表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/134

第27話 迷宮都市編開幕

前話のあらすじ

最近出番のなかったオリーブに一体何があったというのか……。


 オリーブ!

 俺は焦った様子で迷宮都市に来た。嫉妬の魔女に連れられてきたのは、迷宮ギルドと呼ばれている役所みたいな所だ。中に入ると様々な格好をした……年齢層に幅がある連中が大量にたむろっている。


 そして、その中でもある一箇所に人が集まっていた。俺は人混みをすり抜けて向かう。そこには昔ながらの掲示板……要は紙とかを貼っつけておく板があり、その中の一枚に俺は釘付けになった。


『緊急討伐依頼!突如、岩窟ダンジョンに住み着いた毒怪竜ギーヴル!』


 そこにはデカデカと書かれた文字とイラストが書いてあり、そのイラストに書かれた竜らしき生き物は俺の愛竜オリーブの特徴を捉えていた。な、なんだこれは……。ヒズミ、お前が言っていたのはまさか……?俺の背後に立つ嫉妬の魔女ことヒズミさんに俺は唇を震わせながら問う。

 何故か迷宮都市では本名で呼ぶよう強制されている。


「ええ、私も何があったのかは分からないけど。気付いたらこんな事になっていて……普段はアキラくんが連れていたのだけど……」


 口調が何となくおかしいがヒズミさんは困った表情でそう答えた。ガヤガヤと周囲は騒がしい。


「明日!俺達『武骨の刃』がギーヴルを討伐する為岩窟ダンジョンに潜るぞ!」


 何やら、金髪の派手なイケメンが何人かの仲間を携えてそう宣言している。周囲の者達も囃し立てながら歓声をあげた。


「奴の特徴は多彩な毒だ!だが!俺達はそれを乗り越えてみせる!」

「お前らが負けたら次は俺達がやってやんよ!」

「精々生きて帰ってくるんだな!」


 盛り上がりを見せる探索者ギルドの一角、それをぼんやりと見つめていた俺達の元へ数人のグループが近付いてきた。ヒズミの肩をトントンと叩き、グループの先頭に立つ少年は満面の笑みを浮かべる。


「ヒズミさん!帰ってたんですね!」

「ア、アキラくん!?」


 一瞬で瞳にハートマークを浮かべるヒズミに俺は若干引きつつも、アキラことプレイヤーAkeyraのパーティメンバーが俺を見ている事に気付く。

 なんか耳が生えてる以外は人間に見える獣人少女に金髪巨乳女……後、多分だが女装した男であろう変態が警戒心強くこちらを睨んでいる……感じるぞ、敵意だ。また悪い虫が来たとでも言いたげな視線に俺はAkeyraが鈍感系主人公ムーブでハーレムを形成している事を察する。

 しかし、睨まれるのは嫌いじゃない。俺は睨み返した。最近の龍華ではまず無い反応が新鮮に感じる。目を逸らされる事も多くなっていたからな……。


 そんな風に睨み合っていると、流石のAkeyraも気になったようで、彼からはちょうどヒズミの影に隠れる形になっていた俺の顔を見る為に乗り出してくる。


「ヒズミさんのお知り合いで……?」


 しかし、ひょっこり顔を出して俺の顔を見たところで、何か怪訝そうな顔をするショタコン好きにストライクな顔立ちのAkeyra。なるほどな、中々業の深いパーティメンバーじゃないか。ジッと見つめてくるもんだから、ショタコンどもがすごい目で睨んでくる。


「……?ん?あれ、あ。ひょえっ」


 ひょえっ。って何だよ。しばらく見つめてきて、やがて記憶に思い当たる所があったのかAkeyraは冷や汗を流しながらテンパりだした。


「あ、あー。初めまして、お嬢さん。ヒズミさんのお知り合いでふか?」


 あまりのテンパり具合にヒズミを除いた他のハーレムメンバーが心配そうな視線をショタに向けた。ヒズミが俺をぐいっと引っ張り耳打ちしてくる。


「なんだ?知り合いなのか?同じプレイヤー同士交流があったのか?」


 いや、待て待て。そんなに焦るな。大した事じゃ無い。あっちが一方的に俺の事を知っているだけだ。

 俺はプレイヤーのほとんどに顔が割れていてな……あと掲示板のせいで評判もあまりよろしくない。だからこそ、逆に関わりが薄い奴ほど俺に対して過度な偏見を持っているんだ。

 そう、偏見だ。謂れなき罪ばかりを被せられた俺は一部の攻略組キチガイどもと同じ扱いを受けているんだ。不名誉だよ、本当に。


「ぼ、僕は今日ちょっと用事を思い出したので……」


 そう言ってショタプレイヤーが逃げようとするので俺はガシッと肩を掴む。ギギギ……と擬音が聞こえそうなくらい緩慢に振り返るショタプレイヤーに天使のような笑みを浮かべて俺は誤解を解いた。


 君はプレイヤーだろ?分かってるよ。俺達には何となくそれがわかる。隠さなくてもいい、俺の悪い噂を聞いたのだろう?

 俺がニコニコと人の良い笑顔で問うと、ショタプレイヤーは戸惑いがちに頷いた。やっぱりね、俺は悲しげに呟く。端的に言うと、イジメみたいなものなんだよ。そう言うとショタは目を丸くする。


 最初の頃は、姫プレイに近い事をしていてね。それで不評を買ったもんだから、掲示板に有る事無い事吹き込まれたんだ……恐ろしいよ、一度噂に火が付くと止められないんだ。俺は一筋の涙を零した。信じて……くれる?


 ショタは目線を下げてふるふると身体を震わせている。ちっ、ダメか?俺が内心で舌打ちをしていると、突然ガシィッと手をショタに掴まれた。顔を上げたショタは涙目だった。ヒズミさんから「うわっ、可愛い」と言う呟きが聞こえた気がする。


「そんな事があったなんて……!ごめんなさい!まともに話した事もないのに決めつけて……!」


 ちょろいなこいつ。俺は指で涙を拭いながら心中でそう言った。もちろん外には出さない。えへへ、と可愛らしく笑みを浮かべて俺は手を握り返した。

 突き刺さる三つの殺意の視線。心が狭い連中だ。一人は男の癖に、女々しいじゃないか。俺は男に厳しい。ショタの手を振り払い女装男の前に立つ。


 柔らかそうな茶髪にスラリとした体型、見てくれはかなりの美少女と言える。服装だけでなくメイクも活用している辺りの努力は認めてやりたいが。とりあえず膝丈のスカートを履いていたのでめくってみた。ほぉ、下にはレギンスを履いていたか、ビビりめ。男らしくない。俺は散乱した机の下敷きになりながら鼻で笑った。


「え、軽。うわ、え?」


 スカートをめくったくらいで俺を突き飛ばした女装野郎はあまりの手応えのなさに逆にびっくりしている。数メートル吹っ飛び机や椅子を巻き込んだ俺はボロボロの身体でなんとか立ち上がり、ガクガクと膝を震えさせながら血反吐を吐いた。


「うわぁ!大丈夫?」


 慌てて駆け寄ってくるショタに、ガクリと膝をついた俺はぷるぷると震える手で助けを求める。三人娘(男込み)は瞳の奥にザマァと言いたげな気持ちを隠し、同じく心配そうな顔をしてショタの後ろをついてくる。


「ヒズミさんっ!」


 倒れそうになった俺をとっさに支えたショタが嫉妬の魔女さんに向かって叫ぶ。三人娘(男)の視線が厳しいものになるのを感じながらコイツらやべえなと俺がぼんやり考えていると、お淑やかな雰囲気を纏った魔女さんが俺の頭を掴む。


『息吹を留める、その器を在るべき形へ回帰せよ』


 ぽやぁーっと暖かくなって、ふわふわとした光のエフェクトと共に俺の身体が癒されていく。あの、以前この様な演出無かったですよね?ゆっくりと魔女さんが口元に手を持って行き、しーっと指を立てる。そもそも詠唱すらしてなかった気もするのだが。


「さすがヒズミさん!すごいですねっ!」


 きゃっきゃとショタがはしゃいでいるのを見て、嬉しそうにする魔女さんと面白くないのか酷い顔つきの三人娘(男)。

 なんか、めんどいな。肉体は女児になったものの心はまだついて行けてない現状。興味がない連中の恋愛模様ほど見ていて苦しいものはない。俺は用事が出来たと、この連中から離れることにした。


「そ、そう?ごめんね。うちのパーティメンバーが。また困った事があったら声をかけてね」


 俺を気遣いながらの無垢なショタスマイルは周囲のメンバーに会心の一撃を与えた様で、何だか悶えている。だが俺はショタコンどもと遊んでいる暇はない。


 業の深きパーティから離れ俺はとあるグループの元へ向かった……。


 *


 迷宮都市の中心部には、鳥居の様な建造物に青い膜が張ったダンジョンゲートがいくつか建っている。この膜を潜ると、いつのまにか迷宮の中に転送されるというシステムだ。

 この世界の住人からもかなり謎とされているこのシステム、俺達プレイヤーからすればかなりゲーム的に感じられる為、結局この世界は現実で異世界なのか、それともゲームの中の世界なのか混乱させる大きな要因だ。


 まぁ、今はそれは置いておこう。その中の一つ、『岩窟ダンジョン』と呼ばれる迷宮のゲート前で俺は仁王立ちしていた。他のゲートに比べて人の行き来が少ない。どうやら低階層に現れた謎の毒竜が原因らしい。

 多種多様な毒を瘴気として放ってくる上、それを潜り抜けて傷を付ける事が出来ても、吹き出した体液は酸の様な性質と毒を併せ持つハイブリット毒液な為、迂闊に攻撃も出来ないという。

 いきなり現れた情報のない魔物に探索者と呼ばれる奴らは二の足を踏んでいるらしい。


 ……あのハゲ親父め。一体、何を与えたらあんな劇物に育ってしまうのだろう。しかし、何故オリーブがダンジョンに住むモンスターと化しているのだろうか。

 そういえば、嫉妬の魔女はあのショタ野郎が一緒に居たとか行ってたな。周囲の変態どものせいで忘れていた。くそっ、話だけでも聞いておくべきだったか。


 ふわり、光の粒子が空から降ってくる。

 ゲートの近くでその粒子が集まって人の形を為す。やがて現れた普通の人に見える生き物は顔を真っ青にしてガクガクと震えながらペタリとへたり込んだ。


 俺はそれを物陰から覗きながら息を吐く。あれはプレイヤーだ。ふむ、あの様子は《不死生観》を解放していないな。俺の顔は割れているかもしれないので復活リスポーンの兆候を見てすぐに姿を隠したのだ。おそらくダンジョン内で死亡した場合の復活地点はゲートを出てすぐの位置になるのだろう。

 ここで俺の素性がバレたら、今からしようと思っている行動の妨げになるかもしれないからな。


 ガヤガヤと、賑やかな声が聞こえてきた。

 四人組の探索者が周囲から声を掛けられながらゲートに近付いて来る


「おっ。ありゃあ、最近メキメキと頭角を現している中堅パーティの『武骨の刃』じゃねえか」


 知っているのか?知らないおっさん。

 俺は横で訳知り顔をして語るおっさんに問う。


「ああ、デビュー直ぐは話題にもならなかったが、着実に経験を積んで実力を上げてきた。堅実を絵に描いたようなパーティだ。それにまだまだ歳も若いから将来性もある」


 なるほど。リーダーの金髪イケメン盾持ち剣士、短い髪のがっしり体型の渋い顔立ち槍使い。この二人が男だ。そしてもう二人、スラリとした体型の弓使いに、魔法使いだろうなって女の二人。


 前衛二人に後衛二人の男女二人ずつ。なるほど色々バランスは良さそうだ。年齢は全員が20代前半ってところか。


 俺はトタタと近寄り、リーダーらしき剣士にしがみついた。


「む?何だ?」


 不思議そうな顔で見下ろしてくる金髪剣士に上目遣いでウルウルと瞳に涙を滲ませて俺は切に訴えた。

 父が、毒怪竜とかなんとかを狩りに行って帰ってこないんです。私、ずっと待ってて、でも、もう待てなくて……。自分で迎えに行きたいんです。連れて行ってもらえませんか?

 しかし金髪剣士は冷静だ。


「ん?それなら俺達に任せてくれ。君のお父さんらしき人を見つけたら、もし怪我をしていて動けないのだとしても必ず連れて帰ってくる」


 キラキラとした瞳で言われるが困った。父など居ない。槍使いの男の援護射撃もくる。


「行方不明の探索者の情報も調べてみようか」


 くそ、噂通り堅実な奴らだ。後ろの女二人なんてこちらに興味を示しているものの介入する気配がない。切り口をミスったか?

 俺の幼い容姿が仇となった。危険な場所に連れて行くわけには行かないと思わせる庇護欲の様なものが駆り立てられるのだろう。


 あっ、お父さん発見しました。生きてますね。それではさようなら。俺はすぐに諦めてその場から立ち去った。


 くそ、どうする……。


 俺は、なんとしてもオリーブと会わなければいけない……。


「よぉ、ガキンチョ。今のやり取り、見てたぜ」


 俺が指を噛みながら悩んでいると、突然後ろから話しかけられる。驚いて振り返ると、俺の知らない男が立っていた。青い髪色をしたそいつもどうやら槍使いの様で、肩にトントンと槍でリズムを取っている。


「お前、迷宮潜りたいんだろ?」


 ……だったら何だと言うのか。俺が眉をひそめると、その男はニヤリと笑った。


「いいぜ、俺について来いよ。お前の望む所へ連れて行ってやる」


 新手のナンパか?




やっぱり、ダンジョンは外せませんよね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ