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第56話 案山子系主人公

 

 聖公国には、『魔王領』との境界に作られた防衛都市がある。


 魔王領は、魔王が出現するまでは不毛の地……荒涼な砂漠が広がる何もない土地だった。復活以前には砂漠とそこに埋もれた遺跡群しか無く、更にその遺跡には凶悪な罠が仕掛けられた物が多いという。

 稀にいる命知らずの者達が一人も帰ることが無かったことと、聖公国に残された資料からそう予想されている。

 その遺跡群こそが魔王軍の拠点であり、住処となるのだ。世界はそういう風に出来ていた。


 そして、魔王が復活した今。砂漠だった土地は一変していた。

 岩山や森、沼や湖、川に草原。そして魔王城を中心として人の住む様な建物が建っている。まるで、一つの国がそこに生まれていた。


 防衛都市とは、いずれ来る魔王復活に備えて作られた聖公国で二番目に巨大な街だ。その都市の役割は、『魔王領』と『人間領』の間に結界を張る事だった。

 魔族の操る魔物は『魔王領』にて生み出される。その結界により魔族と魔物の両方の侵入を防ぐのだ。



 しかし、魔族の中でも強力な個体はその結界を通り抜ける事ができる。その者達を、魔族達は自らこう名乗った。


『魔王軍幹部』と。



 *



 ヒズミさぁん。


 ランスくんを引き連れてニッコニコで魔道具屋さんに入ると、店主さんはカウンターの奥で座っていてこちらをめんどくさそうな顔で見てきた。

 比較的好意的な顔だったので二人揃ってドカドカと店内に入る。


「……なんだよ」


 鬱陶しそうに言うヒズミさんだが、何やら俺に対する視線がいつもと違った。探る様な、それでいてそれを気取られないようにしている、そんな視線だ。

 なんだ? らしくない、何か企んでるのか?

 思わず胸元を腕で隠すと、心外だと言いたげな顔のヒズミさん。


「……別に何もやらしいことなどない。早く要件を言え」


 ランスくんは俺とヒズミさんのやりとりなんてどうでも良いのか、何も言及する事なくカウンターにもたれながら話を切り出した。


「ヒズミさんに頼みがあるんだが」

「断る」


 全く取りつく島のないヒズミさんだが、ランスはそれを全く気にすることなく続けた。


「まぁ聞いてくださいよ。最近、魔族とかいうやつを捕まえたんですがね。ソイツから絞れるだけ情報を絞りたいもんで、何か非人道的な魔道具はありませんかねぇ」


 ゲスい笑みを浮かべながら笑うランスくん。その顔を見て気持ち悪いものを見るような顔をしたヒズミさんは目を逸らした。


「そんなものがあったとして、何故私がお前らに譲らなきゃならん。気色悪い。それに魔族だと? ならば尚更私に出来ることはない。お前らで好きにしろ」


 ん? 何か引っかかる物言いだな。魔族がいるって事には驚かないのか。

 ジロリと俺を見たヒズミさん。


「私にとっては驚くような話ではないという事だ。いちいち説明はせんぞ」


 そうすか。いや、まぁどうでもいいんですが。俺は本心からそう言った。何となくこのヒズミという女がこの世界の秘密……とでも言うべき深みにいる事は感じている。

 そして、傍若無人な振る舞いをする一方で変に踏み込めない一線がある事も。かなりの年月を生きているであろうこの女のことだ、前回の魔王復活とやらも知っているのだろう。

 しかし俺がそれを追及して教えてもらったとしても何にもならないのだ。俺は世界の命運を握る主人公にはなれない。どちらかと言うと最終決戦中の主人公を想って空を見上げる幸薄系美少女ヒロインだろう。


「聖公国の連中に高く売れそうなんだけどなぁ、あいつ」


 ヒズミの言う事にはあっさり従うランスは残念そうに言った。こいつにとっては魔王とかそんなものより目先の金が大事らしい。


「……ランス、魔王ってのは世界を恐怖に陥れる存在だぞ。人間が容易に勝てる相手ではない」


 だから、皆で協力しなくちゃいけないよとでも言いたいのだろうか。

 珍しく諭すような声色のヒズミさんに、しかしランスくんはキョトンとした顔だ。


「ええ。だから付け入る隙が向こうから飛び込んで来たんで、それを譲ってやろうと言ってるんですよ。でも俺も生きてかなきゃならないんでね、分かりやすい対価を求めているだけだぜ?」


 ちらりとこちらを見てくるヒズミさん。俺は無言で首を振った。


「……まぁ、まだ始まったばかりだしな」


 実害がないと動かないような奴はコイツだけじゃないぞ。なぁ、ランス。お前にだって大切な人はいるだろう? その人が魔王軍に傷付けられたなら、ランスだって対価を求めず戦うさ。

 ランスは笑顔で首を傾げた。


「大切な人……?」


 ヒズミ、コイツはダメだ。気付いたら魔王軍に寝返ってるよ多分。


「それで一緒に討伐された方がいいかもな」


 その方が人類の為になるだろう。



 *



 結局、ヒズミの協力は得られなかった。どうやら魔王どうこうの件には深入り出来ないようだ。

 ため息を吐いたランスと共に宿の二階に上がり、とある部屋のドアを開く。


 すると中には黒い翼を広げた魔族の男がいた。俺のかけた魔法は効力を失い、正気に戻ったのだろうか。


「貴様らだ……貴様らのせいで……」


 地の底から這い出るような声だった。

 彼の横にあるベッドにはシーツで身体を隠した女性が二人ほどいて、つまり昨晩はお楽しみでしたねという事なのだろう。それはさておき、俺とランスは目を見合わせ小声で話し合った。


「堕天してるぞ」


 してるね。分かりやすく羽が黒くなってるもん。なに? 天使なの? やらしいことすると堕ちちゃう的なそういうのなの?


「貴様らのせいだ! この俺が、俺が……人間などと……」


 ひどいっ! と女性の一人が顔を手で覆って泣き始めた。それはそうだろう、つい先程まで愛を語り合っていたのに賢者モードになった男がなんか後悔してる的なことを言っているのだから。

 俺も怒った。この女の敵がっ! ゴミっ! 最低っ!


 オロオロとしたツッくん(堕)が泣いている女性に近付く。

 やだー、最低ー。女の敵ー。あれだけ楽しんだくせにー。


「このゴミ野郎が、女をなんだと思ってやがる。男の風上にもおけねぇぜ」


 吐き捨てるようにランスくんが言う。

 人の風上に置けない男にそこまで言われたのが効いたのか、ツッくん(堕)は女性に目線を合わせ謝っていた。パチン、と。もう一人の女に顔を叩かれてバツが悪そうな顔で俯く。


「本当に済まない。君達が嫌だとかそういう話じゃないんだ。……え? 遊びだったのかって? ち、違うよ。……いや、あの……良かった……ああ、綺麗だよ。……誰にでもなんて、言ってない……」


 ギャーギャーと喚きだした女二人を必死に宥めるツッくん。やがて二人にもう一発ずつ張り手を食らって女達は去った。

 なんとも言えない空気が流れる中、黒翼の魔族は俺達を親の仇でも見るような瞳で睨みつけた。


「殺してやる、俺に、こんな恥をかかせやがって」


 直後に、ツッくんならぬ堕っくんの周囲にいくつもの光球が浮かんだ。それらは縦横無尽の軌道で周囲に襲い掛かる……! 舞う俺の下半身。

 宿屋の部屋は吹き飛び、ランスが俺の上半身を掴んで外に着地した。半壊した宿の二階から、俺達を見下ろす堕っくん。掲げた右手の上に四つの光球が。


『フォース・ディメンジョン』


 一つの光球が巨大化し、それを中心に三つの光球がそれぞれ円を描くように飛び回る。振り下ろされた右手に連動するように俺達の元へ光球が落とされる。

 すぐさま俺を投げ捨てたランスが槍を腰だめに構える。


『爆閃突・穿』


 放たれた砲弾の如き槍が光球と衝突し周囲を吹き飛ばす。まるで大きな爆弾のような衝撃が広がり、破壊の波は街を襲う。


 虫の息な俺の目に、空を回転しながら舞う槍が見えた。空を飛ぶ堕っくんに対し壊れた民家や建物を足場に空を駆けたランスが槍を掴み、堕っくんから放たれた光球を無駄に流麗な動きで払い飛ばす。

 一発が俺の頭部に着弾し死んだので復活後すぐに元の場所に戻ると、すでに戦闘音は遠く別の場所で戦っていると思われる。


 ざわつき始めた街で、最も騒がしい所に向かうと広場のようなところでランスと堕っくんが向かい合っていた。

 周りをギャラリーが埋めていて、もはや祭りのようである。


「なになに? ランスがまた喧嘩してんの?」

「相手イケメンじゃん。やっちまえランスっ!」

「おいニイちゃん! ランスをぶっ殺せ!」

「あいつ魔族とかいうやつじゃねーの?」

「魔族とか言われてもね」


 一応設定では人類の敵らしい魔族なのに、取り囲まれるだけで襲われない事を舐められていると感じたのか、堕っくんは懐から何かを取り出して天に向けて投げた。

 それは、まるで水晶のようだ。光を乱反射して、やがて輪郭が膨張させて爆発した。すると、そこから溢れ出す瘴気。醜悪な、犬のような四足歩行の大きな獣が何体も地面に降り立つ。


「思い知れ、人間ども。我ら魔族の恐ろしさを」


 ニヤリ、と。魔族ツェインは余裕の笑みを浮かべ、宣言した。


「皆殺しだ!」



 巨大な黒犬は、一体でその辺の村なら滅ぼせるだろう。実際に、非戦闘員に毛が生えた程度の実力を持つ下級探索者は漫画のモブキャラみたいに吹き飛ばされ、中級と評される探索者でも他と連携しなければ一蹴される。

 迷宮とは魔物との戦いだ、他国の下手な軍人よりもよっぽど魔物戦のエキスパートである探索者達ですら容易に攻略できない相手……それが五体。


 更に、ランスの爆閃突並の威力を秘めた光球をいくつも縦横無尽に飛ばすツェインの援護により黒犬の攻略難度は何倍にも跳ね上がっていた。

 ランスは直接ツェインを狙うが、中々黒犬を掻い潜れない。

 このままでは、迷宮都市がめちゃくちゃになってしまう。これが魔族……! 魔王の脅威か……!


 しかし迷宮都市は広い。そして多くの探索者を抱えている。どこからか光の塊で出来た剣が飛来して黒犬の一匹に刺さっていく。

 怯んだその黒犬を、いつのまにか距離を詰めた四本腕の生えた男が光の斧を二本持って足を切り裂く。黒犬が膝をつき、頭の位置が下がった所に熊のような男が大剣を叩きつける。

 メリッと頭の半ばほどまで剣が埋まる、だが黒犬の目は死んでいない。振り絞るように咆哮し暴れ出すが、突然目や口から血を垂らし地面に崩れ落ちた。

 脇には紫の鱗をした蜥蜴人リザードマンが立っており、槍の先から血のような液体が地面に垂れている。


 戦況は変わった。一匹が強襲された事で生まれた魔物達の隙を突き、探索者達の反撃が始まった。ランスもようやくツェインの元へ辿り着き、槍を突き出す。間一髪それを避けたツェインが歯軋りをして恨めしそうに声を上げた。


「クソがぁ!」


 俺の横に立った男が何か聞いてくる。


「なに? なんかのイベントかい? 俺も入っていいかな?」


 いいよ。

 俺がそう答えると、まるでコンビニに行くような足取りで男は黒犬と探索者の乱戦に入っていき黒犬二匹の首を落としてその首を持って帰っていった。

 お、やってるねぇ。みたいな顔をした大槌を持った男が別のところから現れて散歩するような足取りで黒犬の頭を潰していき帰っていった。


 やがて全ての黒犬が倒され、息を切らしたツェインだけがそこに残された。腕をランスに傷つけられたのか、かなりの血を流している。

 肩で槍を置くランスは傷だらけであるが全てが軽いものだ。


「お前の負けだ。一人で攻めるには、迷宮都市は重すぎるぜ」


 腰に槍を構えてランスは言った。


「降伏しな、悪いようにはしない」


 全く信用できないので、ツェインくんは当然怒り狂った。


「なめるな人間!」


 一瞬の明滅の後、空いっぱいに光球を浮かべたツェインくんが不敵に笑う。


『フォールレイン・フルール』


 まるで槍の雨のように、光球が降り注ぐ。しかし冷静にランスは槍を振るった。自分に当たるであろう攻撃のみを防ごうとして、突如として光球はその軌道を変える。

 ツェインの手が指揮者の様に動くと連動するように光球も動く、叩き落とすべくランスは槍を器用に振るが、それでも光球の動きは追いきれず幾つかを被弾してしまう。

 飛び散る鮮血、呻き声がランスの口から漏れた。何人かの探索者が喜びの声を上げる。

 四本腕のオニヤマが全ての手に武器を握って駆け出した、それを追う様にガーランド、蜥蜴人オリーブも大地を蹴る。

 ツェインが鼻血を垂らした。両手を大きく、雄叫びをあげながら振るう。すると雨の如く降り注いでいた光球全てが軌道を変え、幾つかで纏まりながら四方八方に舞い踊る。


 その複雑な軌道を追いきれず、オニヤマたち三人はもちろん、とりあえず魔族らしいし狩ろうって感じでウロチョロしていた探索者達に光球は被弾していく。

 形勢は逆転した。ツェインの周囲にボロボロになった探索者達が転がる。ランスは槍を支えに膝をつき、オニヤマらも同様に膝をつきツェインを見上げた。

 今のうちと言わんばかりに腕の傷を回復させるツェインくん。

 ……強い。

 奥の手、というやつだろうか。ここまで使わなかったのは、恐らく消耗が激しいのだろう。息を切らせている。だが、多勢に無勢を覆した。これが、魔族。


 ツェインの鋭い眼光が俺を貫く。一つ、光球を浮かべた。


「お前もだ、ペペロンチーノ……!」


 おいおい、こんな美少女に危ないものを向けるかよ……。ちらりと横を見ると、もはや観戦者になっていた『武骨の刃』の弓使いさんと魔法使いさんがいた。


「ちょ、あんた狙われてるよ」

「また恨み買ったんでしょ」


 え! 助けてよっ!

 ピュッと飛んでくる光球。それでも俺を助けようとその二人は全く動いてくれないので俺自ら二人の元へ飛び込んでいく。


「く、くるなっ!」

「巻き込まれるっ!」


 しかし光球はすい、と俺達を避けてどこかへ飛んで行った。

 おや? 俺は不思議に思いツェインくんを見るとなにやら複雑そうな顔をしている。キョロキョロと周囲を見渡してみる。

 探索者には女性も多くいるが、男性に比べてどこか傷が少ない様に見えた。


 ……おや? おやおや、これは?

 俺の口角が上がる。どうやら一時的に植え付けられた感情だったとはいえ、一度でも湧いた情というものは深く根付く様だ。


 俺はやれやれと肩をすくめながら、ツェインくんに向けて歩き出した。


 魔族だか裸族だか知らないが、君にはもう人類の敵をやることなんて出来なさそうだね。


 余裕たっぷりの俺に大層腹が立ったのか、歯軋りをしてツェインくんは光球を俺に向けた。


「なんだと、この私を侮るか」


 侮るも何も、見ろよ自分の周りをさ。ゴミに等しいランスくんですら仕留め損なっている。

 シリアス顔で傷を抑えるランスが軽く笑った。


「まだ本気出してないし」


 無視して続ける。

 まぁ、しょうがない。俺から見れば魔族なんて耳の長くて肌の白い、人間と大差ない生き物だ。心の方もな。

 お前、もう人を敵として見れないんだろう?


「な、何を……」


 優しい子だね。俺はツェインの腰辺りに抱きつきながら優しい笑顔を浮かべて言った。人も魔族も変わらない。人類……人族? の敵やってるのも、きっと神様みたいな奴に勝手に与えられた役割みたいなもんさ。

 甘い奴め。内心で毒づきながら俺は続ける。

 もうやめよう? 昨日は楽しかったじゃん。今日も飲みにでも行こうよ。

 俺をゴミでも見るような目で見下ろして、ツェインは俺を突き飛ばした。ぐぅ、何を……?


「そうか、お前……お前らが盗っ人か」


 その言葉には強い怒りの感情が込められていた。直後に俺の身体はツェインの光球により爆散する。

 セーブポイントにて復活。やれやれ、何をそんなに怒ってんだあいつはと歩き出した俺に空から降ってきた光が幾筋もの残像を残して着弾し俺の身体は爆散した。

 数メートル先で復活。


 え? 今のは?


 そう思ったのも束の間、またも空から狙撃されて俺の四肢は千切れ飛ぶ。ちょっ! リスキルってやつか! ま、待て待て。

 くるくると吹き飛びながら空を確認すると、黒い翼を生やしたツェインくんがこちらに向けて手をかざしている。

 流石にバラバラでは長生きできないので死んでしまった俺が復活すると、目の前に立つ影がある。ツェインくんだ。俺は不敵な笑みを浮かべて言った。

 どうした? もう終わりか?


「いいや。これからだ」


 ツェインくんを中心にドーム状に魔力が広がっていく。


『魔法結界』


 鱗のような壁が天をも塞ぎ、まるで銃口のように鱗は光球を構えていた。ツェインくんの言葉が終わるよりも早く、システムメッセージが俺の視界をジャックする。


 《プレイヤー:ペペロンチーノが『魔王軍幹部』に強襲されました。イベントバトル発生!》

 《◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎による介入を確認……『賢者』ヒズミの力で救援に向かえます!》

 《救援者募集中……》


「なんだ!」


 叫んだのはツェインくんだ。自身が展開しようとした魔法結界を侵食するように墨のような黒が広がる。

 魔法結界とは、自身の魔法の効果を上げる為に環境そのものを一時的に変化させるものだ。それならば、一体これはなんだと言うのだろう。


 俺とツェインくんを黒い半球が覆った。黒壁には回路の様な線が淡く光り、まるで心臓の様に鼓動があった。


「何をした、ペペロンチーノぉ!」


 怒るツェインくんだが、俺も聞きたいくらいなのだ。二人してキョロキョロと戸惑うが何も分からない。

 閉じ込められたんですけど。


 《魔王軍幹部を倒して大量の経験値ファルナを獲得しよう! 救援者募集中……》


 うざいなぁコレ。俺はうんざりとした。時折現れるシステムメッセージは不親切すぎる仕様なので容赦なく視界を邪魔してくる。

 もし戦闘中だったらどうするのか。俺達の事情はおかまいなしらしい。

 そうこうしているうちに痺れを切らしたツェインくんが光球を掲げた。


「お前が解くまで、殺し続けてやる」


 物騒な事を言ってツェインくんは光球を飛ばしてきた。


 《イベントバトル! 死亡すると前回のセーブポイントに戻される》

 《仲間と協力して『魔王軍幹部』を討伐せよ!》


 うざいって! システムメッセージのせいで光球が見辛くなり躱す事は困難を極めた。仕方なく命を諦めたその時、何者かが俺を抱えてひとっ飛び。なんとツェインの攻撃から守ってくれた。

 誰だ? 見上げると、ぱっつんショートの黒髪女が目つきの悪い三白眼で俺をちらりと見て地面に落とした。


「おい、今は何も話す気はないぞ。忙しいからな」


 旧知の中であるそいつ……攻略組の一人、アンリミテッドインフィニティは腰の双剣を抜き放ち構えた。久しぶりだなぁ、こいつ見るの。迷宮都市に住んでるらしいけど全く会いにきてくんないし。

 更に何人かの影が彼女に並ぶ。知らないプレイヤー達だ。ツェインが鬱陶しそうに光球を幾つも飛ばしてくる。

 そこそこ機敏な動きでそいつら全員が躱し行く中、当たりそうな俺をまた誰かが脇に抱えて逃げてくれた。


「少し、早いが。まぁいい。『魔王軍幹部』の実力をしっかり勉強させてもらおう」


 レッドだ。俺を抱えたまま、嬉しそうにそう言った。横に並ぶ怪力ハングライダーとぽてぽち。

 他にも、ボロボロの麻みたいな貫頭衣を着込んだ奴らが何人も立っていた。


「あれ、迷宮都市じゃないのかココ」

「勇気を出してきたのに」

「ボスを倒せば、出れるのでは」


 ボソボソと消え入る様な声で話し合うそいつらからは何やら世捨て人の様な退廃的な空気を感じる。どうやらコイツらもプレイヤーだ。もう少し綺麗なはずだがあの貫頭衣はプレイヤーの初期装備である。


 レッドが俺を落とし、ゆっくりと腰の剣を抜く。突然現れたプレイヤー達を前に、警戒をしていたツェインくんが大量の光球を周りに浮かべた。


「湧きやがったな、ゴミども」

「ただのゴミかどうかは、身をもって知るといい」


 何故かレッドがリーダー面をした。

 アンリミテッドインフィニティとその他、レッド率いる攻略組、あと世捨て人っぽいの。合わせて十数匹のプレイヤーが身構えた。


 これが、救援……?


「そうだ。恐らくプレイヤー全員に召集がかけられている」


 レッドの言葉を聞き、俺はぐるりと周りを見渡した。十数人のプレイヤーがいる。

 ……少なくない? 俺が襲われたって言ってんのに、こんだけ?


 だが俺は口角を上げ、両手を大きく広げて宣言した。


「ツェイン、お前に俺達プレイヤーってのを教えてやるよ」




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