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第33話 異邦の者、世界の加護

 

「我が名は鬼山オニヤマ!お前達の様な覗き魔風情に我の身体は好きにさせグワァァー!」


 ザバァっと毒沼から出てきたパンツ一丁の四本腕の男、名乗りの途中でヒズミさんが重力の魔法を使って四本腕を地面に縫い付けた。


「……殺しはできんが、痛めつける事は出来る。分かるか?意味が」


 離れた位置からでも四本腕の身体がメキメキと軋む音が聞こえる。容赦の無さがすごい。俺とハゲ親父はポケッと突っ立っているだけである。


「ぐ、ぐぐ……何という魔術だ!しかしっ、俺を舐めるなよ!」


 地面に寝そべったまま唸る四本腕のそれぞれの手が発光した。その光は形を変えて質量を伴い武器と化す。斧や剣、不思議な光で出来たそれを四本生み出して、強く握りしめると関節を器用に動かして宙を斬り裂いた。


 すると、今まで四本腕を押さえつけていた不可視の力が失われ、俺の所まで僅かに風が吹いてきた。何だ今のは?魔法を、無効化?今のそよ風はその余波か?


固有魔法ユニークマギアか。中々に万能な性能をしている」


 俺とハゲ親父を置き去りにして事態は進行していく。立ち上がった四本腕は手に持った光剣を一本ヒズミに向けて投擲した。

 弾丸の如く飛来するそれをヒズミさんは一瞥して、すぐに地面から湧き出した黒い触腕が光剣を叩き落とす。

 

 直後に残りの三本の光の武器がヒズミに振り下ろされる。身体能力も高い、気付けば距離を詰めていた。


『迷狂惑乱界』


 ヒズミの周囲が歪み、四本腕の武器は全て形を保てず瓦解した。これが、オリジナルの迷狂惑乱界……出力が桁違いだ。


「ぬおおああああ!」


 歪む世界の中で、四本腕は雄叫びをあげて腕を天に掲げた。魔法結界の中で強引に力を引き出し、光が四本腕の頭上に集まっていく。それは先程までのものより大きく、一本の巨大な剣だった。

 ヒズミさんは無表情で四本腕に手の平を向ける


怠惰アケディア発芽スプリード


 光の剣は霧散し、地面に崩れ落ちた四本腕はポツリと呟く。


「もう好きにしろ……」


 だ、堕落魔法……。俺の感情増幅とはやはりモノが違う。目の前の四本腕からは既に覇気というものを感じなかった。気力を削がれたのか燃え尽きた灰の様に項垂れる四本腕とヒズミを交互に見ながら俺は戸惑う。

 これ、この前龍華で暴れた時に使ったらあそこまで大惨事になる事なくサトリやモモカさんを制圧できたのでは?


怠惰アケディアは扱いが難しい。見てみろ、とても話が出来るような状態じゃないだろう。あの時はお前の居場所を聞く用事があったのと、お前に対して私がどれだけ恐ろしい存在かを思い知らせる必要があった」


 そうすか。どうするのコレ。オニヤマとか言ってたけど。本当の意味での廃人みたいになってますよ。ほら、寝そべってる。


「やはり加減が難しいな。だが私の立場では異邦者の扱いはややこしいんだよ」


 異邦者ってなんですか?俺は素直に聞いた。

 コイツと喋っていると知らない単語がバンバン出てくるし説明をしてくれないので困る。ハゲ親父なんかオニヤマとかいう奴の四本腕が本物なのかベタベタと触って肩から調べている。


「この世界とは別の世界からきた知能の高い生物の事だ。一応、お前達と同じ扱いになるか」


 なるほど。お前達とはプレイヤーの事だろう。どうやら俺達の地球がある世界だけでなく他の……こんな腕が四本あるような奴が住んでる世界があるのか……。


「高い身体能力に加え、異邦者は必ずと言っていいほど強力な魔法を持っている。それが固有魔法ユニークマギアだ」


 本当に俺達はその異邦者というカテゴライズで合ってるんですか?特別弱い身体能力しか持ってませんよ?


「私が聞きたい。お前達は異質だ。……まぁいい、私は用事が出来たからもう行くぞ。オリーブの事は任せた」


 そう言ってヒズミさんは去っていった。残されたのはハゲたおっさんと、腕が四本もあるおっさん。どうしろと言うのか。


 チラリとおっさんズの方へ視線を送ったちょうどその時、どんっとハゲ親父が突き飛ばされた。オニヤマではない、オリーブにだ。


「いて、て。なんだ?」


 戸惑うハゲ親父。なるほどわかったぜ、おっさん同士がベタベタしていたのが気持ち悪かったんだな?分かるよ。

 ところで俺もこの四本腕の構造が気になる。そんなわけで俺もトコトコと近付いて腕を掴んだ。オニヤマくんのまるで気力を感じられない身体がやけに重い、どこまで脱力してやがる。


 俺は突き飛ばされた。な、何故だ?オリーブ?


 ゴロゴロと地面を転がり、俺はなんとか立ち上がった。くそっ、何しやがる!俺とハゲ親父を突き飛ばしたオリーブは低く唸った。


『我はこの者を新たな主人として迎え入れる事にした。お前達はもう過去の人。主人を害する者は許さない』


 な、なんだと?キャラ変か?何故俺の周りは口調からキャラ変していくんだ?いやそれはいい。なんだよ、新しいとか過去とかって。

 そっ、と。オリーブが四本腕の変な奴に寄り添った。その些細な仕草に、妙な親愛を感じた俺は焦りを感じてよろよろと近付く。


 オ、オリーブ……待ってくれ、どういう事だ?


『言葉通りだ……我はもうこの者無しではいられない身体になってしまった』


 くそっ、なんか微妙に堅苦しい口調が気になって真剣に話を聞けない。ハゲ親父がまるで恋人に捨てられたが往生際悪く縋り付く男のようにオリーブに駆け寄る。


「おまえっ、俺達よりこんな腕が四本もある奴を選ぶのかっ?」


 そうだぞ!足と合わせて六本……お前は合わせて四本だから数が合わない!自分でも何を言っているか分からないが必死に叫ぶ。

 だらだらと動こうとしないオニヤマの顔をベロベロ舐めてオリーブは俺達を無視した。とりあえず話が進まなくなったので、オニヤマの感情を刺激してある程度の活力を戻す事にした。


「む……何やら調子が戻ってきた」


 俺の魔力はかなり消費したが、何とか言葉を交わすことが可能なくらいまでには回復した様だ。ハゲ親父がこちらを見てくるので、俺から切り出す事にした。


 おいこら、人の可愛いオリーブちゃんに何をした!


「オリーブ?……ああ、コイツの事か。中々見所がある。少しやり合ったんだが俺の身体に通用し得る毒を使ってきてな、まぁ適応したんだが。以来懐かれたみたいだ」


 すっかり戦闘モードが解けて気さくに話してくれる四本腕の男オニヤマ。こちらに都合の良さそうな感情を刺激したからか警戒心も無くペラペラ喋ってくれた。


「あんたは毒に耐性があるのか?あの沼にも浸かっていた様に見えたが……」


 ハゲ親父が毒沼を指差しながら興味津々と言った様子で聞く。


「ああ。俺達の種族は逆境に身を置く事でこの肉体を適応させ強化する。多種多様な毒に耐性をつける為に入浴していたのだが……そこを覗かれて頭に血が上ってしまっていた」


 どうやら話も聞かずにこちらを一方的に攻めた事を恥じている様子だ。正直すぐさま武力行使に出たヒズミさんが悪いんじゃないかな、と思わなくもないが黙っておく。

 中々話せそうな奴じゃないか。俺は友好的な立場を取る為にニコニコと笑顔を浮かべてオニヤマに近付いていく。オリーブに突き飛ばされた。

 何をするっ!


『近付くな売女。彼に何をする気だ』


 生意気な奴だ、反抗期か貴様?言うに事欠いて売女とは……驚いた、そんな汚い言葉を使う様になっているとはな。ヒズミの影響か?


『また、悪い事企んでる。そんな顔をしてた』


 口調戻ってるじゃないか……!キャラぶれぶれでそこが気になってしょうがない。しかし主人に刃向かうペットには上下関係というものを教えてやらねばならん。俺は拳をポキポキと鳴らす。


「なんだ?一体何を揉めている?」

「いやほっといていいよ。いつもの事だし」


 横でオニヤマとハゲ親父がそんな会話をしているが、俺はそれを無視してオリーブに殴りかかる。尻尾で突き飛ばされた。ゴロゴロと転がる俺。

 くそっ!オリーブ……!


『彼とボクの邪魔をしないで』


 俺は認めないぞ……!そんな、よく分からん奴にお前は任せられん!


『そういうのウザい』


 テメェ!吠える俺に対してプイッと首を振るオリーブ。なんて事だ、俺のオリーブがこんな腕が四本もある奴に寝取られてしまった。

 ジロリとオニヤマを睨みつける。……覚えとけよ。


「……?ああ、いつでもかかってこい」


 四本の腕を組みながら余裕の表情を浮かべるオニヤマを恨みがましく睨みながら俺はその場を去った。




 グググ……。俺は迷宮ギルドの食堂で唸っていた。悔しい……。単純にオリーブがポッと出の奴に懐いているのが気に入らないのだ。

 アイツにオリーブの何がわかる……!しかし俺もそこまで詳しいわけではなかった。


「おいおいどうしたぺぺ。珍しいじゃないか、お前らしくないぜ?ほら、飲め飲め」


 横で酒を煽っているランスくんがグイグイとジョッキを口に押し付けてくる。ええい!鬱陶しい!俺が思いっきり払いのけると、急に真顔になったランスが口を開く。


「荒れているな。何かあったんだな?俺に言ってみろ。相談にくらいのれるさ」


 いつになく真面目な口調のランスに俺は事情を説明した。簡潔にまとめると自分のペットがとられて悔しいと。

 ふっ、と小さく笑みを浮かべたランスが俺の肩に手を置いた。


「なぁぺぺ。やはりお前らしくない。つまり、疎ましく思う相手がいるって事だろ?」


 つまり……とはどういう事だ?俺は恐る恐る聞いた。


「邪魔な相手はどうするか。答えはもう出ている様なものじゃないか」


 ニコリとランスくんは曇りなき眼でそう言った。


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