六芒星の秘術
モンドは野党どもを倒すために一歩を踏み出したはいいものを、喧嘩の経験すらないのでどうすればいいのか分からずに固まってしまった。
「ゲハッハハハハハアァ~! なぁ~にかたまちゃってんのぉ~」
野盗の一人が嘲笑するように挑発してくる。
「…………」
モンドは何も言わず動かない、という何も言えないしより動けない。
「あ゛~!! なめてんのかぁあ゛~!! 」
今まで挑発していた野盗の一人が怒鳴りこみ、こちらに向かって走ってくる。
やっべ……終わった……。
そう思った瞬間
世界が止まった。
こちらに向かっていた野盗はまるでアニメの中割りのような奇妙なポーズのまま、固まったように動かない。
え! なに!
モンドは驚いて首を動かそうとした。
しかし、動かない。
どういう……ことだ……。
混乱するモンドの心に直接聞こえるような声が響いた。
(ほ~らな、いきなりもらった力じゃうまくつかえないだろ? )
シュヴの声だ。
なにこれ……。
モンドはシュヴにそう問いかけると。
(神の使者特権ってやつだ、今この世界はオレとお前の精神以外は全て止まった状態なんだぜ、まぁゲームのポーズみたいなものだ)
シュヴはそう、答えた。
(そうなのか……じゃあ、ちょうどいい戦い方を教えてくれ! )
そう、すがるような思いを念じると
(はぁ~、ホント他力本願だな)
と呆れたような声が心のなかに響いてきた。
(それが、俺っていう人間さ)
おどけたように言葉を返すと
(はいはい、それじゃあ教えるぞ、お前の戦う術、『星』から力を借りる技術『もうひとつの理』『六芒星の秘術』と呼ばれるもの『魔法』をな)
シュヴのその言葉にモンドは
ゴクリ……と唾を飲み込んだ。
魔法、前の世界ではお話の中にしかなかったもの……それが今この手で……。
モンドは正直にいうと興奮を抑えられなかった。
(じゃあ、いくぞ! ほい! )
その言葉と同時にモンドの頭のなかにイメージが描かれる
この二つを組み合わせた六芒星のイメージが
そして六つの尖っている部分一つ一つに模様が描かれている。
(これが『六芒星の秘術』か……よし! 使い方はわかった)
シュヴにそう念じると
(そうかじゃ、がんばれよ)
その言葉が心の中に響くと同時に
世界は動き出した。
「お゛ぉりゃあ゛アあァァァァあ~!! 」
野盗の巨体がまっすぐこちらに向かう。
モンドはそれを回避すると
「聖よ、鈍足なる私に俊敏なる恵みを」
なるべく、早く正確に言い
「『速敏歌』」
と最後に言うと
突然モンドの体が光り出したと同時に
野盗のヒゲヅラの顔面にモンドの拳が突き刺さった。
「ウゴびゅっ」
野盗は情けない声を上げ、鼻血を吹き上げながら倒れた。
今のは、『聖なる言葉による祈り』または『十字架の恵み』とも呼ばれる『聖歌魔法』だ。
聖なる言葉を発することで任意の対象にさまざまな恵み、利益を与えるものだ。
今、モンドは聖歌魔法のひとつである、『速敏歌』で速さの恵みを自分自身に与えたのだ。
「な……な……」
野盗どもがのんびり驚いている間にモンドは神速で動き、次々と野盗を顔面パンチで沈めていく。
最後の一人が倒れたところで大きな車のほうを向くと
モンドに気づいた大勢の野盗がこちらに向かって魔法を使おうとしている
円の中に特殊文字を書き、火や水や風を生み出し操る魔法
『精霊を導く理』または『三つの力』と呼ばれる『三然魔法』だ。
「「「「『炎吹!!!! 』」」」」
無駄に息ピッタリに野盗がそう言った瞬間
視界が埋め尽くされんばかりの大量の火炎がこちらに向かってきた。
モンドは回避できないと思うと同時に、円と特殊文字を描き
「『波周』」
そう言った直後、眼前に広がる大量の火炎を飲み込むだけでは飽き足らないと言わんばかりの大量の、いや荒れ狂う波、怒濤の水量が吹き出た。
火炎がすべて消え、野盗たちが波の飲まれているのを見て。
「おいおい、山火事にするつもりか? 」
モンドがそう勝ち誇っていると
腕に鋭い痛みが走った。
見てみると、腕に矢が刺さっていた。
「いっでぇええ~!! ちょっ! タンマ」
モンドが泣きそうな声でそう言った瞬間、また世界は止まった。
(なんだ! いったい! )
シュヴの驚いたような声が心の中に響く。
(いや、痛いんだけど)
モンドは半泣きになりながら、シュヴにむかって念じると。
(そりゃあ、まぁ、矢が刺さったら痛いだろ)
あたりまえだろ? というようなシュヴの声音が響く。
(いや、痛い、なんとかして)
モンドは自身でもわかるぐらいな情けない声を出した。
(はぁ~、しょーがねーなぁ、これで最後だぞ、とりゃ)
そう、シュヴの声が響いた直後痛みが取れた。
(うおっ! 痛くな~い、どうして)
モンドは素朴な疑問をシュヴにぶつけてみた。
(ああ、それな、お前に『星質』、つまり特殊体質みたいなものを与えたんだよ)
シュヴがそう答えた。
(どんなの? )
自分が与えられた星質がどんなものなのか、モンドはシュヴに聞く
(お前の星質は『不死身』つまり不死能力だぜ、死なないなら痛みを感じる必要もないということだ、あ! でも、再生能力は変わらないからな! )
シュヴの説明に
(ああ、わかったぜ! )
モンドがさっきとはうって変わって元気よく答えた。
(あと、もうタンマは出来ねーからな! )
シュヴの忠告に
(え~、どうして~)
モンドは嫌そうに答えると。
(出来ねぇもんは出来ねぇんだよ! )
シュヴが怒ったようにそう返したので
(そうか……)
しぶしぶ納得すると同時に世界はまた動き出した。
モンドは矢を放った野盗を見つけると、まるで瞬間移動のようにそいつの前に立つ。
「ひぃ……」
野盗はヒゲヅラを歪めて怯えた表情をする。
モンドは腕から矢を引き抜くとその傷口から血をすくい取り野盗にのじりつける。
「『失心呪』」
モンドがそう言った瞬間に野盗は声ひとつ上げれずに倒れた。
今、使った魔法は自らの血液をつけた相手に災い、つまり不利益を与える魔法で『悪意による災い』または『剣による血しぶき』と呼ばれる『血呪魔法』だ。
そして、『失心呪』は精神を削りとる魔法で、さっきの野盗は気絶しただけだ。
聖歌、三然、血呪の三つは六芒星の頂点が上にある正位置の三角形にある模様の魔法なため『正三魔法』と呼ばれ決まった特定の手順と技名を言う必要がある。
残りの三つ、頂点が下にある逆位置の三角形にある模様の魔法『逆三魔法』
感知や、予知を行うことができる魔法
『無知を既知へと変える技』または『箱船からの神託』と呼ばれる『贈知魔法』
さまざまな素材や物づくりに深く関わる魔法
『英知による発展』または『釜による精製』と呼ばれる『錬成魔法』
特殊な本からいろいろな物を召喚する
『人知を越えし物の使役』または『書物による召喚』と呼ばれる『役書魔法』
この三つは、正三魔法と違い決まった手順がない魔法だ。
「ふぃ~やっと、かたづけたぜ~」
モンドは野盗を全滅させ、『速敏歌』の効果を解除したのち、そう言って一息ついた。
「おっ、やっと終わったか」
どこからともなくシュヴが現れ、モンドにたいしてそう言った。
「そういえば、お前はどこにいたんだよ? 」
モンドは何気ない疑問をシュヴに聞いてみる
「ああ、オレの星質、『夢幻の住人』で隠れてたんだよ」
モンドはシュヴの答えに
「え~、隠れるぐらいなら、戦うのを少しは手伝ってよ~」
モンドは口を尖らせながらそう言うと
「『夢幻の住人』は単純にあらゆる物がすり抜ける能力だからな、戦うには不向きなんだよ」
シュヴがそう返してきた。
「え~、神の使者様なんだしもっと戦闘向きな星質になれなかったの? 」
モンドがそう言うと、シュヴは
「あくまで見守るのがオレの役目だし、第一そうやって楽ばっかしようと考えるのは良くないぜ、だから楽ばっかしようとすると碌でもないことになるということを教えるために、さっきはあえて魔法の使い方を教えないまま野盗と戦わせたんだよ! 」
説教してきたので
「あ~! はいはい、わかった、わかった、今度からきおつけますぅ~! 」
モンドは無理やり中断するように大声を張り上げた。
「はぁ~、やれやれ」
シュヴは呆れたような声を上げる。
「で? この野盗はどうすればいいの? 」
モンドがノビている野盗の始末についてシュヴに聞くと
「ああ、まずは野盗どもが起きても逃げ出さいよううに拘束しておかないとな」
シュヴが冷静にそう答えた。
「で? それは誰がやるの? 」
モンドはシュヴに問いかける?
「もちろん、お前だよ」
シュヴはそう言って、モンドの肩に手を置く
「あ~、もうしょーがねぇーなー」
モンドはしぶしぶと行った様子でそう言う。
「聖よ、鈍足なる私に俊敏なる恵みを『速敏歌』」
と唱え速さを上げたあと
「聖よ、脆弱なる私に屈強なる恵みを『強力歌』」
と唱え力を上げた。
そして、野盗を一箇所に集め
「聖よ、無防なる汝らに守りなる恵みを『盾無歌』」
と唱え見えない壁が野盗を囲い閉じ込めた。
『盾無歌』は本来、障壁をだす、防御の魔法だが、こうやって対象の周りに壁を作り、閉じ込めることもできる。
しかし、防御に使うより、広範囲かつ長時間の障壁が必要なため、魔力はかなり消費する。
圧倒的な魔力の量を保持するモンドだからこそできる芸当だ。
「さて、拘束したけど、どうすんの? 」
いくらモンドとはいえ永久に閉じ込めておくことはできないのでシュヴに次の段階を聞いてみる。
「あのでっかい車、まぁ『旅車』って言うんだけど、その中に通信機があるはず、それで『警軍』つまり警察みたいなものに引き渡してもらうんだよ」
シュヴがそう言う
「へぇ~、野盗なんている世界なのに、そういうシステムとかあるんだ? 」
モンドがそう言うと
「お前が、もといた世界にだってこういう連中はいただろ? 」
シュヴは眉をひそめながらそう返した
「ふ~ん、まぁそんなもんか」
そう言われるとモンドはそんな気がしたので、一応納得した
「旅車の中を探すぞ」
シュヴがそう言った。
まず、運転席や住居スペースを探してみたが誰もいなかったが、通信機はあったので警軍に連絡しておく。
次に荷物置き場みたいなところ探すと
そこには、お互いに抱きあいながらふるえている二人の女の子がいた。
まず一人は背が高く褐色の肌の銀色の髪の少女。
もう一人は背はそんなに高くない白色の肌の金色の髪の少女。
そして二人は耳が長く、虚ろな目をし、やせた体で、貧相すぎる服を着ていた。
「どうする? 」
なんだか、普通じゃない様子に戸惑いながらモンドはシュヴに聞く。
「と、とりあえず警軍が来てから考えようぜ」
めずらしく、シュヴが動揺した様子で答えた。