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プロローグ 悪魔の誕生
ー何が起きたのか分からなかった。
今自分はどこにいるのか。意識はどこに
あるのか。全身に力が入らず声を出そうと
すると声帯は震えずただ口を上下にパクパ
クさせるだけ。そうしている内にどこか遠
いところから声が直接脳に語りかけてく
る。
「ーーーこの世は『理不尽』に溢れてい
る。容姿・出生・権力等、個人が持てる全
ての能力をこの世に生まれてから長らく持
っている人を見ると、人は他人が少しでも
秀でていれば嫉妬し、すぐに殺し合う。そ
うして得た先の結末を意味もなく後世に語
り継がせ死に絶えて行く。力有る者が力無
き者を淘汰する。それらが当たり前の世の
中は
ーーー実に『理不尽』だ。」
ならばその『理不尽』の根源を、
"お前が『淘汰』してみないか"と。
ーこいつは何を言っているんだ？
ーーまた妙な夢を見ている。と俺はとっ
さに思う。昨日は可愛い女の子に囲まれて
いる夢ーー思春期時代を至極真っ当に生き
る男なら誰しもが見るであろう夢を見た。
その前日はジェットコースターの一番高い
所からほぼ直角にいきなり落ちるという、
絵に書いた様な夢を見た。
ーーしかしそれらの夢とは何かが違う。そ
う思った瞬間、意識が現実へと引き戻され
る。せめてあの声の主だけでもーーー
ーーこの日を境に天宮束火の生活は一変し
た。
ーーー悪魔が誕生する瞬間だった。
