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第29話 迷宮。迷宮……?


 俺はまだ迷宮都市にいた。理由は簡単だ。帰れない。行きに関しては嫉妬の魔女の転移魔法陣を使用したのだが、この世界において転移魔法は伝説級の代物だ。それをシレッと使う魔女さんが居ないと帰れないのだ。


 というわけで、せっかくなので迷宮に潜ってみた。岩窟ダンジョンはナメクジとかがキモかったので、水棲ダンジョンと呼ばれるところに来てみた。

 所々に水場がある迷宮だ。まぁ、それはいい。俺は目の前の宝箱を開けるか否かで悩んでいた。よし、開けよう。中から飛び出た槍に貫かれて死んだ。



 復活した俺は近くのベンチにドカリと座り込んだ。

 ダメだな。迷宮潜りは向いてない。俺は痛感した。せっかくなのでソロで潜ってみて、すぐに見つけた宝箱でこれだ。何で宝箱がその辺に落ちているのか。迷宮ダンジョンとはそういうものなのだ。


 可憐な美少女であるペペロンチーノ様がわざわざ肉体労働をし始めたかというと、とても簡単な理由だ。金が無い。

 基本的に俺の資産は龍華に置いてある。それなのに突然こんな所に来てしまったものだから、持っているのは嫉妬の魔女さんの怪しい魔法が込められた懐中時計型の魔道具のみ。怪しい魔剣も怪力ハングライダーの目の前に落としてきたので手元にない。魔剣については一応拾ってくれてるらしい。


 ぷらぷらと街中を歩いていると、すぐ近くに知り合いを見つけたので俺は機敏な動きで近寄りウルウルと瞳を滲ませた。


「私にどうかお恵みを……」


 俺がそう懇願するのは、武骨の刃という探索者四人組パーティのリーダーらしき剣士だ。ぐーっとワザとらしくお腹を鳴らして見せて、俺はもう一度口を開く。


「幼気な娘を見捨てようというのですか……」

「人聞きの悪い事を……」


 剣士様は少し複雑な顔をしつつもご飯を奢ってあげると俺を連れて歩き出す。へへ、こういう時にこの見た目は便利だぜ。しかしいつまでもこんな事は続かない。真剣にこの街での生き方を模索していかなければいけないな。

 上手くいけそうなら、龍華を離れてしばらくこっちで過ごすのも良い。あの国全体がちょっと俺に対して厳しくなっているからな。モモカさん達に会えないのは寂しいが……。



 まずは、手下が欲しい。あの後合流したほかの武骨の刃メンバーからも慈悲を頂き、お腹いっぱいのポンポンお腹をさすりながら俺はガラの悪い路地を目指し歩く。

 そうして、狙いをつけたのは金貸しであろう建物だ。そこから出てくる貧乏人を狙う。お、言っていれば……。影から覗く俺の視線の先には、身包みを文字通り剥がされたのか下着一丁で建物の外へ叩き出された男がいた。


 ふむ、中々いい身体をしている。使えそうだぜ。俺はそろりと近付き、そいつの肩を叩いた。よぉ、いい儲け話があるんだが……のるかい?男が振り向く。

 どこかでみたことのある男だ……。特徴的な青い髪をかきあげて立ち上がった貧乏人が不思議そうな目でこちらを見てくる。


「お前、あの時のガキンチョじゃねーか」


 堕槍のランス。そう呼ばれていたカス槍野郎だ。ちっ。俺は舌打ちをしてその場を去ろうとするが、ガッとほぼ全裸の変態カス野郎に肩を掴まれてしまう。


「おいおい、待てよ。さっき何か言ってたよな?」


 お前みたいなゴミ野郎に用はない。のたれ死んどけ。冷たく言い放つ俺に、しかし全く気にした様子も無く変態カス槍野郎は肩を掴む力を強めるばかりだ。


「まぁまぁ。怒ってんのか?もう終わった事はいいだろ?次に行こうぜ、次にさ」


 にこやかに笑いかけてくるカス野郎に俺は冷たい視線を浴びせる。やれやれと言いたげに溜め息を吐いたクソ野郎は、肩をすくめて言った。


「もう金輪際、ギーヴルには手を出さない。誓ってもいい。どうだ?お前も金が無い口だろ?匂いでわかるぜ。俺の腕っ節が役に立つなら、それで良いじゃねぇか。俺程の実力者で、金に困ってる奴は他にいない。シンプルに行こうぜ」


 自分で言っていて悲しく無いのだろうか。しかし、それは真実なのだろう。何故こいつがひん剥かれているのかは知らんが、この迷宮都市において腕っ節の強さはそのまま資産力に繋がる。

 そこそこ評判の高い武骨の刃の四人を一人で圧倒したコイツは、この迷宮都市においても上位の実力者と言えるだろう。ゴミのような内面さえ我慢すれば、使える……のか?


「ふん、しょうがない。ついてこい」


 偉そうに言ってのける俺に、ヒュウっと口笛を鳴らしてランスは肩から手を離す。


「そう言えばガキンチョ。名前を聞いてなかったな」


 ペペロンチーノだ。

 普段ならば偽名を使う所だが、コイツ相手に猫を被るつもりは無いので素直に本名を答えた。


「そうか、ペペロンチーノ。よろしく頼むぜ」


 使えなかったら、ポイ捨てしてやるぜ……。ランスに背を向けて、ペロリと唇を舐める俺の後ろで同じく唇を舐めているランスに気付かず俺達はガラの悪い路地を歩いていった……。



 *


『一分間殴り放題、反撃無し。ただ、避けます』


 そう書かれた看板を持つ緑髪の少女と、その後ろに作られたプロレスのリングの様な簡易ステージ。リングの中には不遜な態度で踏ん反り返るパンツ一丁の男。

 少女がお金を受け取り、渡した挑戦者がリングの中に入る。振るわれる拳、それを口笛を吹きながら躱してみせる青い髪のパンイチ男。


 リングの前には何人かの筋骨隆々な男達が息を切らせて悔しげな顔を浮かべていた。挑戦者がリングから降りてなお、傷一つないリング内のパンツ一丁男が悲しげに額を抑える。


「申し訳ないなぁ、食らってやりたいんだが……。良くないよな、周りに合わせるって事ができないんだ」


 やれやれと言いたげな青髪のパンイチに周囲から怨嗟の声が上がった。やれ死ねだの金返せだの、負の感情が爆発している。そこで緑の少女こと俺ペペロンチーノは、手に持つ看板に書かれた文字を書き直した。


『一分間攻撃し放題(殺っても可)、追加料金で武器もオッケー』


 客が殺到した。基本料金に加え、追加料金の武器代がかなりの人気だ。


「おいおい、当たる方が難しいぜ。いや、バカにしてるわけじゃない。俺様が、凄すぎるだけだ。気に病むことはないぜ」


 挑発する青髪パンイチにクソ野郎とヤジが飛ぶ。何人もの挑戦者がボコボコにしてやろうとリングに入るが、誰も彼の身体を捉えることが出来ない。


「おっとぉ、今のは死んだぜ」


 急所スレスレで拳を止めてそんな事を言ってのけるクソ野郎に、挑戦者は怒りを募らせるがクソ野郎の実力は高く、攻撃をひらりひらりと躱されてしまう。

 女性の参加者もいるが、クソ野郎ことランスさんは反撃は許されていないもののセクハラは許可されているので胸や尻を触られ、ただ怒りを募らせて終わる。


 ランスの実力を見込んだこの興行は大成功だった。彼自身の評判の悪さも相まってかなりの収入である。俺は口角が上がるのを抑えられない。あわよくば殺してしまえと思っていたが、今は少し惜しいと感じる。使えるぜ、コイツの腕っ節はよ。


 おっと、新たな挑戦者だ。熊の様な大きさの男が俺の目の前で重たげな鎧を脱ぎ捨て、俺の身体を容易に隠す大剣だけを持ちお金を渡してくる。


「殺してもいいんだな?」


 もちろん。即答すると周囲の観客がワッと沸く。


「剛剣のガーランドだ。奴ならヤッてくれる……!」

「そのクソ野郎をぶちのめしてやってくれー!」

「クソランス死ねーっ!」


 リング内に入ってくる熊男に、クソランスは不敵な笑みを浮かべる。


「おやおやガーランドくん。君がこの様に下賎な催しに参加するとはねぇ」


 開催者側から言う台詞とは思えないが、かなり腹が立つ言い方だ。コイツはこの筋の天才だろう。人の神経を逆撫でする才能がズバ抜けている。


「お前を合法的にぶちのめせる機会を、無駄にはしない」


 雰囲気的にはかなり硬派そうなお方だが、そんな男にこう言わせるとは。一体彼らにどの様な確執があると言うのか。


「ふっ。まだあの事を根に持っているのか?女々しい奴だな」

「お前のせいで、ナリアもグーシュもいなくなった。ひと時も忘れた事はないぞ」


 横にいるおっさんが、あの事か!と頷いている。知っているのか?知らないおっさん。


「ああ、以前ガーランドとランスは同じパーティを組んでいたんだ。そしてナリアという女性にガーランドとグーシュという男の二人が恋慕していたんだ。甘酸っぱい探索の日々、しかしグーシュからの賄賂を受け取ったランスの企てにより、おびき寄せられた魔物の群れに襲われた際にガーランドは迷宮に置き去りにされた。命からがら帰還したところで群れからの逃走劇を恋のスパイスにしたグーシュとナリアは完全にデキてしまっていたんだ」


 く、詳し過ぎる。これが迷宮都市クオリティか。解説おじさんと名付けよう。しかしなんて酷い男なんだ。俺ならばもっと上手くやれるぜ……。


 そんなこんなでゴングが鳴り、一分間の戦いが始まった。ガーランドの嵐の様な剣戟、だがランスは最小限の動きでそれを躱していく。ガーランドが叫ぶ。


「相変わらず逃げ回るのが得意なんだな!」


 その挑発はゴミの様な男には全く届かない。ニヤニヤとしながら躱している。見ていてかなり鬱陶しい。攻撃を躱されている側はより強くそう感じているだろう。

 ガーランドの攻撃が、一瞬ランスの皮膚を捉えた。おおっ!と歓声が上がり、ランスの舌打ちが響く。ニヤリとガーランドが口角を上げた。彼の袖からニュッと出てきた細長い物がランスの足首に巻きついた。周りに内緒で追加料金を払っていた魔道具の縄だ。もちろん俺は確認している。


「なにっ!」


 流石のランスも驚いた様だ。ぐいっと引っ張られて思わず転倒してしまう。


「剛剣が搦め手を使うとはっ!」


 解説おじさんが横で興奮している。ランスも流石に年貢の納め時か、ガーランドの大剣がギラリと怪しく光った。逆手に持ってランスに向けて突き下ろすべく掲げられる。


「さらばだ」


 チラリとランスが俺を見る。解放リリース。俺は小さく呟いた。一瞬だけ魔法結界が発動される。しかし、達人同士の戦いにおいて一瞬とはとても大きな単位だ。ガーランドの五感が狂ったその隙にランスが身をよじると、突き落とされた大剣は空を切りリングに刺さった。

 そこから獣じみた動きでリングのサイドロープに登ったランスは手元に時計を掲げて制限時間の終了を告げる。くそっ!とガーランドが叫び、周囲からは落胆の声が上がった。


 潮時だな。奥の手まで使わされたので今日はここまでにしておこう。何事も引き際が肝心だからな。

 残念がる声を背中に聞きながら俺達は撤収して儲けを数える。くくく、中々の稼ぎだ。横でランスもニヤついている。


「くくく、最後は肝を冷やしたが、お前のおかげで何とかなったぜ」


 力強く肩を組んでくるランスの腕を振り払う。ふん、認めたくは無いが……お前のおかげで稼げたぜ。


「なら、さっさと行こうぜ」


 ん?何処にだ?


「決まってんだろ?打ち上げだよ」


 なるほどな。そうして俺達は夜の街へ消えていった。何軒ハシゴしただろうか、何人もの露出過多なお姉さんの胸に埋もれて酒を浴びる様に……否、浴びながら俺とランスははっちゃけた。


 次の日、何故か俺達は路地裏に捨てられていた。ゴミ捨て場に埋もれる俺達は同時に目覚める。だが、何故こうなったのか分からない。お金も無い。少なくない稼ぎを、まさか一夜で?なんて事だ。


「くっ、何の陰謀だ……!」


 いやテメーのせいだろ。あんな店入るからだろうが。ぼったくりじゃねーか。


「何言ってんだ、お前も女に煽てられて酒頼みまくったろうが。てか何で女にデレデレしてんだよ」


 男より女の方が柔らかいしいい匂いするからに決まってんだろ!くそっ、この身体は酒に弱い。なのに一軒目でガバガバ飲ますからだボケッ!もしかして送り狼する気だったな?このロリコン!


「はー?お前みたいな貧相な身体に欲情するかよ。もう十年育ってから出直しな」


 んだと、こんっカスがぁ。俺達は醜く言い争った。だがこんな事をしている場合ではない。一時間後ようやく俺達は落ち着いた。

 次だ。金がないなら稼げばいい。


 俺達の金稼ぎという迷宮潜りはまだ始まったばかりなのだ……。



キャラ初期案


モモカ

138センチくらいの爆乳ロリ。

お淑やかで、優しい。常に落ち着いている。動きは上品で、作中の絶対的ヒロイン。


ジャック

その辺のゴロツキ


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