遥か彼方の話
モンドはセヴェル街を回った日の夜、なんとなく買った『月の魔王』という題名の本を開く。
この本に記された話は『テラテッラ』では超有名なものだ。
本の内容は要約すると
まず最初に、はるか昔、『プルミエ・トロワジエム』という少女は13歳で初めて魔法を使った、後に『全ての輝きの母』と呼ばれる彼女はまず、この世界を天と地に分けた、そして更に天を夜と昼に分けた。
明るいだけの昼の世界に、絶対の恵みを永遠に与え、激しく輝く黄金の星である『恵星』をつくり、『昼法界』を完成させた。
暗いだけの夜の世界に、人々の命を守り導く、無数に輝く白銀の星である『星命』をつくり、『夜魂界』を完成させた。
こうして作られた世界を『テラテッラ』と呼び
地の世界、『現界』に住む人々は、消えることも弱まることも無く使いきれないほどの恵みを平等に与える『恵星』と、死ぬこともなく老いることもなく病に苦しむことも怪我を負うこともない命にしてくれた『星命』、そしてその二つに感謝の気持ちをこめ、今まで争いばかりしていた多くの国を『ナシオン神聖国』という一つの国にまとめ上げ、『プルミエ・トロワジエム』を王とした。
人々はプルミエの加護の元、幸せに暮らしていた。
しかい、その幸せも長くは続かなかった。
平和で幸福に満たされた世界を破壊しつくすために、最悪で、最凶で、最低な、マルマサが現れた。
他者からは『終世への導師』、『災厄の神』と呼ばれ、自身では『正しき存在』と名乗っていた。
プルミエですら歯が立たないほど、マルマサの力は絶対的で圧倒的で絶望的だった。
しかしプルミエは世界の九割の命を代償に発動した『揺るがない監獄』によってどうにかマルマサの封印に成功し、マルマサは最果てにあり最大の星である月となった。
しかし、月となってなお、無限の恵みを与える『恵星』を、永遠の命を与える『星命』を蝕む。
そうして、世界は、少ない恵みを奪い合い、死と苦痛に怯える、地獄となり『ナシオン神聖国』はバラバラになってしまった。
人々は長い、とてつもなく長い、途方も無く長い、年月で少しずつ地獄での暮らしに慣れていき、自身の小さな幸せを見つけ出すようになった。
そして、現在から約100年前、とうとう国は一つとなった。
その国にはかつてはるか昔に存在した国から名前をとり『ナシオン集合国』という名前になった。
という内容だ。
「ふう……」
モンドはそこそこ長い本を読み終え一息をつく。
ペラペラとあとがきを流し見してみると、どうやらこの本は、ナシオン集合国の建国100周年を記念したものだったらしい。
「マルマサね……」
モンドは、今までなんとなく考えていた、この世界に転生した意味に何かしらの関わりがありそうな名前をつぶやく。
もしかしたら、封印が解け復活するマルマサを倒すためなのかと、モンドは一瞬考えたがすぐに首を横に振り否定する。
モンドは、こんな化物を倒すには自分では明らかに力不足だし、仮にマルマサ打倒が目的で転生させたとしても、神様とやらがよほどの馬鹿でもない限り、自分のような情けない奴よりもっと勇敢なやつを転生させるはずと考えた
さらにモンドは、運命を感じた感覚もおそらく勘違いで、全然関係ないものに運命を感じるのはよくある人の悪い癖と考え
マルマサはモンドとは関係のない遥か昔に封印された化物だと判断した。
「にしても、まだ魔法の無かった頃この世界は一体どんなだったのかな」
モンドはそうつぶやき、『テラテッラ』でなかった頃の世界に思いを馳せる。
もしかしたら、今よりもっと不思議な世界だったのか
もしかしたら、星も空もない世界だったのか
もしかしたら、俺が元いた世界と似た世界だったのか
いろいろな情景が浮かばせていると
「モンドォ~! 飯! 」
シュヴの声が聞こえた
ちょうどいい、シュヴにでも聞くかと、そう思いながらリビングへと歩いた
「なあ、シュヴ」
モンドはリビングにある椅子に腰をかけながらそう言うと
「あ、なに? 」
すでに座っていたシュヴはそう返した
「プルミエがテラテッラを作る前の世界ってどんなのか知ってる? 」
そう言いながらモンドは、シュヴの方を見ると
「さあ? わからん、オレの知識には、そんなことが乗っている文献すらないぞ」
シュヴはそう返し、首をかしげるだけだった
「じゃあ、みんな知ってる? 」
ほかのみんなに、モンドがそう聞いても
知らないという返事以外は返ってこなかった。
「まあ、事実だっていう説も有るけど、所詮はお話だしな、そこまで深く考える必要はないんじゃないの」
シュヴは軽い口調でそういった後、今日の晩ごはんのメニューの一つである、魚の塩焼きを頬張る
「じゃあ、ナシオン集合国ってお話から持ってきた名前なの? 」
モンドはそう言いながら、魚の塩焼きを食べる
「ナシオン神聖国は理想郷な設定だったし、自分の国をいい国にしたいっていう、願いでも込めたんじゃないの」
シュヴはそう返した
「ふーん」
そこそこ納得できる理由にモンドはそう言うしかなかった。




