マネカレザルモノ
『テラテッラ』は『ナシオン集合国』という国一つしかない。
そして五つの州に分けられている。
北の『ノルテ』
西の『オエステ』
東の『エステ』
南の『スル』
そして、中央の『セントロ』
ノルテ州の最高権力者であるマルスコイ・ボーブルは仕事部屋である報告を受けている。
「うむ……それは本当なのか? 」
マルスコイという男は部下をとても信頼する人柄だ、しかしその報告のあまりの衝撃と絶望に疑念の声が漏れてしまった。
「誠に残念でありますが……事実です」
部下と思われる男がそう言うと
「そうか、場所は」
マルスコイは悲嘆に暮れているわけにもいかないので部下にそう聞くと
「リオンダリ区です。」
部下がそう答えると
「そうか……」
リオンダリ区は人里離れた僻地、とりあえず人的被害は最小限に抑えられそうだ。
マルスコイはそう思い、少しだけ安堵の声を漏らす。
「とりあえず、避難命令を出し、対策本部を立ち上げろ」
マルスコイは部下に迷わずそう言う
「はい、わかりました」
部下はそう言って一度お辞儀したあと、部屋を出た。
だいぶ前からリオンダリ区の異変については耳にしていた、しかしここまで凶悪なものが現れるとは予測を大きくこえていた、果たして我々(われわれ)は星からの驚異にどれだけ対抗できるのか。
約230年前、たった一体でノルテの7割をわずか一日で更地に変えた招かれざる星来者、『無貌の獅子』とも呼ばれる『ニャルラトテップ』が二体も現れるという報告にマルスコイはそう思った。
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モンドとイブは、シュヴとスレイに、リリトが現れた顛末をこと細かに説明した。
「つまり、こいつは役物なのか」
リリトを指さしながらシュヴはそう言う。
「うん! そうだよ~」
リリトが笑いながら、そう言う
「なぁモンド、こいつ出しっぱなしだが代償とか大丈夫なのか? 」
シュヴはモンドにそう聞く
「代償って? 」
モンドがそう言うと
「はぁ、役書魔法は役物を出している間何かしらの代償を払い続けなければいけないんだよ、だから出しっぱなしで大丈夫かって聞いたんだよ」
シュヴが呆れたように言うと
「う~ん、どうなの? 」
モンドがリリトに聞くと
「あ、この姿なら代償はないよ」
リリトの説明に
「だってさ」
モンドがシュヴにそう言うと
「だってさ、じゃあねぇーよ! お前さぁ、星喚書ってなんで本の形をしているか知ってか、自分が今から呼び出そうとしている役物がどういう能力で、どういう代償かってのを把握するためにあるんだぜ? それをお前はさ~、ろくに中身も見ずテキト~に召喚してさ、もし危険な奴だったらどうするつもりだったんだ! 」
シュヴがモンドのことを叱ると
「ごめんなさい! ご主人様に役書魔法を早く見てみたいって急かしたのはボクです! 怒るならボクにしてください! 」
イブが目に涙を浮かばせながらそう言うと
「あ! いや! べつにモンドを怒っているわけじゃないぞ、ただオレはもっと責任感をもって行動しろって言っただけで……」
シュヴが首に手をやりバツの悪そうな顔をする。
「いや、俺の行動はシュヴが言うとうり、浅はかなものだったし、きっとイブがいなくても同じことをしたと思うよ」
モンドがそう言うと
「うんまぁ、オレの言葉もきつかったかもな」
シュヴも続けてそう言った。
「まあまあ、とりあえずリリトさんの星喚書はみんなで確認してみましょう」
スレイがそう提案してきた。
「うんまぁ、そうだな、リリト悪いけどいったん星喚書になってくれ」
モンドがリリトにお願いすると
「はーい」
リリトがそう言った直後。
リリトの体が光ったと思うと、一冊の本が置かれていた。
モンド、シュヴ、イブ、スレイの四人はリリトの星喚書の中を見てみる。
「お、二つ名みたいのがあった」
モンドがそう言うと
「『始まりの女』、『根源の龍』、『常闇の女王』ですか……」
スレイが読み上げる
「ずいぶんと、ご大層だな」
シュヴそんな事を言う。
ふむふむ……。
そうか……。
へ~……。
…………
……
しばらくたちリリトの星喚書にだいたい目を通しおえた。
すると星喚書が光りだし
リリトが現れた。
服は着ている、よかった……。
モンドがそう安心すると
「ああん! あたしの全部みんなに、すみずみまで見られちゃった……」
リリトが無駄に色気のある声を出す
「ちょっと、変態みたいな声を出さないでください」
イブがそう言うと
「変態って失礼ね~」
リリトがそう返した
「まぁ、危険はないようだし、なかなかの強さだし、捨てる必要はないな」
シュヴがそう言うと
「捨てるつもりだったの! ひっどお~い」
リリトがそう返す
「まぁ、そう怒んなって」
シュヴが笑いながら言うと
「怒ってないよ~」
リリトは陽気に返す。
「ま、とにかくリリトの話が終わったとこで、次は移動する場所についてだな」
シュヴがそう言うと
「移動する場所? 」
リリトがシュヴにそう聞くと
「ああ、お前は知らないか、オレたちは今、魚や肉がないから、それがある場所を探しているんだよ」
シュヴがそう言うと
「ここには、なかったの? 」
リリトがシュヴに質問する
「ああ、なんでか知らないが、なかったんだよな~」
シュヴがそう答える
「なんでだろうね」
リリトがそういったのと同じぐらいのタイミングで
「地図をもってきました」
スレイが、そう言う
「お、どうも」
シュヴがそう言いながら地図を広げる
「オレたちがいるのはここだな」
地図には一つの大陸が描かれており、シュヴはその北の部分を指でさす。
リ……リオンダリ区か……
モンドがそう思った瞬間。
突然はげしい閃光、轟音、衝撃がモンドたち五人を襲う。
モンドたち全員は驚いたあと、すぐに何があったか見るために外へ出た。
すると
そこには
大きな、どす黒い獣、しかし頭の部分は顔のない人間のような姿をした異形の化物がいた。
しかも二体もだ。
その異形の化物二体は何もせず、ただじっと佇んでいる。
「なんだ、あいつらは? 」
モンドがそう言うと
「あいつらは『魔物』だな……」
『魔物』それは、役書魔法以外の方法で現れた星来者、基本的には一、二日で消えるもので、自然的に現れるため災害の一種として扱われている。
「しかも、ありゃニャルラトテップだな、ということは神話級か」
シュヴがそう言うと
「神話級? 」
聞きなれない単語にモンドはそう質問した
「ああ、一級、二級ってあるだろう」
シュヴのその言葉に
「ああ」
モンドはそう返す。
「その上に特級があるんだが、さらに上に幻級その上に伝承級そして一番上に神話級があるんだ」
シュヴの説明に
「ほお~」
モンドがそう返す
二人がのんきにしゃべっている間に
ニャルラトテップ二体がこちらに気づいた。
こちらに攻撃をするつもりだ
聖なる言葉を唱え
「『盾無歌』」
と言いニャルラトテップ二体の周りを障壁でかこむ
ニャルラトテップ二体はそんなのお構いなしに攻撃を行った
この攻撃は『闇にほえる狂音』といい、果てしなく強力な音波を一つの方向にまとめたもので、その威力は一体で大きな山を十個は平地に変えてしまうほどだ。
しかし、モンドの盾無歌にはヒビ一つはいらない。
「へ~、顔なしなのに声で攻撃か、おもしろいな」
モンドが盾無歌を解除すると
ニャルラトテップは互いに別の方向へ気をなぎ倒し大きな音を響かせながらながら高速で移動する。
「別れやがった」
モンドがそう苦い顔で言うと
「あ、じゃあ、あたしが一体やるね」
リリトがそう言う
「お、助かるね」
モンドのその言葉のあとでリリトの体に変化が起きた。
白くしなやかだった手足が黒く膨れ上がり鱗と鉤爪のある手足になり、真っ黒な大きなコウモリのような翼と太く長い尻尾をはやし、口から牙がはえ、額から天を刺すように黒い角をはやし、白目の部分が真っ黒になっていた。
まるで竜人だな……
そう思うと同時にモンドの魔力が半分ぐらいになった。
これは、リリトが竜人の姿になると発動する持ち主の魔力が半分になるという代償によるものだ。
しかし、モンドは半分の魔力でもニャルラトテップを簡単に始末できるので、あまり気にならなかった。
リリトは高速で空を駆けニャルラトテップに一瞬で追いつく
そして、大きく息を吸い
大量の黒い炎、『欲深き黒い獄焔』を吐き出す。
この黒い炎は万物を完膚なきまでに燃やし尽くし、リリトが許可しないかぎり永遠に絶対に消えることはない。
ニャルラトテップはぐもった苦悶の声を上げながら、のたうち回っていたが十秒もしないうちに消えてなくなってしまった。
「瞬殺するとか」
まさか、竜人の形態で神話級をあそこまで簡単に消すとは……
シュヴはリリトの予想外の強さに驚く。
一方、モンドは速敏歌で自身の速さを上げ、自分の指を噛みちぎり血液をニャルラトテップにつ
「『終命呪』」
と言う
終命呪は生命力そのものを削る魔法、その効果で
ニャルラトテップは急に倒れこみ苦しそうな唸り声を上げた。
「半分の魔力だとこんなもんか」
そう言うと
聖なる言葉を唱え
「『盾無歌』」
そう言うとニャルラトテップの周りに障壁ができた。
その、障壁には少しだけ穴があいており。
円と文字を書き
「『灼弾』」
そう言うと
超圧縮した炎熱の塊を障壁の穴に放り込み、すぐに穴を閉じる
炎熱の塊が急激に膨張、つまり爆発した。
障壁に囲まれた熱と衝撃は逃げることなくニャルラトテップにすべて襲いかかる。
弱ったニャルラトテップはその猛攻に十秒もたえ切れず、消滅した。
「ふう、思ったより弱かったな」
モンドがそう言うと
「そうだね」
竜人形態を解いたリリトがそう返す
「お前らが、無駄に強すぎるんだよ」
シュヴが二人に対してそう言う
さっきまでこの世の終わりのような顔をしていた、イブとスレイがこちらを見て。
「勝ったんですか……? よかったぁ助かったぁ」
スレイは そう、安堵する。
イブは何も言わなかったが
このぐらい強くなりたい
そう思っていた。
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マルスコイ・ボーブルは対策本部で信じられないようなことを耳にした。
「も、申し上げます! ニャルラトテップが、し、消滅しました! それも、自然にではなく人の手によります! 」
報告をしに来た男もまるでありえないことを、無理やり言わされているように見える。
「な、なに! どういうことだ! 」
マルスコイは声を荒げる
「も、目下調査中です! 」
男はそう答えた。
どういう……ことだ……。
マルスコイだけでなく、この場にいる全員がそう考えた。