ、お前の知り合い?」


 いや、知らない。でも多分あれプレイヤーだよなぁ。クソを煮詰めた様な性格をしている狼獣人を飼っていたプレイヤーに似ている気がする……。

 バササっ。大きな鳥が俺の横に舞い降りる。


「ペペロンチーノぉ、お前と決着をつける時が来た様だなぁ……!」


 え? 誰?

 俺の記憶にはない男が凄んでくる。


「おい、呼ばれてるぞ」


 同じ鳥同士何か通じ合うものがあるのか、人間には感情の読めない瞳で睨み合っているむーちゃんXがこちらを見ずに言ってくる。

 だが俺はこの男を知らない。誰だ。テメェ誰だおらぁ!


「ふん……そのうち、いやでも思い出させてやるよ!」


 そう言って唾を吐いて去っていった。変な男に乗られてる鳥の方も一瞬振り返ってクエエッと一鳴きする、それを聞いてむーちゃんXが歯? 嘴? をギリリと噛み締めた。


「舐めやがって、トリ公風情がぁ……!」


 めっちゃキレてる同じ鳥さん。


 そうして揃った四人と俺は一緒にレースをする。突然この競技に出た理由は一つだ。


『優勝者には景品、競走竜への命名権!』


 なんと、最近生まれた競竜のサラブレッドに名前をつけられるのだ。これは出るしかない。俺はそう思った。


 並ぶ走者達、目の前には様々な障害物が用意されている。


『合意と見てよろしいですねっ!』


 空気が張り詰める。世界が俺達だけになったかの様な、一種の一体感があった。参加者同士、互いが互いを見ずとも警戒しているのが分かる。

 開始すぐに仕掛けてくる、そう確信した。


『スタート!』


 号令と共に大地を蹴り空へ舞い上がるデカい鳥、上空から障害物全てを飛び越えてゴールを目指すつもりだ……!

 しかし即座に参加者の一人が展開した魔法結界により五感を狂わされて空中で体勢を崩す。直下から、謎の光弾が着弾し錐揉みしながら撃墜された。

 なんと可愛そうな……! 恐らく開始前から目をつけられていたに違いない。酷いことをする奴らがいるものだ。

 むーちゃんXの右腕がガシャコンと元に戻り俺達は前を向いた。


 その間に既に傷の男と謎の変態プレイをしてる奴らが先に進んでいた様だ。最初の障害は巨大な壁だ、コの字に上へ伸びた壁を見上げて俺達は立ち止まる。

 傷の男の騎竜は左右の壁を蹴りながらジグザグに登っていき、猿轡を噛んでる変態男はヒューヒュー言いながら必死によじ登っていく。


 むーちゃんX……! 俺達も負けていられない!

 あれを使え!


「うおおぉぉ!」


 ガシャン! と一際大きな音が響くと、むーちゃんXの右腕についた筒から何本もの触腕が飛び出す。

 それをブスブスと壁に突き刺しながら頂上を目指す、だが……変態を抜かした時、それは起こった。


 猿轡を噛んだ変態が自らに跨る女のスカートに腕を突っ込む。何を突然発情していやがる、そう思ったのも束の間、なんとスカートの中からは一振りの剣が出てきた。

 猿轡の男が壁を蹴る。俺達とのすれ違い様に、剣を振るう。させるか! 叫んだ俺は咄嗟に魔法により変態野郎のエロい心を増大させる!

 剣閃が煌めき触腕が切り落とされていく。しかし変態は色々とバランスを崩したのか一本だけなんとか残る。


 俺達以外の二組は壁の向こうへ消えていった。後を追い、残りの触腕で壁を乗り越える。

 乗り越えて重力に身を任せた時、下を見て俺達はギョッとした。壁の先にはなんと棘の様に隆起した地面が……!


「ホバリングだ!」


 落下する勢いをむーちゃんXの足裏から生まれる推進力で減速させる。何とか棘の手前で止まり、足首を少し曲げる事でむーちゃんXの身体は前に進んで棘地帯を脱する。


 俺達が最初の関門を抜けた時、既に他の二組は次の障害物へと挑戦していた。


 くっ、出遅れたか……!


 俺達はここから巻き返すことが出来るのか……! 続く……!





鳥の人はもっと怒ってもいいと思う。



前回更新で書き忘れましたが素浪臼さんからまたカスタムキャストで作成した不死プレキャラ達を頂きましたぁ。

とても嬉しいので活動報告にあげてます、また見てね!

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