第1話 一年後の姿
もう少し……もう少しだ。
俺は崖をよじ登りながら黄金に輝くキノコに手を伸ばす。見た目まんまの名前、黄金キノコ。なんでもこれを食べると身体の色んなところが元気になるので、主に金持ちの物好きに高値で売れるのだ。
市場に出回るのは月に一つあるかないか……何しろ生育条件が不明なのでいつ何処に生えてくるのかが未だに分かっていないのだ。しかし、ほとんどの例として共通する事がある。
危険地帯だ。楽には取らせないぞという気概を感じられるくらい、危ない所でしか発見されない。現に今俺が見つけたコイツも、切り立った崖の中腹という場所に生えている。
しかもこの崖は"嫉妬の魔女の森"と呼ばれる不思議地帯にあって、森の中で人間は魔力の操作が困難になる為、魔法の制御が難しくなる。
そういう事情があってこの森には"この世界の人間"はあまり入ってこない。よってこの森は希少なアイテムの宝庫となっている。
ようやく黄金キノコに手が届き、俺はそれを根本からむしりとった。その衝撃で足を滑らせて俺は宙に放り出される。へまったぜ……。
俺は地面に叩きつけられて、死んだ。
セーブポイントに戻った俺はダッシュで森に向かう。そして先程俺の命を奪った崖の下に辿り着くと、そこには寂しげに黄金キノコ様が横たわっている。よし、無事だったか。
むむ?ガサガサと近くの茂みから何かが出てくる。緑というか汚いドブの様な色合いの皮膚に汚いわし鼻、ゴブリンだ。
身長は小学生児童並の、平均的雑魚敵である。そのゴブリンが黄金キノコ様に興味を持っている。奴らは他種族であろうと孕ませることのできるファンタジックモンスターだ、そんな奴らにとっても黄金キノコ様は魅力的らしい。
させるかゴミが……!すかさず俺は近くにあった石を拾いそのゴブリンの頭を殴りつけた。倒れこむゴブリンに俺は追撃をかける。おらっ!死ねっ!
何度か殴りつけていると突然衝撃と共に視界が回転する。なんだ?吹き飛ばされた?
ゴロゴロと転がりながら今まで自分が居た位置を見る。ゴブリンがもう一匹現れた。
一匹目のゴブリンも頭から血を流しながらも立ちあがる、少し足元がおぼつかないが俺を殺すくらいはわけがないだろう。
ゴブリン達は地面に転がる俺を見てニヤリと口角を上げる。何といういやらしい視線。ふむ、それも仕方あるまいか。
俺の見た目は、中学生児童並の体格にふんわりとした緑髪。さらに言うとかなりの美少女だ。中身は地球の日本生まれの男とはいえ……コイツらゴブリンどもには良い苗床にしか見えないのだろう。
俺はこの世界において、プレイヤーと呼ばれる存在だが、簡単に言うと俺達プレイヤーは弱い。この世界にも人間がいて、そいつらは魔法を使えて人間離れ(地球基準)した身体能力をしているのに対し……俺達の身体能力はあまりにも低い。いや元の身体を考えると多少は良くなってはいるのだが……。
なので、この世界では数が増えない限りは雑魚敵扱いのゴブリンですら俺達には強敵なのである。その証拠に先ほど蹴りか何かで吹き飛ばされた俺の身体はもうボロボロだ。
一体ですらキツイのに、二体も。そして自分はすでに満身創痍。勝ち目はない……。だが、黄金キノコ様を諦めるわけにはいかない!
うおおおお!突然雄叫びを上げた俺にゴブリンが一瞬身構える。その隙を突いて俺はボロボロの身体に鞭を打って黄金キノコの元へ走った。
その勢いのままキノコを拾った俺はゴブリンに背を向けて走り出す。逃げるが勝ちだ。
しかしこの身体では追いつかれるのは時間の問題。そこで俺は一つの策を思いつく。
数分後、俺はゴブリンに果敢に立ち向かい、苗床にされる前に大地の栄養にされた。
セーブポイントにまた舞い戻った俺はダッシュで森の方へ走る。森の中に入ってからはなるべく見つからない様に息を潜めながら、地面に埋めておいたキノコ様を掘り返した。
その足でセーブポイントにしている、龍華王国の王都に帰還して流れる様な足取りで薄暗い路地裏に入っていくと、これまたいかがわしい装飾がされた看板を掲げる怪しげな店に入る。
頭頂部を禿げ散らかしたデブ親父が店に入って来た俺の姿を確認すると、ニコッと全く爽やかでない笑顔を向けてきた。
「おお、ぺぺ。その手に持っているのは黄金キノコか?……ちょうど良かった、今それを求めている上客がいるんだ」
ふっ、勿論その件は俺も把握している。だからわざわざ命をかけて探してきたんだ。
「加工は頼むぜ、後は……俺に任せな」
さぁ、待ってろよ金ヅルぅ!
これは、約一年前にゲームの世界に閉じ込められたプレイヤー達が、元の世界への帰還を目指し奮闘……をいまいちしない物語である。