バツ印が意味することは
黒く、黒く塗りつぶされていく。
はじめは鮮やかな空色だったそれは、いつの間にか漆黒に変わっていった。一枚、一枚と増えていく黒に、やがて部屋は染まっていき、部屋を覆いつくしていた。
あの人は、部屋の照明が切れかけてるとか、壁紙の色が暗すぎるとか言っていたけれど、そんなことではない。私がここに連れてこられてから一度だって換えていない明かりは、寝るときだって光を絶やしたことはなく、壁紙はどんなに傷つけても一瞬で白く元通りになるのだから。
その印が黒くなったら、おしまい。
あの人はそういったけれど、一向に暗殺者なんてやってこない。ただただ紙で部屋が埋め尽くされていくだけ。ひょっとしたら、言うこと聞かなくても嫌がらせのようにバツ印が送られてくるだけで、死ぬようなことはないのかもしれない。
そんな風に思って、言われた指示に従わないでいたら、いつの間にか壁紙が黒く染まっていることに気がついた。
毎日のようにあの人の顔を写していた水晶も、黒く私の顔を薄く写すだけ。
そして、あの紙が届いた。
此処に来てから一度も開くことのなかった扉が開いた。真っ白な光が部屋に射し込む。
黒じゃない。白になったら、おしまいなの。