第17話 芸術の国
アルカディア連合国は、大国からの侵攻を恐れた小国が寄り添い合って出来たものだ。しかし、龍華の長が雷竜王サトリに代わってからは軍事活動がずいぶん大人しくなった為、連合国は解散すべきではという意見がちらほら出てきているとかなんとか。
元々、聖公国も……例外的な存在の迷宮都市もそんなに他国にブイブイ言わす様なお国柄ではない。
そんな矢先、龍華と接する国境にある関所に一体の竜が降りてきた。飛竜の成体、他国から恐れられる竜騎士が操る個体だ。それが何故こんな所にと見張りの兵士はもちろん、国境を行き交う人々の注目を浴びていた。
竜籠、と呼ばれる主に人間の輸送用に使われる箱型の物体……装飾から見てそこそこお金がかかっていそうなソレを竜が掴んで飛んできたという事は、何かやんごとなき御立場の人をつれている?と兵士を更に緊張させる。
ガチャリと、竜籠から誰かが出てくる。子供だ。クリムゾンゴートと呼ばれる赤い羊の様な魔物の毛皮をコートにして、顔の半分は隠す大きな色のついた眼鏡。ポケットに手を突っ込んで偉そうに歩いてきた。龍華は権威を派手さで主張する。豪華絢爛さを周りに見せ付けるのにうってつけな赤い魔物の毛皮は龍華の貴族に好まれていた。
その後ろに続くのは、白い毛並みの鳥獣人。獣人の中でも鳥系獣人は大きな翼を持ちながらも顔は人間に近いタイプが多い中、その鳥獣人は顔が一番鳥っぽい。貴族の子供がペット奴隷として飼っているのだろうか?様子を伺っていた周囲の人間はそんな印象を受けた。
『ギーギー』
「んあぁ?そうなんだよ、まだ諦めてないのアイツ」
成竜が鳴き声を上げると、まるで何を言っているのか分かっている様に言葉を返す少女。周囲がそれを不思議なものを見るように眺めていると、鳥獣人に続いて龍華の軍服を着込んだ男が中から出てきた。金髪を後ろに撫で付けて、綺麗にアイロンのかけられた軍服をキッチリ着こなした中年の男は竜の周りを警戒していた手近な兵士に声をかける。
「すまないが、責任者はどちらだろうか?出来れば直接お話ししたいのだが」
は、はい!とその兵士は緊張露わに元気よく返事をして、慌てて大きな砦の様な建物に向かって走っていった。
数刻後、強面の男が顔に緊張を貼り付けて歩いてくる。その男の側に控えていた兵士が龍華から来た三人組の元へ走り、別室へ案内する。
来客対応用の応接室に向かう道すがら、責任者の男が口を開いた。
「龍華の軍人様が、こんな小国に何の用ですかな?」
相手は大国、しかも血の気の多い国民性だ。しかし、舐められてはいけないと威厳を損なわぬ様に気をつけながら男は話す。それを聞かれて、軍人の男は懐から何やら書簡らしき物を取り出した。
「王命だ。我が龍華が長、雷竜王サトリ様から直々にこの国の王に話があると」
ぞわり、責任者の男の背中に何か寒いものが走る。大国の王が、話だと?軍人は続ける。
「この国の、誇りをかけて……あるものを探してもらいたいのだ」
応接室にまだ着いていないのにペラペラ話し出す軍人に内心ビクビクする責任者の男、こんな所で聞いていい話なのか?何故、今自分が担当している時にこんな厄介事が舞い込むのだ。自分の不幸を恨む、しかし……同時に好奇心もあった。
「そ、それは一体……?」
言った後に、ハッと口を抑える。余計な事を言ってしまったか?だが相手は気を悪くはしていない様だ。その問いに答えたのは、軍人の後ろをついて歩く、派手な服装の少女だった。
「家具さ。とびきりお洒落な机と椅子だよ」
そう、彼らはつい先日に起きた龍華での大事件。『双魔の厄』の被害にあい、めちゃくちゃになってしまった……とある喫茶店に置く、お洒落なテーブルとイスを探しに来たのだ。
俺達プレイヤーが、この世界に閉じ込められてから早二年。帰還の方法も分からず、普通の異世界転移系なろう小説ならば偉業の一つや二つ成し遂げているだろう時間をかけて尚、魔法すらロクに扱えない奴ばかりなのが現状だ。
それはさておき、異世界転移系なろう小説にはいろんなパターンがある。突然人もいない所に飛ばされたり、なんか王様の前に召喚されたりとか。そして召喚されちゃう系主人公には大体二通りある。お偉い人に、下手に出る奴かやたら偉そうに踏ん反り返るかだ。
その世界基準でチート級の能力を持つ主人公ならば、偉そうに踏ん反り返った方が清々しいと俺は思う。だが、非チート系となると……もうヘーコラヘーコラ頭をペコペコするしかないと思う。例えば俺達プレイヤーなんかがそうだ。力を持った奴相手には低頭姿勢で臨むべきなのだ。
ただ、俺達の場合は偉そうな態度を取って不敬罪で首を切られたとしても復活出来る。そのせいか、一部のプレイヤーは雑魚のくせにふてぶてしい。
俺はソファーにドカリと深く座り込んで足を組み、片手に持って来させた果実水を持ちながら踏ん反り返った。チューとストローで一口。
「お、中々美味いな。なんていうフルーツなんだ?」
ビシッと頭にチョップを食らう。俺はラングレイを睨みつけた。何しやがる。
「何でそんなに不遜な態度を取れるんだ」
あぁ?俺はヤンキーの様に唸った。待たす奴が悪いだろうがよぉ。そう、俺達は今、とある用事で来た小国の王に待たされている。応接室の様な所に案内され、今ちょうどメイドっぽいのに飲み物を貰ったところだ。メイドさんはあわあわとしながら答えてくれる。ふむふむ、つまりオレンジだね?オレンジということにしよう。要は、赤いオレンジジュースだ。
『何でいきなり龍華の兵が来るんだ!』
『いや、それが私共もよく分からず……』
おや?扉を挟んで廊下から何やら話し声が聞こえるな?おいおい、聞こえているぞ。不敬な奴だな。ちなみに、むーちゃんはそこらへんに飾られているよく分からん彫刻を見て回っている。
扉が開いて、中性的な顔にプラチナブロンドでウェーブのかかった綺麗な髪を肩先まで伸ばした男が入ってきた。背は中々高く、鍛えてなさそうな細い身体だが一本芯が入った様に姿勢がいい。赤いスーツの様な服は高価そうな質感で、袖口と首元には何故かヒラヒラとした装飾が付いている。
「お待たせしました。私が、連合国アレール領の領主アレール三世です」
凛とした声で男は胸元に手を置いた。何だ?敬礼みたいなもんかよ?俺は踏ん反り返って言う。まぁ、座れよ。
「はじめましてアレール三世。いきなりですがこいつは無視してください。ところで早速本題に入りたいのですが」
俺様を無視だとォ?そんなことさせるかよ!俺はおもむろに立ち上がり、アレール三世に書簡を叩きつけた。何とか受け取り、困った様な瞳でラングレイを見る。部屋をウロついている謎の白い鳥獣人も気になる様だ。視線が泳いでいる。
「このガキっ!先程から無礼だぞ!」
一緒に来たお付きの騎士みたいな男が流石に我慢ができなくなった様だ。怒りのあまりに剣を抜こうとしている。アレール三世が手で制止したが、もし止めていなかったら斬られていたかも知れない。そのまま俺達から遠ざかり何やら耳打ちをする。
「しかしっ!流石にあのガキは無礼が過ぎます!アレール様はこの国の領主、奴ら龍華に舐められる筋合いはありません!」
領主様がせっかく小声で何かを言ってくれたのに、その意味をなくすような大声で怒り狂う騎士。それなりに経験がありそうな騎士様だが、ちょっと頭が硬いのかも知れないな。俺の横に来てラングレイが懐から何かを取り出して渡してくる。なんだ?これは……チョコレート?
「いや本当に申し訳ない。色々と話がしたいのですが、とりあえずコイツに何かお菓子を出してくれませんか?大人しくなりますので」
俺は子供か!ったく、こんなもんで俺を懐柔できると思うなよ。俺は椅子に座りモチャモチャお菓子を食べる。メイドさんが、新しくマカロンちっくなものを持って来てくれた。わぁ、甘ーい。
「コイツがかけた迷惑分は何か見返りがある様に、サトリ様にもしっかり伝えますので……本題の方に入りましょうか」
俺がお菓子に目を奪われている隙に何やらラングレイは話を進めていた。何かちょっかいをかけたくなる。立ち上がろうとして、ウロウロしていたむーちゃんが俺の肩を突く。
「俺にはこの部屋の調度品の価値がわからないピヨ」
ふん、これだから教養のないやつはよ。俺は立ち上がってグラサンを投げ捨てまずタンスみたいな家具の上に置いてあるツボを掴み持ち上げる。
見ろよ、この均整の取れた形に見えて少し崩れたツボを。分かるか?あえてバランスを少し崩す事で、美しさを引き立てている。完全なる美は人間には馴染まない。モモカさんもちょっとおバカなところが可愛いだろ?俺は適当なことを言った。
「た、確かに」
そういうことだ。ツボは高価そうなので優しく置いた。次はこの絵だな。なんか汚い色合いで悪魔が書いてあり、光の勇者っぽいのが立ち向かっている感じの絵。これは、うん。なんか、あれだよ。闇と光を同じ絵に入れる事で互いを引き立てる的な。
「へぇ、じゃあこれは?」
そう言ってむーちゃんが指し示したのは、壁に掛けられたミノタウロスみたいな牛っぽい魔物の生首剥製だ。キモいな……センスが分からん。そもそも何だよこの部屋、客を招くのに意味分からん物ばかり置きやがって。なんていうかさ、さっきのツボは弥生時代っぽいくせに飾られた絵は中世ヨーロッパっぽくて、あっちの棚に置いてあるのはアジアンな不気味な感じの美術品で、またまた逆の棚にあるのは可愛らしいポップな……ジャンルがバラバラなんだよ!
俺はキレた。一々描写するのがめんど臭くなったからだ。とりあえず要約すると、ジャンルが違う美術品が一部屋に集まっているので統一性がなくごちゃごちゃしている。
「私は芸術品に目がなくてねぇ、来客にも良さを知ってもらおうと置いてあるんだが……ところで君のそのコートも中々良いね、クリムゾンゴートか……私も一着持っているよ」
ほう、見る目があるな。この羊は皮も毛も赤いという、目立つという一点のみに特化した所が潔くて良いよな。自然界において天敵から身を隠すとかそういう姿勢がない所が。
気付いたらアレール三世は俺の横に来て部屋に置いてあるよく分からん品々の説明を始めた。え?聞いてないよ。俺はとても困ったので真面目そうな騎士さんに悲しげな視線を送ってみる。しかし鋭い視線を返してくるだけだ。ラングレイが言う。
「有り難く拝聴しろ」
どこそこで買ったとか、ここが良いとか、どうでもいい情報が左から右へ流れていく。俺はパン!と大きく手を叩いた。皆の注目が集まる。
「って事で、早速家具探しと行こうぜ!」
そういうことになった。
「私が着任してから数年ですが……私は芸術にこそ、心を豊かにする力があると思っています」
トコトコと皆で城の様な建物の中を歩いている。道中にアレール三世がそんな話を始めた。
「アレール様の掲げた芸術推進活動に民も良き影響を受けている。国内外から芸術の国アレールと呼ばれる様になって、国としてそれはもうとても豊かになった」
建物とかも芸術家にデザインさせたり、街並みを作らせたり、街中での芸術活動を推奨したりとか……国外から、芸術家志望の人を受け入れたりもしているらしい。創作活動が捗る様な様々な政策を考えているのだと、自慢気にお付きの騎士殿が教えてくれる。
そうですか……俺は全く興味がなかったので窓から外を見る。確かに奇抜な服装の奴や、デカい画板を持った奴とかが歩いていたな。
「家具、それももちろん、素晴らしい物が沢山ありますよ。しかし、やはりオススメするのはオーダメイドでしょう」
案内されたのはとある一室だ。中に入ると、テーブルや椅子、ソファーなんかもある。綺麗に配置されてはいるが、明らかに数が多い。まるで家具屋の展示室だ。
「いやぁ、良いと思うと買ってしまってね。たまにここに来て色んな座り心地を楽しんだりお茶をするととても安らぐんだよ」
ふぅん、と俺はどうでも良さそうに相槌を打って部屋の中をうろつき始める。なるほどな、職人それぞれに持ち味があるから、これらを参考にして直接欲しい物を作ってもらえ……と言う話だな?
「そう言うことになる。だから存分に見ていってくれ」
俺は近くにあったソファーに横になった。ふむ……ソファー席も良いかもしれんな。スヤァ。
しかしあれだな、ただの家具探しに他国のお偉いさんを巻き込むとは……サトリも大概めちゃくちゃだぜ。
俺が寝ている間に方針が決まった様だ。今俺達は豪華なお城みたいなアレール三世の邸宅から出て、街の中を歩いている。残念ながら三世自身は忙しく案内が出来ないとの事なので、別の者と馬を用意すると言われたが……特に必要ないと断って三人で徒歩だ。のんびりと観光しよう。
周囲を見てみると街そのものが、まるで一種の芸術品の様だ。現代アートのな。どこかの応接室みたいに色んな方向性の芸術がぶつかりながら混ざり合い、何だか夢の中にいる様だ。
「なんか目が疲れるな」
ラングレイの言うことに珍しく同意する俺。チャーミーを突撃させてあらゆる建物を破壊してやりたい。そう考えていた時の事、なにやらむーちゃんが芸術家気取りの絵描きに呼び止められている。
「頼むよ、書かせてくれよ。ビビッと来たんだ」
「今はちょっと……」
まるでプライベートでサインを求められた芸能人みたいな対応をしている。おらおら!勝手にインスピレーション湧かしてんじゃねぇ!閃き代徴収すんぞ!
「ちっ!」
芸術家気取りは舌打ちを飛ばして去っていった。全く、何だってんだ。こっちは暇じゃないんだぞ。俺が憤っていると、ツンツンと肩をつつく何者か。振り返る。知らない男が立っていた。
「君の事書いても良いかい?」
……キモいな。何だよ急に。俺が歯をむき出して威嚇すると、知らない男は照れ臭そうに言う。
「いや、君はまるで地上に舞い降りた天使の様だから、ぜひその美しさを永遠に留めておきたいんだ」
なるほどな、確かに俺のキャラメイクは完璧だ。こいつの様に魅了されてしまう奴がいるのも仕方がない。やれやれ、ちょっとだけだぞ?ついて行こうとしたら、頭にチョップを食らった。
「こら、怪しい人について行ってはいけません」
中年騎士の邪魔が入った為、恨めしそうにラングレイを睨みながら去って行く知らない奴。ふぅ、我ながら危なかった。ロリコンの魔の手に掛かるところだったのかもしれない。最後に見せたあの目はケダモノの目だ……危うくエロ同人の様になってしまうところだった。
「ねぇ、おじさーん。あっちで私の作品見てくれなーい?サービスするからさぁ」
かと言っていると、今度はラングレイが絡まれていた。胸元の開いたはしたない服装の若い女に腕を抱かれ、満更でもない顔をしている。こいつ……鼻の下を伸ばすラングレイのスネに蹴りを入れといた。
「くそ、何なんだあの謎の絡みは」
何やかんやで女を振り払い、走って目的地に向かう事にした俺達。いちいち絡まれていては時間が惜しい。案内を頼むべきだった。それに最後の女なんて、絶対金取られるやつだよ。
すると突然、カラフルな色合いの奇抜な服装をした奴が俺達の目の前に現れた。何故か急にダンスを始める。俺達は一応立ち止まって見守る事にした。やがて、頭を地面につけて身体を持ち上げ、まるでヨガのポーズを反対にした様な形で止まった奇抜な奴が何やら挑戦的な目を向けてくる。
「俺に任せるピヨ」
「行くのか、むーちゃん」
スッと、一歩前に出る鳥獣人。ラングレイが思わず息を呑む。無言でむーちゃんは荒ぶる鷹の様に両腕を広げた。そこからは、まるで竜巻の様な演舞。激しい動きだ、しかし繊細さも内包している……そう思わせる踊りだった。最後に目には見えない何かを抱いた姿勢で止まるむーちゃん。
この場を沈黙が支配する。やがて、奇抜な奴はゴシャっと崩れ落ちた。なんかプルプルしている。俺はそいつを踏んで二人に言う。
「さっさと行くぞ」
つまりは、時間の無駄だった。
その後も、何故かは知らんが即興似顔絵を挑んできたり、楽器を奏でて歌を歌いながら何故かこちらにもハモるよう強制してきたりする連中が現れたが、暴力で追い払いようやく目的地に着いた。
そこは、街のはずれ。家の並びがまだらになってきている辺り、そこにポツンと建つ木で出来た大きな家だ。その素朴な感じがとても目と脳に優しい。荒んだ俺達の心はそれだけで癒されていった。キョロキョロと周りを見る、よし……謎の闘いを申し込んでくる奴も居なさそうだ。
家外には色んな木材を乾かすスペースがあり、簡易的な屋根の下で何人かの男が作業をしている。
「これは期待できそうピヨね」
「そうだな、最初この街に来た時はどうしたものかと思ったが」
くそ、ピヨピヨ言ってんのが腹たってきたな。まぁそれはともかく。俺達は三世の所で見せてもらった中から求めている雰囲気の物をピックアップし、それを作った家具職人を紹介してもらった。その職人がいるのがこの家だ。
とにかく作業中の男達に話を聞き、親方の元へ案内してもらう。
「何だ……?客か……?」
野太く低い声でこちらに背中を向けている男……手のシワからなかなか歳を重ねている事がわかる。良いオーラだ、背中を見ているだけで職人気質を感じる。美少女フィギュアみたいな物を握っているのは見なかったことにしよう。手に持った物を近くの棚に置いて、親方は振り返る。イメージ通りの頑固そうな親父だ。
「ほぉ、龍華の。ワシに何の用だ?」
他国の軍人が来ているのに全く動じない。なるほど、期待できる。謎の鳥獣人を見ても動揺しない所もいい。俺ならとりあえず魔物だと思い殺しにかかるだろう。
「かくかくしかじかで、作ってもらいたい物があるのですが」
端折って、事情を説明する。王様の友達の店が壊れたので、備品を揃えたいと。金に糸目はつけないとも。
親方は黙って話を聞き、ドッカリと切り株に腰を落ち着ける。無言なので聞いてるのか聞いてないのかよく分からない。こちらの話が終わって、しばし沈黙が場を支配した。
「……その、友達とは?」
え?そこ?
ラングレイと俺は目を合わせて頷く。困惑している、しかし別に隠す事でもない。
「我が国では、炎竜姫モモカと呼ばれていて……まぁ有名人なのですが、その女性のお店です」
それを聞いた親方は天を仰ぐ。数秒停止して、おもむろに立ち上がり家の中に入っていった。俺達は弟子っぽい奴らを見る。コクリと頷く弟子っぽいの。しょうがないのでとりあえず待つ。しばらくすると出て来た。なんか持ってる。
「……良いだろう、引き受ける。だが、条件がある」
目の前まで来て、その持ってきた物を突き出される。おずおずと受け取る俺、こ……これはまさか。
「店の雰囲気を見る為に、直接そちらへ行く。ついでにモモカさんと写真を一緒に撮らせてくれ」
……。は、はぁ。良いんじゃないすかね。え?モモカさんはアイドルか何かなの?俺は内心、ついでと言うかそっちが本命じゃないの?と考えているが口にはしない。
「待っていろ、すぐに支度をする」
しかも話が早い。物凄く機敏な動きで家の中に向かう親方。弟子が慌てる。
「親方!納期はどうするんですか!?」
「お前達で仕上げろ、出来るだろう」
「いや普段は仕上げはワシがする、と……」
「任せる。お前達なら出来る」
先程、親方が弄っていたフィギュアっぽい物が置かれた棚を見る。ズラッと何体も並んでいて、それらのうちの何体かが見た事のある造形だった。
これは、確か迷宮都市で最近売り出しているクリームスフレとか言うアイドルグループ……こっちは聖公国の第二王女?だっけか。あの国は大公というのが国のトップで何故かその下に王族もあるという、序列が意味分からん国だ。
そのフィギュアの中にモモカさんらしき物もあった。つまり、何だ……親方。一個ください。




