第124話 攻略組の生態③
前回のあらすじ
この世界はアルプラ教しか認めません。異教は滅ぼします。
「助かったよー。最近、力を貸してくれないかってうるさかったんだ」
邪教が殲滅された後、アルプラ教の人達がゾロゾロやってきて色々と後処理をし始めたので俺達が帰路についている途中の話だ。
そう言ってため息を吐いたぽてぽちは、ゲンナリと肩を落としていた。しかし俺には疑問があった。
そもそも、なんでお前に絡んできていたんだ?
「なんか、私が《プレイヤーズギルド》を操る術に長けてるからだってさ。グリーンパスタが言ってたみたいに、プレイヤーを介して《魔那》を復活させる計画だったみたい」
ふぅん。それなら、グリーンパスタの方が適任に思えるがな。
ぽてぽちが長けているのはあくまでも《プレイヤーズギルド》……すなわちプレイヤー間の《回路》を繋ぐ事だ。
つまり彼女にできることと言えばプレイヤーとプレイヤーを結びつける事である。
プレイヤーの魂から構造の操作はグリーンパスタの得意とするところなので、他者をプレイヤーと化す事が出来るとしたら奴の方だろう。
いやしかし、待てよ……?
つい最近、聞いた話の中にその答えがあったような気がする。
「へぇ、ぺぺが知らないなんて意外。《魔那》はね、《異邦者》だけど私達とは全く法則の異なる世界から来てるの」
例えば《龍》は、いまこの世界で見かけるような『竜』とは違って物理的な肉体を持たず、力やエネルギーといった概念の奔流に近い存在だったと言う。
この世界の『魔法』は、かつての《精霊》の力であり、それはつまり『願望を実現する力である』。この願望を実現するという部分は、かなり早い段階からプレイヤー達の間では解明されていた。
では、願望とは何か。そしてそれをどう《精霊》に伝えるのか。ヒズミさんは言っていた。
言葉と想い。
あれは、もしかしたらそういった……俺達《人間》の法則から、限りなく近い概念を当てはめたのかもしれない。
「だからさ、《人間》の与える《極光》は邪魔でしかないんだよね。《魔那》はただそこにある、それが正しい姿なのに」
……ぽてぽちにしては、随分とはっきりした物言いだった。
彼女はニコリと笑う。
「だからね、《魔那》に必要なのは『信仰』じゃないの。『願い』……ただそう望めばそこにある」
……へぇ。随分と詳しいんだな、お前は。
俺が懐疑的な視線を送ると、当たり前のことをなぜ? とでも言いたそうな顔で首を傾げた。
「だって、《魔那》はそう言ってる」
*
怖くない? あいつ。
次の日、俺はヒズミさんの元へ遊びに行って先日の会話の内容を話した。
ヒズミさんは腕を組み、うーんと唸った。
「え? ぽてぽちは《魔那》の意志を聞いているのか?」
いや、だからそんな感じの発言するから気持ち悪いって話だけど。
「こわ〜。《神》の声を聞く『巫女』なんかより、よっぽど巫女らしいじゃないか」
ヒズミさんでも怖いって思うんだ。俺は驚いた。口振り的にヒズミさんは精霊こと魔那さんと知り合いのはず。その知り合いの声を聞けるからと言って本気で不気味がるとは、元々は一体どんな奴だったのか。
「まぁ、ぽてぽちの言っていた事が概ね正しい。魔那には魔那の世界がある。私達人間とその世界は大きく乖離しているだけだ。しいて言うならば、『願い』を叶える事そのものが奴の存在理由であり、かつて生き物全てが『力』を求めたから……奴は全力を尽くして『魔法』を与えた」
懐かしむように、しかし難しい顔をしてヒズミさんは続けた。
「『魔法』とはこの世界において最も新しい法則だ。そして法則とは容易に作れるものでない。例え《始原十二星》であろうとな、故に奴は『魔法』を残してほぼ消滅に近い状態になった」
ほぼ?
「ほぼ、だ。まぁこの辺はわざわざ言語化するような話じゃない。問題は、だ。《魔那》にとって叶えるべき『願い』に、善悪の差はない」
……なるほど、もしかして《魔那》が復活した時、その力を悪事に使う奴が現れるかもしれないって話か?
「手っ取り早く言えばそういうことだな。奴がどういう基準で願いを叶えるのかは知らないが、より強い願いに惹かれる傾向があったように思う」
へぇ〜。
そう言って俺は話題を変えようとして、ふと気付いた。信仰と願いってさ、もしかして……。
「……信仰と願いは同義じゃない。だが、時に信仰が願いを生むことはあるな」
ぽてぽちが信仰はいらないといっていたが、アルプラ教が異教を許さないのはもしかしたらそういう側面があったのかもしれない。まぁ俺には関係ないことなので真相を知ってちょっとスッキリしてはい終わり、だ。
「しかし、《魔那》の意志をどうやったら聞けるんだ? βテスターとやらはどうなってんだよ……」
βテスターは恐ろしいだろう? 他にもレッドとかグリーンパスタってのがいるんだぞ。あとヒズミさんが会ったことあるのは無限、会ったことあるかどうかわかんないけど筋肉と喋れる怪力ハングライダーってのがいる。
そいつらがなんと攻略組と呼ばれていてな……。
「あぁ、知ってる。端的に言うとプレイヤーの中でも際立った変人集団だろ。βテスターの中に一人混じるお前は一際変態って話だ」
俺は攻略組じゃない。
そもそも攻略組というのにはルーツがあってだなぁ……そもそもそう言い出したのは俺なんだが、その頃はあいつらにも匹敵するβテスター達が居てなぁ……タイミング的なもので、俺は全く知らんが伝聞で聞いたβテスターの中にも変なのがいっぱい居たなぁ。
「ふぅん。目立ってるのはやはり、そいつらなのか?」
いやどうだろうな。
何してるか分かんない奴多いんだよなぁプレイヤーって。特にβテスターなんかは滅多に見かけない。数少ないのもあるけど。
リリース組はその辺歩いてんだけどなぁ。
「なんかプレイヤーってバラバラのタイミングで世界中に散ってるのに、共通してお前ら攻略組のこと嫌いだよな」
俺は攻略組では無いのだが、奴らが嫌われる理由の一因ではあるので説明してやろう。あれは、『死の一週間』と呼ばれる攻略組の残虐非道な行い、そのきっかけの話だ……。
*
ゴブリンとの飽くなき闘いの果て、俺は《不死生観》と呼ばれるスキルを解放した。その後すぐ、レッドと呼ばれるβテスターが俺の元へ来た。
「どうやって《スキル》を解放したんだ?」
悔しそうに歯噛みするそいつに、俺はなんやコイツと思いながら死亡回数だと教えてやる。するとお礼を言って去っていった。
数時間後、どこか達観した顔でまた俺の元へ来たレッドはニヤリと口角を上げる。
「ペペロンチーノ、お前から聞いていた回数より短く済んだ。おそらくプレイヤーの《スキル》は、より多くのプレイヤー達が解放していくことによって解放条件が緩和される様だ」
へぇ。俺はどうでも良さそうに返事をした。お前、俺のおかげでスキル解放出来たんだからゴブリン共殺すの手伝えよ。
「仕方がない、いいだろう。だが人手が足りないだろうな。来い、仲間を増やす」
そう言ってレッドに連れて行かれた先にいたのが、少年タイプで特徴のない顔立ちと体型のグリーンパスタであった。
「えっ? 《不死生観》を解放しろ? ちょっと待ってよ、まだ研究段階なんだから」
はぁ? そんなことよりゴブリン殺すぞ。その為には死の恐怖が邪魔だ。そもそもだぞ? 研究するならその辺にいっぱいプレイヤーが転がってるだろ。
とりあえず回数稼ぐかという話になってレッドがグリーンパスタを斬った。復活したところを追いかけてまた殺す。何回か繰り返して、グリーンパスタは呆れた様にため息をついた。
「うーん。はぁ……。しょうがない、ちょっと待ってて。レッド、君はどうやってやったの?」
レッドに死に方を何個か聞いたグリーンパスタはそそくさと人気のないところへ消えていった。数時間後、変わらぬ飄々とした顔で戻ってきたグリーンパスタはニコリと笑顔を浮かべる。
「レッドの仮説通りだ。回数が減ってる。《スキル》はおそらく《不死生観》だけに留まらない。きっと他の《スキル》もこうやって条件を緩和していってプレイヤー全体が《スキル》を習得していくんだよ」
何を言っているのかいまいち聞いていなかったが少し嬉しそうだった。ちょうどその頃仲間を増やそうとしてどっかへ行っていたレッドも帰ってくる。
「ダメだ、死ねと言えば皆腰が引けているし、一人殺せばそいつはしばらく使い物にならなくなってしまった」
ちっ、腰抜け共が……。俺は舌打ちをして地面を蹴った。
もう我慢ならん、とりあえずこのメンバーでゴブリンを根絶やしにするための材料集めた。
もちろん仕上げに巣へカチコミするが、その時には大量のプレイヤー共を上手く連れていこう。
「諸君! いきなりこの世界に飛ばされて何をすればいいか分からないだろう! しかし剣と魔法の世界と想定されるこの世界において! やはり必要なのは戦闘スキル! よって、今よりゴブリン根絶やし遠征を行う! 皆ついてこい!」
「ゴブリンは危険な存在だ。今にも我らが生活圏を脅かしている! 俺も何度辛酸を舐めさせられたか分からない!」
森から様々な材料を集め終わった頃、俺の演説が始まる。プレイヤー達を広い場所に集めて俺はそう叫ぶ。
ちなみに、ここに至るまでに俺はゴブリンを上手く誘導して他のプレイヤーを殺させていた。もちろん俺の連れてきたものだけでなく、自然に遭遇してやられたやつもいるが。
というわけで、プレイヤー達の士気としては上々だった。割と殺気立っている。森の中には武器が生えていた為、それらを全員が武装できるくらいは拾ってある。
「我らが聖域である『始まりの森』! ここは我らがものである! あの様な醜悪な存在が生きていることを許してはならない!」
「安心しろ! 先陣は我らが切る!」
そう言って、俺、レッド、グリーンパスタの三体が武装して先頭に立つ。いざ、ゴブリン狩り……。その戦いは三日三晩にも及んだ。
燃え盛る炎を前に、俺は息荒く雄叫びをあげた。そう、ついに憎きゴブリンどもの巣を焼き払うことに成功したのだ。
燃料となる油、火種など用意には多大な労力が必要だった。いざ戦いが始まれば、やはり身体能力の差は大きい、プレイヤー達も一度殺されれば戦線離脱するものが多く、最終的には俺やレッドグリーンパスタを始めとした一部しか残らなかった。
その闘いの最中、《不死生観》を解放したプレイヤーがいた。
「俺の名は、アンリミテッドインフィニティだ」
ベリーショートのかわいらしい顔立ちをした女児型プレイヤーだった。名前が長ったらしく呼び辛いので、『無限』とあだ名をつけることにした。
この無限は優秀な戦士だった。《不死生観》もないのに戦闘には積極的に参加し、なんなら鉄砲玉かってくらい敵陣に突っ込んでいた。
何度殺されても、ゴブリンを殺す快感に酔いしれているかの様に戦線復帰して敵から武器を奪いそれを振るう。鬼神が如き気狂いに俺は戦慄したものだ。
「俺達はこの世界に来て偉業を成した! これこそ我らがプレイヤーの、この世界の攻略の一歩だ! 攻略組! 我らこそ攻略組だ!」
この辺りで俺に《扇動》スキルが生えた。なんかよく分かんないけど条件を満たしたらしい。
攻略組……便宜上、旧・攻略組とはこの時のゴブリン殲滅作戦の参加メンバーの事だ、
ゴブリン殲滅作戦で《不死生観》を解放したのは無限一人であった。それ以外のメンバーは一度死んでしまうとメンタルがやられてしばらく帰ってこれない。
俺はその事実に歯噛みしたものだ。ゴブリンはプレイヤーより圧倒的に強いパワーを持つ。最後の方なんて俺やレッド、グリーンパスタに無限しか残っていなかった気がする。
俺達の特異性は不死。それを活かす為には、死への恐怖が邪魔である。
「分かるか? 男が最も油断する時、それは弱いと思い込んだ相手を俺が守らなければいけないと考えた時だ。つまり男を籠絡するとは、性欲ではなく庇護欲を刺激するということだ」
俺の言葉にふむふむと頷くのは白い髪と赤い目をした女型プレイヤーだ。
「あれ、k子だいぶ明るくなったね」
「そ、そうかな」
ペラペラと持論を展開している俺の所へちょうど通りかかったグリーンパスタが笑顔で言うと、k子は難しい顔をして頬を掻いた。恐らくどの様な表情を浮かべれば良いのかわからないのだ。
俺はk子の頬をつまんでぐいっと上に上げる。
「お前はキャラメがよくできてる。とりあえず笑えば良いんだよ。女の笑顔は武器だからなガハハ」
そう言うと、見た目にそぐわない子供っぽい笑顔を浮かべるk子をグリーンパスタが手放しに褒めている。俺も満足気にうんうんと頷いておいた。
「でも本当にk子明るくなったねぇ。よかったよかった。プレイヤーになることによってしがらみから解き放たれた人間は多いね」
嫌な言い回しをするグリーンパスタは無視して俺は追想した。確かにk子というプレイヤーは出会った当初、周囲のプレイヤーの顔色ばかり気にして相手の望むキャラを演じている印象があった。
その奥には隠された感情すらなく、無が広がっている様な……しかしそれはただ知らないだけで、まるで自分を持たず周囲に媚を売る生き方しか知らない様な奴だった。
その歪さを、俺やグリーンパスタは察してしまうわけだが、何だか自分を殺す様な生き方をしているk子に腹が立って「もっとジブンに正直に生きろや!」と言った気がする。
それ以降俺達の後ろをちょこちょことついてくる様になった雛鳥みたいなk子だが、流石に死に対する恐怖はあったのかゴブリン殲滅作戦は早々とリタイアしていた。
俺はふとそのことを思い出して、k子の事をジッと見る。コイツの容姿は、ズバ抜けて人を惹きつけるだろう。いずれ、先に行ったプレイヤー達の様に異世界へ降りる時が来たら、コイツはその先で人を魅了し……きっと酷い目に遭うだろう。
「k子、人間関係において最も重要なことは、先手を取ることだ」
「ぺぺロンチーノ、新たな解放者だ」
新たな教えを与えていると、レッドがどこからか現れた。後ろにはぽやーっとした女型プレイヤーが付いてきている。
彼女の纏う空気は、まるで帰宅途中で暇している女子高生だ。とてもではないが《不死生観》の条件を乗り越えたイメージが湧かない。
彼女は自らをぽてぽち、と名乗った。
「こんにちは〜ぺぺロンチーノちゃん。あのねぇ、私達って深いところで繋がってるんだけど、死んだ時にそこに近付くんだよね。怖いけどさぁ、その感覚が掴みたくて何度か……ね? そしたらスキルがさぁ」
何を言ってるかよくわからないがなんかペラペラ喋ってくる。横のレッドはうんうんと嬉しそうに頷いているし、グリーンパスタも感心した様な顔で頷いている。俺だけなのだろうか、そんな疎外感を感じた。
しかし、繋がっている……か。それは掲示板などの話だろうか。確かに、プレイヤー同士が見えない何かで繋がっているからこそ、掲示板機能で会話できるのかもしれない。それなら個人通話も付けろよって思ったけど。
数日後、レッド、グリーンパスタ、k子、新たにぽてぽちを引き連れてゾロゾロと向かったのは森の中だ。
木の枝にぶら下がって懸垂をしている上半身裸の男が、木から降りてきてすぐ膝をついて地面を叩き悔しがっている。
「この身体は! これ以上成長しない!」
慟哭と表現するのが正しい程の切実さが込められた叫びだった。後に成長しない事はないと気付いたのも実はコイツだったのだが、まぁそれは置いておく。
ちなみに遅れてやってきた無限が冷めた目で見つめている。
「グリーンパスタ……お前の言う、《不死生観》……解放すると死の恐怖を失うのだろう? 失ってどうする、筋トレとは生命の息吹、生命と死は表裏一体。筋トレは生きる意志を失くして成立しない!」
言っている意味はよくわからないが、俺はふと思った。
「筋トレって、どんくらいしたら死ぬの?」
半裸の男、名を怪力ハングライダーと後に名乗った彼はその後筋トレのし過ぎで死んだ。復活後も追いかけてきた俺達に煽られて何度も何度も筋トレで己を追い込んだ。
その途中で自分の筋肉と喋り始めた時はコイツ頭おかしくなったのかな? と思って殺した。プレイヤーは死ねばあらゆる状態異常も初期化される。つまり発狂しても殺せば元に戻るのだ。
でもまだ筋肉と喋ってた。どうやら正気らしい。俺は引いた。
そのうち《不死生観》を解放した怪力ハングライダーはこう言った。
「死が怖くなくなっても、筋トレはするよね」
そうなんだ。
俺は適当に答えた。
なんやかんやで、《不死生観》スキル解放者が六人。増えてきた。ゴブリン殲滅作戦の時、やはり死を恐れず戦える兵隊が欲しかったなと俺は思う。
ずっと、考えていた事がある。《不死生観》の解放条件は、規定の死亡回数……ただそれだけなのだ。俺、レッド、グリーンパスタ、無限、ぽてぽち、怪力ハングライダー。全員が様々な死に方をしていたが、回数さえこなせば解放された。
そしてその様々な死に方の中に、復活地点で待ち構えた俺とレッドに殺される、というものもあった。
リスポーンキル。通称リスキル。オンラインゲームなど死んだプレイヤーやモンスターに設定された復活地点で待ち伏せて、復活後を狙ってまた殺す行為の事だ。
最近レッドやグリーンパスタは復活地点を変える事ができないか実験していた。なんなら、すこし操作できる様になったとか。
考えていた事とは、つまり俺達の手によるリスキルを利用して《不死生観》解放プレイヤーを増員できないか? というものだ。
その案をポツリと漏らすと、レッドは「面白い試みだ」と乗り気でグリーンパスタは「人の心無いの?」と言いつつやる気を見せた。
無限は「俺試したい拷問があるんだよね」と意味不明で、ぽてぽちは「何でも良いよ」とどうでもよさそうで、怪力ハングライダーは「俺は筋トレしてる」とどうでもよさそうだった。
後ろを振り返ると、キョトンとした顔のk子が立っている。
そういえば、コイツも《不死生観》を解放していなかったな。ニコリと俺は、天使の様な笑みを浮かべた。
その後一週間かけてハメ殺しに近いリスキルで、多くのプレイヤーの《不死生観》を解放させていく。ぽてぽちがプレイヤーの思考盗聴、レッドとグリーンパスタによる復活地点の操作、無限による復活直後の拘束、怪力ハングライダーは筋肉のツボを押すことで身動きを取れなくさせた。そして躊躇いなくトドメを刺す俺とレッドとグリーンパスタ。
その途中で『始まりの森』から逃げるプレイヤーが続出して……残されたプレイヤーは被害者の会を設立し、レッド達を『現・攻略組』と呼び始め、全面抗争が始まった。
その結果、全プレイヤーが『始まりの森』を脱することになる。そうしてプレイヤーの楽園は消滅した。
*
ふふ、思い出すと懐かしいな。そんな頃もあった。もっと、俺がツンツンしててギラギラしていた頃だ。
俺の思い出話を聞いたヒズミさんは引いていた。
「うわぁ……」
うわ、とはなんだ。まぁ聞いていた通り攻略組の連中は根っこからおかしくてな……《不死生観》の解放に至る経緯も普通とは一味違ったのさ。
「話の中でお前が攻略組ではないという根拠が見つからなかったが?」
ん? あぁ。最後の被害者の会とかいうのがその根拠だぞ。『死の一週間』の途中……いや終わった後だったかな? レッドの奴がまた徒党を組んで『始まりの森』の魔物狩りをしようと言い出したんだ。
その時には俺はもう森に飽きていてな……グリーンパスタと手を組んで、その辺のプレイヤーも巻き込んでレッドが組んだ徒党……つまり攻略組と対立したわけだ。その時のメンバーが、レッド、無限、怪力ハングライダー、そしてぽてぽちだった。
だから厳密に言うと、現・攻略組には俺とグリーンパスタは入ってないんだよなぁ。
「ふぅん。お前がどう言おうと周りがそう扱ってるということはそういうことなんだろうけどさ。いやまぁ、そんな事はどうでも良いんだけど。てかk子とはそれなりに仲良かったんだな」
k子か、ふん……。自分を殺している様な奴で気に食わなかったが、まさかあんなクソ女になるとはな……。傾国だのケーコだの呼ばれてた時は、調子に乗りに乗りまくっていたな。
まぁしかし、思い返してみると自己主張が出来るようになっただけマシか。感情が死んでて、人形みたいな奴だったからな。
「自己主張しすぎだと思うが」
そうだね。
俺は同意した。
初期の頃は可愛いかったんだけどなぁ。
「しかし、ぽてぽちのやつは初めからあんな感じだったのか……話の中で唯一、お前と関わりなく《不死生観》を解放するような」
あぁ。言い忘れたけど、実は数え間違えててまだ解放されてなかったんだよ。レッドのやつもあの時はまだぽてぽちの言葉を上手く翻訳できなくてな。
もうちょいで解放できそうって話だったわけ。
「……それで?」
だから後押ししてやったよ。本当に後十数回分だったからな。しかしあの調子だったら無理に俺達が手を汚さずとも、自分で解放してただろうなぁ。
「……中々面白い過去話だった。よく考えたらお前らのルーツを知る機会は少ない」
ほぉ。ヒズミさんが俺の話を好意的に捉えるとは珍しい。ふふふ、たまには想い出に浸るのは悪くないな。
まぁ俺達としても、『始まりの森』辺りの話はする機会がない。一体あそこはどこにあったんだろうなぁ。
しかし、思い返してみるとやはり攻略組の連中は頭ひとつ悪い意味で抜けてるよな。
「そうだな。お前らが敬遠される理由はよく分かった」
うんうんと頷くヒズミさんは腕を組んで続けた。
「大体お前が悪いってことも」
TIPS
k子はぺぺさんと出会っていなければ、不死の愛玩人形として重宝されていた未来があったかもしれません。
尚、普段のぺぺさんへの態度は姉とか母に対する思春期の反抗期みたいなものが入り混じってるとかいないとか。