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第100話 不死なるプレイヤーズギルドは終わらない


 もう少しだ……もう少しで……っ!

 切り立った崖の中腹、そこに生えたピカピカに輝く黄金キノコ。食べた者を色んな意味で『元気』にさせる魔の食材、それは市場に出回れば驚くほど高値で売買される。

 しかし、黄金キノコとかいう馬鹿げた菌類は何故か危険な場所にしか生えない。まるで、何者かの意志が関与しているかの様に。


 しかしそんなこの世界の裏事情は置いといて、俺は岩肌にそそり立つ黄金キノコをガッ! と力強く掴み、抜く。

 その瞬間、バランスを崩した俺の身体はゆっくりと後ろへ流れて……重力に身を任せる様に地面へ向けて落下する。


 十数メートルの高さ、間違いなく死ぬ。しかし俺の身体が地面に染みを作りかけた瞬間、俺はガチャスキル《二段跳び》を発動……!

 あらゆる予備動作を抜きにして決められた動きを再現させる《ガチャスキル》。空中で、もう一度跳ねるだけの《スキル》は落下エネルギーの消滅を可能にする……!


 頭から地面に叩きつけられようとしていた俺の身体は、漫画のコマを幾つか飛ばした様な不自然さで唐突に空へ向けてジャンプする。

 そのまま着地して一息。


 す、すげぇ、これがガチャスキル……皆こんな面白い物を今まで俺を放って使っていたのか……。


 ガサッ。黄金キノコを握りしめながら感動していた俺の耳が無粋な音を拾う。音のした方へ顔を向けると、茂みを掻き分けてゴブリンという生物が俺を見てニヤリと口角を歪めていた。

 二体のやたらムキムキマッチョなゴブリン達は、どうやら俺の鍛えがいのある細い体躯を見て指導欲が沸き立ったらしい。

 くそ、俺の様な緑髪美少女がムキムキになったらお前、魅力がな!? ちょっとか弱そうなくらいが俺の様な清楚系美少女には一番良いんだぞ? 

 確かに、多少の筋肉がついても純朴系スーパー美少女である俺の魅力はガボァッ!


 突然、俺は口から血反吐を吐き、膝から崩れた。な、何が……っ!? 呻き、血を吐きながら軋む身体の悲鳴を聞く。

 これは、内臓がイカれている! な、何故っ!


 明滅する視界、しかし冷静に俺は答えを悟る。

 ガ、ガチャスキルか……っ! 落下エネルギーは当然、消滅なぞするわけがなく形を変えて中から肉体を破壊したのだ。


 掲示板の奴ら、騙しやがったなぁーっ! 

 俺は断末魔の叫びを上げて爆散した。


 ガチャスキルで不自然な動きをしても影響は無かったことになるよって書き込んだやつ誰だ!

 この恨みは掲示板へ書き込んだ奴を特定して晴らすことにしよう、と死の間際に俺は強く誓った。



 *



 だがそんな不毛な事は誰のためにもならない。そう、復讐は何も生まない……だが、スッキリするとは誰かが言った。

 それも間違っている……。だから俺は、掲示板で『すげえ、高い所から落ちてもジャンプ系スキルを激突直前に使ったら大丈夫だった』と書き込んだ。

 恨みの晴らし方とは、つまり気が済むかどうかなのだ。許す事が大事だの復讐してスッキリするだのと、そんな事を言う奴らは人の心の本質を分かっていない。何事も自分の気が済めばそれでオッケーなのだ。つまり、俺の気は済んだ。


 それはさておき、俺はモモカさんの喫茶店に来ていた。カウンター席で俺はモモカさんに泣きついている。


「あらまぁ、店を乗っ取られたんですか?」


 そう、迷宮都市で経営していた俺様の喫茶店モモカ二号店を、魔王祭が終わって確認しに行ったその時、俺は悟った。居場所が無い、と。

 すっかりあの鳥野郎は店長ヅラをして、久々に顔を出した俺に珈琲を出して飲んでみろとイキッてくる始末。

 まだまだ熟練の腕には遠いが、普通に美味しかったのが悔しくて思いつく限りの罵倒文句を吐き出してやったのだが……横にいた少女店員にフルボッコにされて出禁をくらってしまったのだ。


 うっ、うっと嗚咽の声を漏らす俺の頭を、モモカさんは優しく撫でてくれる。アルプラとかいうやつよりよっぽど女神だ。あいつらはちょっとの会話すら上手く成り立たないしな。壁に向かって話す方がマシすらある。

 くそっ! あの鳥野郎め! 俺への恩を忘れやがって……っ! モモカさんから切り離した恨みかっ!


「あの鳥も出世しましたねぇ。今度私も顔を出してみましょうか。ぺぺさんの話を聞いていたら何となく気になってきましたし」

「店長、なんです、鳥とは? 前の男ですか?」


 俺の横からツェインくんがすかさず切り込んできた。目が少し据わっているのは何故だろう。

 てかお前なんなの? 俺は踏ん反り返って聞く。もう魔王云々は終わってんだぞ? なんでまだ居るの?

 俺の最もな問いに、しかしツェインくんは哀しげに顔を伏せて首を振るばかりだった。


「……すまない、俺には記憶がないんだ」

「きゃーっ! カッコいいぃ!」


 哀愁を漂わせて苦しげに眉を寄せるツェインくんは、とても顔が整っているのでカウンターの向こうのモモカさんがキャーキャーと黄色い声をあげる。

 ここに来て新しい属性を付加してきた元魔王軍幹部に何かツッコミを入れてやりたいが、今日はそんな気分ではなかったのでとりあえず同情しているフリをした。


 そ、そうか。それは悪い事を聞いたよ。

 チラリと、別の席に座るフード姿の怪しい客を見る。その客は、珈琲を飲みながらこちらを見て不思議そうに首を傾げていた。


 なるほど、元魔王様ですら知らない事情なのか……まぁ、どうでもいいか。よく考えたらk子のクソも未だに魔王軍幹部を乗り回してるって聞くしな。


 俺はもう一度、喫茶店でフードを被り込んでいる怪しい客を見る。


 てか、まぁアレ魔王様なんだけど、あの人もあの人で角とか無くなってたな。てか魔王関連はどうなったの? 神様消えるわ俺らの本体が出てくるわで大騒ぎに紛れて有耶無耶のままなんだけど。


 《しばらく魔王祭はないし、魔王ハイリスには他の星神達も飽きてきたから新しいの用意しようかと……》


 突如として俺の視界を埋め尽くす様にシステムメッセージが流れ出す。感覚的に、恐らくアース神だろう。

 いや、まて。何、この神様俺の事を監視してんの? いや監視してるのは俺だけじゃないんだろうけど、え? もしかしてこれからもこうやって急に話しかけられたりするの? 嫌なんだけど。


 ふと、俺の後ろに誰かが立った。


「……?」


 無言で立ち尽くす、深くフードを被った怪しい客にモモカさんはキョトンとした顔をする。

 お? なんだ、ついにカミングアウトか……?

 元魔王様は、ゆっくりとフードを脱ぐ。そこから現れたのは、胸は断然小さいがモモカさんを少し成長させた様な容姿をした女の姿。ツェインくんが目を見開いた。


 俺は無言で立ち上がった。

 ハイリスの顔を見つめて自分の顔を触りながら口を開け閉めしているモモカさんに、俺は真剣な顔を向けて何か気の利いた事を言おうと口を開こうとした所で、喫茶店に新たな客を知らすベルが鳴る。


 反射的に俺達を含めた全員が入り口を見た。そこには桃色の髪を腰まで伸ばしたロリ巨乳の姿。モモカさんそっくりな姿をしたプレイヤーがこのタイミングで入ってきたのだ。

 突然現れた自分そっくりな存在にモモカさんは混乱の極地にあった。俺は額を抑えて天を仰いだ。なんて事だ。

 容姿が似ている魔王様登場のインパクトを完全に超えてしまった。そして、俺にはこのプレイヤーが何をしにきたのか分からない。

 だが、何となく想像はできる。プレイヤーは魔王様がモモカさんの先祖だという事を知っている。

 恐らくモモカさんファンのプレイヤーが、彼女に近付く為に魔王様の先祖ポジションを奪おうとしている。


 俺はプレイヤーの持つ一番凶悪なスキル《化粧箱》を悪用しているソイツを指差し大声で吠える。


 このクソ野郎がぁっ! モモカさんの姿で何をする気だテメェ!


 ギョッとモモカさんが魔王様を見た。


「え、いや私は違……」

「貴様ぁ! 何奴だぁ!」


 俺の叫びを聞いて勘違いしたツェインくんが

 元上司の胸倉を掴む。思わずその腕を捻り地面に叩きつける元魔王様。倒れ込んだツェインくんの顔面に元魔王様の右ストレートが突き刺さる。

 反射的にしてはやたら攻撃的ですね……元魔王様と言いたい所だが、今は俺のモモカさんの姿を模倣する不届き者を処理しなければいけない。

 懐から石を取り出して俺はゴミプレイヤーに飛びかかる。死ねぇい!

 だが俺の石をスウェーで躱した偽モモカさんは左ジャブで俺の顎を打ち抜く。ガクリと俺の身体は糸が切れた人形の様に床に崩れ落ちる。


「きゃーっ! ツェインくん!」


 俺と同じ様に床に寝そべり意識を失うツェインくんに駆け寄る本物モモカさんを、霞んだ視界で見つめながら俺は心中で謝る。

 すいません、モモカさん……俺は貴方の偽物を倒す事が……。


 ひょこりと、店の奥からモモカさんが顔を出した。彼女はカウンターの向こう側でツェインくんを心配するモモカさんと、店の入り口で拳を構えるモモカさんを見て、不思議そうに首を傾げた。


「え、何事です?」


 一目見て確信する。たった今、奥から現れたのが本物のモモカさんだ。つまり、俺が先程まで愚痴っていたのもまた、偽物……?

 ば、馬鹿な……俺の目を掻い潜るプレイヤーが存在するなんて……。 


「え、ええっ?」


 まさか自分の子孫を間違えているとは思っていなかった元魔王様の愕然とした声が、静まり返った店内に響いた。



 *



 俺はプレイヤー同士なら顔を見合わせれば見破れると思っていたが、《化粧箱》の力を見誤っていたらしい。

 俺はそこに商機を見た。

 だがあれは我が強いプレイヤーには向いていないスキル……つまり、自分を強く持っている俺なんかの苦手とするスキルだ。

 グリーンパスタの様な狂ったやつ以外が使えば、容姿に意識を持っていかれるので心から別人になってしまう。


 要はつまり、俺がプロデュースする側になればいいのだ。


 俺が龍華のスラムで新たに作った店舗に、人目を気にする様に挙動不審な動きをする男が入ってきた。

 コソコソとカウンターで待機する俺の元に来て、懐から何かを取り出して小さな声で注文してくる。


「この娘で……」


 取り出したのは女の写った写真だ。


 なるほど……と、俺は神妙に頷く。それで? どんな関係で?


「ああ、近所に住んでる人で……」


 それ以外の情報は無し、か。まぁいい、少し待っていろ。写真はこれだけか?


「すまない、その角度からしか無くて」


 なんとかしよう。

 そう言って俺は店の奥へ消える。

 数刻経って、俺と共に一人の女が店の奥から姿を見せた。それは、まさに写真に写っていた女だった。


 ほらよ。中々良い出来だろう? 一時間一万な、やらしいお触りは無しだからな。健全なデートをしろよ。


「ありがとう! じゃあ行こうか……」


 満面の笑みで、女を連れて男は出て行った。そう、これはいわばレンタル彼女店だ。意中の女にアタックする勇気がない軟弱な男が、見た目だけはそっくりな女とデートする事ができる画期的な店だ。

 当然、レンタルされるのは《化粧箱》で変身したプレイヤーだ。この世界で上手く金を稼げないプレイヤーに、俺がこの仕事を斡旋しているのだ。


 これがまた稼げる稼げる。

 数十年前まで……いや、今でも残っている価値観だが……武こそ誉れであった龍華では、腕っ節さえ示せばそれが異性へのアピールになった。

 しかし、戦争をしない様になって国外との交流が増えた昨今、腕っ節以外でのアプローチの必要性は年々増えている。

 言うなれば、一種のブームのようなものだ。いかに武力以外で自身の魅力をアピールできるか……今の龍華の女性達は男達にそこを求めていた。


 壁ドン、顎クイ……言い出せばキリがないが、季節よりも早く変わっていく女性達のトレンドについて行けない脳筋男子は多く存在し、その結果生まれた器用なモテ男子と非モテとの格差は広がっていくばかりだ。


 そこで、その鬱憤を晴らす為に影で流行っているのがペペロンチーノ式レンタル彼女店。もちろん彼氏も用意できるので、好きな見た目の異性を連れ歩く事ができる俺の店には男女問わず客が殺到した。

 もちろん、プレイヤーは基本的に貧弱なので力にものを言わせてやらしい事をしようとする奴は男女問わず存在する。

 しかし、俺達には脳内に無敵の連絡手段があり、ヘルプを求められればすぐに遠隔発動式魔術で自害させる事が可能だ。

 それはつまり、色んな意味で安全な職場という意味である。命よりも自分の矜持を大事にする傾向があるプレイヤーにとって安心できる要素であった。


 今では両手の数以上のキャストを抱えるレンタル彼女店、問題があるとすれば……人気がある故に模倣される事が多い美人さんの存在だろうか。


「おい! 苦情が殺到しているんだよ! 『私の姿を真似た人が街を彷徨いています』って!」


 デイジーという騎士が店のカウンターをバンバン叩きながら俺にキレ散らかす。俺は腕を組んで生意気そうに鼻を鳴らす。

 あぁ? 見間違いだよ。世の中には似たような顔の人間が三人は居るという。ドッペルゲンガーって奴だな。


「それ会ったら死ぬ奴じゃないかっ! いやそもそも同時に四人以上見かけたって人もいんだぞ!」


 随分人気な奴だな……。ああ、花屋で働く美人店員さんね。なんか雑誌に取り上げられて一時的なブームがあったよね。


「いや、何をどうしているのか知らんけど、同じ顔の奴が何人も同時に存在したら気持ち悪いだろ!」


 まぁ、問題というのはこれだ。人気者は注文数が多いために、この様に仕方のない事態が起こりうる。

 確かに。そこは配慮不足だったか……いやでもさ、この人は今貸し出し中だから無理ですって、なんかほら……この店に求めているものに反するっていうか。


「そもそも人のそっくりさんを作るのをやめろって話だ!」


 はー? 法律に違反でもしてますかぁ? それとも何? 確か貴方、街中警邏する系の騎士さんだよね? 俺に逮捕状だとか、店に停止命令だとか出てるわけ?


「うっ、いや、それは……」


 かーっ! なるほどね。個人的な安い正義感で、非モテの星であるペペロンチーノ式レンタル彼女・彼氏店をしょっぴこうってかぁ!


「そ、そうだよ! 自分に置き換えて考えてみろ! 自分と同じ姿形をした人が、知らない人や対して仲良くもない人とイチャイチャしていたらなんか! 気分悪いだろっ!?」


 別にぃ、それってつまり自分が魅力的だって話だぞ? むしろ喜ぶべきだ。あっ、私もしくは俺がまた誰か知らない人といるーっやだなぁ、自分はこんなに人気者だったなんてーってね。

 俺なら喜ぶさ。何も気にしない。気にする奴は自意識過剰だね、自分自身じゃないんだから良いだろ?


 胸を張って俺が言い切ると、デイジーがうぐぐと歯を噛み締めて悔しそうに呻く。そんな時、新たに来客があった。

 やたらピチッとした服装の健康的に焼けた肌のマッチョ男だった。迷いなく俺の元へ歩いてくる。

 いらっしゃい。デイジーを手で避けさせて俺は出迎えてやる。どんな娘がお好みで?


 そのマッチョはニカっと快活に笑って写真をドサっと置いて見せてきた。一枚拾って見る。思わず二度見して、散らばった写真達を見る。

 写っているのは、ふわふわとしてボリュームのある緑の髪を肩辺りまで伸ばした、花のように咲いた笑顔が特徴的な美少女俺だった。


 デイジーが胡乱な目で俺を見ている。その視線に気付かないフリをしながら俺は顔を上げる。


 これは、俺に相手をしろという事か? マッチョに対して聞く俺は、自分でも声が硬くなっている自覚があった。しかし、マッチョは人の良さそうな笑顔で首を振る。


「店長は、そのままで」


 そ、そのまま……? 


「ぺぺロンチーノ役は、キャストにやってもらうって事じゃない?」


 戸惑う俺にデイジーが言う。マッチョは笑顔のまま紙切れのようなものを俺に見せてくる。そこには、『設定』が書かれていた。簡単なものだ。写真の娘が僕にベタ惚れしているとかそんな感じのことが書いてある。

 この店ではそういう設定もある程度、客の要望に応える。できる限りにだ。


「性格とかの再現も、きっと完璧ですよね?」


 ずいっとマッチョが俺に顔を近付けて嬉しそうに言う。俺は少し身を引いた。あ、ああ……まぁ、この写真俺だしね……大体のプレイヤーが俺の性格知ってるし、いやそもそも《化粧箱》って容姿似せたら性格とか思考も似ていくし……。プレイヤー同士なら特にね……。


 デイジーの視線は突き刺すように鋭い。ボソリと彼女は言った。


「喜ぶべき事なんだろ?」


 そ、そうとも……。引きつりながら俺は答えた。




「ったく、あーんしてくれなんて……小っ恥ずかしいっ。なんで、俺が……いや、するよ、するする。もー。……はい。……俺は、いいよ。えっ、いやだよ! むっ……え、う、美味いよ。……うん」

「ぺぺロンチーノは可愛いね」

「はーっ? 今更だろ! ずっと可愛いだろ! ずっと!」

「前よりも可愛くなった。ほら、その少し赤くなった……」

「なってない!」


 ……。

 何故か、俺に変身したプレイヤーと客のマッチョは店内のソファーでイチャついている。

 一応待合席として用意してあるのだが、規約にそこでデートをしてはいけないと書いてあるわけではないので、追い出すに追い出せなくなった。

 新しく入ってきた客は、イチャつく俺そっくりなのとマッチョを見てギョッとして……俺を見てくる。何度も見比べて、首を傾げて出て行った。


「喜んでるか?」


 デイジーが同情したような顔で聞いてくる。俺は無視した。



「おい! お前何っ、別の女見てんだ! ここにお、ぉまえの最高の彼女が居るだろ!」

「ごめんごめん、見てないよ。君しか見てない」

「むっ……! いや、うん。当然だろ。お前幸せもんだよ、俺みたいな可愛い美少女とさ、ほら……恋人になれたんだから、なっ?」



 いや、あれ本当に俺か? 俺あんなこと言うかっ!?

 ガタッと立ち上がり指を指しながら叫ぶ俺に、マッチョはウインクをしてくる。ぶっ飛ばすぞ。


「おい、お客さんの邪魔するなよ」


 デイジーはどんどん俺を可哀想な目で見つめて、しかし辛辣な言葉を投げかけてくる。ぐ……っ。いや、うん。あくまでもシミュレーションみたいなもんだしな……。


「え? ……きって、言えって? やだよ。は? ま、周りに人いるし……なんで俺が! 嫌だって! お前が言えっ! ぅえ!? ……どうしても? ……ぅ、き、だよ。 言った! ちゃんと言った! ……え? ぁ、いや。うん……好き……」


 顔を真っ赤にしたペペロンチーノ(偽)は股の辺りで指をもじもじさせながら、マッチョから視線を逸らしている。

 恥ずかしくて直視出来ないのだろう。余りに馬鹿馬鹿しいやり取りにペペロンチーノ(本物)も、思わず顔を手で覆ってしまう。


「顔赤いぞ」


 笑いを堪えてそう言ったデイジーを睨みつけ、俺は半泣きで宣言した。


 閉店します!



 *



 なんなのあの変態野郎。性癖拗らせてない?


 酷い辱めを受けた俺は傷心のまま嫉妬の魔女の森を走りヒズミさんの小屋に突撃した。

 ヒズミさーん! 龍華はろくでもないよぉ!


 中で散らかった物を片付けていたヒズミさんは、半泣きで飛び込んできた俺に冷たい視線を向ける。


「お前ほどろくでもないやつは居ないだろ」


 相変わらずの塩対応だ。

 なんやかんやでこの世界に戻ってきたヒズミさんは、しかし以前と大きく変わった事がある。


 それは、彼女もまた俺達と同じプレイヤーになったことだ。身に秘めた界力ファルナは以前と比べ物にならないくらい少なく、脆弱になった。


「……っあ、くそっ。不便な身体だ」


 片付け中に見つけた道具をいじくり回しながら、ヒズミさんはぼやく。どうやら思う通りに動かせないらしい。

 プレイヤーになった事で、今まで出来ていたほとんどの事ができなくなったのだ。元が違うからなのか、普通のプレイヤーよりは随分強いが……それでも以前までと比べると……。


 だが、彼女の顔に不満は浮かべど、随分と吹っ切れたような印象を受ける。実際に……色々と肩にのし掛かっていたものは取り払われたのだろう。プレイヤーとは、恐らくこの世界で一番自由な存在だからだ。


 神への確執も、縛られた肉体も、過去からも解き放たれたのだろうか。いや、ヒズミさんはそんな簡単に割り切れるような『人間』では無いか……。


「なんだその生暖かい目は、やめろ! 気持ち悪い!」


 まぁそう言うな。俺はヒズミさんの過去を知ってしまった。つまり、あんたのことはもう他人事では無いという事だな?


「アァ……もう最悪だ」


 頭を抱えて嘆くヒズミさん。

 すかさず俺は優しく肩に触れた。

 どうした? 不死なるアイツと色々あって、なんやかんやで実質ヒズミさんのママであるこの俺が悩みを聞いてやろう。


「は、はぁ? 意味わからん。何言ってんだ……? 悩みはお前の存在だよ」


 おいおい、照れるなぁ……。

 まぁ、冗談はさておき、実際ヒズミさんどうよ身体の調子は? システムウィンドウ……掲示板とかも使えるわけ?

 突然と、徐々にお腹が膨らんでいく俺の問いに、チラチラと視線を下にやりながらヒズミさんは答える。


「ん、ああ、ん? 掲示板ね、使える、が。不思議な感覚だ。お前達みたいに使いこなすにはまだ時間が……」


 ぽっこりお腹になっていく俺。ヒズミさんはそれが気になってしょうがない様だ。最初はチラチラと見ていたが今はもうガン見である。俺も気にしない様にしていたが流石に無視できなくなってきた。

 な、なに? コレ。俺は少し焦る。まるで妊婦さんだ、ボテ腹ペペロンチーノだ。


「変なもんでも食ったか?」


 い、いや記憶の限りでは……。もはや腹の厚みは普段の二倍以上だ、バランスをとることすら難しい。

 ヒッヒッフーと、荒い呼吸をする俺に複雑な目を向けるヒズミさん。

 う、生まれる……っ!


「え?」


 思わず口にした俺の言葉に、ヒズミさんが一歩引いて素っ頓狂な声を出す。


 直後に、俺の腹が豪快に裂けて中から何かが飛び出した。

 ぐああぁぁっ! 俺の口から溢れ出すおよそ淑女とは思えない叫びと共に、飛び出してきた血塗れの肉塊が地面を転がってのそりと動きを見せる。


「……」


 腹から血を吹き出して地面に崩れ落ち、ピクピクと死にかけの俺を見てドン引きしているヒズミさんは、恐る恐るといった様子で俺が生んだ肉塊を見る。

 それは立った。なんと人間の形をしていた。見た感じ、歳の頃はまだ一桁……五、六歳くらいの幼女だ。


 幼女の身体に吸い込まれる様に俺の血が吸収されていく。ついでに俺の腹も治ったので、とりあえず起き上がって幼女を見る。


 緑の短髪に、垂れ目気味の何を考えているのか分からない緑の瞳。何処かで、見たことのある様な顔立ちだった。

 パチクリと、一度瞬きをして幼女は口を開く。


「あちは、ぷちなるぷれいやーずぎるど」


 幼女は表情を変えずそう言った。ヒズミさんが幼女と俺を交互に見比べる。俺はなに見てんだと睨み返す。

 ハッとした顔でヒズミさんが何かに気付いた。


「ぷちな……不死なるプレイヤーズギルドかっ!?」


 なんだと? バッと幼女の方を見ると、しかし彼女はそれを肯定するでもなく、俺の方を真剣に見つめてやはり表情を変えずにこう言った。


「よろちく。まま」




 完








これにて一旦完結とさせて頂きます。


まだ書くネタや話はあるのですが、不死なるプレイヤーズギルドのメインストーリーとしては、ここが一区切りかな……と。


以前よりも、もっと不定期になるかもしれませんが続きはちょこちょこ投稿すると思われます。


ここまででシーズン1、次から……三章からはシーズン2といったところでしょうか。


約二年間の連載でしたが、ご愛読ありがとうございました。思っていた以上にポイントを頂きまして、嬉しい限りです。

まだまだ説明してない事とか、描写不足なところはありますのでもし疑問があれば聞いてください。答えます。

それでは、また続きを書くその時まで……。ありがとうございました。




元の姿に戻りたいランスくんと、ペペロンチーノとの学園編を少し書きたいなとは思ってます。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 本編完!ギャグの勢いを保ちながらいい話に決着して素敵 [一言] シーズン2も楽しませていただくぜ
[一言] ヤベー奴らをもう見れなくなると早ちとりしましたがそんなことは無くて嬉しいです。
[一言] いきがい
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