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第57話 善戦

 

 プレイヤーはこの世界で数年過ごしてきた。恐らく戦闘という分野において、今ここに集まった者達は精鋭とでもいうべき練度であった。


 世捨て人とか浮浪者という言葉が似合うプレイヤーどもは五人ほどいた。まず動き出したのはコイツらだった。

 ゆらりと沈む姿勢、流れる様に走り出した彼ら五人は真っ直ぐ魔王軍幹部ツェインの元へ。だがそのスピードはこの世界基準では大したことがない。

 ツェインの操る光球が複雑な軌道で彼らを襲う。それを、五人ともが全てを躱していった。ランスくんを思わせる獣に近い動きだ。空中ならば他プレイヤーを足場にする事で方向転換し躱す。並の芸当ではない。


「《情報連携》か」


 横にいるレッドが関心したように呟く。

 走る五人の肉体がうっすらと風景に溶け込んでいく。やがて完全に消え去ると、ツェインの光球は対象を見失い宙を彷徨った。


「《化粧箱》の応用。素晴らしい」


 横のレッドが感激している。

 ツェインの後ろから、まるでカーテンから身を現す様にして出現した浮浪者が手に獣の牙のような物を持って襲い掛かった。

 ガツっとその牙がツェインくんの首元にぶつかって止まった。無傷だ。ツェインくんの手が無造作に振り回されると、それに当たった浮浪者の身体が二つに千切れた。悲鳴を上げて地面に散らばる浮浪者。

 光球がその場で暴れ狂う。いくつかの光球が何かに当たって弾けた。宙からバラバラの内臓が地面に落ちる。阿鼻叫喚の地獄絵図。

 気付けば約五体分のゴミが散乱していた。


「ふん、情けない」


 様子を見守っていたアンリミテッドインフィニティ……プレイヤーネームが無駄に長いので無限と呼称するが、その無限が双剣を構えると後ろに居る何人かのプレイヤーもそれに続く。

 無限アンリミテッドインフィニティはレッドらと同様に攻略組という括りのプレイヤーだ。普段は迷宮都市を根城としていて、これまでずっと誰かに師事して武術を学んできたらしい。

 いつか、レッドが言った。武術の研鑽という観点においては、自身をも凌ぐ存在だ……と。レッドが剣のみの鍛錬に対し、無限は多種な武器を扱う技術を磨いている。


 なのでついさっき徒党を組んで襲い掛かりに行った彼女のバラバラ死体からはどこに隠していたのか色んな武器が飛び出してきた。

 ボトボト。肉片と共に地面に落ちる陽の目を見ることのなかった武器達。もはや描写される事なく死んでいった他のプレイヤー達の肉片がそれに覆い被さっていく。


「ふっ」


 レッドがスカした態度で前に出た。俺は切に思う。なんでコイツら順番に襲い掛かってんの? 一斉に行けよ。

 唯一勝っている数の利を捨てたプレイヤー達の最後の希望である『攻略組』が動き出す。唯一の勝機とは言ったが、例え全員でかかっていても勝ち目が全くないことは既に火を見るよりも明らかであった。

 そんな事より《化粧箱》って要は外見を変えるスキルだろう。いいな、どうやったら使える様になるんだろう。おい半裸野郎、なんか知ってるか?


「ぺぺは上手く使えないと思うけどな、あれは我が強い君らみたいなのには不向きのスキルだから」


 答えたのは別の声。

 いつの間にか、横に白い法衣を着込んだグリーンパスタが立っていた。ぽてぽちと半裸男が呑気に手を上げて挨拶をしている。光球がグリーンパスタの頭部を消し飛ばした。

 首の断面から光の粒子が沸き立ち、頭部を再生させたグリーンパスタが不敵に笑う。


「諦めるのはまだ早いよ」


 死ねばこの空間から追い出される。システムメッセージにはその様な表記があった。事実、最初にやられた浮浪者はどこかに消えてしまっていた。しかし、グリーンパスタはそれを覆すらしい。

 呆気なくやられた残りの浮浪者達と無限達がこの黒い膜に囲まれた空間内で再生する。セーブポイントの座標変更、それに長けたグリーンパスタにかかればこの様な芸当が可能なのだろう。最初の一人は間に合わなかったらしいが。


「お前らゴミどもは、どれだけ消してやれば気が済むんだ?」


 雑魚のくせに噛み付いてくる俺達プレイヤーが気に入らないのか一層機嫌を悪くしたツェインくんが歯をむき出しに怒りを見せた。


 重心を低く、今にも飛び出しそうなレッドが黒剣を構える。ツェインの周囲の光球が飛び出すと同時、レッドは大地を蹴った。

 足元を狙われ跳躍するレッド。その瞬間、光球がレッドを取り囲む。三百六十度囲まれて、一つにでも当たればプレイヤーの身体は消し飛ぶと言うのに


 それでも尚、レッドは不敵に笑った。


 視界の端に《情報連携》の文字が小さく写る。無意識下に、レッドと俺が繋がったことを感じた。否、俺とレッドだけではない。


 飛び交う光球、本来ならば死角となる位置からの攻撃すらレッドは身を捻り躱してみせる。物理法則と肉体の構造上どうしても避けれなさそうな時は黒剣の刀身から火の魔法を噴出させて推進力を生み、それを利用することで躱す。


 繋がっているのはこの空間内に散在しているプレイヤー全員とだ。あそこで不貞腐れて寝転んでいる浮浪者達や、こっちで腕組みなんかをして偉そうに眺めている無限とその他の奴ら。

 それと俺や攻略組の連中。全員の視界を全て把握できたのなら、確かにレッドというプレイヤーに襲いかかる光球全てを見ることは可能だろう。

 だがそれは……もはや人の所業ではない。俺を含めほとんどのプレイヤー達がドン引きした。やっぱおかしいよアレ。


「……よく躱すな」


 ぽそりとツェインくんが呟いた。

 いくら避けれようと攻撃を当てれなければ何の意味がない。レッドの黒剣は呪装の中でも強力な物なので、自身の命と引き換えにツェインくんに傷を作ることすら可能だろう。

 だが、ツェインくんの作った光球の檻はレッドに反撃を許さなかった。まるで虫かごの中で暴れる虫の様なレッドを見てツェインくんは楽しくなってきたのか光球をより複雑に操作する。

 俺達もぼけっとそれを観察していた。


 よしいけっ! ああっ! くそっ!

 皆でやんやとヤジを飛ばす。


「これでどうだ!」


 ツェインくんが張り切って手を振り回した。まるで稲妻の様に屈折しながらかつ緩急をつけて光球が襲う……!


 グリーンパスタが横に並んで苦笑する。


「まぁ、勝てないよね」


 レッドが力尽きるのも時間の問題だった。奴に諦めるという思考は無いのか瞳を爛々とギラつかせてツェインくんの隙を伺うが、もはや如何にレッドに複雑な動きで避けさせるかを研究し始めた彼には隙というものが全く生まれなかった。


 くぁ……と。無限が欠伸をした。レッドの右足が吹き飛んだ。まだ躱す。左腕が吹き飛ぶ。魔力が尽きたのか魔法によるアシストを失い地面に落ちた。


「……終わりだな」


 もう飽きたのか無表情にツェインが告げる。そして虫けらを踏み潰す様に無慈悲に、光球が雨の様にレッドの肉体に降り注いだ。


 復活したレッドが剣を拾って構える。


「行くぞ、ペペロンチーノ。援護しろ」


 いや無理だろ。勝てないよ。

 俺は早々に諦めた。こちらを見ずに、ツェインくんから目をそらさずレッドが言う。


「あと少しで見切れそうだ。お前は奴を怒らせろ」


 人を怒らせるだなんて、俺が一番不得意なことじゃないか。誰も賛同してくれない俺の主張を無視してレッドは駆けた。

 しかし既にレベルがリセットされた奴には先程と同じ動きはできない。当然の様に、大した抵抗も出来ずに爆散した。

 復活したレッドが剣を拾って構える。


「行くぞ」


 デジャヴかな? 俺以外にも何人かが目をこする。

 走り出したレッド。もはや説明するのもめんどくさいが爆散した。復活したレッドが剣を拾って構える。


「行くぞ」


 ゾッとした。俺達はいつまでこの光景を見せられるのだろう。ぽてぽちがグリーンパスタのほおを突く。


「ねぇ、もう飽きてきたから座標戻してくんない?」


 わらわらとプレイヤー達が集まってきてグリーンパスタに抗議をする。

 要約するとぽてぽちの意見と同様だ。俺は横になって寝た。目を瞑る事でレッドの支援を打ち切る方針だ。

 既に大半のプレイヤーがグリーンパスタの所に集まり視界にレッド達を写していないので、レッドは全く抵抗出来ずに光球の餌食となっているが、諦めると言う単語が奴の脳みそにはインストールされていないらしい。

 無限に湧いてくる羽虫の如き存在にツェインくんはうんざりとしていた。ついには自ら近付いて気色の悪い魔剣を取り上げるが、まるで熱湯に触れた様にビクリとして手を離す。


「ぐっ、なんだこれは!」


 剣には触りたくないらしく、光球で遠くに吹き飛ばすが復活地点を変えたレッドは律儀に拾ってきて構える。


「行くぞ」


 俺は精神干渉を行いレッドの無限ループを止めようとする。しかし、《感情抑制》を持つレッドには全く通用しなかった。

 もはやレッドが気の済むまで放っておこうと決めたプレイヤー達はその辺に座って談笑を始める。

 どうやらレッドと俺達を繋ぐ《情報連携》はぽてぽちのスキルだったらしく、久々に会う無限とのお喋りに夢中な彼女はとっくにスキルを停止していた。

 無限の連れていたお供達は武器を持って模擬戦なんかを始めている。浮浪者達は不貞寝していた。半裸男は何処からか持ち込んだ鏡で筋肉が美しく映るポージングと方向を研究していた。

 何という奴らだ、同じ仲間プレイヤーが一人戦っているというのに。俺もグリーンパスタの元へ向かう。


 何だよこの法衣? 僧侶でもやってんのかぁ?


「ん、ああ。下っ端だけどね。あそこが一番、この世界の深奥に近いから」


 あっそう。

 ところでお前、ヒズミとかにグリッパとかアホみたいな偽名使って何がしたいんだよ?


「それは私も聞きたい」

「僕達にとっての『プレイヤーネーム』は、とても重要な自己パーソナルだ。器と精神を形作る、重要なね。だからこそ、君も演技をする時は偽名を名乗るんだろう?」


 ちらりといつの間にか横に立っていたヒズミさんを見てグリーンパスタが苦笑した。


「……《化粧箱》も同じで、僕達の器を変容させる事はそのまま精神も変容させる事になって……うん、ペペロンチーノ。一応言っとくけど、ヒズミさんには真名を知られたくないんだよね」

「ほぉ、そんなつれない事を言うなよ。グリッパ」


 似合わない笑顔でグリーンパスタの肩を掴むヒズミさん。その袖から覗く右腕は何故か黒くヒビ割れていた。それを俺が見ている事に気付いたのか自然な仕草で隠すヒズミ。怪我にしては不自然だった。だが割とどうでも良いので追及はしなかった。


「とっくに《スキル》は停止しているのに、どうしてかなとは思っていたんですよ。まさか、僕達プレイヤーの《スキル》にまで干渉できるとは。恐れ入りましたよ」


 まぁ、と。グリーンパスタは不敵な笑みを浮かべて視線をヒズミの腕に移す。


「そんなに簡単なものではないみたいですね」


 はい! 意味深な会話で俺を放っておくのは禁止! 終わり!

 パンパンと手を叩く俺。そのまますぐに、今尚立ち向かい続けては爆散するレッドと、本当にうんざりとした顔をしているツェインくんの方を指差す。

 あれ! どうにかしろ! 苦痛すぎる。ヒズミ、さっさとここから出してくれぇ。


「そうだな。とりあえず様子見していたが、お前達があまりにもクソ雑魚過ぎて全く使い物にならない」


 パチン、と指を鳴らすヒズミさん。するとガクリと膝をついて力無く地面に崩れ落ちるレッド。


「お前は……! 何故お前がここに!」


 ようやく解放されたとホッとしたツェインくんが、ヒズミを見付けてすぐにまた顔を強張らせて叫ぶ。


「ご苦労だったな。今回はもう帰れ」


 だが尊大な態度のヒズミに、ただただフラストレーションを溜めていたツェインくんが怒りに肩を震わせた。


「貴様、なめやがって……!」


 ちなみにだが、探索者との戦いで疲弊していたツェインくんはレッドと争っているうちに大分回復していたらしい。

 そう、その疲れが無ければ俺達プレイヤーはあそこまで善戦できなかっただろう。うん、 善戦していた。うん。


「今回は悪い事をしたと思っているよ」


 大量の光球を漂わせたツェインくんに対し、珍しく謝辞を述べるヒズミさん。だがどこか上から目線な態度がムカついたらしく、光球全てが体積を大きくしていく。


『フォー……』


 ツェインくんが必殺技名を叫ぶよりも早く、空間を覆う黒い膜から手が伸びて縄の様にツェインくんに巻きついていく。あっという間に芋虫みたいになった黒い塊がゴトリと床に落ちた。


「これが私の魔法結界だって事くらい、お前でもわからんかったか?」


 これヒズミさんの仕業だったのか。

 ヒズミさんのことを知らないプレイヤー達は、なんか知らない人が来てレッドが沈んで勝手に話が進んでるなぁと言いたげである。ヒズミさんは黒芋虫を抱えてこちらへ振り返った。

 俺を見て、呆れた様に言う。


「お前達プレイヤーには期待してるんだ。コイツらに喧嘩売るの早すぎなんだよ。もっと強くなってからにしろ」


 期待……だと? その言葉に、横のグリーンパスタも驚いた顔をしている。どういうことだろう。だが勿論説明はない。

 魔法結界が天上から崩壊していく。同時に、他所から来たプレイヤー達の身体も粒子となって解けていった。

 やがて、その場には俺一人しか残されておらず、場所もいつもの迷宮都市だった。突然消えた魔王軍幹部を探して街中が喧騒に包まれている中、俺は歩き出す。


 トコトコと歩いていると、前からぱっつんショートの黒髪女が真っ直ぐ俺に向かって歩いてくる。俺は方向転換をして人気の無い路地に入り込んだ。

 しかし、その目つきの悪い女は追いかけてくる。ヒイッ、俺の喉から引き絞った様な悲鳴が出る。

 だが俺はこの街の裏路地に精通している。追いつけるかな……?


 追い付かれた。足に暗器を投げ付けられて転倒した俺の背中にアンリミテッドインフィニティさんが座り込む。


「おい、ペペロンチーノ。どういう事だ」


 突然の婦女暴行に俺は恐れ慄く。どういう事とは、お前こそどういうつもりだ。


「お前、何もしてねぇだろうが。鍛えてねぇだろ」


 鍛えるって何をでしょう。俺はとぼけた。


「戦いのだよ! 当たり前のこと言ってんじゃねぇ!」


 やだ……。野蛮……。心外だった。

 あのな無限ちゃんよ、俺だってあの時援護くらいしてたよ?


「ああ? どこがだよ」


 バカにはわかんないかな? 俺は精神干渉系魔法でツェインくん……あの魔族ね。彼の、めんどくさいなぁって気持ちを増幅してたわけ。


「……? つまりどういうことだ」


 戦意を削いでたってことだよ! やる気無くさせてたの!


「う、うん?」


 すぐにバラバラになってたお前よりは役に立ってるよ! 戦闘中の集中力ってのは大事だろ? それを削がれたらお前、どうなるか。


「……なるほど、お前はデバフをかけてたわけか」


 そういう事だ。

 正直大して効いてはいなかったが、目には見えない効果なので俺はそこまでは語らなかった。何となく俺がそんな感じの魔法を使えることはコイツも知っているので、勝手に俺も頑張ってたんだなぁって感じた無限はモジモジと気まずそうに頰を掻いた。


「ご、ごめん。私は、魔法とかよくわかんないし」


 分かればいいんだよ! ドンっと突き飛ばして尻餅をつかせて俺は立ち上がる。はぁ、服が汚れた。このネカマ野郎が、すっかり女っぽくなりやがって。


「お前が言うのか……!? それに、私は変わってなんてない!」


 俺は思い出す。

 この女と出会った最初の頃を。


 俺は男だ。と不敵な笑みで言って見せたり。大石の上で片膝を立てて、ゴブリンにボコられてメソメソする俺に女々しい奴だとイキってきたり。仇討ちをしてやると返り討ちになったくせに、舌打ち一つ言い訳をしていた頃を。

 今でも興奮するとヤンキー口調になるみたいだが……しおらしくなった時の落差が凄まじい事になっている。

 パンパンとケツの埃を払い、キッと俺を睨みつける無限。


「お前みたいに女の姿を楽しむ様な変態じゃないんだよ、ロリコンが」


 は? こんな美少女になって楽しくない奴の方がおかしいね。自分が寡黙なストイック系女戦士キャラメイクしてあんまり可愛くないからって、僻んでんじゃねぇぞ。

 無限がどこからか鎖鎌みたいなのを取り出して、腕を振るう。もう一方の手で袖から取り出した棒状の物を使って俺の顎を叩き上げる。

 そのまま複雑に動く腕。鎖を棒で叩いたりなんかして、気付けば俺は路地裏に鎖で腹を巻かれて吊るされていた。


「相変わらず口が減らない奴だ」


 ゴソゴソと何かを取り出す無限。その手に現れた物を見て俺はギョッとした。それは、マルクスという魔法使いを殺害して見せた短剣だった。

 ツェインくんに殺害された際に落っことしてきたはずだが、コイツ……拾ってきたのか。


「これはお前のだろ。元は、k子の関係者か。それはさておき、コイツはよく切れる」


 サクリと俺の腕を刺す無限。にこりと笑う。


「面白いのが、これを使うたびに精神汚染を食らう事なんだ。最終的には人を殺す事しか考えられなくなるだろう」


 ぽいっとそれを放り投げて、ゴソゴソと何かを取り出す。針の様なものだ。ブスッと俺の足に刺す。


「これさ、最近手に入れたんだけど、血を吸って大きくなってくんだよね」


 ちうちうと俺の血を吸って肥大化していく針。みちみちと傷を広げていく。俺はドン引きした。出たぞ、コイツの……。


「次はさ、これなんだけど」


 そう言って短刀の様なものを取り出す。


「刀身に窪みがあって、この窪みに魔法を保存できるんだ。でも使うと持ち主も巻き添え食うんだけど」


 今は保存されていない様だが、とりあえず俺の足を斬りつける無限。どこかウットリとした顔の彼女は短刀を無意味に振り回す。


「最近手に入れたのはこの辺かなぁ」


 そんな事は全く聞いていない。

 コイツが多種多様な武器を使える様に鍛錬している理由はただ一つであり、それこそがコイツの異常性であった。


「でも切れ味でいうと精神汚染ナイフは良い線いってる、しかも切れ味が、何て言うか気持ちいいっていうか」


 武器マニアとでもいうべきか、集めるだけではなく使用することに快感を覚えるのだ。そして、殺しても死なないので気兼ねなくその武器を振るえるプレイヤー相手に試し切りをするのが趣味なのだ。

 その為に、血と汗と多大な時間と労力を割いて武術を学ぶ……。武術に人生捧げる系ストイックキャラのフリをする武器マニアの変態。それが、βテスター・アンリミテッドインフィニティというプレイヤーだ。


 誰か助けてくれー! 俺の叫びは虚しく、人気の無い路地に響き渡った……。


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やっぱ攻略組はあたまおかしい奴らの集まりなんだな
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