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第31話 一番の被害者は牛さん

TIPS

ゴブリンは基本的に小学生並の身体能力だぞ!

でも悪知恵が少し働くので気を付けよう!


『死の一週間』

 それは、プレイヤー間で流れる都市伝説の様なものであり、真実である。


 《不死生観》スキルが解放され、その解放条件を満たす為に一部の……これを機に『三狂』と呼ばれる様になるプレイヤー達が共謀して起こした悲しい事件である。


 概要としては、《不死生観》スキルの解放条件が『一定回数の死亡』の為、他プレイヤーを故意に殺害して復活後直ぐにまた殺害を繰り返す事で強制的に条件を満たそうというものだ。

 まさに狂気の沙汰。この事件が起きたのは元・攻略組が解散する直前であり、それ以降もレッドの元へ残っていた変人……つまり廃人達が現・攻略組と呼ばれる様になる。


 だが、例外として


『三狂』である、スキル解放者ペペロンチーノと『死の一週間』の発端であるグリーンパスタの二人は……元・攻略組を解散させた原因でもあるが、廃人達と同類として同じ扱いを受けている。



 *



 初日解散組とは、俺も含むリリース組……βテスターの言うところの第二世代がこの世界に来た日に、俺達全員を言いくるめようとしたレッドに対抗演説をかましたとあるプレイヤー……まぁ俺なんだが。その俺の発言を受けて初日の内に世界中へ飛び散った奴らの事。


 その次に、何日かしてやっぱり何処かに行こーっと散っていった連中が中間解散組。それは俺が《不死生観》を解放し……レッド、その次にグリーンパスタが解放するまでの期間を含むので、この辺りで殆どのプレイヤーが居なくなった。


 その後に、最初より随分と少なくなったプレイヤー達に『死の一週間』と呼ばれる事件が起きて、その体験者が掲示板に書き込んだ事で都市伝説的なノリになったわけだ。事実だけど。


 そう、あれは悲しい事件だ。確かに俺は《不死生観》の解放者である。その後に連続自害によって即座に解放したレッドと共謀して、とりあえずグリーンパスタを無理矢理に解放させたのも俺だ。

 だが、そこから先は俺というよりグリーンパスタが悪いと思う。奴とレッドが組む事で起きたのが『死の一週間』だ。そう、俺は悪魔を呼び起こしてしまったのだ……。俺は悪くない。



 まぁ、過ぎた事はただの想い出でしかない。今を生きる俺は呆然とプレイヤー三人組を見つめている。

 場所は岩窟ダンジョン、何故なら俺が一番深く潜れたのがここだからだ。この三人組の実力を計る為にも少しは情報を持っているところでないといけない。


 俺達の前にゴブリン一匹が立ち塞がったのがつい先程、そして戦闘は継続している。


 ゴブリンが振るう棍棒を一人が盾で防ぎ、その横から挟む様に他の二人が棍棒をゴブリンに打ち付ける。


「ぐげっ!」


 だがまだ死んでいない。怯んだ隙に三人で殴打しまくる。リンチだ。しかしゴブリンの反撃。回転斬りの要領で三人組を払いのける。それを三人組全員が盾で防ぎ後退、そのまま盾を構えて突撃して三方向からサンドイッチ。

 呻くゴブリンに皆で棍棒を振るう。ゴッゴッゴ……!鈍い音が洞窟内に響く……。やがて、全身を腫れあがらせてゴブリンは絶命した。


 ふぅ、と。一息つく三人組。


「ふん、雑魚モンスが」


 俺は涙が出そうだった。プレイヤーがまさかここまで雑魚だとは。槍を使うクズ野郎が瞬殺していた光景を思い出してやるせ無い気持ちになる。


 そして、それだけ時間かけてかつ、音を響かせていたのだ。物陰からゴブリンが数匹出て来た。仲間だろうか、ボロボロで地面に倒れ伏すゴブリンを見て新たに現れたゴブリン達が憤る。


「撤退!撤っ退ー!」


 迅速な対応だった。踵を返して勢い良く走り去る三人組。おいっ!待て待て!俺は必死に追い掛ける。後ろから鼻息荒くゴブリンどもが追いかけてきている。曲がり角だ、そこを俺がひょいと曲がるとゴブリンもそれに追従した。

 角から顔を出した瞬間、ゴブリンの鼻っ面に木の盾が打ち付けられる。一体が仰け反り、その後に続いていた二体が警戒して立ち止まった。


「よしっ、退くぞ!」


 またまた走り去る三人組。俺もヒィヒィ言いながらついていく。そして次はT字路だ、一人と二人で左右に分かれた為俺は混乱してとりあえず人が多い方へ転がり込む。

 ゴブリン三体もT字路まで来て悩んでいるが、先程の一撃を思い出したのだろう、警戒心強く曲がった先を確認する。すると案の定隠れていた二人が飛び出してきて棍棒を振るってくる。

 それを防ぐゴブリン、しかし後ろからも飛び出て来たヒトガタの雑魚に後頭部を殴られてしまう。だが他のゴブリンが腕を振るってそいつを吹き飛ばす。


 そこからも、ゴブリンと三人組は盾と棍棒で殴り合う。チームワークで勝るプレイヤー三人組の陰湿な攻めに一体、また一体と力尽きていくゴブリン達。

 数分後、少しボロボロになりながらも無事にプレイヤー達が勝利を収めた。


「どうだね?」


 自慢気にドヤ顔をしてくるが、俺は苦笑いだ。かなり久々にプレイヤーのまともな戦闘を見て、思った以上に成長していない事に驚きを隠せない。

 それも仕方のない事か、ほんの二年ほど前まで地球の一般人をやっていた奴らが突然膂力で大きく上回る連中相手に通用する戦闘技術など持つはずがなかった。


「うっ!」


 なんだなんだ?ボンクラ三人組の一人が膝を抑えて地面にうずくまった。残り二人が大丈夫?と駆け寄る。

 俺達全員に覗き込まれたそいつはゆっくりと膝から手を離した。打撲の痕だ、だがレッドなら気付かないレベルの怪我だな。楽勝だ、次に行こう。


「待て待て……今日はもうやめておこう」

「そうだな、無理は良くない。近くに潜っている他のプレイヤーが居ないか掲示板で聞いてみよう、救援を頼むんだ」

「痛いよぉ〜」


 おい、判断が速すぎるだろう。見た目おっさんが「痛いよぉ〜」って可愛くないんだよ。「大丈夫?無理しないで?」と膝を抑えるボンクラを支える他二人。お前ら……。俺はもうちょい深く行こうよと進言する。


「ダメだ、無理は良くない。迷宮潜りは慎重すぎるくらいで良いんだ」


 アホか、そんな事言ってたらいつまで経っても成長しない。リスクを冒せ、死地に身を置け。俺達は追い詰められる事で強くなれるのだ。


「お前、何の役にも立ってないのによくそんな事が言えるな」


 なんだとぉ?そうですね。俺は納得した。だが、俺の目的を達成する為には……ここで帰るわけにはいかないんだよぉ。

 そう思っていたが、ふと視線を感じたのでそちらを向くと、曲がり角の向こうから槍の穂先がピロピロと不審な動きをしている。……きたか。


「グ、ガ……アアァァ……!」


 曲がり角の奥から、地の底から響いているかの様な怨嗟の声が響く。びくりとボンクラ三人組が振り向いた。

 ヌッと、凶悪な目つきをした牛頭の巨人が角から現れる。俗に言う、ミノタウルス。三メートル程の巨体を身体中傷だらけにして斧をひきずっている。


 鼻息荒く、口から血を出しながら、こちらへ向かってくる。俺達を見つけ、その瞳は怒りに染まる。身体中に空いた傷口から血が噴き出した。


「ガァアアァァ!!」


 咆哮、その勢いに俺達全員が尻餅をつく。何て威圧感だ……!


「バカなっ、こんな低階層であんな奴が……!」

「あああ、俺達にどうこうできるレベルじゃないっ」

「くっ、膝さえ……膝さえ……」


 ズン……。重量のある足音が床から伝わる。どうやら人型の生き物に対して怒りを募らせている様だ、明確な殺意を持ってこちらに向かっている。


 俺達全員が死を意識した。だが、奴は傷だらけだ。迷宮の魔物は階層をまたいでは長く生きる事が出来ないという、そして今の俺達の階層には存在し得ないというミノタウルス。

 ならば、逃げ切れるかもしれない。俺を含めボンクラ三人組はそう考えて、立ち上がり後ろを向いて絶望した。


 ふらり、と。いつの間かもう一匹、先の個体とは逆側に牛頭の巨人が立っている。そちらも傷だらけだ、まるで槍にでも刺されたかの様な傷から血が垂れ流れている。


 そして、その傷だらけの魔物は、俺達に、気付いた。




 上半身だけを壁に貼り付けて、絶命。

 頭から斧でかち割られ、絶命。

 踏み潰されて、絶命。

 まさに一瞬。ボンクラ三人組の、グロ過ぎる末路だった。そして、俺は壁に追い込まれ腰を抜かしてぷるぷると震えている。


 ま、待て待て。おい、ランスっ!ランスーーっ!


 俺の叫びは届かない。あのカス野郎はどこに行ったと言うのか。そう、このミノタウルスは俺の手引きだ。だが、ここまで凶悪な魔物を、二匹も連れてくるとは聞いていない。


「ふシュウウゥ!」

「ガァァア……」


 ズズン、牛さんは二匹揃って俺を更に追い立てる。壁に背中を押し付けて俺は口をパクパクと金魚の様に開け閉めした。斧が、ゆっくりと振り上げられる。


「あ、ああ……ああっ」


 あーーーーっ!



「あれ?もう終わってた?」


 迷宮に少女の絶叫が響く。やがて何も聞こえなくなって、青い髪の槍使いが来た時にはもう既に……。残された壁一面の赤いシミだけがそこで起きた惨劇を物語っていた……。



 *



 酷い目にあった。


 俺は迷宮ギルドの食堂で軽食を摘みながらぼやく。あのクソ槍野郎への報酬は無しだ。生意気なプレイヤーどもをレベル1にしてやったが、俺まで巻き添えじゃないか。まぁ、元々レベル1だけどな!


「ぺーぺっ!悪かったって!いやぁ、お前らがあまりにも雑魚過ぎたからよ!流石の俺でも間に合わねーって!」


 横で俺の肩をバンバン叩きながら爆笑するランスくん。今はこんな態度だが、復活して奴の帰りを出口で出迎えた時は流石のコイツも驚いていた。

 どうやらプレイヤーの知り合いはいなかった模様。だがすぐに、生き返るならいーじゃーん!とふざけた事を抜かし今に至る。


 どんよりとした空気をどこからか感じる、チラリとその気配がする方へ視線をやれば、何やらお通夜の空気な三人組がいる。

 ボンクラーズが俺に気付いた。


「うわっ」

「掲示板で見た通りだ、関わると身を滅ぼすって」

「平然としてる……やっぱり攻略組あいつらっておかしいんだ」


 おいおい、だからそれは《不死生観》を解放してないからだよぅー。俺は立ち上がってボンクラーズの元へ行き肩を掴む。ところで、君たちはレベルが下がっちゃったねぇ?ん?


「ま、まさかそれが目的……!」

「掲示板に名指しでスレを立ててやる……!」

「せっかく二桁まで上げたのにぃ」


 いや、あれは事故だろう。あんな低階層にミノタウルスが現れるなんてね。驚いたよ。


「いやこっちは聞いたんだぞ、怪しい男がミノタウルスを槍で刺して掲げながら低階層に向かったって」

「そうだ、しかもその『堕槍』とか言うやつは最近緑髪ロリと仲が良いって!」

「二つ名って格好いいよね」


 ボンクラーズは口々に火がついた様に喋り出す。やかましい奴らだ。ちっ、と。俺が舌打ちしていると後ろから声が掛かった。


「ぺぺ……おっ、あんたらは」


 ランスくんだ、俺の後を追いかけて来たらしい。それに気付いたボンクラーズがあわあわと焦り出した。


「噂のあいつだ!」

「逃げろっ!殺されるっ」

「串刺しにされるー!」


 ぴゅーっと逃げていく三人に、流石のランスも戸惑っていた。


「あそこまで露骨に怖がられるのは初めてなんだが……」


 そうだな、どちらかと言うと嫌がられる方だもんな。


 *


 迷宮ギルドへ、まだ真新しい装備を身につけた若い男が入ってくる。その横には同い年くらいの女を連れている。体型を隠す様なローブを着込んでいて、大きな杖を持っている事から魔法使いである事が伺える。

 そして、露出している首から上は、思わずギルド内の男達の視線を集めるくらい整っていた。うっとりするほど艶やかな金髪をなびかせ、男に続いて堂々とした立ち振る舞いで歩いて行く。



「登録をしたいのですが」


 男が受付まで来て、落ち着いた口調でそう言った。受付の者と何事かを会話し、少々お待ち下さいと言われ、その二人組は近くのベンチに腰掛ける。


「おいおい……!アベックでラブラブ迷宮潜りかぁ?随分と過激なデートじゃねーの」


 そんな声が響き、ギルド内がしんっと静まり返る。先程の新入りの二人に対して、因縁を付ける者がいた。


「くくく、しかもかなりの美人ちゃんじゃないの。こんな優男じゃなくて俺達と一緒に潜ろうぜぇ」


 いや、者達……であった。ニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべながら新入り二人組に絡むのは青い髪をした槍を持った男と、緑の髪をふわふわ揺らす可憐な少女……つまりは俺、ペペロンチーノだ。


「なんだ……?あんたら」


 新入りの男の方が、女をかばう様に立ち上がり睨みつけてくる。


「中々生意気な目をしてんじゃねぇか……あんまナメてっと、どうなっかわかんねーぞ?」


 対してメンチを切るのは俺だ。見上げながらイキる俺に少々戸惑っているのが分かる。その隙に青い髪の槍使いことクズ野郎ランスくんが、美人な新入り女の横に座り込んで肩を組もうとする。しかし、すぐにその腕は払われ、女は立ち上がった。


「汚らしい手で触らないでちょうだい」


 凍てつく様な視線だ。並の男ならこの視線に耐えられないだろう。だがその程度はランスくんにとって屁でもない、ニヤニヤとした笑みを浮かべながら踏ん反り返る。


「中々に強気な姉ちゃんじゃねぇの。俺は、そういう女も嫌いじゃないぜ」


 ピリ……空気が張り詰める。新入り男の方が何かを言おうとした時、ガタッと周囲の探索者達が何人か立ち上がって新入りをかばう様に俺とランスの前に立ち塞がった。


「新入り、コイツらとは関わらない方が良いぞ」

「目を逸らさずゆっくりと後退するんだ」


 クマか。

 おいおいてめーら、まさか女の前だからって格好付けてんのか?どう考えてもそこの男で出来てるだろうが。

 しかし、非モテ連中は望みを捨てきれない様だ。


「いや、兄妹かもしれん」

「まだ恋人でないならワンチャンある」

「もしかしたら男の方が不慮の事故で居なくなってしまうかも」


 最後の奴の方が不穏なこと言ってるぞ!吠える俺にランスが並ぶ、対して新入り達にカッコいい所を見せようと粋がっている先輩探索者どもが身構える。


「あの、これは一体……」


 すっかり置いてきぼりにされた新入り男が戸惑いがちに声を上げる。先輩探索者の一人が振り返り、真面目な顔でこう返した。


「奴らは『堕槍』と『堕天』。一言で言うなら、厄介者だ」



 迷宮都市にきて約一ヶ月。俺はこの街にすっかり馴染んでしまっていた。




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