第一話 モココとスキルと経験と
始まりの街ラナクゥル
平凡で、何の波風も起こらない平穏の街。
LV1のプレイヤーの一部はこの街から冒険へと旅立っていく。
この世界は9つの大陸より生まれ。9つの始まりの街がある。
プレイヤーは9つ大陸のうち、どれか一つを選択しその大陸の冒険者となるのだ。
そしてここラナクゥルは第一の大陸、ロギアスノーティアスの北側に存在している。
冒険者の多くはこの地から大国聖ロギアス王国を目指すことだろう。
ゲーム内では聖ロギアス王国には複数のギルドが集結し、様々なクエスト、転職
試験などを受けることができ何より他大陸へ行く交通手段が開放されている。
だから冒険者のほとんどは道中のクエスト消火しつつ、大国ロギアスを目指すのだ。
どうやらその心理は変わってはいないようだ。
昨日、街で言い争いをしていた男たちも、大国ロギアスに向かってこの街を旅だった
らしい。この街のNPC、もとい住民に話を聞いたところ、15日前にも多くの冒険者が
この街に現れたらしく、その時、銀の鎧をした黒髪の男が先導するようにロギアスの話を口にしていたらしい。それからまもなくして男と数百人単位の人間がこの街からいなくなったらしいのだ。自分たちが今どんな状況なのか、把握もせずに旅立つとは
すごい決断力だが大丈夫だろうか。
ロギアスまではかなりの距離がある。
移動ポータルがあればそれほどの時間はかからないだろうが、現在街の移動ポータルは何故か機能していない。この街で知り得たのは移動手段が徒歩以外存在せず、
街の住人に移動ポータルのことを聞くと、皆、首をかしげるばかりであるという事だ。道のりは長い、道中面倒な森もありLV1では相当厳しい気がする。
仮想現実であったアウロスオンラインの世界。
未だ実感は無い。
そもそも本当に死という概念が存在するのだろうか。
魔物に攻撃されてわざと死んでみるのもありかもしれない。
死ねば街に戻って蘇生され、再び冒険に旅立つ。
それが以前のシステムだった。
周りを見渡すとあの世界そのもので。
しかし、違うことが二つあった。
一つ、街に存在するはずのクエストが一切見当たらない。
クエストを受けるためにはNPCと会話をしてそこからクエストを受注するのだが
そのNPCに話しかけるというコマンドも存在せず、それどこか設定にはない
日常的な会話を街の住人たちはしていた。
さらには、野宿している俺に町の住人がパンのおっそわけをしてくれるという
謎展開。以前のアウロスオンラインではなかったことだ。
そもそも自分の意思でNPCが動くなど考えられないことだった。
NPCにはその土地に縛られる楔のようなプログラムが打ち込まれている。
自由に動いてしまったらクエストを与える者が行方不明という結末にいたるからだ。
それにNPC、いやひとりの人間と言ったほうがいいだろう。彼らからもらった
パンは仮想現実の無味無臭の食べ物とは違い、味があり、風味があった。
二つ目の変化、それは五感だ。パンの味や水の味、風の香りや生暖かい
太陽の陽射し。指先で頬をつねると痛みが走り、走れば息切れもする。
仮想現実では存在しなかった。五感がこの世界には、いや俺自身にあらわれていた。
そのことから、この世界での死は本当の死を意味する事になるという結論に達する。
いくら世界が同じ風景、同じ景色であったとしても、それは以前とはまるで違う
別の空間、別の世界。ここは完全なる異世界であるという結論にいたった。
あの時、管理者の間でであった男の言葉、あの言葉が事実であるという証明。
蒼夜は少し、胸を踊らせていた。
自分が理想とした世界幻想の世界が、現実の物となった事に、
少しの恐怖とあふれる興奮と、自ら作り出した世界の変化を楽しみつつ
俺は体を公園のベンチから乗り出し歩み出す。
一晩、野宿して、蒼夜は早朝、街の入口へと向かっていた。
あと一歩前へ足を進めれば外だ。
見る限り魔物はいない。
「手持ちのアイテムはこれだけか」
初級ポーション5個
冒険者の剣。
冒険者の鎧。
冒険者の盾。
平房な初心者装備一式だ。
気付いた時には腰にまかれていたポーチ。
アウロスオンラインでは初期から装備されている万能ポーチだ。
クエストをクリアしていくと拡張され、最大234個までアイテムを持ち歩くことが
できる。どうやらこのポーチは最初から上限が解除されているようで、個数限界が存在していない。一見ただのポーチだが手を突っ込めばアイテム覧が表示されほしいものを引き出す機能がある。この世界はどうやら本当に俺が作ったアウロスの設定とほぼ
同じように出来ているようだ。
蒼夜は改めてステータスの覧を目視する。
ステータス表記は以下のとおりだ。
LV1駆け出しの創造主。
HP214
攻撃力13
防御力9
俊敏性5
知力11
支配力17
装備、冒険者の剣 (攻撃力3)
防具 冒険者の鎧。(防御力5)
盾 冒険者の盾 (分散力8)
初心者の能力値としては少し高いぐらいに思える。
あと、気になっているのは支配力だ。
こんな覧は以前はなかった。
さらに驚愕のスキルツリー構成だ。
スキルの覧に6つのスキルツリーの開始地点があるのだが、
それぞれ、攻撃、防御、叡智、生命、想像、構築の6つ。
それぞれ初期スキルだけでも60以上存在し、それは全職業の初期スキル数に
匹敵する数だった。つまり初期段階でどういうわけか、全職業の初期スキルを
扱うことが出来るという謎のチート生物とかしているわけだが、その部分はまだ
ほんの序の口で、攻撃スキル、防御系スキル魔法スキル(叡智)はアウロスオンラインの時にも存在していたが、生命系スキルや想像系スキル、構築系スキルなど存在すらしないスキルツリーだ。内容は気味の悪いものばかりだ。まぁー創造主にスキルがあるというなら、この三つが最も当てはまるスキルツリーであることは言うまでもないが、
ではスキルツリーの内容を説明しよう。
生命、主にモンスターの召喚だ。これには召喚制限数がない。
LV1現在だとスライムやモココなどLV1系統の魔物全種を召喚可能。
しかし、召喚にはなぜか金が必要という謎使用。LV1モンスター一匹につき、100ルビカが必要で、LVが上がるとそれに応じて値段も上がっていくとかんがえられる。
もしかするとモンスター倒した時ドロップするお金がこの召喚費用なのかもしれない。
次に想像だ、想像スキルはどうやら自らあたしくつくり上げるスキルのようだ。
ダンジョンを作成したり、新たな魔物を作成したり、とにかく自分で考えた事を
現実に引き起こすことができるらしい。らしいというのはほとんどのスキルツリーが
LV制限によってブロックされ、???状態なので確認できないのだ。説明では
ダンジョン作成、街作成、地形作成、魔法、魔物作成、その他もろもろの作成が
可能。っと書かれている。しかしダンジョン、街、地形のスキル覧は、LV???で得とく可能と書かれ、いつから使えるのかは不明。面白そうなスキルではある。
次に構築。 これはどうやらアイテムの作成を目的としたスキルのようだ。 LV1ではポーションなどを作成可能。ポーションを作成するためにはLV1のモンスターの血液が必要で、武器や防具を作成も可能。武器を作る場合はモンスターの骨や革を使って発動可能。素材さえあれば何でも作れるというスキルツリーのようだ。上位スキルの覧は想像と同じく???で隠されているが同じようなものだろう。
これらのスキルからして、他の職業とは異質であると言えるだろう。
「行くか」
初心者の装備一式を整えた蒼夜はそう言って街の入口を潜った。
それからしばらくして、モンスターと遭遇する。
桃色の毛皮にふわふわとした見た目の羊スタイルのモンスター。
イベント限定で一定時期現れる羊型モンスター。
「こんな可愛らしい魔物を殺すのは忍びないけど、おれの実験のためにおとなしく死んでくれ~」
一振り、剣は空を切り、モココに放たれる。
それをモココ何事もなかったかのようにして右へ避ける。
「くぅ……早いな」
それから始まったのが追いかけっこである。
10分後……
「はぁ……はぁ……」
モココは依然として健在。
それどころか、数が増えている。
気づけば10匹近い、大所帯。
「全然倒せねぇ……剣じゃ無理か……つうかなんで数増えてんの?」
どこからともなく湧いて現れたモココの群れ。
完全に蒼夜はなめられていた。
あの人間はごみのような武力しか持たないクズだとわかっているのだろう。
実際蒼夜の剣はモココには届いてはいない。
それどころかかすりもしていない。
「誰だよこんなすばしっこい魔物作ったのは……あ、俺か」
空を眺めていた時、モココのイメージが湧いた。
綿菓子みたいに雲みたいにもふもふ出来る魔物を作ろ。
そうして生まれたのがモココ、LV1のモンスターでありながら俊敏性22という
謎仕様。俊敏性5の蒼夜にとって追いつけないのは当たり前の結果であった。
「ならスキルで対抗だ」
そう言って小さく言葉を紬いだ。
「アクセルグロード」
瞬間、地面が振動し、地響きとともにモココの足元がひび割れ、ヒビ割れた地面から
鋭利な岩の槍がモココたちに向かって放たれる。
蒼夜にとってそれは始めてのスキル発動であった。
本当にそのスキルが発動したことに蒼夜は驚いた。
「まじかよ……本当に出ちゃった」
しかし、モココはそれを避ける。
「つうか、また避けられてんじゃん!」
メェェェーっと羊に似た声が空間に響く。
「くそー」
蒼夜はその後も何度もモココに攻撃を試みるが、ことごとく回避される。
ようやく悟る、スキルがいくらあろうとも、扱う人間が無能であれば
何の意味も持たないことに……、蒼夜は気づいてしまった。
冒険者になるには武力のセンスと経験が必要であることを蒼夜はまじまじと感じる結果となった。
そしてモココを倒す事が出来ずに二日目を終える。
その日はモココを後ろにしながら野宿するハメとなった。
その夜、モココの嫌がらせじみた鳴き声を聞きながら
俺は目を深く閉じるのであった。