第26話 プレイヤー同士の戦い
汚い忍者に毒を盛られて、残念な事に命を落としてしまった俺は復活後すぐに予選会場へ戻ろうとした。しかし、遠目にも何やらデカイ何かが街で陣取っているのが分かる。そいつは演説もしていた。
『あー、だからぁ。これから予選を始めるって事だ。ルールは簡単だぞ』
金色のデカイ竜が一度黙ると、頭の上に乗った小さな影から大きな雷が生まれ、街の一部を雷の壁で囲っていく。
『この範囲内で、日没までに残ってた奴が本戦に出れる。あ?残るってのはどう言う事だと?ちょっと待て……なんか、何でもいいから意識奪うか壁の外に放り出せだと。ああ!?覗き見が得意な奴がいるからそいつが監視して救出してくれるとよ!』
金色のデカイ竜からはまるで知性が感じられない。なので説明が下手だ。
「ウチの魔法使いが全体を監視している!『千里眼』!聞いた事があるだろう!だから安心して目の前の敵と戦ってぶちのめせ!即死じゃなけりゃ助けてやる!」
国王様が直々に説明をして下さる。成る程、ちょくちょく出番があるな『千里眼』。金色のデカイのを見上げていると、俺の存在に気付いたバカ竜はヒョイと俺をつまみ上げて頭に乗せた。
「おっ、来たか。まさか他グループに押し掛けてくるとはな、中々面白い。そのまま採用させてもらったぞ」
サトリは嬉しそうだ。俺がけしかけた騒動を綺麗にまとめやがった。俺はもうちょっと血を血で洗う争いを求めていたのだが、まぁいいだろう。これはこれで、分かりやすくて良いし色んなタイプの人材が残りそうだ。
フヨフヨと俺の近くを眼球の様なものが浮いている。何じゃこりゃ。掴もうとするがするりと抜けてその物体は俺のスカートの中に入り込む。
『ほー、白のパンティか。素行に似合わず清楚やな』
んなっ……!俺は思わずスカートを押さえ込んで飛び退く。眼球を睨み付けると、それは小刻みに振動している。笑っているらしい。お前……千里眼って奴か。
『おお、いかにも。破滅の魔女殿、まだ直接お会いした事はなかったな。お噂はかねがね』
変態野郎が……俺のパンツは高いぞ。後で請求するからな。プリプリ怒る俺に、眼球はヒュイヒュイと周囲を飛んで挑発してくる。
『いやぁしかし、魔法越しなのが惜しい程、可愛いやないか。お前さんのブロマイドはよく売れるんや。鑑賞するには良いんやと』
むっ、そうか?俺は機嫌を良くした。いやー、俺も常々思ってるんだよね。俺って可愛いよなぁって。てか何ブロマイドとか売ってたの?俺のトコに金は入ってきてないけど?肖像権はどうした?
『良いやろ別に。ああいうのは自分で売ってくもんじゃなくて、周りが勝手に盛り上がるもんや。その美貌やからしゃあないやろ』
ちっ、一理あるな。聞いてなかった事にしてやる。それと、なんだ。アレだったらポーズとか取るが?
「ちょろっ……」
サトリさんが横で小さく呟いた。ちょろいとはなんだ。
「なんかおだてられてそのまま夜の店で働かされてそう」
そんなことあるか!流石にそこまでは流されるかよ!
『うーん、自然体のオフショットが人気なんやけどなぁ。でも、ちょっとえっちぃのも一部の好き者には売れそうやな。あーでもわざとらしいのもなぁ。まぁとりあえず今度撮らせてくれへん?』
しょうがねぇな。照れながら俺は頰を掻く。
俺は自分で言うのもなんだが外見を褒められると弱い。己のキャラメイクセンスに絶対の自信を持っているからだ。プレイヤーにはそういう奴が多い。
「なんか犯罪臭がする……」
微妙な表情で呟くサトリ。お前のトコの部下だぞ。良いのかあんなんで。しれっと盗撮してる様な奴だぞ。
「でも便利なんだよな、あいつ」
確かに。でも去勢はしといた方がいいと思う。
「ジジイだから枯れてるよ」
『まだまだ現役やでー』
去勢だな。きっぱり俺が言うとパタパタと何かが飛んできて俺の頭の上に乗った。払い落とす。ポテポテとバカ金竜の鱗の上に転がるのは蒼白の鱗を持つ小さな飛竜だった。ん?コイツ確かレッドのペットじゃないか。なぜこんな所に。
きしゃーっ、と。こちらを威嚇してくるチビ竜に俺もファイティングポーズで応える。相変わらずあざとい奴だ。虎視眈々とマスコット枠を狙ってやがる。オリーブとむーちゃんで埋まってんだよっ!
「ああ、可愛かったから連れて来たんだった」
俺がチビ竜と組んず解れつの争いを繰り広げているとサトリがそんな事を言う。飼い主はどうしました?
「さぁ?危ないのでそのまま預かっといてくれって頼まれたが」
そういえば途中から姿を見なかったな。俺が汚い忍者に罠にかけられた時もどこにいたのやら。恐らくだがあの乱戦に参戦していたのだろう。「ふっ、良い経験値だ」とか言ってそうだ。
ちなみに知り合いの半裸プレイヤーは初撃の爆弾で宙に舞っていた。弟子の半裸狂戦士とはえらい違いである。
しばらくタケミカヅチの頭の上から、予選を見学していたが飽きてきた。俺はどうやらジッと出来ない性質らしい。
『千里眼』のエロ野郎の映し出すモニターっぽいのは中々カメラアングルも凝っていて、観るものを楽しませる……実際に多くの観客がサトリの作った雷壁の前に集まって酒を飲んでいるからそこだけスポーツ観戦バーみたいになってる。
だがなんだろう、こう……あの中に混ざってめちゃくちゃにしたい。祭りと聞いて気分が盛り上がってるのかもしれないな……。ニヤリと俺は口角を上げた。
サトリ、俺も参加させてくれないか?
「なに?予選にか?」
もちろん。途中参加だとまずいか?
「別に。どうせ、絶対残れないだろうし」
それはどうかな?俺は自信満々に言い切った。俺にはこれがある……と、腰に提げた黒くて内部に紫の瘴気が渦巻いているキモい魔剣をサトリに見せる。
「うわ、怪しさを煮詰めた様な剣だな」
だろ?いかにも呪われた装備です感がたまらない。以前これを披露する機会を失ってしまってな、使いたくてウズウズしてるんだ。
「ふーん、じゃあタケミカヅチ。魔女を中に放り込んでやってくれ」
了解とばかりに俺の頭を掴み雷壁の中に置く金竜。チェスの駒を置くみたいに予選フィールドに侵入した俺はおもむろに剣を抜き放ち、ちょうど目の前に居た男に切っ先を向ける。
「よぉ、死に損ないが。お前の人生ならぬプレイヤー生に引導を渡してやるよ」
コキコキ、と。目の前の半裸男は新品同然の肉体で拳を鳴らす。
「損なってないぜ。死んだ。だからここにいる」
格好つけて言う事ではないが。怪力ハングライダーは、じり……と獣のような姿勢でこちらに近付いてくる。俺は運が良い。もし最初に会ったのが現地人だったらまず勝ち目は無いし、プレイヤーとはいえレッドはもちろん高レベル者ならば俺は歯が立たない。
だが、コイツならば……おそらくつい先程死んでレベル1のコイツならば、この俺の魔剣を使えばまず勝てる。
俺は魔剣を天に掲げた。
『解《リr》』
「わっしょーーーい!」
突如走り出した怪力ハングライダーによるラリアットを喰らい俺は魔剣を取りこぼして地面を転がった。ぐっ、くそが……。すぐさま立ち上がって追撃に備える。半裸男が飛びかかってくる。第三者視点から見れば犯罪的な絵面だ。
レベル1の雑魚に俺様が遅れを取るかぁ!とレベル1の俺が吠える。大袈裟な動作で追撃を避けた俺は振りかぶった拳を半裸男の顔面にぶつけた。
ペチッ!と俺のテレフォンパンチが半裸男をのけぞらせる。
「ぬぁっ!」
パチんっ。半裸男も負けじとビンタでやり返してきた。俺はヨロヨロと衝撃で体勢を崩す。しかしすぐに俺は可愛い掛け声と共に蹴りを放つ。
だが、俺の蹴りは半裸男に防がれて足を抱え込まれてしまう。ぐいっと引っ張られて、おっとっと。俺は体勢をまた崩してコケた。まずい、マウントを取られる……!
ぬああああっ!俺の両腕ぐるぐるパンチが火を噴いた。その勢いにたまらず半裸男は俺から距離を取る。
その隙に俺は魔剣の元へ飛びついて拾い上げた。
『解放!』
余談だが、魔道具を使用する為のキーワードは好きに決めれる。俺はリリースという言葉の響きがとてもスマートでカッコいいと思う。
「はっ!お前に剣を扱えるのかっ!」
興奮した半裸男が煽りながらこちらへ走ってきた。魔剣から闇の瘴気を漂わせながら俺は余裕の笑みを浮かべる。バカが……止まって見えるぜ。
風を切る音と共に半裸男の左腕が宙へ舞った。
「……!ばかなっ!ペペロンチーノにっ!?」
ふん……。今までの俺と思うな……。半裸男の背後に立った俺は肩で剣を支えニヤリと笑う。呻いた半裸男が残った右腕で裏拳を放ってくるが、俺はそれを片手で受け止めて力強く握る。骨を折る事くらいしかできなかった。
「レベル1のステータスじゃない?」
くくく、これがこの魔剣の力よ。己の全生命……界力を捧げ、この世界から一時的に界力を引き出し借受ける代物さ。
「な、なんだとっ!」
そしてその効果と持続時間は捧げた界力次第で増減する。
「つまり?」
ガクン、と俺の膝が折れる。つまり、使えば死ぬって事だ。俺は地面に崩れ落ちた。
「なるほど。レベル1だから効果時間も短いわけだ」
そういう事みたいだね。思ったより早かったわ。いやー、プレイヤーに向いた武器だろってくれたけど、俺には向いてないね。剣使えないし。
「今度俺にも貸してよ」
良いよ。今度、迷宮都市とかで必死にレベル上げたやつとかにも貸してみようぜ。くくく、力に溺れるだろうなぁ……制限時間付きだが。俺は魔剣に界力を捧げて死んだ。
*
『あれ?ついにペペロンチーノもこの領域に来たんだ』
一瞬なのか、それとも凄まじく長い時間なのか。感覚すら曖昧な、色も形もめちゃくちゃな空間。視界でなく、本来人には持ち得ない感覚でしか認識できない空間。
懐かしい奴がそこにいた。レッドと、不本意ながら俺を含めた蔑称である『三狂』。その一人であり、俺と共に攻略組を解散させたプレイヤーだ。
『お前、グリーンパスタか!なんだよここは』
声でなく、念話に近いもので訴えかける。すると奴は相変わらずの調子で笑った。
『あれ?レッドに聞いてない?まぁ、説明出来るようなものでもないけど。そうだね、この空間は僕達プレイヤーそのものでもあり、それぞれでもあり、全く違うものでもある』
全くわけがわかりませんが。
『わからなくて良いんだよ。そういうものなの。まぁ近いのは、メニューコマンドの掲示板だね。プレイヤー全員が、本当は知っているもので、繋がっている所なのココは。……そうだなぁ』
グリーンパスタは一度区切る。イメージで、何かを考え込んでいるのが伝わってくる。名前を付けるならば、奴はそう言って切り出した。
『プレイヤーズギルド』
『僕達であり、僕達の事をどう呼ぶかと考えたら、コレが一番しっくりきたかな』
*
復活した俺は街を歩いているところを嫉妬の魔女さんに捕まっていた。俺を小脇に抱えてズンズン進む嫉妬さんに俺は戸惑いながら声を掛ける。あのぉ、何ですか?いきなり。
「………。ちょっと、ウチまで来い」
ウチってどっちだ?迷宮都市の方か?それなら闘技大会も控えてるんで嫌なんですけど。
「いや、そのな?なんて言うかな」
柄にもなく歯切れが悪い。何だよ、はっきり言えよ。じれったいのは好きじゃない。俺はバタバタ暴れて不満を主張する。
「あー!もう鬱陶しい!オリーブがなんかこう、アレなんだよっ!」
オリーブがアレだと?俺は嫉妬さんの語彙力の無さと久々に聞いたオリーブの名に驚きを隠せなかった。