茶色い魔物
モンドたち『風吹くままに』がセヴェル街に滞在している、ある日のこと。
「う゛お゛お゛え゛え゛~~~!!! 」
朗らかな朝、かわいい小鳥のさえずり、優しい陽の光、そんな中
旅車にモンドの苦悶に満ちたうめき声が響き渡る。
バタバタとけたたましい音を鳴らしながら
「どおした!? 」
シュヴはまっ先にが駆けつける。
「ご主人様! 」
少し遅れて、イブも駆けつける
「どうしたんですか!? 」
「なになに!? 」
さらに少し遅れて、スレイちリリトも駆けつける
「う……」
モンドは静かに、だが力強く声をだす
「……」
シュヴ、イブ、リリト、スレイの四人は息を飲む
「ウンコが流れていないんだ……」
そう言って、モンドが指さした先には、便器とその中にある流れていない、ぶっといぶっとい一本糞があった。
「くだらねえことで、大声出すな」
青筋を浮かべたシュヴが、静かだがドスの効いた声を上げる
「あ、火を止めてきます」
スレイはそう言って、この場を去る。
「いやいやいや、こんな気持い朝、日差しと小鳥の鳴き声が母親のごとく優しく起こしてくてた朝、今日の朝ごはんな何かなと楽しみにしている朝、やる気に満ちた朝、トイレのフタを開けたら、ぶっといぶっとい、くっさいくっさい、汚い一本糞がおはようございますだぜ! ありえないよ! 俺のやる気も、いい気分も、食欲も、便意もすっかりさようならだよ! 誰が責任とってくれるの!? 」
モンドは汗を流し、顔を真っ赤にして、熱弁する
「はあ、お前がやる気に満ちた日なんてあったかよ」
シュヴが冷たく言い放つと
「なんで話そらすの? このドでかい糞お前のなんじゃねえの? 」
モンドが眉間にシワを寄せ、疑いの目をシュヴに向ける。
「あ゛あ゛! てめえ何言ってんだよ! オレなわけねーだろ! 」
青筋から血が吹き出そうな勢いで、シュヴは声を荒らげる
「いや、お前だろ、なんか糞が臭そうな顔しているし」
モンドのがそう言うと
「はああぁぁぁぁぁぁ!! なに失礼なこと言ってんだあぁぁぁぁ! てめえはぁぁぁ! 」
喉が潰れんばかりの、大声をシュヴはあげる
「まあまあ、落ち着いて、落ち着いて、きっとこれはスレイのだよ、だからあっち行ったんだよ」
リリトはそう言って、ヒートアップするモンドとシュヴを止める
「はあ、何言っるんですか」
そう言ったのは、火を止めたあと帰ったきたスレイだった
「いやだって、まっ先にあっち行ったから怪しいじゃん」
リリトは当然のように言う
「え、火を止めに行ったんですよ? 常識ですよ? そんなことも分かんないんですか? ケツの穴いじくりまわしてケツの穴どころか頭までゆるくなったんですか? というか、これあなたのなんじゃないんですか? リリトさん? 」
スレイの怒濤の責めがリリトを襲う
「え……なんでそんなこと言うの? そりゃあ、疑ったのは悪かったよ、でもさそうやって人のせいにするのはよく無いと思うし、汚い言葉で人を悪く言うのは、良くないと思うよ。あたしは」
リリトも負けじと応戦する
「お、おい! 落ち着けって! もうシュヴが悪いでいいじゃん」
モンドがそう言って、リリトとスレイをなだめると
「そうだぞ、二人とも、モンドが悪いこれでいいんだ」
シュヴはなだめるようにそう言う
「え? 何言ってんの」
モンドはキレ気味だ
「いや、別に本気でお前だとは思ってはいないよ、でもさぁ、女の子にウンコ流してないなんていう恥をかかせないためにも、ここはお前が漢になるべきじゃあないかな? 」
真剣な顔でシュヴがそう言う
「そんな漢は嫌だよ! そもそも自分のウンコを流してないって大騒ぎするとかマヌケ以外の何者でもないよ」
モンドはシュヴの言葉に抵抗する
「じゃあ、可憐な乙女にこんな、でかくて、臭くて、汚いウンコをひり出して、流さなかったという罪を背負わせるつもりか!? 」
大仰な身振り手振りで、シュヴが熱く語る
「なぁ~にが可憐な乙女じゃ、お前は可憐でも、乙女でもないだろ」
モンドの剣のような言葉が、シュヴに向かう
「はあ、お前な……」
シュヴが反撃しようとした瞬間。
「やめてください!! 」
イブの悲痛な叫び声が場を静まらせる
「ボ、ボクのう……うんちです、ボクが! このでかくて臭くて汚い物を肛門を押し広げさせて、ウンウン言いながら、ひり出しました! 」
イブの瞳から大粒の涙が溢れる
「……」
沈黙した空気の中イブの泣く声だけが静かに響く
「イブ……ありがとう、おかげで目が覚めたよ、誰のうんこかなんてどうでもいいだろ、俺たちは仲間だ、みんなで水に流そうよ、そしてこれで終わりにしようよ」
モンドは優しくそう言って、イブの涙を拭う
シュヴ、リリト、スレイも頷く
そして、五人で水を流すためのレバーに手をかける
だが、流れない
「ふふふふ……」
誰のものでもない声が響く
「なん……だ、この声は」
モンドはそう言った直後、その場にいる全員が声の主を知る
その、この主はトイレの中にある一本糞だ
「よくぞ、第一の試練を越えたな」
一本糞は感心するようにそう言う
「お前は……魔物! 」
シュヴは目を見開く
「そうだ、儂の名は『ホムンクルス』そして『嫌汚されし者』と読んでくれても構わんよ、ふふ、それにしても儂の『不協悪臭の殺戮悲劇』をまさか打ち破るとはな……ほめてやろう」
一本糞はまるで歴戦の王のように重く威圧的な声を出す。
「『不協悪臭の殺戮悲劇』それが第一の試練の能力か? 」
シュヴは一本糞を睨みつける。
「ふははははは! 少し違うな! 『不協悪臭の殺戮悲劇』には不協と悪臭、二つの殺戮の悲劇がある、一つは儂がいるため起こる、疑惑と怒りによる仲間同士の殺戮悲劇、儂の存在を認知したものは、儂のこの能力により、仲間を過剰に疑い、そして過剰に反応する、その疑惑と怒りの負の連鎖は互いに殺し合うまでになるだろう、だが貴様らの絆が見事打ち破った、第二、最終試練、儂の悪臭による殺戮悲劇、これは犠牲の試練、あと少しで儂は人を即死させる悪臭を放つそれを阻止する方法は一つ! 儂を素手でつかみ便器から出すことだ! それが貴様らできるかな、絆を深めた仲間を犠牲にすることが! ふははははは!! 」
一本糞は挑戦的に、挑発的に嗤う
「ふ……俺たちは誰一人犠牲にはしない」
モンドが頷くと、みんなが頷く
「ま……まさか! 」
一本糞は狼狽する
「その、まさかさ……俺たちは誰一人仲間を犠牲にしたりはしない! もし誰かが犠牲にならねばならないなら、俺たちはみんなその誰かと同じ犠牲の道を選ぶ! 喧嘩したって、大切な仲間だ! 決して俺たちは見捨てない!! 」
五人の心は一致した、全員で一本糞をつかみあげ、便器から出す
「グオオおお……!! 敵ながら見事だ……」
一本糞は最後にそう言い残し、消え去った。
「強敵でしたね……」
イブは汗を垂れ流し、ひり出すような声を出す
「ああ、だが勝った、俺たちは……」
モンドは勝利の余韻に浸る
「ふふ、まだ終わりではありませんよ」
スレイが微笑みながらそう言う
「うん、あたし達にはまだ、やるべきことが残っている」
リリトは小さな窓から外を見つめる
「ああ、外の川で手を洗うっていう大仕事がな」
最期はシュヴがしめる
『風吹くままに』は外に出る、川でこびり付いたウンコを洗い流すために。




