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不死なるプレイヤーズギルド  作者: 笑石
本編……?
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第101話 暇なぺぺさん



 龍華の夜は騒がしい。

 この国の連中は血の気が多い。そして、血の気が多い人間には酒好きが多いのか、それとも拠点にしている薬屋が治安の悪い所に存在するのが原因か、外から暴れる酔っ払いの声が窓を震わせている。


 そのせいか、ベッドに寝巻き姿で寝転がり本を読んでいた俺はなんとなく眠れずにいた。実はプレイヤーは本来寝なくても問題が無いので、それを意識してしまうと更に眠れなくなる。


 くそっ……。暇だな……。


 ふと、こんな時に地球アース神の世界にいた頃はどうしていただろうと考えた。テレビ? この世界にも似たようなものが迷宮都市にあるが、魔法という便利な……しかし能力に個人差が大きい力が存在するせいでこの世界では、あちらほど科学が発展していない。

 魔法を使って似たような事ができても、個人の裁量に大きく作用されるという事だ。長い目で見ると安定しない。

 まぁ、人間は不便な方が技術が進歩するということだな。性根がめんどくさがりなのだろう。


 暇つぶしといえば俺達プレイヤーなら、掲示板というプレイヤー間だけで使用できる連絡ツールがあるが……そこも今、特に目立った面白みもなく停滞している。

 最近になって記憶した写真とか動画のようなものを掲示板に貼り付けられるようになったが……。


 ハッ。


 俺の脳に雷が落ちたような天啓が降りる。

 そうか、そうだったんだ。思い出すまでも無い、地球人は暇な時何をしていたか? それは一つ。


「スマホだ」



 *



 という事で、俺はとりあえずグリーンパスタを呼びつけて《化粧箱》で小さな板に変身させた。


『……スマホになれって、バカなの?』


 バカはお前だ、たわけが。『hey guri』って言われるまで喋るな。もっとスマホになりきれ。プロ意識が足りないぞ。


『…………』


 机の上に置かれたグリーンパスタもとい『guriphone』を手に持ち、俺は重さを確かめる。

 ふむ、重さも完璧だな。プレイヤーは無機物にも変身できる、と。本当にキモい存在だぜ、俺達。


「……さっきから何してんだ?」


 家主の薬屋のハゲ親父が、手元で弄っていた薬の材料を置いて近づいてくる。俺の持つguriohoneをジロジロと見ているので、とりあえずハゲ親父に渡す。

 ちょっと弄ってみろ。俺がそう言うと恐る恐るハゲ親父がスマホの表面を撫でる……すると、画面に灯りが付いてホーム画面が表示された。

 いくつか配置されているアイコンは写真とメール、そして掲示板だ。他にもグリーンパスタの身体能力の数値化……ステータスを確認できるが、見たところで何の得もないので無視。

 ハゲ親父の肩越しに俺もスマホを覗く。


 おい、メールしてみろ。……そう、レッドを選べ。うん。ここに文字あるだろ? え? 読めない?

 ヘイ! グリ! 日本語じゃなくてアルプラ語に変換だ!

 よし、そうそう。ちょっと来いって呼んで、え? 理由? 暇だから。うんうん。



 数時間後、スマホを弄る事にすっかり飽きて薬を弄り回す俺の元にレッドがやってきた。


「個人間でメールが可能になったのは便利だな。これを感覚的に、思考を挟まず行えば戦闘時の連携がより密になるだろう。ぽてぽちを中継させれば群体での活動も可能だろうな。まぁ、似たようなことは既にしていたが、一部のプレイヤーにしか出来ない芸当だったからな。しかし、こうして誰にでも出来る……という実績は俺達プレイヤーにとって大事なものだ。プレイヤーの能力を拡張するのは、固定観念の破棄。何にでもなれる俺達には本来……」


 あーうるさいうるさい。

 来て早々にベラベラ意味の分からないことを捲し立ててくるので俺は耳を塞ぐ。少ししてから、店のカウンターでスマホに夢中になっているハゲ親父を指差した。

 ほら、あれ作ってみたんだけど、面白そうだろ?

 今も、ハゲ親父とプレイヤー達が掲示板で交流をしている。俺も少し覗いたがその内容は面白くもクソもなかったのですっかりどうでも良くなっていた。


「ふむ……非生物への変化か、グリーンパスタならともかく、他のプレイヤーでは自力で変身することも、戻ることも不可能だろうな。それどころか、人間意識すら無くなるだろう」


 だろうなぁ。本来《化粧箱》って、変身後の器に精神が影響受けるもんだし。グリーンパスタ以外は。

 あれを量産したら売れるかなって、思ったんだけど。


「……量産? 何故?」


 何故? それは考えてなかったな。いや、待て今考える。


「……」


 そうだな……お前の言っていた、無意識間での連携……それを、現地人とも可能にするかも、しれないな?


「……!」


 うん、そういうことにしよう。手を叩いて、俺はニコリと笑った。良し、レッド。まずは台数の確保だ。手伝え。


「確保? 一体どうやって」


 そうだな……無限のやつも呼び出すか、ぽてぽちもいると助かるな。ついでに怪力ハングライダーも連れて行こう。




 そうして気付けば、プレイヤーの中でも一番頭がイカれている集団と呼ばれている『攻略組』が集まっていた。最も、一匹はスマホ化しているが。


「なになに? どうやって遊ぶ?」


 無邪気に笑うぽてぽち。彼女に不敵な笑みを返す俺の前には、腰を抜かせて口をあんぐりと開けているモブプレイヤーがいた。

 隙を見て逃げようとしたのだろう、しかし動き出す前に怪力ハングライダーに腕を掴まれたモブはまるで金縛りにあった様に身動き一つ取れなくなる。


「う……っ!? な、なにっ!」

「無駄だ、俺がお前の筋肉に語りかけた……そう……少し話をしていかないか、とな」


 半裸の長黒髪がニヤリと笑ってそう言った。その意味を理解できる存在はこの場に誰一人居ないが、うんうんと俺と無限は適当に頷いている。

 動揺しているモブに、無言でレッドが近付いていく。手をかざし、今にも頭を掴まれそうになりモブは叫ぶ。


「や、やめろぉ! くそっ! 攻略組の変態どもがぁ!」


 ガッ! っとレッドに頭を掴まれたモブの身体から力が抜ける。俺はそれを確認すると、満を辞して話しかける。

 よぉ……お前、こっちで苦労してんだろ? 中々上手く稼げないみたいダナ……? そこで、いい話があるんだが……。


「お、お前らみたいに怪しい……」


 ちっ、レッドの感情抑制に抗ってやがる。しょうがない、幸福感をチョチョイと増してやるか。


「えー? いい話ぃ? それってどんくらい稼げるのぉ?」


 汎用ジョブの『呪い師』の力によって俺の魔法は少しだけ相手への干渉能力が高まった。ヒズミさんの力が落ちた事で俺の魔法も弱体化したが、プレイヤー相手ならばこれで充分。

 俺はモブに対して続ける。天使の如き笑顔で両手を合わせて言う。

 うんうん。いーっぱい稼げるよぉ! てことで、俺達の言うこと聞いてくれるかなぁ?


「聞く聞くぅ」


 よし、言質は取ったぞ。天使の様な笑みから一転、真顔で俺は無限に指示をする。この世界において相手への干渉は、本人の了承を得る事でハードルを大きく下げる事ができる。

 無限がスマホを持ってモブに向ける。


「へい、グリ。コイツをスマホにして」

『……はいはい』


 スマホから触手が伸び、モブの頭に突き刺さる。


「あがががが」


 気色の悪い声を上げて、モブの身体が変化していった。そう、スマホ二台目の誕生である。モブスマホを拾い、ポケットに入れて俺は次に行くぞと踵を返す。


「当てがあんのか?」


 無限の問いに、俺は独自に調べ上げた書類を渡す。それをペラペラと無限は見て、首を傾げた。


「なに? この数字」


 それはな、上手く馴染めていないプレイヤーの借金表だ。可哀想に、元の世界よりも色々と厳しいこの世界で、生っちょろいアホどもはそれを分からずに元の価値観を捨てきれず簡単に騙されるんだ。そう、分かってないのさ、人間の悪意という奴をな……。どれだけ日本が平和だったのか、気付いた時には手遅れだという事だ。

 死なない労働力として、飼い慣らされている奴もいる。可哀想、可哀想なので……俺が仕事を斡旋してやろう……そう言う話なんだな。これは。


「何でお前がコイツらの借金知ってるの?」


 まぁ、それはいいじゃないか。


「どうせお前が噛んでんだろ」


 ……呆れ顔で決めつけてくる無限に、俺は振り返ってキメ顔で言った。


「だったらどうだと言うんだ?」



 *




 この世界アルプラに来て、上手く生きられていない哀れな子羊達は結構多いので約百台、スマホを用意することができた。

 このスマホは、もちろんプレイヤーだが無駄な意識など無く、無駄口も叩かない……つまりプレイヤーとして理想の存在なわけだ。


 俺はこれを売り込むことにした。

 しかし、100台ぽっち……そして、連絡を取るだけならば似たような魔法や道具があるのがこの世界だ。

 なので、何を売りにするかというと……。


「ほぅ。なるほどね。つまり、この板でならば盗聴を気にすることもなく相手と連絡を取れるわけか」


 大事なのは、この世界に存在する連絡手段とは一線を画するというところだ。元々存在する遠距離連格手段には必ずと言っていい程『魔力』が用いられる。

 そして、普及している技術と言うことは悪用する術も普及していると言うことになる。だが、俺達プレイヤーの……いわばネットワークは原理が全く異なる。

 つまり、秘密通信にうってつけという話だ。


 という事で、俺はスマホをアルカディア連合に来て売り込むことにした。今見せていたのも、どっかの国の軍関係の奴だ。

 アルカディアは、昔龍華王国に攻め込まれ過ぎて疲弊した国々が集まってできた烏合の衆。

 龍華王が代替わりしてから、侵攻が落ち着いて数十年……もはや、身を寄り添い合う必要もなくなりつつある連合では、すこし血生臭い気配が生まれ始めていた。


 つまり、あわよくば独立して国を大きくしちゃおうと考えている奴らが居るという事だ。軍関係で言えば、魔王関連が終息したというのに盛り上がったまま。


「くくく、通常の秘密通信に加えて……いや……こうも使えるな……」


 俺の目の前にいるどっかの国の軍関係のお偉いさんがニヤニヤと怪しいことを考えている。

 天使の様な笑みで、俺は言い切った。


 これがあれば、他国に差をつけられる事間違いなし!


 売れた。



 *



「大丈夫なの? そんなに煽ったら、内戦とか起きちゃうんじゃない?」


 スマホを全て売り切って、ほくほく顔の俺にぽてぽちがそう聞いてくる。俺は自信満々に答えた。


 大丈夫だ。

 周辺五国くらいに売ったから。


 俺の言葉に、ぽてぽちは笑顔で引いていた。



 *



 数ヶ月後。

 俺がスマホを売り払った五国は、表面上は仲良くやっていた。しかし、一度皮を捲ると……。


「あの国のあいつ既読無視なんですけど」

「まぢ? あり得ない」

「そういえば、○○国さんもこの前寝てたって既読無視したよね」

「あれ絶対、裏で謀反考えてるよ」

「本国に相談しちゃう?」


 と、この様なやり取りをしているのだ。プレイヤー製スマホはまるで元の世界のSNSサービスの様にグループを作り、同時にチャットできたりする。

 言うなればPLAYNプレイン。いや、もっと訳してレインでもいいかもしれない。まぁ、それは置いといて、グループの話だ。

 奴らは、五国全員が入ったグループの他に一国ハブいたレイングループを作っている。全員グループでは仲良くしているフリをして、裏のグループで悪口ばかり言い合っているのだ。


 しかも、その一国ハブられたグループというのは一つでは無く、各国それぞれがハブかれたグループがそれぞれ存在しているのだ!


 馬鹿かな?

 女子中学生よりギスギスしてんぞ? 


 そして一番の問題は、プレイヤー製スマホを使った通信連絡が全てのプレイヤーに筒抜けだと言う事だ。

 なんて言うか、掲示板を覗くノリで普通に見れる。


 実は最近パーティー掲示板が進化して、プレイヤー同士ならば他者に覗かれることのない秘匿性の高いメッセージを送りあえる。

 ぽてぽち辺りならそれすら看破してくるが、奴の様なプレイヤーは少数派……いや、あいつしか居ないかもしれない。


 だが、スマホ化したプレイヤーは自我というものが希薄だ。故に、セキュリティをかけることが出来ない。これは俺も想定していなかった事だった。検証なんて碌にしてないしな、ガハハ。


「なぁ、普通にコイツらさ、兵器開発の話とかスマホでしてるけど良いのか?」


 無限が呆れ顔で俺に言ってくるが、そんなこと言われても知らない……。ぺぺ、何も知らない……。


「違法な事もしてんぞ。えっ、てかこんな事まで? 馬鹿だなぁ、何でぺぺの事信じるのか……」


 まぁ、龍華の伝手使ったしな。勝手に。リトリにバレたら俺も怒られるんだなぁ、あはは。サトリは笑ってたし、なんならスマホ使ってる。


「これもいずれ問題になるんだろうなぁ」


 どうでも良さそうに無限が呟くが、俺は笑顔でその肩を叩いた。ニコリと笑みを浮かべてから、大丈夫なんとかなるさと親指を立てた。


「あっ、これ、俺達プレイヤーならコイツらのやり取りに割り込めんじゃん……」


 ……。へぇ……。

 面白そうなことを聞いた所で、寛いでいた迷宮都市の喫茶店モモカ2号店の扉が勢いよく開け放たれた。


「ペペロンチーノぉ! ぴょん吉を、返せぇ!」


 知らないプレイヤーだ。

 ぴょん吉……? なんだその馬鹿みたいな名前は。まっ、察するに借金のカタにスマホになった奴のことだろう。名前に見合った馬鹿な奴だ。

 俺が嘲笑うと、知らないプレイヤーは顔を真っ赤にして剣を抜き放つ。俺は腕組みをして、偉そうに踏ん反り返った。


 ほぉ、面白い……汎用ジョブを剣士か何かにしているのだろうが、それでこの俺様の呪い師に勝てるとでも?


「殺してやる……殺してやるぞ! ペペロンチーノぉ!」


 かかってこいオラーっ!

 俺は袈裟斬りにされて死んだ。



 その後、アルカディア本国に滞在するプレイヤーからスマホの存在がバレ、やましいやり取りをしていた連中は皆しょっ引かれたらしい。

 元々、何かやらかしそうだと目をつけられていたらしく、ここにきてスマホという……目に見えて残る証拠が出てきてしまったことで言い逃れが出来なくなり、俺がスマホを売りつけた五国全てに監査が入るのだとか。


 という様なことが、新聞を読んだらわかった。へぇ……と思いながらモモカさんの店で俺は珈琲を飲む。物騒な世の中だなぁ。そう呟くと、目の前に座るラングレイがニコリと笑う。

 その様子を訝しげに俺が見つめると、立ち上がったラングレイは何気ない仕草で俺の手を取り、呪符でぐるぐる巻きにした。ん?


「まぁ、そんなわけでアルカディアからお前を差し出せって来てるんだ」


 いや、どんなわけ?

 俺の戸惑いながらのツッコミは無視されて、ラングレイに肩で担がれドナドナされる俺。

 アルカディアって所は、プレイヤーを不死兵とか言うヤベェ非人道的な存在に改造している国だ。そんな所にいきなり連行? 嫌な予感しかしない。

 ジタバタと暴れるが、プレイヤーでは現地人に敵うはずがなく、呪符により自殺すら封じられた俺は逃げることが出来ない。

 プレイヤーの誰かが代償術式で強烈に作った物だ! くそっ! 間違いなく俺に恨みを持った奴の犯行だ! 誰だ!?


 しかし今するべきことは、犯人探しではなくラングレイを止める事だ。肩の上で芋虫の様に暴れながら叫ぶ

 まて! 今回俺はなんも悪い事してないだろ! ちょっとジョークグッズ売りつけただけじゃん!

 俺の叫びは無視されて、やがて喫茶店モモカには静寂が戻った……。




 一週間後、龍華に帰ってきた俺は一枚の小さな板になっていた。更に一週間後、サトリが踏みつけてカチ割ってしまった事で元の姿に戻った俺は、しかしアルカディアでの事を話そうとしなかったという……。





無限→武力制圧担当

ぽてぽち→通信担当

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― 新着の感想 ―
[良い点] ヘイ!グリ! もっとスマホになりきれとかパワーワード過ぎる。 [一言] え、待ってペペさんを一枚の小さな板になるように、強制できる何者かが存在していたということか? 連合ではプレイヤーを改…
[一言] 惜しい!もう少しで世界に平和が訪れたのに サトリは戦犯
[一言] サトリが踏み割らなかったら、まさにホラー物的なオチで終わってましたね……
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