第44話 幻の如く露と消えた。
おうこらテメェ、ランスぅ〜……。
モモカさんの喫茶店内で、俺はランスを突き刺すような視線で睨みつける。対して青髪クソ野郎はそんな俺を鼻で笑い、即座に背中をバンバン叩いてくる。ちっ、うぜぇ。
「んだよー、お前も怒ってんのかよ?あの後、姐さんにボコボコにされたんだから勘弁したってくれや」
ニヤニヤと悪びれないランスに殺意を覚えるが、悔しい事に俺ではコイツを害する事なんて出来ない。なので早速モモカさんに泣きついた。
モモカさーん!あのクソ野郎が調子乗ってますー!一発顔面引っ叩いて下さい!
「ぺぺさん……すっかり元に……。分かりました」
頼もしい方だ。肩を回しながらランスに近付いていくモモカさんの後ろから俺はピーピー吠える。
歯の一本くらい持っていってやって下さい!
「ちょ、ちょっと待って下さいよ。いつもね、ぺぺとはこんな感じなんです。いつものノリって奴ですよ。それに対して過剰なツッコミを入れるってのは、ちょっと冷めるって言うか」
ふん、見苦しい奴だ。ちょっと俺が大人しかったからと、騙して俺を使って金稼ぎしようとした罪だ。
迷宮都市にて、俺が少しだけいつもとは違う人格になっていた時に普段に増して善良な俺を口八丁で誘導し良心を利用して口では言えないやましい仕事をさせようとしたのだ。
それに気付いたモモカさんが何とかフルボッコにして俺を救い出してくれたらしいが……まだ俺からの制裁はくわえていない。
あわよくば死ね。ボコられて天井に釣られ行くランスを見上げながらほくそ笑んでいると店内に新たな客が入ってくる。
「ちーっす。今日のケーキでーす」
近所のケーキ屋さんで働いているプレイヤーのメレンゲだった。モモカさんの喫茶店ではコイツの働いている店のケーキを出しているのでその配達だろう。
おうメレンゲ、ちょっとこっちきてお前も下から突け。そういって俺は自身と同じくらいの背丈の少年プレイヤーに、ランスが老人探索者から頂いてきた凄く強そうな槍を渡す。
「え?何々?ちょっと誰この人、嫌だよ。人なんて刺したくないよ」
これは人じゃねー。ゴミだよゴミ。下から石を投げながら俺はニコニコと教えてあげる。流石に店内で殺傷沙汰はまずいとのことでモモカさんに怒られた。
「てかもういつのまにか元に戻ってるし」
ケーキを運びながら残念そうなメレンゲ。おい待て、何でそんなに残念そうなんだ。喜ぶところだろ?可愛いぺぺさんが戻ってきてさぁ。
「うわぁ、完全に戻ってるや。いやぁ、幻の様なペペロンチーノだったな」
ふん。虫ごときにあそこまで取り乱してしまうとは俺の恥だぜ。まぁ好きか嫌いかで言ったら嫌いだけどさ、嫌いだけどさ!
気まずそうなモモカさんを横目にメレンゲの後を尾ける、そしてすかさずケーキを盗み取りムシャムシャと食べた。うまうま。
「こ、コイツ……!怒られそうにないからって調子に乗ってる……!」
引き気味のメレンゲの肩に腕を回し口の中に食いかけのケーキを突っ込む。おら!テメーも共犯だあ!
「ムグッ!……な、なんでこの人こんなテンション高いの」
それはね。覚悟を決めたからだよ。
「覚悟?」
ああ……。俺に幻覚魔法を散々使ってくれたクソ魔法使いを探し出し、抹殺する……。ツケは必ず支払わせてやるぜ……。
「えー?でもそんな簡単に見つけられないでしょ」
……不本意だが、『攻略組』の力を借りる事になるだろう。ぽてぽちならば、プレイヤーの中でも一番効率的に探し出すことができる。
「攻略組かぁ。ぽてぽちさんは見た事ないなぁ」
奴は一見まともに見えるがな、伊達に攻略組と呼ばれていない。グリーンパスタみたいに外面を繕ってる。
「そうなんだよね。攻略組の人達はすぐに猫かぶるから」
だよな。レッドの奴は最近それが下手になってきてるけどな。最早人間らしさすら無くなってきてる。流石プレイヤーのトップを自称する男だよ。
パタパタ。なにかが羽ばたく音が聞こえたかと思うと、顔面にベタリと青白いヒンヤリとした生き物が飛び込んできた。こ、コイツは……!
「息災か?ペペロンチーノ」
やはりレッドか。思い出した様にひょっこり出てくるペットの小竜を剥がして地面に叩きつける。だがもちろん小竜はくるりと回転して危なげなく着地しキャッキャとはしゃぐ。
『うんちうんち!』
え?喋れたっけお前。そして言葉のチョイスが酷い。小学生かおのれは。おい、そんな汚い言葉を使うな。ぺぺさん可愛い、ほら言ってみろ。
『ぺぺ、うんち!』
うんちで笑うのは小学生までなんだよーっ!
「あの、一応ここ飲食店ですから」
戸惑うモモカさんに普通に謝って俺は小竜を指差す。モモカさん、誰ですかコイツにこんな汚い言葉を教えたのは。
レッドを見てそそくさと帰ろうとするメレンゲの顔周りをビュンビュン飛びながら楽しそうに笑っている小竜。
「や、やめてー!勘弁してー!」
「メレンゲ、そろそろ飲食物作成系のスキルの解放はされていないのか?」
「ひぃ、絡まれた!」
そんなやりとりはさておき、モモカさんは少し考える。
「さぁ……。でもサトリちゃんとよく一緒にいましたよね。まぁでも、竜も小さいうちはそういうのにキャッキャと喜ぶものですから」
そうなんだ。人と大して変わらないんですね。
「竜の知能は人由来ですからねぇ。あ、そういえばですけど。ぺぺさん、幻覚への対抗手段を探してましたよね?実は竜との契約は対抗手段の一つなんですよ」
何ですって?
しかし、契約する竜がいませんので融通してもらえませんかね。
「と、ここまで言っておいて何ですけど、プレイヤー自体がよく分からない存在なので上手くいくのか分からないんですよね」
なるほどな。しかし試してみる価値はあるか……。サトリ辺りに頼んだら何とかならないかな。
「ぺぺさんなら、竜山脈の方へ直接行けば知り合いがいるのでは?」
ああ〜まぁ、居るのはいますけどぉ……。でもめっちゃ仲良かったかと言われるとそうでもなかった様な……。
俺はかつて竜山脈で住んでいたことがある。そもそもモモカさんと知り合ったのもその繋がりだ。
この会話に反応したのはレッドだ。
「それは、《自動翻訳》を強化した時のエピソードか?」
シュバッと俺の背後につくレッド。コイツには距離感というものを教えてやらねばならん。手で押し退けながら俺はモモカさんとの会話を続ける。
「ペペロンチーノ、お前は竜山脈で訓練したのか」
しかし《スキル》大好き男が妨害をしてくる。訓練ってなんだよ、んなもん好きでするか!てかお前も竜語の《自動翻訳》は解放したんだろ!何でまたそんな興味津々なんだよ!
「もし、スキルレベルに上がる余地があるのならば、俺とは違うプロセスで解放に至ったお前の体験が鍵となるのかもしれない」
もう言葉が通じるのに上がるとか無いだろ……。
「純粋にペペさんの事を知りたいのでは?」
モモカさん。あの、なんかすごい嫌な表現なんですけどそれ。嫌です、絶対、コイツとの恋愛フラグなんて立たなくて良いんですから。ほんと無理。
「竜とお喋りできるなら、他の動物とも喋れる様になるのかなぁ」
小竜に頭に乗られて髪の毛をいじくり回されているメレンゲが観念したのか振り下とす事を諦めてこちらにきた。
まぁ、多分だけど出来んじゃね。ステータス画面での表記が《自動翻訳・竜語》って感じだし。
すっかりプレイヤー同士の怪しい会話を聞き流すことに慣れたモモカさんが少し感心したような様子で口を開く。
「地味にプレイヤーさん達って恐ろしいんですよね。竜独自の言語は、普通の契約深度では理解できませんから。ほら、ラングレイさん辺りはチャーミーちゃんと契約してますけど、竜語は話せないでしょう?」
そういうモモカさんはやはり竜語を理解……使いこなす事が出来るのだろう。契約深度とかいう新ワードが出てきたが、サトリやモモカさん、後はリトリなんかが偶に爬虫類の様な瞳になるあの現象に関わっているワードだろう。
「そういえばレッドさんは竜舍に住み着いて四六時中話し込んだらしくて、竜達にちょっと引かれてますよ、キモいって」
お前……プレイヤーや人間以外にも距離感がおかしいぞ……。俺はドン引きした。しかしレッドはどこか誇らしげだ。
「ふっ、ペペロンチーノには負けてられないからな」
勝負の土俵に立ちたくない。
メレンゲが小竜を高い高いしてそのまま宙を飛ばした。滑空して天井からぶら下がる青い髪のゴミに突撃してぶらんぶらんと揺れている。小竜はそのゴミに乗ってブランコの様にキャッキャとはしゃぎ始めた……そんな様子を横目に見ながらメレンゲが言う。
「結局、ペペロンチーノはどうやってそのスキルを解放したの?」
それはだな……。まぁ色々とな。面倒なので濁す俺。しかし追撃がかかる。
「私もぺぺさんから、あの時の話は詳しく聞いた事ないですねぇ」
モモカさんまで?
……これは話す空気なの?回想なの?回想らしい。
*
かつて俺はグリーンパスタと手を組んで、レッドやその周囲の連中に恨みを持っているプレイヤー達を上手く誘導し一揆を起こさせた。
理由は簡単だ。チュートリアルに飽きた。いつまでもあんな森の中でモチョモチョとレベル上げなんぞやってられるか。
そしてもちろん、アルカディアに行くグリーンパスタとは違う場所と繋がった《ゲート》を潜り抜けた俺は速攻で何かに捕まった。
それは何とデカいドラゴンだ。うおお!ドラゴン!ファンタジーだ!と喜んだのもつかの間、空を飛びぐんぐんと高度を上げていくドラゴンさんに俺は必死に話しかける。
もし?あのー、言葉が分かりますか?
『グロロロ!』
ダメだな。どうしたものか。自害しても良いが、今の俺のセーブポイントは良くわからない。もしかしたらまたチュートリアルの森に戻されるかもしれない。それはまずい。
ガッシリとトンビにさらわれた油揚げの如く俺はなすがままになり、しばらくして俺を掴んだドラゴンが何かと交戦した。
また別のドラゴンだ。大空の下を縦横無尽に飛び回り三次元をフルで活用し火を吹いたりなんか良くわからん塊を飛ばしあうドラゴン達。そして俺はあまりにも目まぐるしく変わる視界に完全に酔っ払い、ゲロゲロと吐瀉物を撒き散らす。
そして気付いたらボロボロの身体で地面に横たわっていた。落とされたらしい。骨は至る所が折れて、動くことすらままならない。困ったな……。とりあえず《痛覚制御》で身体の警告を無視して無理矢理動くことにした。
自分の周囲を見渡す。まだらに生えた草木にむき出しの岩肌。空を見上げるとまだヒュンヒュンと戦闘機の様に飛び交う二体のドラゴンが見える。
今のうちに逃げるか?そうこうしていると目の前にデカイ鱗が落下してくる。地面に突き刺さる刃物の如き鱗を見て思う。巻き込まれたら酷いことになるな、逃げよう。
キョロキョロとまた周りを見ると、見えにくいが洞穴のようなものがあることに気付く。あそこに潜り込もう。潜り込んだ。
暗闇の奥から光る複数の鋭い瞳孔。弾丸の如く飛来した何者かに俺は捕食された。早過ぎる死、そして復活地点はまた何処かわからない山の頂上らしきところ。
そこで思い知らされる。この山よりも高い山はいくつもあるし、下を見下ろしても周囲一帯は地平線まで全て山である事を。
ふっ……。俺の口から自嘲した笑みがこぼれる。いきなり詰んでません?
それから数日、ウロウロと良くわからない山の中を徘徊する。どうやらドラゴンには空を飛べるのと飛べないのがいるらしく、飛べない奴は大体洞窟の中にいる。
一方飛べる奴は何処にでもいる、雀みたいなもんだ。可愛さが違い過ぎるが。俺はなるべくクソトカゲどもに見つからないように気配を殺しながら山を散策する。
目下の問題は、空腹だ。
レッド曰く、プレイヤーは食事を摂らなくても恐らく死なないだろうとの事だ。しかし、空腹は感じる。それはもう三日もあければ気が狂いそうになるくらいには。
なので木々の生えている山に行き、果物っぽいものや謎の草を適当に食べたりして俺は生きていた。たまに毒に当たるが、プレイヤーは不死身だ。最悪死んでも生き返った。
そんな生活をしばらく続けていて、俺は川を見つめながらぽそりと呟く。
「動物性タンパク質……」
プレイヤーとなり、俺は現実世界でどれだけ恵まれていたのか知った。食事のバランス、それが精神のバランスを保つ秘訣だと。簡潔に言うと肉が食べたい。
泳ぐ魚を見て俺は考える。この身体はこの世界において弱過ぎる。下手をすれば泳ぐ魚にすら負けるだろう。
なので動物を狩ろうと思っても、罠の知識が無い俺にはどうしようもないのだ。必死に武器を作ってみたりもしたが……猪っぽいのに一瞬で俺ごとバラバラにされてしまった。
という事で、俺が出来ることと言えば謎のキノコや謎の草に謎の果実を食ったりと腹に適当なものを詰めることだけだった。
「ちょっと重くない?」
俺の重厚な回想話にメレンゲが口を挟んでくる。おい、邪魔すんな。ペペロンチーノさんって、苦労したんだなぁって聞く人に思わせる様に工夫してんだぞ。
「絶対ちょっと盛ってる。怪我の具合とか食べたものとか」
盛ってねーよ!映像にしたら年齢制限かかるくらいにはひどい思いしたのー!
「でもそんな昔の事覚えてるわけないじゃん」
いやまぁ、普通はそうなんだけどぉ。意外と覚えてるもんよ?なんか思い出そうとしたら案外出てくるし。
「プレイヤーの記憶は……」
レッドがまた何かを語ろうとするが、ピタリと途中でやめる。んだよ。早よ言え。
「いや、続きを先に聞こうか」
「このまま脱線していくと悟ったんですね」
すかさずツッコミを入れるモモカさんに、ああこの人も慣れてきたなぁと何となく悲しい気持ちになる。
それはさておき、続きといっても……動物性たんぱく質に飢えた俺がとある竜の家族を見つけたというだけの話だ。
その竜は火を噴くタイプの竜でな、捕まえた動物だか魔物だかを焼いて幼生の竜に食わせるわけよ。……それがまた、当時の俺にはとても美味しそうな匂いだった。
「あ、分かった。それをかっぱらおうとしたんだ」
違う。
「え?」
即答する俺に驚くメレンゲ。俺はニヤリと自信満々に答えた。
「巣に潜り込んで竜のフリをしたんだ」
おまけ
*あまりにも筆が進まず幻となって消えた綺麗なぺぺさん回
「こんちわー、今日のケーキでーす」
とある喫茶店の開店前。店で出すケーキは外注しており、その配達員が届けに来てくれた。小柄な男の子は少しズレていたキャップを被り直して、大きなリヤカーに積まれた荷物をせっせと運んでいく。
「メレンゲ、私も手伝うよ」
それをすぐさま手伝うのは、ペペロンチーノだ。メレンゲと呼ばれた少年は彼女の方を見て驚く。
「あれぇ?ペペロンチーノ、髪型変えた?」
「いやー、ちょっと燃えちゃってー」
遠巻きに見ていたモモカ、そっちに驚くの?と戸惑う。コソコソとメレンゲの元へ近付き、小声で聞く。
「あ、あの。ぺぺさん、なんだか普段と違うなーっ、とか。思ったりしません?」
チラリと胸元に視線を落としたメレンゲ。何事も無かった様に目線をあげて、モモカの言葉に考える。
「今日は機嫌がいいのかな?外行きモードになってますよね、チノモードでしたっけ?店に来る時はあんな感じですよ、店長には可愛子ぶった方がケーキの新作食べさせてくれるから」
「あ、まぁ、そんな感じなんですかね?」
ペペロンチーノはどうやら頻繁に通っては新作ケーキの試食をしているらしい。
「あ、そうだ。ペペロンチーノ!店長がまた新作開発したんだけど、また連れて来いって言われててさぁ。また暇な時連絡してよ!」
ヌッと、メレンゲの後ろから廃人レッドが現れる。ギョッとするメレンゲ。
「ひぃっ、レッド……!」
「ペペロンチーノは今、掲示板を使えない。《スキル》が停止している」
この男は突然饒舌になるので困惑するメレンゲ。しかも結論から話すタイプなので尚更意味が分からない。
「あ、なら。今日はぺぺさん休んだらどうでしょう。最近はずっとですから」
すかさずモモカがそう言うと、手伝いを終えたペペロンチーノがぱあっと明るい笑顔を浮かべる。くっ、今までのギャップのせいで輝いて見える……!モモカは戦慄した。
「じゃあ今日行こうかなっ!」
「よっしゃ、ならこのまま行こうか」
余談だがメレンゲは極一般的なプレイヤーである。その部類のプレイヤーは、大体が廃人レッドを苦手としているので早くこの場を去りたい様だ。
そうして去っていく、背丈が同じくらいの少年少女。後ろから見ていると、なんだか幼いカップルみたいで微笑ましい。
パチン!とモモカが指を鳴らすと、ササッと鳥男が出てくる。跪く鳥男を一瞥して、モモカは端的に告げる。
「お店は任せましたよ」
「えっ!?」
*
コソコソと、街を歩くペペロンチーノとメレンゲの二人を後ろからつける影。複数人だ。
「モモカさん。何故いきなり尾行?」
自発的なパトロール中に捕まった中年騎士ラングレイが戸惑いがちにモモカに問うと、しーっと指を口に当てる。
「へぇ、ぺぺの奴、ああいうのが好みなのか」
何故かモモカの側には謎の青い髪をした男がいて、ニヤニヤと楽しそうに尾行している。
「あの、モモカさん。この男は一体?」
「ただのゴミ野郎ですから、こき使うのです」
何かあったのだろうか?モモカがその青い髪の男に向ける視線は氷河期の如き冷たいものだった。やれやれとその男ランスは首をすくめる。
「姐さん、まだ怒っているんですか?ただの冗談じゃないですかあれは」
「あ、ほら曲がっていきますよ」
見失わない様に動き出すモモカ。彼女がランスに背を向けた瞬間。ギラリと鋭い眼光でランスは槍に手をかけた。
「爆閃突・覇天……!」
まるで、巨大な爆弾の様な破壊力がモモカに襲い掛かる。凝縮された魔力の奔流が全てを巻き込み破壊していく。
しかし吹き荒れた暴虐の後には顔面を掴まれ地面に膝をつくランスが残るだけだった……。メキメキと悲鳴をあげる頭部、ランスは必死にモモカの腕をタップして白旗を挙げている……。
何とか解放してもらい、頭部の形を確認した後ぐぐっと伸びをしたランスがペペロンチーノとメレンゲが消えた方を親指で指し示す。
「さぁ、行こうぜ。このままだと見失っちまう」
ニコリとモモカ。
「そうですね」
一連の流れを見ていたラングレイは苦笑いを浮かべてぼんやり思う。また、変なのが増えたなぁ……。
とりあえず二人を追いかけるモモカ一行。すると、二人の前方から明らかにガラの悪い連中が現れる。ベタ過ぎるが、間違いなく絡まれる流れだ。
しかし、あまりにも纏う雰囲気が違ったのか特に何も起こらず通り過ぎて行った。いや、そもそもペペロンチーノが街を歩くイコールチンピラに絡まれるという考えが間違っているのか……。
「困りましたね姐さん。奴が腑抜けると、ネタが出てきませんよ」
「ランスさん、そういう発言はこれっきりにしてください」
忘れがちだがモモカのことを狙っているラングレイは、モモカのランスに対する歯に絹着せぬ口ぶりに不安を覚える。まさか、こんな良くわからない男がライバルに?
「あっ!ぺぺさんの前でお婆さんが転んでリンゴを大量に落とした!」
突然、状況を説明してくれるモモカ。一同がペペロンチーノの方へ視線を向けると、何と彼女はそのリンゴを拾い集めお婆さんに渡している。
「よしっ!そこだ!見返りを要求しろ!」
ランスは謎の応援をしているが、全くその期待に応える事はなくペペロンチーノはニコリと笑顔をお婆さんに向ける。
「大丈夫ですか?お怪我は?」
ガクリと、何故かランスが膝をつく。
「やめてくれ、お前だけは……お前だけは俺よりクズでいて欲しいのに……」
元の人格の本人が聞いていたら憤慨しそうな言葉を並べて項垂れるランスに怪訝な視線を送ることしかできないモモカとラングレイ。
この先の物語はいつか語られるのだろうか。
きっとオマケの話として小出しにされるだろう。
おわり




