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第55話 魔族の狂宴



「モモカさぁん。もう一軒、もう一軒行きますかぁ」

「うふふふ、そうですねぇ。でも私の行きつけは休みなんですよねぇ」


 龍華のなにかを祝う日、街中でどこか浮ついて騒がしい空気が流れていたので便乗した俺とモモカさんは二人で飲み歩いていた。まだ夕方である。

 祭りの屋台でテンションの上がる飲み物を購入したのを皮切りに、止まらなくなってしまった俺達二人はニコニコとしながらフラフラとしていた。


 いやぁ、昼間っから楽しいですねー。


「なぁに言ってるんですかぁ、まだまだ終わりませんよぉ〜。まだ夜にもなってませんよぉ〜」


 ラングレイと鳥男も同行していたはずだがいつのまにか居なくなっている。やれやれ、あいつらのオススメの店でも聞こうと思ったんだが……あ、でも今日は休んでる所も多いしなぁ……。


「むー。外で、というのも乙なものですが、少しゆっくりしたいですよね。ぺぺさんはどこか良いところは知らないんですか?」


 むむ、良いところですか。私は龍華でそんなに飲み歩きませんしねぇ……迷宮都市の方なら……。


「……! それですよ!」


 パアッと顔を輝かせるモモカさん。強く顔の前で手を叩いて俺の肩を掴む。


「迷宮都市は祭りではありませんから、普段通りの営業してますよ」


 天才! モモカさんさすがですっ! さすモモっ! 決まりですね!


 という事で城壁に登った俺達はモモカさんの召喚したヒノカグツチの背に乗り颯爽とその場を去った。


『お、おい。お前ら、大丈夫なのか? というよりこのまま迷宮都市に行くのはどうなんだ。またリトリに迷惑をかけるぞ、国を跨ぐというのは簡単にして良いものでは……』


 じゃかあしいぞヒノぉ! バレねぇようにチャチャッと行っちまえば良いんだよぉ〜。それにな、なんかあったら任せろ! 知り合いに頼んで有耶無耶にしてもらうからよっ!

 その為ならヒズミさんの靴でも舐めてやるぜ! へへへっ!


「ヒズミさん逆に怒りますよそれはー!」


 そうかなっ!? あいつ最近はあのショタっ子に執着してないですからね〜。なんか新しいの探すかな! あいつ好みの!

 本人が聞けば激昂するであろう発言を空の上でやんややんやと騒ぐ俺達にヒノカグツチはドン引きしていた。テンション低いよ? 上げてこ?


「おや?」


 モモカさんが何かを見つけた。ヒノカグツチは先に見つけていたのか説明をしてくれる。


『何やら人の形をした奴が一人で浮いているな。なんだあいつは』


 ヒトォ? しかしまだ俺の視力では見えない。モモカさんが耳に手を当てた。


「何か言ってますよ。なになに……おれは、なになにである? きさ……? ぜつぼ……? ちょっと遠いですね」


 ふむ。一人で喋ってるのか? 面白そうな奴ですね。こんな空の上で。


『我らよりは高度が低いがな。町か何かを見下ろしている。何者だ?』

「演説みたいですね。選挙でもしてるんですかね」


 ふっ。なるほど、面白いので拉致しましょうか。このまま迷宮都市に連れて行きましょう。へへへ!


「そうですねぇ。ヒノ、斜め四十五度から切り込みますよぉ〜」

『モ、モモカが悪影響を受けている……』


 そう言いつつも高度を下げるヒノカグツチ。ぐんぐんと飛ぶ俺達は空気を切り裂きながらその人影の元へ辿り着く。


「怖れよ! 我ら……」


 そして何か叫んでる翼の生えた人間っぽい生き物の脇をモモカさんが掴む。グエッとカエルを潰した様な声を上げてその生き物は気絶した。しかしそれを俺達は気にすることなく夕焼けの中、空の旅は続く。まるで揺らめく炎の様な陽射しを受けて、俺達の陽気な笑い声は世の素晴らしさを歌う。

 もはや頭が回らなくなってきたのか気付いたら迷宮都市が見えていた。するとモモカさんは俺と謎の演説マンを掴んで飛び降りて、迷宮都市の近くで着地する。

 流れる様に街の中に入ると、おもむろに俺は懐を弄った。


「どうしました?」


 ええ、ちょっと私も召喚魔法を使おうかと。

 そう答えて俺はとある物を道端に放り投げた。金だ。しばし待つと、どこからかピャッと飛び出てきた影がその金を掴む。今です! 俺が叫ぶと、その金に付けられた紐をモモカさんが思いっきり引っ張る。

 コロリと目の前に狼獣人が転がった。札束でそいつをぶん殴り案内させる。その先で辿り着いた店に入ると、いつになく上機嫌な青髪の男が大きなジョッキで幸せになれる液体を嚥下していた。


「よぉ、ぺぺに姐さん。良いところに来た。まぁ横に座ってくれ」


 モモカさんが脇に抱えた謎の演説マンをその辺に寝かせて横に座る。俺も仕方なく座る。青髪の男ことランスくんが馴れ馴れしく肩を組んでくるので強く払って、素敵な気分になれる液体を注文する。


「今日は大勝ちだぜ。まぁ飲め飲め」


 ギャンブラーの名に恥じない散財具合だ。

 聞きましたモモカさん? 俺が問いかけると既に彼女は二杯目の気分がハイになる液体を飲んでいた。この人、ランスに対しては遠慮がないな。

 いつのまにか狼獣人は俺から貰った金を持って居なくなっていたがそんな事はどうでも良かった。

 うふふ、あははと三人で気分良く飲んでいて、ふとランスが何かに気付く。


「なんだこいつは」


 ランスの言うこいつとは、床に寝そべっている謎の人物だった。なんか耳が長くて、真っ白な肌をしている。誰だこいつは、俺達のパンツでも見ようってか?

 床に寝そべる理由なんてそれしかないだろう。


「けしからん人ですねぇ。おや、イケメンですねぇ。中性的な顔立ちは好みですよぉ」


 ニコニコと紅潮した顔でモモカさんがその男の顔をぺちぺちと叩く。するとその刺激で起きたのかゆっくりとその瞳を開けた。


「な、なんだ? 私は一体、なんだ? 貴様ら、何者だっ!」


 おいおいキョドリすぎだろ。起きてすぐにモモカさんから距離をとったその長い耳の男はビクビクとしながら周囲を見渡す。

 その様子を見て、ランスくんが耳打ちしてきた。


「ぺぺ、気付いたか?」


 何が?

 やれやれとランスは肩をすくめた。


「あいつ見ろよ。顔が白い」


 うん、白い肌してるね。雪みたいだねぇ。


「ああ、飲み足りてないぜ、あれは」


 ……。うん、うん? いや、うん?


「ちっ、しゃあねぇな。お前のダチだろ? なんか耳長いし、お前って変な友達多いじゃん? 今日の俺は気分が良い、許す。奢ってやるぜ」

「人間どもっ! 今日という日が貴様らの……!」


 立ち上がってワーワー騒ぎ出した長耳の男を眺めながらぼんやりと俺は答えた。

 あ、うん? そう? じゃあマスター、この人に度数の高い酒を。

 なんだかよくわからないし頭も回らないのでとりあえず頼んで、すぐに淹れてもらった酒をモモカさんに手渡した。


「イケメンさぁん、どーぞー」


 長耳の男は暴れ出した。手の上に光の球を作り出して掲げるが、しかしすぐにモモカさんに押さえつけられた。光球は握り潰される。彼の顔に驚愕の表情が浮かぶ。

 完全に出来上がった絡み酒のモモカさんが無理やり長耳の男の口に酒を突っ込む。うおー! やめろー! みたいなこと言ってる。俺は腹を抱えて笑った。

 すいません、マスターもう一杯彼に。

 気付けば俺もモモカさんの横にいた。一息に飲まされ、すごい顔をした長耳さんに俺もすかさず酒をぶち込んだ。ランスも続く。


「俺の酒が飲めねぇってかぁ?」


 ボタボタと度数の高い酒を頭からかけている。流石に激怒したのか長耳さんは顔を真っ赤にして立ち上がって



 *



「あいつらは、少し古参だからってよ。私の事を軽んじている。老害どもめ、私より何期か前に幹部入りしたからって」


 どの世界でも古参の連中はね、デカイツラして自分達は偉いんだなんて顔をするんだ。分かるよその気持ち。

 俺はそう言って、キャバ嬢の姉ちゃんに目配せをした。それを見たキャバ嬢はウインク一つをして見せて、長耳男のイケメンこと『ツェイン』くんの腕を大きな胸に挟んだ。

 愚痴りつつ、視線をキャバ嬢の胸元に一瞬だけ移して鼻を伸ばすツェインくん。めっちゃ発音しにくい名前だ。



 記憶を失い、いつの間にか急性アルコール中毒で絶命した俺はお酒飲みすぎ良くないと考えながらスッキリした頭で皆を探し、路地裏で転がっていたモモカさん、ランスにこのツェインくんを拾った。

 起こしてあげたランスくんが震える声で


「こ、こいつに、男の喜びを教えてやらなきゃならねぇ」


 とかのたまうので、やれやれ仕方ないと迷宮都市の夜に開いてて露出過多なお姉さんが接客してくれるまぁ要はキャバクラに連れてきた。

 少しして、起きたツェインくんだが、彼はどうやら魔族とかいう続柄なので人間の女には……否、そもそも性欲という概念が人間より薄いらしい事が分かる。


「このわらしを色ちかけでどうこうちようと!? にゃめるな! にんげんどもめが……」


 だいぶ呂律が怪しいがそんな事を言い出したので、俺はとっておきの秘技を出したのだ。


 俺自身忘れがちだが、俺には男の精神性が備わっている。ペペロンチーノになる前は男だったから、なのだがその事実は俺の武器となる。

 つまり、男の情欲が分かるのだ。多少は肉体に引っ張られているとはいえ、純粋の女……それこそk子にすら勝てる要素である。

 俺が女性の肉体を魅力に感じる心……それを種にして植え付ける。そして、懐中時計の中にはヒズミさん特製のダイナミック自殺薬が常備されているのでそれを飲んでからその種を元手に増幅する。

 俺の身体は抜け殻の様になって死んだが……


「ぐ、私に、その醜い肉を押し付けるな!」


 口ではそう言いつつも顔を真っ赤にして必死に目を逸らすツェインくん、通称ツッくんに俺は満面の笑みを浮かべて言う。

 隠しても無駄だぞ? 俺は巨乳が好きなので、お前も巨乳好きになったはずだ。

 うぐっと喉を詰まらせてツッくんは横でだらしなく背もたれに身体を預けているモモカさんの胸を見た。俺は持っていた水をぶっかける。

 モモカさんに色目使ってんじゃねぇ!


「そうだぞ」


 ランスくんが神妙な顔でツッくんの肩を叩いた。


「姐さんは分が悪い。自殺したいなら止めないが」

「いや、違う! ちょっと知ってる方に似てるから見ただけだ。胸を見てない!」


 誰も胸を見たとか責めてねぇだろ! やっぱ見てたな!? この破廉恥野郎がぁ〜!

 ちなみに俺は自身のエロい心を捧げたので後遺症で身内へのエロに対して潔癖になっている。どうやら何かしらの条件で復活後も後遺症が残る事例があるらしく、今回がそうだった。


「あらら、お兄さん。可愛いお連れさんがいるのにこんな店くるからよー」


 キャバ嬢の一人がそう言ってツッくんの背を叩く。この店に来てからは水ばかり飲んでいるので随分酔いが覚めてきたのかツッくんはハッとした様な顔でテーブルに乗る。


「くそ、お前らのペースにこのまま飲まれないぞ! そもそも私は、貴様ら人間に恐怖を……!」

「もう! マナー違反よ!」


 なんか喚いているがしかし、キャバ嬢達にワラワラとアリの様にたかられて引きずり降ろされる。

 かなりのイケメンだからか、どさくさに紛れてキャバ嬢達に身体中をべたべたと弄られているツッくんを俺とランスくんは微笑みを浮かべて見守った。


「や、やめろ! そんなところをっ! ああっ!」


 魔族とやらは確か災厄を振り撒くらしいが、もはや女性に対して強く出れなくなってしまったのか口ではそんな事を言いつつも抵抗は弱い。

 俺とランスくんは小声で話し合った。


「嫌々言いながら楽しんでる」

「中々の好き者だぜ」


 ニヤニヤしているとツッくんは吠えた。


「貴様! 何かしただろう……! くそ、思考が定まらない!」


 ふむ。身体と心がズレているのさ。


「なんだと?」


 大丈夫、そのうち安定するよ。俺は天使の様な笑顔で言った。ところでお酒足りてないんじゃない? ねぇ、ランスくん。


「そうだな。お前の症状は、魔女の呪いによるものだ。だがこれを飲めば……」


 ドン! と、ランスくんが何処からか取り出した一升瓶を見せてニヤリと笑う。


「これがかの伝説の万能薬。エリクサーだ。とあるツテで入手してね。これの実験た……いや、栄えある最初の一口は譲ろうではないか」


 一升瓶のラベルを見ると、ヒズミさん作を示すサインが入っていた。アルコール度数は400%だ、限界突破していた。そこまできたらもはやただの毒である事が容易に想像できる。


「遠慮するな。信頼できる筋から手に入れたものだからな。『今日はこれ飲んで寝ろ』と言ってくれたんだ」


 永眠しろって言われたのね。

 ドッポドッポとジョッキに注ぐランスくん、ニコリと笑って差し出した。

 どう見ても怪しい酒に顔を青ざめさせたツッくんがまとわりつく女達を振り払い逃げようとする。


「お前らの好きにさせ……」

『迷狂惑乱界』


 俺は魔法結界を展開した。ゲボを吐くモモカさん。ガクリと両膝をつきコケるツッくん。おや? 随分良く効いてる。

 獣の様な動きで俊敏にランスくんが馬乗りになってツッくんの顎をつかんだ。かなり酒臭い息を吐くランスくんは恐怖でしかない。


「遠慮すんなって」


 そして、天国へ至る液体が開かれた口に注がれていく……。



 俺はモモカさんに肩を貸して店を去る。宿を目指しながら、夜空を見上げた。今日は雲一つない星天だ。

 俺はふふっと笑って小さく呟いた。


 そういやなんで迷宮都市に来たんだっけ。


 街に魔族が突然現れた。まだ実感が無いが、災厄らしいそいつらがこのように平然と潜り込んでいる。

 その恐ろしさを、この世界のどれ程の者が分かっているのだろうか。もしかしたら、危険は既に俺達の側に潜んでいるのかもしれない。

 不気味さに俺は身震いした。魔王軍、一体この先どうなってしまうんだ。

 俺は、俺の大事なものを守れるのだろうか。そんな事に悩みすぎる事はなくベッドに入ったら寝れた。






《朗報》

素浪臼さんから、カスタムキャストで作成した不死プレのキャラ達を頂きました。活動報告にてアップしてありますので、良ければ見て下さい。


ちなみにダイナミック自殺薬とは32話くらいでヒズミさんに盛られた薬です。


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