第99話 俺がママになるんだよ!?
不死なるプレイヤーズギルドの正体とは、すなわちこの世界で言うところの『異邦者』だ。
そして、異邦者は必ず持っているとされる《固有魔法》……それが、俺達プレイヤーを生み出す《プレイヤーズギルド》。ちなみに《牢獄》や《食欲》もその一括りの中にある。
だが、コイツはそれ以外何も持っていなかった。何故なら……この世界を構成する最小単位『界力』を喰らう為には、余計なものが不必要だったからだ。
しがらみが増えれば、世界の法則に縛られる。直接、界力を取り込む為には邪魔なものだ。
だから、あえて目立たぬ様に人間のフリをさせていた俺達の界力回収能力は微々たるものだった。
いや、今はそんなややこしいことはどうでもいい。
コイツを止める方法は簡単だ。
何もないと言うのなら、与えてやればいい。世界へのしがらみを増やしてやるのだ。自我……感情を、俺の『魔法』で。
つまり、この俺様が不死なるプレイヤーズギルドという赤ん坊の母親になってやるということになる。仕方がないので、色々すっ飛ばして俺は母になる。そう覚悟した。
*
方針が決まったとは言え、大きな問題があった。
簡単に言うと、俺はその目的を達成する為に死んではならない。そして、ヤツから湧き出す触手に掠りでもしたら俺は死んでしまう。
死ねば、俺はまた《牢獄》行きだ。グリーンパスタに、何度も俺を外に送る力はないだろう。それに時間がかかればその分この世界の界力は喰われていく。
故に、協力が必要だった。
だがそれを詳しく話している暇はない。油断をすればすぐ俺が死ぬ。余波で死ぬ。猶予はない!
「ハイリスとドイルは触手を全部処理! 重力以外で!」
重力魔法は邪魔だ。俺が死ぬ。
次にロードギルへ指を向けてから、横にずらして流れる様に不死なるプレイヤーズギルドを指差す。
「お前はオーダーなんちゃらを撃ち込め! テメェのせいでこうなったんだから、全力でどうにかしろよ!」
不死なるプレイヤーズギルドの身体をあえて分けて考えると、触手、外殻、そして核の様なもので構成されている。
その全てに決まった形などないので、境目など目に見えては分からないが、俺が狙いたいのは核に当たる部分……。むしろ、そこにしか勝機がない。
触手は能動的にだが、外殻部分は自動的に界力を喰らういわば一種の力場の様なもの……俺の命も同様に一瞬で喰らい尽くすだろう。
微妙に役割が違う触手と外殻、ドイルとハイリスでは恐らくその外殻を構成する力場をどうこうすることができない。
これも感覚の話になるが《痛覚制御》という、《スキル》を貫通した異端審問官の技なら、恐らくその力場に穴を開ける事ができる。
「……! 《天蓋》を解きます! ドイル、行くよ!」
ハイリスが俺の意図を読んでくれたのか、そう叫ぶ。
ロードギルが、聖女を優しく地面に寝かせた。今はそんな優しげな所作すら焦れったくて鬱陶しい。
俺は走り出した。すぐに、ハイリスが魔法を解く。瞬間に、重力の檻から解き放たれた不死なるプレイヤーズギルドが爆発する様に全方位へ身体を伸ばす!
それに対し、ハイリスは白く輝く光の結晶を生み出して自在に舞い散らせた。その結晶は魔王軍幹部が使っていた力と同じ質のものだ。
結合して様々な形を取り、時にはドイルの足場として、結晶自身も武器を象って触手を吹き飛ばしていく。
ドイルは、結晶を足場にしながら俺の走る道を確保した。足の遅い俺に、音速とかを超えてるレベルで襲いくる大量の触手……その全てがドイルによって斬り飛ばされる。
開かれた道、そして射線。俺の後ろから、剣を正眼に構えたロードギルが振りかぶって魔力に……《極光》を混ぜて練り合わせる。
『オーダー、セイヴァー!』
どうやら、彼はきちんと自分の仕事を分かってくれたらしい。振り下ろされた剣から生み出された白い炎。俺の背を押す様に、しかし俺を通り過ぎて吸い込まれる様に不死なるプレイヤーズギルドに着弾した。
不定形の身体に、穴が穿たれる。白い炎は神に準ずる力を持って、異界から来た化け物に傷を作る。
俺はその穴に飛び込もうとする。だが、ここに来て触手は狙いを俺一人に絞ってきた。俺の行く手を阻む為に、数を増した触手はドイルにも捌き切れず、漏れた分が俺の身体を今にも貫こうとする。
しかしそれらを、光の剣や光の手が相殺する。それでも、あぶれたものを切り裂く奴らがいた。
「きゃーっ! やっちゃえやっちゃえ!」
今までどこに居たのか魔王軍幹部アインとドライを侍らせたk子がキャンキャン喚く。
「お、腕上げたか?」
「なんで手伝ってんだろう……」
数本の触手を斬り裂いて見せたキリエを素直に褒める無限。俺の目の前に迫る触手、だが後ろから飛んできた小さな火球が僅かに軌道を逸らす。
「あ、あわわ」
シロエというプレイヤーだ。『聖痕』無しでも魔法を使えるらしい。キリエの腰巾着なのでとりあえず勢いで付いてきたんだろう。初めて喋ったんじゃね?
レッドが牢獄の主を止めている間にグリーンパスタがコイツらを送り出してきたのだろうか……そして、そんなプレイヤー達の数は続々と増えているらしい。
回収直前に居た位置に転送される様なのでこの場に現れたのはコイツらだけだが、それでも不死なるプレイヤーズギルドの力は減衰した。
イケる。そう思う俺の前には、ポッカリと空いた穴がある。だが急に俺の背中に光の剣がブッ刺さった。
「あっ、ついやっちゃった」
k子だ。この流れでうっかりするには重過ぎる罪だが……しかし、その勢いで俺は穴の中にスポッと入る。
普通にk子はぶっ殺してやりたいが、結果オーライだ。俺は、望んでいた所へ手を伸ばして……まだ、届かない事に焦る。
力場が削りきれていない。ロードギルだけでは、ダメだった。失敗したと考えるより前に、俺を追う様に飛び込んできた光の結晶が力場を削る。
ハイリスの力! これも、効くのかっ! 闇に閉ざされたかと思われた事態に光が差した。俺は、手を伸ばす。そして、不死なるプレイヤーズギルドの核に、触れた。
だが、まだ届かない。耐性だ! 界力量の絶対的格差による、魔法耐性! 『迷狂惑乱界』か、もしくは懐中時計の術式を利用した……ヒズミさんを介したあの力が有れば!
だが、その力は既に失われている。ヒズミさんが亡き今、どこからも『迷狂惑乱界』は……それを代償にした俺の『魔法結界』は使えない。
ここで、俺が不死なるプレイヤーズギルドをどうにも出来なかった未来を少し考えた。
多分、この世界の人達ができるコイツへの対策は、色々ある。ただ、恐らく間に合わない。
不死なるプレイヤーズギルドが界力を食い散らかす事で、この世界にどの様な影響が出るのか……全てを食い尽くす前に、コップに穴が開けばそこから水が零れていく様に……生まれた綻びはどの段階で、世界そのものを壊すか分からない。案外あと数秒で、致命的な破壊が起きるかもしれない。
その、境目は正直分からない。だから、今この瞬間に俺は賭けていた。
俺がこの世界で過ごした時間なんて、たかが数年だ。
だが、されどその数年を俺は思い出す。色んな人間に会ってきた。色々な事があった。楽しんできた。楽しませてもらった。
まだまだ、これからも……。
壊されるのを、見過ごすつもりもない。
代償にしてきたヒズミさんの力が無いのなら、別のものを捧げればいい。
プレイヤーはこの世界に存在するだけで『経験値』を得てきた。
経験値とはなんだ。《スキル》か? それとも増えてきた《機能》?
きっと全部だ。俺がこの地に降り立って、見て、聞いて、食べて、感じた……認識してきたもの全てだ。それは……代償となり得るのではないか。
腹を貫通している剣のせいで口から血反吐を吐きながら、俺は叫ぶ。
『界力全開!』
ならば捧げよう。
ここまで来たなら、やれるとこまでやってやる!
俺の、経験値をくれてやる。世界にとっての俺、プレイヤーにとっての俺。
俺にとっての、この世界の為に
全てを捧げて俺は宣言する。
『魔法結界』
それは、壁を取り払い、すべてを剥き出しにさせる。ぶつけ合い、理解し合うのは、《魂》とでもいうべき唯一の自分!
『心壁崩理界!』
展開された魔法結界の中、色彩が狂った世界で俺が向かい合うのは……例えるなら真っ白なキャンバス。
俺の魔法は、自分の感情を押しつけて増幅できる。それを使えば『人間』らしい感情を、『コイツ』にも与えてやれるだろう。
そうすれば、『人間』……とまでは行かずとも、俺達プレイヤーと同じ様な存在になれるのではないだろうか。
いざ、そうして向かい合ってみて……手応えが、無い。何故なのかは、感覚で理解できた。
何かが、足りない。
足りないからこその、『不死なる』プレイヤーズギルドか。それが無いから死なないのか。
俺達が、死んだ時に分解され、最後の最後に残る……自分を構成する一番大事な何か。
全てのプレイヤーは持っているのに、《不死なるプレイヤーズギルド》はそれを持っていなかった。
俺はそれを、『魂』と呼ぶ事にした。相応しい呼び名が思いつかないからだ。
だから、俺は自分が持つ『全て』を与える事にした。今この場で差し出せるものなど、それくらいしか無い。
その結果、俺がどうなるかなんて事は
もはや考えてはいない。
*
別に、自己犠牲精神とかそんな崇高なものではない。ただ、ここまで勢いのままに来たので、後に引けなくなったのだ。
あれだけカッコつけといて問題解決出来なかったら恥ずかしいじゃん。そもそも世界滅びるとか言うけど、小市民な俺にそこまで想像しきれないしぃ……。
まぁ、そんな俺の気持ちはさておき、正直この展開は全く予想できなかった。
今、俺は宇宙にも似た空間にいた。アルプラ神が作った空間とは、また違う場所のようだ……なんか、星々の位置が違う気がする。多分。
そして、俺の目の前には、光で出来た影の様なよく分からない存在が在る。それは言った。
『僕は、君達が言うところの神様。星神……そうだな、地球というのも呼び辛いだろうし、星神アースとでも名乗っておこうか』
星神。
アース、地球。つまり、俺達の世界の神という認識で良いのだろうか。
『そう。そして、アルプラの《ヒズミ》の加護神でもある』
不死なるプレイヤーズギルドもだろ?
『アレは、まぁ暴走する事になるとは思ってなかった。まさか、ヒズミがね……アルプラがそこまでするとは思ってなかった。事故みたいなものだ』
喋り方とかが割とフランクな神様だった。そして不死なるプレイヤーズギルドに対しては、ヒズミさんの名を口にする時程の愛情は感じられなかった。所詮はその程度の存在だと言う事だ、きっと俺達も。
『ヒズミがアルプラにいる限り、僕の加護者は彼女だけだし、それ以上の干渉は不可能だった。だけど、アレが世界へ顕現できる様になった時点で、僕的にはアルプラなんてどうでも良くなったというのもある』
アルプラの時と同じく、俺達に合わせて存在を近付けてくれているのだろうが、やはり根本から人間とは違う。対面で喋っていても、まるで言葉が通じ合っているとは思えない。
おかげで大変な事になりそうでしたよ神様。俺はため息を吐いて言う。
『いやぁ、むしろ止められた事にびっくり。アルプラ以外にどうこうできる性質でも無かった』
あんたは、何がしたかったんだ?
その質問に、神様はやはり大した事でもないかの様にサラッと答える。
『ああ、君達の事? 別に。《ヒズミ》が嫌な目にあってたし、最近アルプラ調子乗ってたから』
……それを聞いて、俺達を巡る騒動の理由が何となく分かった。
『そうだな、君達で例えよう。漫画やゲームで好きなキャラ……推しキャラってあるだろ? そんな感じだからさ。だからアルプラの創造にも力を……出資、してあげたわけだし』
この神様は、ヒズミという自分の推しキャラが不遇な目に遭っているから、きっと不死なるプレイヤーズギルドを生み出したんだ。
そして、推しキャラがいなくなったら……そんな世界どうでも良いと、壊れても構わないから……実際に壊せる力を不死なるプレイヤーズギルドは持っていた。
『ヒズミが居る限り、僕はそれ以上の干渉が出来なかった。これは星神達の法則だ。僕の世界で君達が物理法則に囚われている様に、僕達には僕達の法則がある』
だから、不死なるプレイヤーズギルドは世界を渡れなかった。だが、その法則の穴を突くように、この星神はアルプラに俺達を送り込んだ。
代償を払ったのだろう。そして、その代償こそ……。
『ところで、良い機会だし君達には選択肢をあげよう』
俺を含めたプレイヤーの、システムウィンドウに《ログアウト》の表示が増えた。
『それを使えば、アルプラでのプレイヤーとしての生を終わらせる事ができる。もう死んでしまった身体には戻せないけど、良い条件で元の世界に転生させてあげるよ。好きでしょ? 記憶持って転生とかさ』
スキル・《プレイヤーズギルド》の代償は、地球で人間として生活していた、命そのもの。
千に及ぶ命を代償に、世界と世界の狭間からアルプラに干渉出来た。そして、その命を糧に、不死なるプレイヤーズギルドの『分身』たる俺達は『魂』を持てた。
『人間に擬態させるのが一番バレにくいだろうしね。そういう意味でも色々都合が良かった。悪いと思ってるよ。償いは次の生で返そうと思ってた』
すでにこの時点で、《ログアウト》をしていくプレイヤーは多く居た。しかし俺は、ウィンドウを消して神様に向き直る。
『君は、まだいいのか?』
その問いに、俺は即答する。
あぁ。せっかく頑張ったし、もう少し遊んでいくぜ。
と、ニヒルに言ってみたものの、代償術式により俺はもう吹けば消えそうな存在になっていた。
今も尚、自我が残っている事すら偶然に近い。しかし星神アースが手をかざすと、そんな霞の様な俺の界力が回復する。
『界力って概念はね、つまるところアルプラが世界を創造する力の全てを定義できていないから生まれているんだ。不安定な世界だという事だね、星神の中では未熟だという事だ。まぁあいつ若いしね』
だからって、未熟な若いのに『嫌がらせ』をするのはどうなんだ? 俺が呆れ声で言うと、悪戯っ子の様な笑みを浮かべた様に見えた星神アースが肩を竦めた。
『趣味が悪いとか言ってたよね。酷い。未熟者なくせにね。まぁおかげで……君の起こした奇跡があったのだろう』
俺を回復してくれたのは、その礼だろう。だから俺は神様には礼を言わない。そもそも色々コイツのせいだし。
「神が奇跡とはね、それを起こすのがあんた達だろうに」
俺の言葉は無視されて、目の前に渦の様なものが現れる。この空間の出口だ。ここを通ると、アルプラに行けるのだろう。
『好きなだけ遊んでおいで、アルプラに対してもしばらくは大人しくしておくよ。それが……《ヒズミ》を蘇らせた君への礼だ』
不死なるプレイヤーズギルドは何者でも無かった。それはつまり、何者にでもなれるということだ。
『君が植え付けたヒズミの残滓。そして、世界に刻まれてきたヒズミの記憶。まさかね、完全に消えたと思ってたよ』
俺は、やっぱり自己犠牲精神に溢れたタイプではない。なので最後の最後に自分を犠牲にする前に、とりあえずヒズミさんが残していった残滓的な何かを押し込んでやったのだ。
特に意味は無く、どうかなーって。
そして気づけば俺はここにいた。もう、神様の口ぶりで分かる。不死なるプレイヤーズギルドは止まった。今はもう、ヒズミさんとしてあの世界に在るのだろう。
同じ加護神を持つから出来たのか、ヒズミさんが世界でも強大な存在だった事で……世界そのものが彼女を覚えていたから出来たのか。
ややこしいその辺は、考えても分からないだろうしまぁいいだろう。
俺は目の前の渦に飛び込んだ。
ふと思ったけど、この神様は仮に俺達が不死なるプレイヤーズギルドを止めていたとしたら、ヒズミさんのいない世界に何をしでかしただろうか。
きっと第二、第三の異邦者を送り出してたんだろうなぁ……いやらしい能力持ちの。
ぐにょにょっと、俺の身体が歪んで渦に飲み込まれていく。
それを、何を考えているのか分からない雰囲気で見つめる(目は無いけど)星神アースが思い出した様に、この場を去りゆく俺に声を掛ける。
『無限大の未来を好きに生きて、好きに死ぬといい。君達の帰りを、待っているよ』
なんか俺達の親ヅラしてるけど、お前が全ての元凶だぞ!? 俺は思わず叫んだ。
とりあえず分かったことが、俺達の世界の神様は大概おかしいって事だ。推しキャラ一人の為に世界を引っ掻き回してくるのだ。なんてタチの悪い……。俺は、アルプラ神に同情した。
*
ペペロンチーノの姿が消えたその瞬間に、世界を壊しかねない《力》が消滅する。場を支配していた『死の気配』とでも言うべき威圧感が鳴りを潜め、世界は元通りの平穏を取り戻した。
同時に、不死なるプレイヤーズギルドという不定形生物がその姿を変えた。それは人の形をしていて、『彼女』を見たハイリスは涙を溢れさせ駆け寄った。
「ヒ、ヒズミさん!?」
ヒズミと呼ばれた女性は自身の手を見つめ、何が起きているのか分からないと言った様子だった。
感極まって抱きついてきたハイリスを押し除けながら、身体を動かして違和感が無いかを探っている。
「し、死んじゃったのかと思いましたよぉ!」
「いや、別にもう十分生きてきたんだけどな……」
ガシャァン! 何かがぶっ壊れるド派手な音が大聖堂に響く。
突然、魔王軍幹部の背に乗ったk子が無限を襲撃したのだ。
k子の攻撃を、シロエを盾にして防いだ無限が叫ぶ。
「上等だ、かかってこい!」
「ああっ! シロエぇ!」
キリエの悲痛な叫びを皮切りに光の剣が舞う。無限が避けて、床のタイルも舞う。聖女を庇う様に立つロードギルが怒りを露わにキレた。
「貴様ら! 神聖なる大聖堂で暴れるな!」
「うるせーっ! この色ボケヤロー!」
しかしk子に言われた事に自覚があって少し引いてしまう。そもそも今、この場にまだプレイヤーが生き残っているのは、元を正せばロードギルのせいであった。
k子は容赦なく、倒れる聖女に向かって攻撃を放った。それを剣で叩き落としたロードギルが再び叫ぶ。
「何とでも言え! お前は粛清だ!」
「騒がしいな……ところで、レックスはどこへ行ったんだろうな」
騒動を横目に、呆れながらドイルがヒズミ達の元へ歩いてきた。ポカンと、揉めるプレイヤーとロードギルを見ていた彼女達がそれに対して何かを答えようとした時……突如何処からか凄まじい《存在》を感じた。
バッ、と。その出所を見る。視線の先は女神像。空間に生まれた渦の様なものから、その《力》……アルプラにも似た、しかしそれよりも強大な存在を感じさせる。
だがそれはすぐに閉じた。渦から吐き出されたのは、この世界にとっても取るに足らない存在。
ハイリスは、吐き出されたものを見て呟く。
女神像の、天へ向けられた手の先。そこに腹からブッ刺さり、口から一筋の血を垂らしてそのプレイヤー・ペペロンチーノは安らかに眠っていた。
「し、死んでる……」